幻想白兎記   作:しゃりなり

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03:危険な妹サマ

 爆発音と共に扉を突き破って出てきた少女。彼女から感じる霊力はかなり強烈で、自分の想像していた可愛い妹様像は扉と共に消し飛んだ。そしてパチュリーさんは小悪魔さんに連れられてすでに避難したようだ。

 そのパチュリーさんに聞いたところによると彼女の能力は“ありとあらゆるものを破壊する程度の能力”、それに対する私の能力は“竹を司る程度の能力”…。どう考えても無理だ。竹もろとも破壊されるのがオチだろう。

 

「ねえ、そこのおねーさん……いや、おねーさんでもないなぁ……私と同じくらいの身長だ。やーい、チビ」

 

 な、何だこの子は!?同じくらいの身長……寧ろそっちの方が背が低いのにチビって煽ってきた!!“ありとあらゆるものを破壊する”にはプライドも含まれるのだろうか?流石の私もムッとした。

 

「あは、怒ったみたいだ。おねーさん気が弱そうだしさぁ……この位しないと戦ってくれなさそうだもんね」

 

 ぬぐぐ……図星を突かれるとこんなにムカつくとは!あはは、と笑う少女に対し、私はほっぺを餅のように膨らませた。

 

「じゃー、始めようか!」

 

 彼女がそう言い放ち、弾幕を張り始める。スペカを使ってないのにも関わらず、今まで|弾幕ごっこをやった事のある相手(それほど多くないが)のスペカよりよっぽど手強い。まるで嵐のように弾幕が飛んできて避けるのがやっとだ。

 

「あは、おねーさん避けるの上手だね!さ・す・がか弱いか弱いウサギさん!捕食者に対する反応を思い出すがいい!!」

 

 自分より(わずかだが)小さい子に圧倒され、煽られている。私自身も自らの能力を使い、反撃を試みることにした。私の“竹を司る程度の能力”は、決して本物の竹だけ操作するものではない。霊力でできた竹、“霊竹”を空中に生やして攻撃したりすることもできる。早速私はスペカを宣言する事にした。

 

“竹符「トラップバンブー」”

 

 このスペルカードは、空中に光の線を描き、1秒前後経つとその軌跡を辿って霊竹が生えるという技だ。時間が経てば経つ程にそのペースが上がっていく。

 

「これ……良いね。紅魔館(ここ)にいる奴や魔理沙とかにはないスペカ!」

 

 ……おしゃべりしながら余裕でひょいひょいと避けられていく……!む、寧ろ楽しそうだ。そ、それなら次は……!

 

“大竹林「迷いの四方八方バレッジ」”

 

 辺り一面に霊竹が生い茂り、フランさんを囲むように広い円を描く。私はそれに隠れ、霊竹自体から放たれる弾幕が対象に襲いかかる耐久スペルだ。

 

 しかし、これでも彼女にとっては全然物足りないらしい……全身を脱力したような体勢でひょいひょいと避けていく。流石に強すぎないこの子?それなら、まだいくつかスペルカードはあるけど……よし、とっておきのを……

 

「うーん、おねーさんまだまだだね。じゃ、私の本気(マジ)スペカ見せたげる!いくよ〜」

 

“ QED「495年の波紋」”

 

 小さな弾幕が飛んできた。私はそれを難なく避けた次の瞬間、私の視界は弾幕に埋め尽くされた。その光景はまるで晴天の日に宵闇の空を見上げた時の如きだった。

 

“圧倒的”

 

その言葉が私の頭に浮かぶ。

 

* * * * * * * * * *

 

「おねーさん弱かったね」

 

「ぐぬぬ……」

 私の隣に座り、紅茶とお茶菓子を楽しんでいるフランさんがつぶやく。それらを運んだ妖精メイドはフランの横でビクビクしている。

まあ、当然のごとく負けた。彼女の弾幕に被弾し、私の服(ブラウスとスカート)はボロボロではだけており、少々セクシーな姿になっている。

 

「フランさん強かったです」

 

「フランでいいよ。おねーさんが弱すぎるんだよ、初心者?」

 

「はい、最近始めたばっかりです。フランちゃんは?」

 

「へぇ、賢しいね。

 わざとちゃん付けして優位な位置に立とうとしてる。まあ、別にいいけど」

 

 図 星(かんぜんはいぼく)

 

「フラン、おねーさんの事気に入ったし、名前で呼んでいい?……ってかおねーさんの名前何?」

 

「えっと、白 餅子です」

 

「餅子?あは、変な名前」

 

「むぅ…ちょっぴり気にしてることを!」

 

「ごめんごめん!えへ、餅子おねーちゃん!」

 

 確かに凶暴で強敵、狂人だけど…まあ、可愛い。まるで本物の妹のようだ。弾幕ごっこではボロ負けしたけど、普通にしてる分には可愛いんじゃないかな?まあ、さっきの様子と比べてもこの子の知能や精神年齢はそこそこ高そうだし、からかってるのはわかるが。

 

「ご馳走さま!じゃ、私は自分の部屋に戻るね。」

 

 彼女は椅子から降りて歩き出した。

 

「…ねぇ、おねーちゃん」

 

 ピタリと止まってこちらに話しかけてきた、振り返らずにそのまま。

 

「どうしたんですか?」

 

「…また、遊びに来てくれる?」

 

「!」

 

 やっぱり、ちょっと狂ってるだけで幼い女の子なのかもしれない。先ほどの小悪魔や、妖精メイド達の反応を見るにこの館の人達は彼女の事を恐れていて、それ故に孤独なのだろう。

 

 圧倒的な力はその者を孤独にする。孤独になれば、その者はさらに力に縋り、溺れていくのだろう。でも、きっと手を差し伸べれば…これが独善的であってもきっとそうするべきなんだ……私はそう思う。私はニコリと笑顔を彼女に向けた。

 

「もちろん!次は私の大好物のお団子を持っていきます!」

 

 私がそう言う、と彼女はこちらは振り返ってニコッと笑った。

 

「餅なのにお団子好きなんだ!変なのー!あはははは!!!被食者(おねえ)ちゃんまたねーーーー!!!」

 

「な、何だそのルビはーーーー!!!!」

 

 彼女は笑いながら図書館を飛び出していき、図書館には誰もいなくなった。薬の配達という目的は終えている為、私は薬箱を背負って紅魔館を後にした。

 

 外はいつのまにか橙色がかってきており、日もだいぶ傾いている。私はふわりと体を浮かせ、紅魔館を背に迷いの竹林へと進み始めた。さあ帰ろう、永遠亭に。


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