ダイアゴン横丁
今日は、7月31日。ハリー・ポッターの、11歳の誕生日だ。
そして、レイラも約1ヶ月半前に11歳になっている。
ホグワーツへ入学できる年だ。
翌朝
ダイアゴン横丁。魔法使いや魔女が必要とする、ありとあらゆる魔法道具が売られている横丁。
「ここが、ダイアゴン横丁……!」
エリシャと一緒に学用品を買いに来たレイラは、柄にもなく目を輝かせていた。お店に並んでいる品物だけでなく、道行く人々にも興味を示している。
「お嬢様、まずはグリンゴッツへお金を取りに行きましょう」
そうエリシャに言われるまで、レイラはあっちへ行ったりこっちへ行ったりとフラフラ歩いていた。
「あ、ごめんなさい」
慌ててエリシャの近くへ走るレイラ。
「こんなに魔法使いや魔女が居たんですね……。どうしよう、ワクワクしてきました!」
「フフッ、お嬢様もやっぱり11歳ですね」
エリシャの後を追いながらも、レイラは周りのものに気をとられていた。
「面白そうな本がたくさん……あっちにはニンバス2000が……クディッチも……」
目がいくつあっても足りない。家や学校にあった本や薬品よりもたくさんのものがある。
そう思いながらキョロキョロしていると、目の前にそびえる真っ白な建物が見えてきた。
「グリンゴッツに着きましたよ、お嬢様」
「わぁ、本で見たのと一緒ですね……!」
中は広々とした大理石のホールだった。
「お早うございます」
エリシャがカウンターにいる小鬼に声をかけた。
「レイラ・ユオハーゼさんの金庫からお金を取りに来ました」
「鍵はお持ちですか?」
……鍵。え、カギ?そんなものあったっけ?
「お嬢様、大丈夫です」
慌ててポケットを探り始めたレイラにエリシャが微笑みかけて、小さな黄金の鍵を取り出した。
小鬼は慎重に鍵を調べてから、「承知しました」と言った。
「誰かに金庫へ案内させましょう。グリップフック!」
グリップフックも小鬼だった。て、いうかハリーの時と同じ名前の小鬼がやって来た。
二人はグリップフックについて、ホールから外に続く無数の扉の一つに向かった。
「エリシャが鍵を持っているなんて知らなかったですよ」
「お嬢様が11歳になるまではお前が所持していろ、と前当主様に言われてましたので」
グリップフックが扉を開けてくれた。
そこは松明に照らされた細い石造りの通路だった。急な傾斜が下の方に続き、床に小さな線路がついている。
グリップフックが口笛を吹くと、小さなトロッコがこちらに向かって元気よく線路を上がってきた。
小さな扉の前でトロッコは止まった。
グリップフックが扉を開けると、緑色の煙がモクモクと吹き出してきた。それが消えたとき、レイラはあっと息をのんだ。
中には金貨の山のまた山。高くつまれた銀貨の山々。そして、小さなクヌート銅貨までザッザクだ。
もしかしたらあのハリーポッターよりもたくさんのお金が入っているかもしれない。
「みんなお嬢様のものですよ」
エリシャは微笑んだ。
全部私の……信じられない。
「お嬢様のお父様、お母様が残されたもの、叔父のレオン様が残された、全財産が入っております。あ、ちなみにユオハーゼ家の金庫は別にありますよ」
嘘だろ……どれだけ金持ちだったんだよ、私の家系は。
「これだけあれば……パフェ何個食べられるかしら?あ、団子でもいいなぁ……」
「お嬢様、まずは学用品ですよ」
エリシャに指摘されたレイラは慌てて頭を振って、バックを取り出した。
「そうでしたね」
エリシャはレイラがバックにお金を詰め込むのを手伝った。
もう一度猛烈なトロッコを乗りこなした二人は、グリンゴッツの外に出た。
外は陽の光がサンサンと降り注がれていた。それに顔をしかめていたレイラにエリシャはある番傘を差し出す。
「ありがとうございます、エリー」
微笑んだレイラは番傘を差して、ため息をついた。
「私達の家系は厄介ですね……特製のこの番傘を差さないと太陽の下を歩けないなんて……」
「元々闇に生きる家系でしたからね」
エリシャの返答に、そうでした、とレイラは苦笑する。
「さて、お嬢様。何から買いに行きましょうか」
「う~ん…………確か、制服、教科書、杖、大鍋、薬瓶、望遠鏡、ものさし……を買うのでしたよね?」
「はい、そうでしたが…………もしかして全部覚えてらっしゃるのですか?」
驚いたエリシャがそう聞くと、はにかみながらレイラは
「うん、一応ですけど……」
と言う。
「流石です、お嬢様」
「ありがとうございます。……それでは、ここから近い制服を買いに行くことにしますか」
レイラは『マダムマルキンの洋装店──普段着から私服まで』の看板を指差した。
「あ、でも手分けした方が速いですよね…………エリー、私が制服を買う間、秤、羊皮紙と羽ペン、大鍋、望遠鏡を買ってきてくれませんか?」
そう言ったレイラはお金を分けて、片方をエリシャに渡す。
「分かりました。では、行って参ります」
バチッ
エリシャが音と共に姿を消した。
「……ふぅ……」
エリシャと別れたレイラは深呼吸をした後、マダム・マルキンの店に近づいていった。
店に入ろうとした時、黒髪で眼鏡をかけた男の子とすれ違った。
…………ハリーポッターだ。
店の外を見ると、ハグリットが手にアイスを持って立っている。
いいなぁ、アイス、いいなぁ。この時期にちょうどいいじゃないか。
「嬢ちゃんもホグワーツなの?」
ボーッとしていると、急に声をかけられた。マダム・マルキンだ。
「あの……」
「全部ここで揃いますよ…………もう一人お若い方が丈を合わせているところよ」
スルーってこの世界にもあるんだ……。
妙なことに感心しながら、マダム・マルキンについていくと、プラチナブロンドの髪の男の子の隣の台に立たせられ、頭から長いローブを着せかけられた。
「やぁ、君もホグワーツかい?」
「はい、そうです」
隣の男の子が声をかけてきた。その瞬間、目があう。
…………コイツ、ドラコじゃん。
良かった、知り合いがいた。
ドラコがレイラの顔を見て、はっと息をのんだ。
「きっ、君、もしかしてレイ・ユオハーゼの妹?」
「そうですの。あなたはドラコ・マルフォイさん、ですよね?」
そう言うと、ドラコは嬉しそうにうなずいた。
「…………君は?」
「私は、レイラ・ユオハーゼです。これからよろしくお願いしますね、ドラコさん」
「ドラコでいい」
「では、私はレイラで」
にっこり笑って一応軽く会釈する。
「君、本当にレイにそっくりだね…………」
ドラコがレイラの顔を見ながらそう呟く。
「はい、皆が言っています。違うのは瞳の色だけだと」
今のレイラの瞳は深い蒼色をしている。なぜか、当主として働くときのみ、瞳は紅く染まる。
顔が似ているのは・・・・・まぁ、同一人物だからね
「そっ、その色も僕はいいと思うよ・・・・・」
「ありがとうございます」
そんな事を言ってくれる人は初めてだ。
レイラが微笑むと、ドラコは頬を赤らめて視線をそらした。
「さぁ、終わりましたよ、坊っちゃん、嬢ちゃん」
タイミング良く、マダム・マルキンがそう言った。
レイラはトンッと踏み台から跳び降り、マダム・マルキンにお金を渡す。そして制服を受け取って、ドラコに一礼してから店を出た。
「お嬢様!」
外に出て、番傘を差すと、ちょうど良くエリシャが帰って来た。
「全て上等なのを買い揃えました!」
「ありがとうございます、エリー。助かりました」
「勿体なきお言葉です!」
さぁ、次のものを買いにいこうと足を踏み出した時だった。
「レッ、レイラ!」
後ろでドラコの声がした。
「また・・・・ホグワーツで会おうね!」
顔を赤らめ、そう叫んだドラコにうなずいて、レイラはてを振った。
レイラは人を惹き付けるカリスマ性があります。
自分では気づかないうちに発揮しているんだよな