地中から出てきたそれは表面が黒曜石の様な光沢を放ち、分泌液が出てるのかぬらぬらとしていた。また、そのキノコの周辺の地面でうねうねと動く触手もとても気色が悪い。そしてなにより傘の部分の下にある大きな眼。その大きな眼と視線が重なった瞬間、体の芯から恐怖という感情が溢れ出てくるのがわかる。
「ま、魔理沙さん…や、やばくないですかこいつ…」
しかし、魔理沙は返事をしなかった。チラリと視線を向けると、ボーッとして化けキノコをまるで強い憧れを抱いてるかのような表情で見つめている。
キノコは地面に生えた触手を鞭のようにしならせて魔理沙に攻撃してきた。
「魔理沙さん!魔理沙さん!?」
呼び掛けにも答えずにボーッとしてるため、餅子はその触手から身を挺して庇い、不幸にも顔面にあたる。
「ぴ゛ぃ゛ぃ゛!!ま゛、ま゛り゛ざざぁ゛ん゛!!?」
「あ、あぁ!」
ハッとした魔理沙は八卦炉を構え、エネルギーを収束させていく。餅子も恐怖を抑え込み、さきほど貰ったクラッカーをの照準を合わせて紐を引っ張ると、クラッカーから閃光が放たれ、化けキノコを包み込んだ。その瞬間、キィィィイイイイという虫に近い様な鳴き声を発し、もがき苦しんでいる。どうやら熱に弱いようだ。
(これなら魔理沙さんの熱魔法で簡単に倒せるはず!)
しかし、いつまで経っても魔理沙は攻撃しない。いつのまにか八卦炉もチャージしていたエネルギーが消えていて、地面に転がっている。
その顔は先ほどと同じように、まるでキノコに吸い寄せられているようだ。
(やっぱりおかしい……何かあるんだ…)
このキノコは明らかに自分よりもかなり格下だとわかる。しかし、何故かあのキノコに対する凄まじい恐怖が全然拭えない。特にあの目を見ていると恐怖で心臓が潰れそうになる
(って、そんな怖がってる暇じゃない!とりあえず使えるかわかんないけどこれを!)
転がっている八卦炉を拾い上げ、エネルギーを収束させる。
「え、えっと!!!餅符『ツクモスパーク!』」
弾幕ごっこでも無いのでスペカを宣言する必要は無いのだが、魔理沙の真似をしてそう叫んで解き放ったエネルギーは一筋の閃光となり
魔理沙のお尻に直撃した!!
「どぁあ!?あっちちちち!!な、なにするんだ!!」
幸い熱魔法の適性が0なのと、単純に使い方がわからず勢いでぶっ放した為に威力は魔理沙のスカートを少し焦がす程度だった。
「って私はしてたんだ!?と、とりあえずかせ!」
餅子から八卦炉を取り上げ、キノコに向かって一気にぶっ放した。
クラッカーよりも太い閃光がキノコを包み込み、光が消える頃には焼きキノコになっていた。
* * * * * * * * * *
「で」
全身紫の魔法使いパチュリーはパタンと本を閉じる。
「これを見せにきただけで、今回は本を盗みにきたんじゃないのね?」
「ああ、そうだ。早速教えてくれ」
「はぁ……こういう時は盗んだ本を返すのと一緒にやるべきなんじゃない?……まあ、いいけど」
パチュリーは立ち上がってキノコに触れる。
「ふむ……これは魔法の森に生えてる普通の化けキノコと似てるけど別の珍しい種類ね。ただ、あの森はこの種のキノコが生えすぎてお互い栄養や魔力を奪い合ってるからここまで大きくなるのは本当に珍しいわ。
以前小悪魔に調査に行かせたはずだけど見逃してた見たいね。あなた、後でお仕置きよ」
「そ、そんなぁ!?」
「そんな事よりパチュリー、こいつと対峙した時……厳密に言うとこいつの眼を見た時に何だかすっごく惹き込まれてさ、なんだか恋する乙女みたいな気持ちになってたんだが……なんか知らないか?」
それを聞いたパチュリーはブフッと吹き出した。
「乙・女・な・気・待・ちぃいい?貴女みたいなガサツな女がぷぎゃっ!!」
爆笑しながら机をバンバンと叩いて魔理沙さんを馬鹿にしていたパチュリーさんは、八卦炉から放たれた光線が顔面を直撃して悲鳴を上げた。おそらく火力で言えば薪に火をつけれる程度であろう……なんとも恐ろしい……。
「あちち……あ、謝るから……え、えーっと……コホン……このキノコはヒトトリタケと言って、肉食キノコなのよ。
このキノコは人や獣、時には弱い妖怪などすら栄養にしちゃうの。その分このキノコの中に魔力が生物濃縮されていって、長く生きれば生きるほどその量も増えてゆく。
当然これ程までに魔力を溜め込んだ個体は妖怪化しちゃうわね。んで、当然知能が低いながらも魔法を使ってくる。その魔法というのが“感情を増幅させる”と言うものよ」
パチュリーさんがなんだか難しい話を始めたせいでウトウトしてしまった。しかし、魔理沙さんはそれを聞くと合点がいったようだ。
「なるほど、だからキノコが好きな私は乙女……パチュリー今笑っ『笑ってないわ』……乙女になって、餠子は動くのがやっとな程の恐怖に駆られたのか」
「そうよ。貴女はともかく、基本的に人間がこのレベルまで育ったヒトトリタケを見た時に感じるのは恐怖心だからね。そして動けないところを捕らえて餌にするのよ」
ひぇぇ……つまり私も捕食対象だったのか……
「なるほどなぁ……しかし、ここまで上質なものが手に入るなんてラッキーだぜ!じゃあ、パチュリー私は帰るぜ!」
「待ちなさい」
「ん?なんだ?」
パチュリーは大きな椅子にトスンと座り、手元の紙に何かを書いている。
「そのキノコの70%は頂くわ」
「はぁ?なんでだよ」
「貴女が勝手に持っていった魔導書の賃貸料よ。それに、そのキノコの存在を知ったのも私の本のお陰だし、解説したのも私よ。なんなら今から貴女にこの図書館に踏み入れない魔法をかけてもいいんだけどね」
「ぐ、ぐぅううう……よ、40%だ」
「70」
「……50!」
「70」
「55!」
「70」
「ううう!!!60%!これ以上は譲れないぜ!」
「いいわ、交渉成立ね。……それとこれ、領収書よ」
先程パチュリーさんが何かを書いていた紙。魔理沙さんはそれを乱暴に取り、紙を開いた。
「あっ!!………チッ!」
そう声を上げて、舌打ちして紙を捨てた。ヒラヒラと空中を舞い、私の足元に落ちる。拾い上げて私もそれを読んでみると中には『60%』と書いてあった。
「……はい、これで切り分けたわ。残りの40%、持って帰っていいわ」
「……餠子、帰るぞ」
魔理沙はそう言うと、帽子を深く被りキノコを担いで図書館を出ていった。
「は、はい」
* * * * * * * * * *
少し早めに飛びながら魔理沙さんの家を目指す私と魔理沙さん。彼女は深く帽子をかぶっている為、よく表情が見えない。
「えっと……な、なんか悔しいですね」
チラリとコチラを振り向く魔理沙さん、やはり彼女も悔しいのだろうか?……と思った次の瞬間、魔理沙の口元がニィッ!と横に開いた。
* * * * * * * * * * *
__紅魔館
「はぁぁあ!!??このキノコ関連の本が全部ないですってぇぇええ!!?」
「は、はいぃ!!魔理沙さんが来る前は全部あったはずなんですけど……あっ……」
「魔理沙ぁぁぁあああああ!!!!」
* * * * * * * * * * *
「はっはっは!あんな風にされて私がタダで帰るわけないだろ?これを見な!」
魔理沙が笑いながら帽子の中を見せてくるので覗くと、大量の本が入っていた。
「うわぁ……すごいですね」
沢山物が入る帽子にはこれでもかと言う程に魔導書が詰め込まれている。
「パチュリーもまだまだだな。わざわざキノコを担いで帰ってるんだから疑うべきだぜ!餠子!今からキノコパーティだ!ウチにある高級キノコを沢山食べさせてやるよ!あ、これはダメだからな!」
「はい!それと私もちょっとキノコに興味出てきました!」
「おっ!それじゃあ今夜は一晩中キノコ談義だ!」
この後、霧雨魔法店では一晩中キノコパーティが続いたのだった。
ちなみに同じ物食べたのに私だけキノコの毒に当たってしまい、永琳様のお世話になる事になった。そして2度とキノコなんて食べないと決心したのだった。