幻想白兎記   作:しゃりなり

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01:白 餅子と申します。

 初めまして。私、(つくも) 餅子(もちこ)と申します。私は迷いの竹林の奥、永遠亭で暮らしています。永遠亭では私たちウサギは“イナバ”と呼ばれてます。基本的に名前がある子は少なくて、そもそも人の言葉を喋るウサギ自体が希少で、殆どがそれを理解できません。恥ずかしながら以前も私は全くわかりませんでした。

 

 先日、何匹かのウサギで永琳様の薬庫に忍び込んだ際、出来心で薬を飲んだそれは『知能や強さを10倍程度にする薬』だったらしく、人の言葉を理解することが出来るようになりました。まあ、そもそもの知能が低かったので10倍と言っても、「普通の人よりちょっと頭が良い」程度に落ち着きました。強さに関しては、異変の際に博麗の巫女に瞬殺されるほどに弱かったのですが、幻想郷の中でも弱い方程度(メタ的に言えば中ボスくらいですね)には強くなれました。

 

 どうやら知能に比例して好奇心や知識欲もかなり高まってしまったようで、以前は竹林の中だけで満足していたのですが最近は少し遠くに行ったりする事が増えてきました。そんな私の物語です。

 

* * * * * * * * * *

 

「餅子ー!餅子ー!」

 

 私の名前を呼ぶ声がする。この声はおそらく永琳様だ。永琳様が私の名前を呼ぶことはかなり珍しい。ついこの間までイナバと呼ばれていたが餅子という名前を最近覚えてもらった。

 

 それは置いといて永琳様が私を呼んでいますが、正直あまり返事をしたくない。何故ならば、彼女が私を呼ぶときは大抵めんどくさい事か、薬の実験台にされるかだからだ。

 …まあ、彼女には永遠亭に住まわせてもらってる立場ですし、ましてや貴重な薬を飲んでしまった身。逆らう事なんて出来ないのだけど……

 

「はい、何でしょうか永琳様」

 

「鈴仙が薬の副作用でダウンしちゃってね、彼女の代わりに薬の配達を頼まれて欲しいの。」

 

 ホッとした。かなりめんどくさいですが、新薬の実験体に使われるよりはるかにマシですね。

 私は鈴仙がいつも使っている木箱を背負って支度をした。そこそこ身長の高い鈴仙と比べ、私はかなり背が低い(140cm)ので背負うのに苦労する。

 

 やっとこさ支度を終え、私は永遠亭を出発した。人里を目指してふよふよ空を飛んで移動していると、妖精たちが悪戯として弾幕を張ってくる。それはいつもの事で、適当に撃ち返して妖精を落としていく。

 

暇つぶしがてらに妖精を落としていると、前方から猛スピードでこちらに接近してくるのが見えた。その者はこちらに気付いた様で、焦っている。

 

「うわぁぁああ!どけどけどけ!」

 

「えっ、うわっ、ちょ!」

 

 ギリギリのところで突撃をかわした。通り過ぎた者もブレーキをかけて急停止する。まったく……あんな猛スピードで前を見ないアホはどこのどいつなんですかね……と思ってそちらの方を見ると、そこに居たのは白黒の帽子に服、綺麗な金髪で箒にまたがった少女、その名も

 

(き、霧雨魔理沙……!)

 

 まずい…この少女のことは知っている。傍若無人で人が目につく度にその者から何かを強奪していく(主に本やマジックアイテム)悪魔……と、てゐがニヤニヤしながら言っていた。

 

「いやー、すまんすまん。こんな良い天気だとついスピードあがっちゃうな。……ん、お前は永遠亭のウサギか。なんだか他のウサギと比べて結構強そうな風に感じるな。よし、ここは一発弾幕ごっこ……」

 

「え、遠慮します!急いでるんで!」

 

 弾幕勝負はかなり強いと聞いている。そして負けた者は身ぐるみを剥がされてしまうとも!私にも弾幕ごっこの心得はあるが、始めたのもここ数週間の事なので絶対に勝てないだろう。弾幕ごっこ自体は嫌いじゃないし、普通にそれをやる分には喜んでやるだろう。しかし、今は永琳様からのお使いで大事な薬を持っているのと、相手が相手なので逃げるしかない。

 

 私は全速力で人里へ逃げた。咄嗟のことで少女は反応できずにこちらをボーッと見ている。

 

「ふっ、私はそんなに逃げられたらよ…」

 

少女は箒を握る手にグッと力をいれた。

 

「逆に追いかけたくなるんだぜぇぇええ!」

 

「ぎゃぁぁああ!」

 

 お、追いかけてきた!やはり身ぐるみを剥がす気なんだろう。命までは取られなかったとて、薬を取られた事を永琳様が知れば…あぁ、恐ろしい…

 

 全速力で飛行するも、霧雨魔理沙の方はどんどん加速してくる。チラリと後方を確認すると、もうすぐそこに来ていた。

 

「うわぁぁああ!!」

 

「捕まえたぁぁぁぁあ!!」

 

ガシィ!と、首根っこを掴まれてしまった。

 

「はっはっは、この魔理沙さまから逃げ切ろうなんて100年早い」

 

「うぅ……観念しました……どうぞお剥ぎください」

 

 私は抵抗することを諦め、服従のポーズをとった。

 

「剥ぐ?何言ってんだお前?私はお前が逃げたから追っただけだ」

 

「え?私の身ぐるみを剥がすのが目的ではないんですか?」

 

「はぁ?なんで私がそんな事しなきゃいけないんだ?」

 

* * * * * * * * * *

 

 霧雨魔理沙に解放され、人里についた私はとりあえず人里に届ける薬の分の配達を終わらせた。永琳様に“これでお団子でも食べなさい”と、お金を頂いたので、団子屋で団子とお茶を嗜んでいる所である。

 

 やはり、団子という物はよい。色々な味を楽しめるし、食べ応えも良く、腹持ちも良い。なんて素晴らしい食べ物なのだろう。私の名前は“餅子”なのだが、どうせなら“団子”に変えてしまおうか……と、くだらない事を考ていると、丁度良く次の配達先に住んでいる人物が通りかかった。


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