11月に入ると、とても寒くなった。学校を囲む山々は灰色に凍りつき、湖は冷たい鋼のように張りつめていた。窓から見下ろすと、クィディッチ競技場のグラウンドで箒の霜取りをするハグリッドの姿が見えた。
クィディッチシーズンの到来だ。何週間もの練習が終わり、土曜日は、いよいよハリーとレイラの初試合になる。グリフィンドール対スリザリンだ。
寮チームの秘密兵器として、ハリーとレイラのことは、一応『極秘』というのがウッドの作戦だったので、2人が練習しているところを見た者はいなかった。ところが、ハリーがシーカー、レイラがチェイサーだという『極秘』は何故かとっくに漏れていた。
2人のデビュー戦の前日のこと、2人はロン、ハーマイオニーと一緒に、休み時間に凍りつくような中庭に出ていた。あのトロール事件から、ハーマイオニーは、ハリーとロンと仲直りできたようだ。
「あー、寒い寒い!」
ロンが震えながら中庭に座った。
「あら、レイラ。そのマフラー良いわね」
レイラの巻いているマフラーに気づいたハーマイオニーが笑顔でそう言った。そのマフラーはドラコがくれた、銀色と水色の縞模様のマフラーだった。
「ありがとうございます。友達がくれたんです」
レイラも笑顔でそう返した。
ハーマイオニーが魔法で出した鮮やかなブルーの火は、ジャムの空き瓶に入れて持ち運びが出来る火だった。背中を火にあてて暖まっていると、スネイプがやって来た。片足を引きずっていることにハリーは気づいたようだ。火は禁じられているに違いない、そう考えたのだろう、ハリー達3人はピッタリくっついた。だが、レイラだけは違った。
「あ、スネイプ先生!」
自らスネイプに近づいて、ハリー達を慌てさせた。
「この前のトロールの時に助けてくださったと聞きました。ありがとうございます!」
「あ、ああ」
笑顔でそう言われ、スネイプは驚いたような表情をした。
「では、私はこれで」
ハリー達の方へ走っていくレイラを困惑した顔で見送ったスネイプ。戻ってきたレイラにハリー達も困惑していた。
「何でお礼なんて言ったのさ」
「トロールの時に助けてくださった、とダンブルドア先生から聞きましたので」
レイラがそう言うと3人は納得したようなしてないような顔でうなずいた。
その夜、グリフィンドールの談話室は騒々しかった。ハリー、ロン、ハーマイオニー、レイラは一緒に窓際に座って、ハーマイオニーとレイラがハリーとロンの呪文の宿題をチェックしていた。途中でハリーがいつ奪われたのか、『クィディッチ今昔』をスネイプのとこに取りに行ってくる、と言っていた。
レイラは落ち着かなかった。
「ねえ、レイラ。試合、絶対見に来いよ」
「じゃないと僕ら泣いちゃうからね」
赤毛の双子が先程から同じ様な事をずっと言っているからだ。レイラは一緒に試合に出るのに。いい加減離れてくれないかなぁ、そんな事を考えていたレイラは、ハッと気づいて、ニヤリと悪魔の笑みを浮かべた。ハリーの宿題をチェックし終えた後、レイラは双子に声をかけた。
「すみませんが、試合を
「えっえぇぇぇ!!」
「うっそぉぉぉ‼」
双子にそう言うと、MAXに機嫌を損ね、暗いオーラを発しまくりながら、リーに泣きついた。
「どうしよぉぉ…」
「レイラがぁぁ…」
「何があるのぉ?男?ねぇ、男なんでしょ?」
「彼氏?彼氏なの?」
「…お前ら、馬鹿か?もしくは阿保なのか?」
呆れたように言うリーの正論にますます悲しくなったのか、結局双子はレイラの元に戻ってきた。
「「ねえ、本当に見ることは出来ないの?」」
「はい、
ことのなり行きを見ていたロン、ハーマイオニーには、レイラに悪魔の羽が生えているのが見えた気がした。
「「ぞんなぁ!」」
双子がレイラに泣きついた。流石にかわいそうになってきたレイラは、ニコッと笑って言った。
「ですが、試合に
「「え゛っ?」」
双子は同時にレイラの方を向いた。
「あ、そうだった・・・」
「レイラはチェイサーだった」
その時の双子の顔をレイラは一緒忘れないだろう。
夜が明けて、晴れ渡った寒い朝が来た。大広間はこんがり焼けたソーセージの美味しそうな匂いと、クィディッチの好試合を期待するウキウキとしたざわめきで満たされていた。
「朝食、しっかり食べないと」
「そうですよ、ハリー」
青白い顔をしたハリーは全然朝食に手をつけていない。その横で、レイラはいつも通り甘いものずくしの料理を食べていた。それも、そんな華奢な体のどこに入っていくのか、という量を。
「何も食べたくないよ」
「トーストをちょっとだけでも」
ハーマイオニーが優しく言った。
「お腹すいてないんだよ」
ハリーは目の前の料理を見つめながらそう言った。
11時には学校中がクィディッチ競技場の観客席につめかけていた。双眼鏡を持っている生徒もいる。
一方、更衣室では、選手達がクィディッチ用の真紅のローブに着替えてウッドの演説を聞いていた。
「よーし、さあ時間だ。全員、頑張れよ」
ウッドの声にレイラは気を引き締める。今頃になって、やっと緊張してきた。膝が震えませんようにと祈りながら、『シルバーレイ』をぎゅっと握りしめる。
フレッドとジョージの後について更衣室を出ようとした時、
ポンポン
2つの手に、頭に軽く触れられた。
「え?」
ポカンとしてレイラは頭に触れると、目の前にいたフレッドとジョージがニヤリと笑った。
「レイラでも緊張するんだなぁ」
「緊張しなくていいぜ、レイラに近づいたブラッジャーは俺達が全部弾き落とすから」
そして、くるっと方向転換した双子はそのまま競技場に出ていった。その後ろ姿を驚いた顔のまま見つめていたレイラは、クスリと笑った。
(人に頭撫でられたの初めてだ)
「ありがとうございます」
ポツリと呟いたレイラは、双子に続いて競技場に出た。その時にはもう、緊張はしていなかった。
大歓声に迎えられてフィールドに出る。
「さぁ、皆さん。正々堂々と戦いましょう」
審判はマダム・フーチだ。どう見てもスリザリンのキャプテンのマーカス・フリントに向けて言っていると思った。
「手加減なしだぞ?」
マーカスがレイラに向けて言う。
「当たり前です。ファールはいけませんが」
マーカスに言われたレイラは不敵な笑みを浮かべた。
「よーい、箒に乗って」
ハリーはニンバス2000に、レイラはシルバーレイにまたがった。レイラは自分の上に、魔法で番傘を浮かす。マクゴナガルはレイラの体質のことを知っており、ダンブルドアにかけあって、レイラが番傘を差していいことになった。
フーチ審判の銀色の笛が高らかになり、15本の箒が舞い上がった。試合開始だ。
レイラの銀髪のポニーテールが、風を受けてさらさらと舞う。
レイラは、放り投げられたクアッフルを掴み、そのまま一気に急上昇する。唖然としているスリザリンの選手達を尻目に次は急降下。3つのゴールのうち、左を狙ってシュート。決まった。
レイラは怪我が治ってからも1週間激しい運動は禁止と言われていたので、他のみんなよりも練習時間は少ない。だが、その差すら無いような綺麗な飛びかたをしている。
真っ先に我に帰ったマダム・フーチがホイッスルを鳴らす。解説のリー・ジョーダンも呆然としていたが、すぐに仕事を思い出す。
「グ、グリフィンドール 先取点!」
グリフィンドールの大歓声が響き渡った。とりあえず10点。だが、こんな物では終われない。
「あ、またグリフィンドールのチェイサー、レイラ・ユオハーゼがクアッフルを取りました。─────飛んできたブラッジャーを華麗にかわす────そのブラッジャーを、ウィーズリーの双子がもうスピードで追いかける───なぜでしょう、ブラッジャーは2つもあるのに」
それを聞いたレイラは、バカ・・・とため息をついた。
「────ま、いいか。さぁ、ユオハーゼ選手、もうゴールは目の前だ──────あっ、スリザリンのキャプテン、マーカス・フリントが、ユオハーゼ選手の前に立ちはだかりました──────ユオハーゼ選手、これを予想していたのか、左にいたジョンソン選手にパス────ジョンソン選手はクアッフルを手にゴールに向かって飛びます────頑張れ、今だ、アンジェリーナ────キーパーのブレッチリーが飛びつく────がミスした────グリフィンドール、追加点!!」
グリフィンドールの大歓声がまた、寒空いっぱいに広がった。
「ナイスパス!レイラ!」
「ありがとうございます」
その後、スニッチに気づいたハリーにタックルしたマーカスに厳重注意、そのおかげで得たペナルティーシュートでまた10点追加した。
さらにグリフィンドールの攻撃が続く中、ハリーの箒に異常が起きた。振り落とされそうになっている。
「ハリー!耐えてください!」
グルグルと旋回し始めたハリーから目を離したレイラは、すぐに観客席を見た。
クィレルとスネイプが2人、ハリーのほうにむけて、目を離さずに言葉を紡いでいる。念のために唇の動きを見ても、クィレルが呪い、スネイプが反対呪文を唱えていた。
そこまで見たとき、突然スネイプのローブが燃えあがった。そして、その後ろには逃げ去っていくハーマイオニーの姿が。2人とも炎に気を取られ、詠唱をやめた。ハリーの箒は落ち着きを取り戻した。
その後、レイラが50得点、アンジェリーナとケイティが20得点づつ決めた時、ハリーがスニッチを見つけた。飲み込んでしまったものの、しっかりと掴み、試合終了。終わってみれば260-0。グリフィンドールの圧勝だった。
試合の後、レイラとハリー、ロン、ハーマイオニーはハグリッドの小屋を訪ねていた。ハグリッドが入れてくれた濃い紅茶を、レイラは少しずつ飲みながらハリー達の話を聞いた。
「スネイプだったんだよ」
とロンが説明した。
「ハーマイオニーも僕も見たんだ。君の箒にぶつぶつ呪いをかけていた。ずっと君から目を離さずにね」
ハリーは驚いていたが、ハグリッドは信じていない。レイラは紅茶をテーブルに置き、口を挟んだ。
「呪いをかけていたのはクィレルですよ。スネイプ先生は反対呪文をかけていたんです。それくらい唇の動きを見れば分かりますよ」
それを聞いてロンは黙ったが、ハリーはあきらめない。
「でもスネイプはハロウィーンの日、3頭犬の裏をかこうとして噛まれてたじゃないか!」
ハグリッドはティーポットを落とした。
「なんでフラッフィーを知っとる?」
「フラッフィー?」
「そう、あいつの名前だ・・・去年パブで会ったギリシャ人から買ったんだ。ダンブルドアに貸した。守るため」
「何を?」
「もうこれ以上は聞かんでくれ。お前さんたちは関係のないことに首をつっこんどる。危険だ。あれはダンブルドアとニコラス・フラメルの・・・」
「あっ!」
ハリーは聞き逃さなかった。
「ニコラス・フラメルって人が関係してるんだね?」
「ニコラス・フラメル。著名な錬金術師です。今年で665歳でしたよね。ダンブルドアの名前が出てくるということは・・・あの犬が守っているのは多分『賢者の石』ってところでしょうかね」
ハグリッドは口を滑らせた自分自身に猛烈に腹を立てているようだった。
クィディッチをしてみたい!!