幻想白兎記   作:しゃりなり

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02:紅魔館へ行こう

 お団子を頬張っている私の前に現れたのは確か…そうそう、十六夜咲夜、次の配達先である紅魔館のメイド長だ。私はお団子を食べ終え、彼女に話しかけようとする……が、そもそもこちらは彼女のことを知っているが、向こうはこちらの事を知らない。なかなか話しかける事ができず、堂々と後ろをついて行くのもなかなか怪しい。なので、隠れながら話しかけるタイミングを狙い彼女についていくことにした。これはこれで尾行するような形になっているのだが。

 

 彼女を尾行して暫く経ったが、一向に話しかけることができない。どうしよう。そう考えていると、私の前に一羽の小鳥が止まった。かわいいなぁ……って、今はそんな事をしている暇はない。もう一度十六夜咲夜の方を見た……が、そこには誰もいなかった。

 

「あ、あれ?どこに…」

 

「貴女だれ?」

 

「ぴ゛ぃ゛ぃ゛い゛!?」

 

 突如背後から突然話しかけられ、情けない声を出してしまった。バッと後ろを振り返ると、銀色の髪、ミニスカートのメイド服の少女、十六夜咲夜が立っていた。

 

「で、ウサギがどうして私を尾行してたの?」

 

「あ、あの!私、永遠亭に住んでる白 餅子っていいます!永琳様のお使いで紅魔館に薬の配達をしていて、そそそれで紅魔館のメイドである…その、十六夜咲夜さんが通りかかったので…えっと、その」

 

「薬…?あぁ、パチュリー様ね」

 

「あ、そうです!それで、紅魔館に行った事無くて地図でしか知らないので案内してもらえたらなぁ…なんて、えへへ」

 

「ふぅん…まあ、案内してあげる。貴女飛べるわよね?」

 

「あ、はい!でもそんなに早くないので出来ればゆっくり…」

 

「大丈夫、私もそんなに早いほうじゃないから」

 

 咲夜さんはニコリと笑ってそう言った。気を遣ってくれたのかな?さっき見えないくらいの速さで私の後ろにまわってたし。ウサギながら耳がいい私でも、加速する時の音さえ聞こえなかったのだなら相当早いのだろう。

 

「あ、そうそう。貴女って弾幕ごっこはできる?」

 

「い、一応できます。初心者ですし、そんなに強くないですけど…」

 

「うーん、まあ、それなら大丈夫かもね」

 

「何かあるんですか?」

 

「私のご主人様に妹様がいらっしゃるのだけど、その妹様がそういう時期でね、遊びたい盛りでウチの弱い妖精メイドにも弾幕ごっこを挑みまくって暴れてるのよ」

 

 “そういう時期”って言い回しという事は幼いのかな?それにしても妹かぁ…私にはそんな物いないし、妹と戯れるなんてやってみたかったなぁ。

 

 その後、咲夜さんと談笑しつつ飛んでいると、紅魔館の前に着いた。紅魔館の前には人影があり、おそらく門番だろう。が、立ってはいるものの、門の横の塀に背中を預けてぐっすり寝ている。そしてどうやら寝言を言っているようだ。

 

「えへへぇ……咲夜さぁん……私の勝ちですよ……これからは…美鈴様って呼ぶように……えへへへ……」

 

 次の瞬間、門番……えっと、美鈴さん(?)の頭にナイフが突き刺さった。

 

「ぎゃぁあ!て、敵襲!?」

 

 美鈴さんは頭から血を流しながらビックリしてオロオロしている。なんでアレで死なないんだろう。そして、いつの間にか美鈴さんの後ろに移動していた咲夜さんが肩にポン、と手を置くと、ニコリとした。しかし目が笑っていない。

 

「美鈴、随分と良い夢を見てたようねぇ」

 

「さささ咲夜さん!?」

 

「そうねぇ……じゃあ、夢の中の私のリベンジでもしようかしら」

 

* * * * * * * * * *

 

 咲夜さんがリベンジ、もとい眠っていたことへの罰を終えて館内に入り、図書館の前に案内してもらったところだ。私は咲夜さんの怖い一面をみて、小さい体をさらに縮こませていた。

 

「私はここまでね。パチュリー様は奥の方にいらっしゃると思うから、じゃ。」

 

「あ、ありがとうございました!」

 

 咲夜さんはニコリと笑い、私の頭を撫でて別の方へと歩いて行った。怖いけど良い人だったな。そう思いながら私は図書館への大きな扉を開ける。

 

「あれ?どなたですか?」

 

 中に入ると頭と背中にコウモリのような羽が生えている赤い髪の少女が話しかけてきた。

 

「永琳様に頼まれて薬の配達に来ました」

 

「あぁ、成る程。では、パチュリー様の元へと案内いたしますね」

 

 彼女がニコリと笑い、“こちらへ”と言って歩き出したので着いていく。図書館はとても広く、高く、大量の本が本棚に収められていた。一通り見回して前方を見ると、読書をしている少女が椅子に座っていた。薄ピンクの服装に、鈴仙に似た色をした髪の少女。おそらく彼女が配達先のパチュリー・ノーレッジなのだろう。丁度彼女は本を読み終えた様で、パタリとそれを閉じた。そして立ち上がった時、こちらをチラリと見た。

 

「小悪魔、ケホ、そちらのウサギさんは?」

 

 少し苦しそうに、かすれ気味の声で咳をしながらパチュリーさんが小悪魔さんに話しかけた。

 

「永遠亭から薬の配達にいらっしゃったそうです」

 

「あら、いつもの、ケホ、ウサギとはちがうのね」

 

「はい、鈴仙は薬の実験でダウンしてしまってるので」

 

 そう言って私は背中の箱から薬を取り出して彼女に渡した。彼女はすぐにその薬を専用の道具を使って吸引した。

 

「これよこれ。はぁ、これでしばらくは忌々しい喉奥の枷から解放されるわ」

 

「パチュリー様ったら……こんな埃だらけの図書館に引きこもってるから喘息が治らないんですよー」

 

「あら?その埃を貴女が全部取り除いてしまえばいいじゃない。貴女の怠慢よ」

 

「そ、そんな無茶苦茶な!」

 

 さすが永琳様の薬というべきだろう。先程まで喘息のせいで弱々しく喋っていたパチュリーだったが、ハキハキと喋っている

 

「まあ良いわ。それより小悪魔、これの書類をレミィに渡してきて」

 

「えー、今は妹様が暴れまわっていらっしゃるのであんまりこの館内を移動したくないのですが……」

 

「大丈夫よ。ここ結構広いんだし、そんなすぐには出くわさな……」

 

 突如として図書館の扉が爆発し、彼女が言い切る前にその言葉は遮られた。な、何が起きたのだろう…モクモクと立ち込める煙の中から現れたのは金髪で赤い目をしており、背中から宝石の様な翼の生えた少女だった。、

 

「い、妹様!!」

 

 あ、あれが噂の妹様!?いや、想像してたのと違う!

 

「パ、パチュリー様!妹様を止めてくださ…」

 

「む゛ぎゅ゛ぇ゛ほっ゛げほっ゛」

 

 どうやら爆発した際に発生した大量の埃を吸い込んでしまった様で、その場にダウンしていた。

 

「む゛ぎゅ゛…あ゛、あ゛な゛…弾幕ごっこはでき゛るわ゛よ゛ね゛……?」

 

「は、はい一応……」

 

「じゃあ……代わりに……フランの……相手をしてあげて……」

 

「わ、わかりました」

 

「ちなみに……彼女の能力は……“ありとあらゆるものを破壊する程度の能力”よ……」

 

 そういうと彼女はガクッと力尽きてしまった。しかし、つい勢いで返事してしまった以上、やるしかない…。フランさんの“ありとあらゆるものを破壊する程度の能力”…かなり強力だ…。それに対する私の能力は…“竹を司る程度の能力”。対抗できるのか…

 

 いや無理でしょ。


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