幻想白兎記   作:しゃりなり

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04:餅子と輝夜

「ただいま帰りました〜」

 

 紅魔館からまっすぐ永遠亭に帰り、扉を開けると輝夜様がいた。なぜか輝夜の服も私と同じ様にボロボロで泥だらけになっている。

 

「あら餅子…ってなにその格好!?強姦でもされたの!?」

 

「違います…弾幕勝負で文字通りぼろ負けしました」

 

「あー、なるほど。あんた弱いもんね」

 

むぅ、相変わらずズバズバいうお姫様だなぁこの人は…

 

「っていうか、輝夜様も大分ボロボロじゃないですか。…また妹紅さんと遊んできたんですか?」

 

「なんであんなのと遊ばなきゃなんないのよ!喧嘩よ喧嘩。今日はギリギリ勝ったわ」

 

 この人はいつも外に出かけては、自分と同じ蓬萊人の藤原妹紅さんと殺し合い(死なないけど)をしている。一度見物した事があるが、お互い死なないという事が分かっているので手加減などしておらず、とてもグロテスクだった。

 

「今から風呂入るからあんたも入る?ってか背中流して、そして面白い話聞かせてよ」

 

 相変わらずのわがままに私は深いため息をついた。

 

* * * * * * * * * *

 

 ちゃぽん、という音と共に私は湯船に浸かった。ここ永遠亭には、てゐが落とし穴を作ろうとした時に、自らの能力の作用により掘り当てた温泉がある。まあ、とても小規模で湯船の大きさは3×5㎡程度だ。私はこのお風呂が好きで、暇な日は1日に3回ほど入っている。おそらく私のもち肌の原因はこれなのだろう。浴槽や外から見えないようにする為の仕切りは竹でできており、私の能力で作ったものだ。

 

「はふぅ〜…いやされるぅ〜…」

 

「ぐぁぁああ、し、しみるぅ……」

 

 治りかけているものの、全身傷だらけの輝夜は、痛みに悶絶している…とても痛そうだ…

 

「ぐ、ぐぐぅ……あぁ…うぅ…あ、治ってきた…」

 

「相変わらずすごい再生力ですね…うぇ…傷が癒えていくのってかなりグロテスク…」

 

「人を見てグロテスクとか言わないでくれる?……それにしてもあんた……フッ、小さいわね」

 

な、何を言い出したかと思えばこの姫様は…!

 

「そ、そうですかぁ?あんまり変わらない様に思えますけど!寧ろ輝夜様の方がお姫様らしくお淑やかで慎ましいかと思います!」

 

「は、はぁぁあ?私妹紅には勝ってるし!」

 

 比べたの…?結構仲良いじゃないですか。

 

「まあ、良いわ。この小さいウサギ!私の背中を流しなさい!」

 

 ぐぬぬ…小さいとは胸の事だけ言ってるのかなこの人は?

とりあえず背中を流す事にした。背中といっても、このぐうたらお姫様は全身を洗えと言っているのだ。私は永琳様が作ったシャンプーを手に出し、輝夜様の髪を洗い始める。因みに永琳様がこのシャンプーとリンスを作った際に幻想郷中で大ヒットし、飛ぶように売れてベストセラーとなった。幻想郷中にかなり浸透し、今でもその儲けがあるらしい。

 

 私は手を動かし、シャコシャコと音と泡を立てて輝夜様の髪を洗う。彼女は目を細め、気持ち良さそうに見える。

 

「あんた、うまいわね…他のイナバにもやらせたけど荒いのが多いのよねぇ…」

 

「まあ、私達は本来水浴びで済ませちゃいますし、しょうがないです」

 

「まあ、確かにそうね。ところであんた誰に…あ、そこもっと強くガシガシして…誰にボロ負けしたの?」

 

「紅魔館の妹さんです」

 

「あぁ、聞いたことあるわね…えっと…なんとかスカーレット…まあ、良いわ。どうせ思い出せないし、思い出せないってことはそこまで重要じゃないはず…そこも強く…そうそう…」

 

 シャンプーの後にリンスも終え、次は体だ。石鹸を手にとり、柔らかいボディタオルに泡を立てる。

 

 輝夜様の肌、とっても綺麗だ。とてもスベスベで、透き通るように白い。私も肌にはそれなりに自信があるが、彼女の肌を見て触るとつい美しいという感想が漏れてしまう。

 

「…あんた、なんか手つきがエロい」

 

「はい!?そ、そんなことないと思いますよ!?」

 

「あんたそっちの気があるの?……ウサギは性欲が強いって聞くし、気をつけなきゃね〜」

 

「そ、そんなことしませんよ!」

 

「イヤーオカサレルー」

 

 私は顔を真っ赤にして否定する。確かに肌に見とれてしまってはいたが、それは性的ではなく羨望や畏敬の眼差し、いわば芸術品を見るのと同じ様な物だ。

 はぁ、とため息をつき、続行する。次洗う場所は……胸だ。

ボディタオルに泡をつけ、手を前へと回す。

 

「……フッ」

 

「今なんで笑ったの?どうしたの?胸が小さいって言いたいの?」

 

「別にぃ、笑ってないでぇす」

 

「アンタ後で死刑ね」

 

 声のトーンがガチだ。殺されはせずとも半殺しにはされそうだ。

 とりあえず、さっさと体を洗うのを済ませ、お湯をかけて泡を洗い流した。

 

「よし、次はアンタの番」

 

「え?」

 

「私が直々に洗ってあげるつってんのよ」

 

 どういう風の吹き回しだろうか?…あぁ、恐らく妹紅さんに勝って機嫌がいいのだろう。輝夜様は私を椅子に座らせ、背後に回る。チュチュっとシャンプーを手に出して、泡を立てて私の髪を洗い始めた。シャカシャカという音と共に、私の頭が泡に包み込まれていく。

 

「あのー、輝夜様」

 

「なに?気持ちいいの?」

 

「ちょ、ちょっと荒いです…」

 

「………」

 

ペチンとはたかれた

 

* * * * * * * * * *

 

 お風呂から出て、私は牛乳を飲んでいる。輝夜様はパンツとキャミソールだけの姿で寝っ転がっていた。

 

「あんまりお姫様っぽくない格好ですね」

 

「はぁ?常日頃からあんな格好してられないわよ暑苦しい。アンタの服が羨ましいわ」

 

「はぁ、見た目以外はあんまりお淑やかじゃないですね」

 

「喧嘩売ってんの?」

 

「そんな事ないでーす」

 

「まあ、良いわ。アレやりなさい」

 

 アレ?アレとはなんなんだろう?

 

「アレってなんですか?」

 

「耳かきよ、耳かき。お風呂の後の耳かきは常識でしょ?」

 

 ぐうたらニートなお姫様はどうやら耳かきすら自分でやりたくないらしい。妹紅さんと殺し合い以外に本気で何かをやるって事はないのだろうか?しょうがない、私はタンスから耳かきを取り出し、輝夜様の前で正座をした。

 

「はい、どうぞ」

 

 輝夜様が私の太ももに頭を乗せる。いわゆる膝枕の体勢だ。

 

「ほうほう、安物の枕ですね〜これは」

 

「いちいち煽るのやめてくださいよ」

 

「……はぁ、アンタの最近の反応つまらないわ…前みたいに顔真っ赤にして怒ってよ」

 

「頻度が高すぎるんですよ。会話するたびにからかわれてたら流石に慣れます」

 

 輝夜の耳に耳かきを挿入し、カリカリと耳の中の壁をかいていく。顔を見ると、シャンプーの時みたいに目を細めていてとても心地良さそうだ。もしかして私は他人にご奉仕する才能でもあるのだろうか。

 

「そこ、そこもっと強く、あぁ、良いわ。アンタ色々上手いわね……って、奧すぎない?怖いんだけど」

 

「蓬莱人ですし大丈夫ですよ」

 

「ねえそれ再生する前提って事よね!?

 ……ちょ、それ鼓膜ギリギリじゃない!いやぁ!触れてる触れてる!怖いからもうすこし浅く!」

 

 恐怖に慄く輝夜様を見るのは少々珍しい。これは普段イジメられてる私のささやかな復讐……まあ、変に驚いたりしない限りは大丈夫……

 

「何してんの?」

 

「ぴ゛ぃ゛!?」

 

 突然話しかけられ、私はビクッと全身が跳ねた。後ろを見ると、神出鬼没のウ詐欺(・・・)師、てゐがいた。

 

「み、耳かきよ。輝夜様がして欲しいって言ったらから」

 

「ほーん、大変なのね。あ、そうそう、この壺買わない?私の能力で幸運になれるよ!何とたったの5万円!」

 

「高いよ!それに私にそんな胡散臭い話持ちかけても意味なくない?あんたのこと知らない人にやらないとさ」

 

「あはは、確かにね。ま、それは置いといてさ……姫様は大丈夫なの?」

 

「あ」

 

そ、そういえば耳かきの途中……それも鼓膜ギリギリまで……

 

「か、輝夜様!」

 

反応がない

 

「輝夜さ……あっ……」

 

 ………死んでる。


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