もしふぇあ!   作:ヒョロヒョロ

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生まれ直したんだから全部チャラな!


死は前世の業を禊ぐ

 再会したギルメンたちとは、最初まともな会話にならなかった。

 

 ヘロヘロは、モモンガと共に、ギルメンたちが見慣れているだろう異形種姿(アバター)の方で顔を出したのだが、

「モモンガさんっ!? 生きてたの!?」

「いや、むしろ死んでる!?」

「ヘロヘロさんも……すっかり腐敗して……」

「ううっ……原形もない……」

「夢でも会えて嬉しいよぉおお! 最終日いけなくてゴメンねぇええ!」

「こんな風に化けて出るほど、無念だったんだ……当然だよね……」

「仇は絶対とりますから! “ユグドラシル・ショック”の真相を暴いて、あのクソ企業どもに償わせますから!」

 

「いや、化けて出た訳でも、夢でもないです!」

「っていうか、仇って何!? “ユグドラシル・ショック”とは!?」

 

 まずは、お互いの状況をすり合わせるための、情報交換が必要だった。

 

 

「それなんてラノベ?」

「それな」

「ふむ、事実は小説より奇なり、と。面白いですね」

「タブラさん、順応早すぎない?」

「いうて、まあ、俺らも信じてない訳じゃないけど」

「こっちで把握してる情報と齟齬がないから、否定できる要素がないですしおすし」

「まさか“ユグドラシル・ショック”の真相が、“異世界転移”だったとは」

 モモンガとヘロヘロの説明を聞いた後、意外にもギルメンたちから疑う言葉は出てこなかった。

 それは、《リアル》側のギルメンたちが把握していた情報故。

 ヘロヘロ自身、薄々予想はしていたが──ユグドラシル終了と同時に《異世界(こちら)》へゲームアバターで()()した自分たちは、《リアル》の肉体が死亡してしまったようなのだ。

 まあ、意識というか魂というか、そういうものがまるっと抜き取られてしまったのだから、それは当然の帰結ともいえる。

 ヘロヘロたちだけでなく、サービス終了までログインしていたプレイヤーの一部が、同様に()()したらしい。──正確な数は不明だが、少なくとも三桁はいる、という話だった。

 企業側は隠蔽しようとしたが、人の口に戸は立てられない。集団変死とユグドラシルに何らかの因果関係があるらしいことは、瞬く間に世間に広まり、“ユグドラシル・ショック”と呼ばれる一大スキャンダルとなったのだという。

「噂聞いて、不安になって、ギルメン内で連絡回したら、案の定音信不通の面々がいて」

「でも、転移してたのはモモンガさんとヘロヘロさんだけなんだ?」

「連絡取れないの、他にも何人かいたよな?」

「たっち・みーさんと、ウルベルトさんと、ベルリバーさんですね」

 ぷにっと萌えがさらっと名を上げ、三人に注目が集まる。

「なんで連絡取れなかったんだよ~! 特にたっちさん! 現役警察官をアテにしていたのに!」

「それは……すみませんでした」

 ぶーぶーと文句を言いながら纏わりつくピンクのスライム(ぶくぶく茶釜)に、たっち・みーは困ったような声音で謝り、

「……最終日、勤務でおそらくログインできないと、モモンガさんにはお知らせしたと思うんですけど……」

「あ……はい」

「夜に緊急出動があって……深手を負いまして」

「えっ!?」

 驚愕に、あちこちから変な声が上がる。

「即死こそしませんでしたが、あれは確実に致命傷でした。──実際、気がついたらここにいたので、《リアル(あちら)》の身体はあのまま死んだのでしょう」

 たっち・みーのまさかの告白に、「まさかの別口死亡……」とぶくぶく茶釜が床に伸びた。

「……まさか、とは、思うけど……二人も……?」

「──死因は言わんぞ、我ながらクソダサい死に方したからな」

「私は……まあ、社会の闇を知りすぎて口封じされた感じですかね……」

「ひえぇ……」

 ウルベルトとベルリバーの返答に、ペロロンチーノが白目をむく。

 何とも言えない重たい沈黙を破ったのは、タブラだった。

「──ふむ。盟友の不幸な最期に思うところは勿論ありますが、今の話を聞いて、私はむしろ安心しました」

「え、今の話に安心要素あった???」

 超問題児(るし★ふぁー)のツッコミ。レアである。

「ええ──我ら“アインズ・ウール・ゴウン”のメンバーに、己の意志で盟友との繋がりを断絶した者などいなかった。我らを隔て得たのは“死”だけであり、その“死”の断絶すら、今この場での再会でもって覆されたのです。──これを慶ばしいといわず、何というのでしょう?」

 誰もが一瞬きょとんとし──じわじわと、その言葉が一同の脳裏に染み込んでいく。

「……物は言い様~」

「ちゅうに的ポジティブシンキング」

「さすタブ」

「そこに痺れる!」

「憧れぬ~!」

「憧れないんかい!」

「お約束!」

 ブランクなど感じさせない息のあった掛け合いに、ヘロヘロは笑う。

(──ああ……そうだ。これが、()()()だ)

 おふざけ上等、悪ノリ大好き、逆境を逆手にとって娯楽とする(たのしむ)大人げない大人の集まり──ギルド“アインズ・ウール・ゴウン”。

(──って、そうだ、ルイさんのことを紹介しないと)

 そんな“アインズ・ウール・ゴウン”の集大成(ナザリック)に憧れて、特攻してきた少女のことを思い出す。

「皆さん、実はもう一人プレイヤーが一緒に転移してて……」

「──あ、最終日にいた妖精の子? モモンガさんの嫁だっけ?」

「いや私じゃなくて、私のNPCの嫁です! 怖い間違いヤメテ!」

 ギルメンの一人があげた声に、モモンガが悲鳴のように訂正する。──そういえば、あの日ヘロヘロの前にログインしたメンバーとも、ルイは会っているのか。

 取りあえず、会ったことがないメンバーの方が圧倒的に多いので、互いに挨拶しようとルイを《伝言(メッセージ)》で呼び──

「──はじめまして、ルイと言います!」

「えっ……待って待って、ちょっと待って!」

 人間モードで自己紹介するルイに、ホワイトブリムが悲鳴のような声をあげた。

「──まさか、トミノ ルイさん? TMN出版の社長令嬢の?」

「……どこかでお会いしたことが……?」

 不思議そうなルイの言葉は、そのまま肯定だった。

「……直接会ったことはないですが……私、御社でお世話になっていた漫画家のホワイトブリムと申します」

 途端、ルイの表情が曇った。

「それは……うちの会社が傾いて……何かご迷惑をおかけしたのでは……?」

 いえ、とホワイトブリムは頭を振る。

「TMN出版は……大手の傘下にうまく入って、持ち直しましたから」

「そうなんですか!? ──ああ、よかったぁ……」

 心底安堵したように、ルイは笑った。

「……私が義務を放り出したことで、会社の関係者の皆さんに迷惑かかってたらどうしようって、気になってたんです。──その癖、帰ろうともしなかったんですから、すごく無責任で勝手なんですけど」

(……政略結婚から逃げたことを、実はずっと気に病んでいたのか……)

 ヘロヘロ的には「親より年上の子持ちのおっさんが相手とか、そりゃ逃げるわ」としか思ってなかったが──この優しい子が、大勢の人生に影響が出るかも知れない選択を、その行く末を、気にしない訳がない。

 ルイの性格的に、自身が幸福になればなるほど、後ろめたさは余計に増しただろう──ホワイトブリムを介して、会社のその後が知れてよかった。

「──よかったですね、ルイさん」

「はい!」

 モモンガの柔らかな声に、頷くルイの朗らかな笑み。──この笑みが曇らぬように、()()()()()()()は要らない。

「──あの……」

 物言いたげなホワイトブリムに、ヘロヘロは魔法を送る。

『《伝言(メッセージ)》です。──ルイさんに聞こえないように』

『……察してます?』

『自分より年上のおっさんと政略結婚させようとするくらい、よろしくない親だってのは聞いてましたから』

『ああ、その噂もマジだったのか……“自殺”として処理するための後付けじゃなかったんだな……』

『──表向きには、“政略結婚を厭っての自殺”?』

『ええ。「“ユグドラシル・ショック”なんて()()」ってのが、公の見解ですからね』

 ──《リアル》の彼女は、“ユグドラシル・ショック”で死亡した。

 彼女の親は会社を立て直したくて、企業側は彼女の“死”の理由を隠蔽したかった。──利害の一致、そういうことだ。

 そんな反吐が出るようなやり口が当たり前だったのだ、《あの世界(リアル)》は。

 あらゆる意味で腐っていて、まともな人ほど損をするような、終わっていた世界。

(──でも、もう、()()()には関係ない)

 清々しいほどばっさりと、ヘロヘロは《リアル》についての諸々を切り捨てる。

 魔法を切って、同好の士(ホワイトブリム)へ明るい声で語りかけた。

「──ここは楽園ですよ、ホワイトブリムさん! 水も空気も食事も美味しくて、何より理想のメイドたちが生きてるんです!」

「……なん、だと……!? そうか、NPCが生きてるって、そういうことになるのか!」

「え、まって、待って? うちの子も?」

「俺の最高傑作もか!?」

 興奮したように食いついてくるギルメンたち。

 

 ──自分たちは、このすばらしい世界で、生きていくだけだ。




ギルメン:“ユグドラシル・ショック”と“TMN出版(ルイの実家)の立て直し”の情報入手→アイディアロール発生=ルイへの同情心が芽生える
ルイ:前提情報が足りないのでアイディアロールが発生しないし、事実に気づいたとしても「仕方ないですよね」で許しちゃう(傷つかない訳ではない)

生まれ変わってしがらみのなくなったギルメンたちは、これからはっちゃけます。
ツアー頑張れ超頑張れ。大丈夫、そいつらモモンガの言うことは(だいたい)聞くから。
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