『飛行訓練は木曜日に始まります。グリフィンドールとスリザリンとの合同授業です』
こう書かれた紙がグリフィンドールの談話室に貼り出され、1年生たちはがっくりした。だが、皆空を飛ぶ授業のことはとても楽しみにしていた様子で、そこからひっきりなしにクィディッチの話をするようになった。
ドラコはよく自慢話をしていて、ロンでさえも聞いてくれる人がいれば、チャーリーのお古の箒に乗って、ハンググライダーにぶつかりそうになった時の話をした。ハーマイオニーは「クィディッチ今昔」を図書館で借り、飛行のコツを木曜日の朝食の席で話しまくった。ハリーとロンがうんざりしているのを見て、レイラは苦笑した。ネビルは必死に聞いている。
レイラも何度か飛んだことがある。箒は、家にいくつかある古い物の中で愛用しているものを使っていた。家と離れた場所にある箒置き場に置いてあった為、燃やされることはなかったものだ。名前は、シルバーレイ。『銀の光線』という意味だ。
ニンバスやクリーンスイープのような量産型の箒が主流になる前のもので、職人が丹精こめて作った業物だ。操縦が難しく、箒が気に入った人物ではない限り、次々に事故を起こし生産中止になったが、使いこなせば最高の性能を発揮する。もともと70本しか作られていない上に事故が多発したせいで、現存するものは少ないが、今でも最高の性能を持っているらしい。柄に銀文字で「シルバーレイ」と書かれており、箒のほとんど全てがローズウッド色をしている。なぜ、『シルバー』なのかは全く分からない。だが、小枝の先の方だけが淡く銀色に染まっている。余計な装飾は一切ない。
ハーマイオニーの話が佳境にさしかかったところで、ふくろう便が到着した。それで彼女の講義が遮られたのでみんなホッとした顔をしていた。ネビルがおばあちゃんからの、「思い出し玉」を受け取り、ドラコとひと悶着あった。
その日の午後3時半、レイラは他のグリフィーンドール生と一緒に、飛行訓練のために校庭へ出た。校庭の反対側には『禁じられた森』が見え、そこには動物達が木に隠れるように集まっていた。スリザリン生はすでに到着していて、足元には箒が20本、整然と並んでいる。
「何をボヤボヤしてるんですか」
マダム・フーチだ。鷹のような鋭く黄色い目したおばさんが開口一番、ガミガミと言った。
「皆箒のそばにたって。さあ、早く」
レイラは自分の箒をチラリと見下ろした。古ぼけて、小枝が何本か色んな方向に飛び出ている。
「右手を箒の上に突き出して」
マダム・フーチが掛け声をかけた。
「そして、『上がれ!』と言う」
皆が「上がれ!」と叫んだ。箒が上がったのは、レイラとハリー、マルフォイ、他数名だけだ。
マダム・フーチは箒のまたがり方、握り方を教えた。
「さあ、私が笛を吹いたら、地面を強くけって2メートルくらい浮上して、降りてきてください。では、いきますよ。1・2の──こら!戻ってきなさい!」
ところが、ネビルは緊張するやら怖じ気づくやら、慌てて飛び出してしまったのだ。ネビルはどんどん上昇していき、真っ青な顔で地面を見下ろしている。もう高度は10メートルをこえそうだ。
「ネビル!」
もう我慢できない。レイラは箒にのって飛び出した。マダム・フーチはもはや真っ青を通り越して真っ白だ。
感覚が研ぎ澄まされる。レイラは持ち前の身体能力で急上昇した。ネビルまであと10メートル、8メートル、5メートル、3メートル……そこでとうとうネビルが箒から落ちてしまった。高度は25メートルを超えているだろう。レイラは急降下し、ネビルに並んだ。
レイラはネビルを左手で掴み、箒を引き上げた。無事な様子のネビルに安堵する。気絶しているようだ。
スタッという音をたててネビルを抱えたレイラが地面に着陸する。もはや顔面蒼白に震えながらマダム・フーチとグリフィンドール生が走ってきた。爆笑しながらスリザリン生たちが後に続いてくる。
「無事ですか!?」
「はい、先生。気絶していますが」
「ああ、良かった……Ms.ユオハーゼ。適切な対応でした。箒の腕も素晴らしいです。グリフィンドールに30点あげましょう。」
グリフィンドール生から歓声が上がり、スリザリン生の笑いが凍りついた。マダム・フーチは絶対に飛んではならないと厳命し、ネビルを医務室に連れて行った。
「あいつの顔を見たか?あの大間抜けの」
2人が充分に遠ざかってからマルフォイとスリザリン生がはやし立てる。グリフィンドールの得点の意趣返しといわんばかりだ。
「ごらんよ!」
ドラコが飛び出して草むらの中から何かを拾いだした。
「ロングボトムのばあさんが送ってきたバカ玉だ。ロングボトムが後でとりにこられる場所においとこう。木の上なんてどうだい?」
そういってニヤリと笑ったドラコは箒にまたがり樫の木の梢まで舞い上がった。その時、レイラはマクゴナガル先生が校舎から出てくるのを見たが、他の誰も気づいていないようだ。
ちょっと、待て。早くない?
「ここまでとりにこいよ、ポッター」
ドラコが意地悪げに言う。するとハリーも箒にまたがり、飛び上がった。ハーマイオニーが止めているが、気にしていない。マクゴナガル先生は何も言わず、成り行きを見ている。
「取れるものなら取るがいいさ!ほら!」
そう言ってドラコは玉を放り投げた。ハリーは急降下し、その玉を掴む。そのまま草の上に転がるように軟着陸した。
「ハリー・ポッター!」
マクゴナガル先生が走ってきた。ハリーは真っ青である。
「まさか―こんなことはホグワーツで一度も……」
そう言ってマクゴナガル先生はこう言った。
「Mr.ポッター。私と一緒に来なさい。Ms.ユオハーゼもです」
ロンとパーバティが反論しようとしたが、レイラも呼ばれたことで黙る。
ハリーはともかく、私は悪いことしたっけ?
マクゴナガル先生は歩いていき、ある教室の前に立ち止まると、中に首を突っ込んでこう言った。
「フリットウィック先生。ちょっとウッドをお借りできませんか」
その間にもハリーは真っ青になって震えている。
すぐにたくましい5年生の男子が出てきた。何事かと言う面持ちだ。マクゴナガル先生は廊下を歩き、空き教室に案内した。
「お入りなさい、3人とも」
その後ろからマクゴナガル先生が入り、扉を後ろ手に閉める。
「Mr.ポッター、Ms.ユオハーゼ。こちら、オリバー・ウッドです。ウッド、シーカーを見つけましたよ。」
狐に包まれたようだったウッドの表情がほころぶ。
「本当ですか?」
「ええ、この子は今手にもっている玉を16メートルもダイビングして捕まえました。かすり傷ひとつ負わずに。あのチャーリー・ウィーズリーだってそんなことできませんでしたよ」
レイラが知っている通りのやり取りが続いたが、その後ウッドがレイラを見て、「こちらは?」とマクゴナガル先生に聞いた。
「この子も20メートルほどダイビングして箒から落ちた生徒一人を助けました。素晴らしい飛行技術でした。ぜひグリフィンドールのクィディッチ・チームに入れましょう。確かいまチェイサーが一人足りなかったはずですね」
ウッドは夢が同時にかなったという顔をした。
(そういうことか。やっと意味が分かった)
マクゴナガル先生は部屋の窓からレイラがネビルを助けたのを見ていたのだ。それで、レイラを連れて行くつもりでグラウンドに出てみれば、ハリーがこれまたすさまじい才能を見せ付けたというわけだ。ダンブルドアに規則を曲げられないか頼んでみるとマクゴナガル先生は言い、にっこり笑った。
「ハリー、あなたのお父様がどんなにお喜びになったことか。お父様も素晴らしい選手でした」
レイラは教室の外に飾られているトロフィーの欄をチラリと見た。そこには見たことのある『ジェームズ・ポッター』と書かれたトロフィーがあった。そしてその隣には、『シーナ・ユオハーゼ』と書かれたトロフィーが…………。
「レイラ、あなたのお母様も大変素晴らしい選手でしたよ。あの子がグリフィンドールだったらスリザリンに大勝間違いなしだったのに…………」
レイラは驚いた。
「私のお母さんもクィディッチをしてたのですか?どこの寮で?」
「あの子の技術は素晴らしく、おまけにリリーとも仲が良かった…………。あの子の寮はスリザリンでしたよ」
~~~~~
「まさか」
夕食の時間、ハリーはロンに今日あったことを聞かせた。
「シーカーとチェイサーだって?なら君らは最年少の代表選手だよ。ここ何年来かな…………」
「百年ぶりだって。ウッドがそう言ってた。2人もいるのははじめてのことらしい」
ハリーが答えた。
「へぇ、それはとてもいいことじゃん。それなのに、レイラはどうしたの…………?」
ロンが恐る恐るレイラの方を見た。レイラは虚ろな目をしながらパイにひたすら砂糖を振りかけている。もう皿から溢れそうだ。
「あー……自分のお母さんがスリザリンだった、って事にショックを受けてこうなった──────ってレイラ!僕にかけないで!!」
ハリーが慌てて自分の服についた砂糖を振り払う。その時、双子のウィーズリーが大広間に入ってきた。
「「レイラァ!」」
と、叫びながら。
レイラの近くにいたハリーとロンはパイを持ったまま、飛び退いた。双子がレイラに抱きついてきたからだ。
ガンッ
双子が勢いを殺さずにレイラにぶつかったため、レイラは自分の砂糖まみれのパイ(もはやパイじゃないナニカ)に顔ごとつっこむことになった。
「「ああっ!レイラが!」」
「いや、フレッドとジョージが悪いよ今のは」
ロンが冷静につっこんだが、フレッドに頭を叩かれて床に倒れた。
「このグリフィンドール!!レイラに何してんだ!」
通りかかったマーカス・フリントが双子に掴みかかった。そこへドラコもやって来てレイラの方を心配そうな顔で見ながら、真夜中にトロフィー室での決闘をハリーに挑んでいった。
「……っ痛いです…………フレッド、ジョージ……」
レイラが顔や髪に砂糖まみれのパイをつけて、顔をしかめながら起き上がった。
「パイまみれでもレイラの美少女ぶりは変わらないね」
「ていうか、ギャップ的なものがあっていい」
「誰のせいだと思っているのですか?せっかく新しいイタズラグッズの商品思いついたのに…………」
「何それ!」
「教えて!レイラ!」
「ダメです。忘れちゃいました、さっきの衝撃で…………」
いたた、とレイラは頭を抑えた。
「「ごめんよぉぉぉぉぉ!!!!」」
双子が土下座しそうな勢いでレイラに謝った。そして、ハリーとレイラを引き寄せ、マーカスに聞こえないくらいの声で、
「来週からクィディッチの練習が始まるんだ」
「ウッドは秘密にしときたいんだって」
「「つまり、君達は秘密兵器だ」」
と、イタズラっぽく笑みを浮かべながらそう言った。
「「じゃあ、また談話室でね!」」
「羨ましいな!グリフィンドール!!」
双子は追いかけてくるマーカスから走って、大広間から出ていった。
「騒がしい人達です…………」
「大丈夫?レイラ」
その日の夜、レイラはキャンキャンと叫ぶ声で目を覚ました。
「……」
レイラは、目をこすりながらベッドから出て声のした方を見に行く。
すると、ちょうどロン、ハリー、ハーマイオニーが肖像画を押し開け穴から出て行くところだった。
レイラはボーとしてそれを見送る。
(あれ?どこ行くんだ?)
しばらくしてレイラは、はっと気がついた。
(クィディッチ、ドラコ、決闘・・・・・)
「真夜中の決闘。3頭犬。フラッフィーだ」
頭が一気に覚めていった。そして慌てて3人を追いかけるために談話室から飛び出した。
自分に姿くらましの呪文をかけて。
真夜中の廊下を1人の少女が歩いていた。
その少女、レイラは最初にトロフィー室に行ってみたが、そこにはフィルチしか居なく、慌てて来た道を戻った。
次に『禁じられた廊下』に向かおうとしていたとき、
「わぁっ!?」
廊下を飛び出してきたハリーとぶつかった。
「どうしたのハリー、何もないのに転んじゃって」
その後ろからロン、ハーマイオニー、ネビルと現れた。そしてレイラは思い出した。
(姿くらましとかなくては)
「あの、ハリー?」
「え?レッ、レイラッ!?」
「どこから現れたの!?」
ハリー達からしたら、暗闇の中から急にレイラが出てきた事になる。叫ばなかったのは奇跡だ。
「こんなところで何していたのですか?」
「あっ、あの、先にグリフィンドールの寮に戻っていい?」
ロンが焦りながらそう言う。
「・・・・・・・・・・・それでフィルチに見つかって逃げてる時に、あの立ち入り禁止と言われた『禁じられた廊下』に入ってしまったんだ」
「床から天井までの空間全部が埋まってしまうほどの大きさ。頭が三つ。血走ったギラギラした目。三つの鼻をそれぞれの方向にヒクヒクさせていたんだ」
「そいつは僕達を目に移すと、グァっと口をあけ雷のようなうなり声をあげたんだよ」
寮に着いた後、ハリーから聞いた内容は大方レイラが予想していた内容だった。
レイラ「あ、頭が・・・・・」
ハリー「本当に大丈夫?」
レイラ「多分・・・・・・」