もしふぇあ!   作:ヒョロヒョロ

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彼我も未だ曖昧な者に、彼此の境界なぞありはしない


七つまでは神のうち

 モモンガは悩んでいた。

 自身の正后──否、その呼び方はさも妾妃を娶る前提のようで意に沿わぬ為、あえてただこう呼ぼう──妻となってくれた、アルベド。

 彼女との間に授かった我が子、その命名についてである。

 モモンガは、己のネーミングセンスは壊滅的であると、既に()()はしている。

 それは、自分では()()と思った提案が、周囲からひきつった笑みを返される結果となる、という経験に基づく自覚であり──肝心のセンス自体は改善されていない。というか、どうすれば改善するのかもわからない。急募:センス。

 しかし、アルベドが「この子には、どうかモモンガ様から名を賜りたく」と、大きくなった胎を撫でて言うのだ。その願いを無下にすることなど、モモンガにはできない。というか、したくない。

 かといって、変な名前をつけてしまって、我が子が笑い物になるような未来も御免被る。

 とすれば、誰かに相談しながら考えるしかないが、ナザリックのシモベ相手だと至高の御方(モモンガ)全肯定して相談の意味がなさそうだし、現地スカウト勢相手だとただのパワハラにしかならない気がする。

 同じプレイヤー仲間に相談するしても──ヘロヘロは「奥さんとお子さんについてて下さい!」と、モモンガがするべきナザリック責任者としての決済を代行してくれているので、これ以上負担をかけるのは気が引ける。

 という訳で、情けなくも十代の少女に縋る羽目となったモモンガであったが、結果としてそれは大正解だった。

「名前、名前……う、う~ん──あ! 私のお祖母ちゃん、“百の恵み”と書いて“モモエ”って名前だったんです。モモンガさんの“モモ”を“百”の意味に準えて、漢数字に絡んだ名前とかどうでしょう?」

「なるほど、漢数字……私が百なら、それより上の桁の“千”とか──」

 ルイの言葉から連想したことを呟いて──途端、モモンガの脳裏に蘇る記憶。

 ──かつてギルメンたちと鑑賞した古いアニメ。百年経っても名作とされる、その映画のタイトル。

 

「──“贅沢な名前”だ!!!」

 

 閃いたままに、そう叫んで──突然の大声に飛び上がったルイに、慌てて謝り倒す羽目となった。

 

 

 ──主人公の少女が迷い込んだ神々の湯治場。そこを統べる魔女は、少女の名を聞くなり、名の一部を取り上げてしまった。

 何でこれが“贅沢な名”なんでしょう?──魔女の台詞に首を傾げた己に、隣にいたタブラ・スマラグディナが、丁寧にその意味を説明してくれた。

 博識な脳喰い(ブレイン・イーター)曰く──

 ──“千”の字には、単純に数字としての1000に限らず、“数え切れないほど多くのもの”という意味があり、つまりは“際限なく”“無限に”という意味を持つのです。

 そして、“尋”という字は“たずねる”と読みます。それは即ち“探求”の意であり、またそれによってたどり着く真理にも繋がるのです。

 この二つを重ねた名は、つまり“果てなき探求者”、“森羅万象を知り得る者”という意味を持つのですよ──

 当時のモモンガは、「なるほど、それは“贅沢”だ」と心底納得したものだ。

(──男女どっちでもしっくりくるし、うん、いい名前じゃないか!)

 “森羅万象を知れ”とまでは言わないが、どうか“果てなき探求(学び続ける)者”であれ──そんな祈りを込めて、この名を贈ろう。

 

 

 アルベドは、種族的なものなのか、個人の資質なのか、全く危うげもなく出産を終えた。

 すっかり母の顔となった彼女の腕の中。そこに収まった我が子の手に、モモンガはおそるおそる触れる。

 途端、きゅっと指先を握られて──胸に溢れる万感の想い。

(ああ──この子が、俺の子)

 なんと──なんと愛おしいのか!

(アルベド、ありがとう──)

 新たな家族をくれた妻への、圧倒的な感謝の念。

(ああ、お前の創造者()にも、一目でいいから、この子を抱くお前の姿を、見せてやりたい)

 そんな、叶わぬ願いすら、浮かんでくる。

(タブラさんだけじゃなく、皆にも──何より、今のナザリックのNPC(こども)たちを、ギルメン(おや)に会わせてやりたい)

 度々重いとすら感じられたNPCたちの敬愛──ああ、今の自分ならわかる。仕方ないよな、抑えられないよな。

(子を想う親の愛が無限なんだ──逆だってそうだよなぁ、みんな)

 際限なく、止めようもなく、溢れてくるのだから。

 

「──千尋(ちひろ)、生まれてきてくれて、ありがとう」

 

 言葉にしきれない想いを、ただその名に込めて呼んだ。

 

 ──その瞬間、いかなる原理でもって、その奇跡が成されたのか、誰にもわからない。

 父が持つ世界級(ワールド)アイテムや、タレントとして得た始原の魔法(ワイルド・マジック)の力が、何らかの形で子に異能を与えたのでは、と後々推察されたが、その是非を確かめる術は終ぞ見つからなかった。

 

 ただ、目に見える結果としては、モモンガに名を呼ばれた子が、その身から眩い光を発し──ナザリックの円卓の間に、既にいるモモンガとヘロヘロ以外の、()()()()()()()()()()()()()()

 

 それが、ナザリックの住人が40人増えた、“御子の奇跡の日”の全てなのだ。

 

 

「“御子の奇跡”ってか、むしろ“坊な千尋の神隠し”」

「言い得て妙かよ」

「魔女も真っ青なモンペ(複数)持ち」

「やばいですね」

「まあ、俺らもそのモンペの一部なんですけどー」

「文字通り異形種(モンスター)ペアレント」

「おいモンスター言うな」

「人間形態になれる仕様がついててくれてよかったよね~」

「姉ちゃんは特にね!」

「黙れ愚弟」

「ひぇっ」

 下らない──けれど掛け替えのない、そんなやりとりが再び日常になった、始まりのお話。

 




(ポジション的に)坊な千尋の神隠し(する側)

上のフレーズが浮かんで、書くしかないと思ったんだ──などと犯人は供述しており。
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