幻想白兎記   作:しゃりなり

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08:闇夜の手

 午前2時30分、草木も寝静まり、深い闇に染まった幻想郷は魑魅魍魎が活発に動き出す。

 夢の中で空を飛んでいた私、白 餠子は首元に違和感を感じて目を覚ました。違和感の正体は白い腕、それに気づいた時にはもう遅く、がっしりと首に食い込んで来て息ができない。

 耳元に後ろからとても憎悪のこもった声がボソリ、ボソリと聞こえてくる。

 

「カハッ……誰か……助け……」

 

 助けを求めようにも発声器官は腕に締め付けられ、声を出すことすらままならない。

 頚動脈が圧迫され、脳への酸素供給が堰き止められる。私の意識は濁ってゆき、無意識の沼の中へと沈んでいった。

 

* * * * * * * * * *

 

 午前10時30分、輝夜の1日はいつもこれくらいの時刻から始まる。寝起きという物は目を開くことすら辛い物で、とりあえず体を目覚めさせる準備として抱き枕を抱き締めている腕にぎゅうっと力を入れる。一種のノビである。

 ノビによって凝り固まっていた筋肉がほぐされ、血流が良くなって気持ちいい感覚が体を走る。それにより恍惚な表情を浮かべる輝夜とは裏腹に、不服そうな態度を取る者がいた。

 

「……輝夜様、苦しいです」

 

 よく見ると抱き枕のような物は永遠亭に使えるイナバの1匹、“白 餠子”であった。

 

「いい加減私を抱き枕にして寝るのやめてくださいよ〜」

 

「何言ってるの?アンタはここに仕える兎。そしてアンタは抱きやすく、とても良い抱き心地をしている。私は抱きにくくて抱き心地が悪かったら抱かない。

 では餠子、アンタが抱かれてるのは誰が悪いでしょうか?」

 

「輝夜さ『アンタよ』」

 

「はぁ、なんと滅茶苦茶な……ってちょ!ど、どこ触ってるんですか!?」

 

「ふぅん、腕や太ももも相当いい肌してるけどここは……更に良いわね?

 大きさは控えめだけどハリがあって良い形をしてるわ。先の方も色や……」

 

「わぁぁああ!!!?な、なに冷静に分析してるんですか!!?あぁっ……ちょ、ほんとにやめてくださいよこのスケベ姫!!」

 

 餠子の抵抗も虚しく、体を好きにされることになってしまった。数分後、やっと解放された餠子はと肩で息をしていた。

 

「ゼェ……ゼェ……もう……お嫁にいけません……」

 

「大丈夫、私がもらってあげるわよ。勿論、難題を出すけどね

 ……そうねぇ、閻魔の悔悟の棒でもぶんどってきなさい」

 

「地獄行き確定じゃないですか!!蓬莱人で死とは無縁だからって文字通りの無理難題を押し付けないでくださいよぉ!!」

 

「死とは無縁で会えないから取りに行かせるんでしょ?」

 

「はぁ……大体ですね?輝夜様が毎日毎日私を抱き枕にするもんだから私は寝不足なんですよ?」

 

「あら、私ってそんなに寝相悪いのかしら?」

 

「どんな夢を見られてるのかは知りませんけど、妹紅さんの名前をブツブツ呟きながら気絶するまで私の首を絞めたりとほんと酷いんですからね!!!」

 

「あら、絞め落とされたら眠れるじゃない」

 

「はぁ!?頭おかしいんですか!?

 というか、抱きやすさならてゐでも良いじゃないですか!私より少し小さい程度ですし」

 

「あいつ普段どこにいるかわからないじゃない。今朝もなんか良い物見つけたってはしゃぎながら竹林に消えて行ったし。

 ……だいたい、私はアンタ抜きじゃねれない体になっちゃったのよ?とりあえず抱き枕係を辞めたいのなら代わりになるもの探してきなさい」

 

* * * * * * * * * *

 

「はぁ……最近、何回“めちゃくちゃ”や“理不尽”なんて言葉使ったかもう覚えてないなぁ」

 

 本当の本当に滅茶苦茶で理不尽なのである。同じ月の民の永琳様は……いや、あの人もなかなかマッドだ。月の民は皆あんな風なのだろうか?

 

「……いつか難題を引き受けなくとも閻魔様の所に行くことになりそうだ……」

 

 そのようにため息をつきながら抱き枕の代わりを探すために竹林をトボトボと歩いていると、ガサァッ!と音が鳴った瞬間に私の体が空中に浮かび上がり、地面が真上に反転した。いや、反転したのは私だろう。

 

「て、てゐぃぃいいい!!!」

 

 輝夜様が言ってた大はしゃぎをしてたのは、新しい罠を思いついたとかそんなもんだったのだろう。それにしても今までハマりまくっててゐの罠を熟知してるはずなのに久しぶりにハマってしまった。腕を上げたなあいつめ。

 

「もお!!ほんとくだらな……ってこれギチギチで取れないじゃないか!!!誰かぁあ!!!」

 

 抱き枕の代わりになるものを見つけにいかなければならないのにこんなもので時間を食う余裕はない。誰かいないかと声をあげている所に何かを見つけた。

 

「あれは……」

 

 緑に塗れた竹林の中で一際目立つ紅い服。この光景を形容するならば意味は違うが紅一点という言葉が適当だろう。

 

「妹紅さぁあん!!!」

 

 私の声に気付いたようで、こちらに向かって歩いてきた。

 

「君は……輝夜(クソおんな)の所の……ムチ子ちゃん?」

 

「餠子です!」

 

 自分とは正反対とも言える名前を言われ、即座に否定する。いつも変な名前に間違われるが、改名した方がいいのだろうか?かなり覚えやすい名前だと思うのだが……。

 

「そうだったそうだった、ムチムチじゃなくてモチモチの餠子ちゃんだったね」

 

 そういうと妹紅さんはニコリと微笑むと、私のほっぺを軽くつまんでムニムニと揉み、頭を優しく撫でた。

 なんだこのイケメンは?いっその事、妹紅さんと輝夜様で交代してくれないかと思った。

 

「……ってそんな事よりこれ外すの手伝ってくれませんか!」

 

「お?あぁ、わかったよ」

 

 〜少女解放中〜

 

「これでよし……っと!

 ……それにしても元気なさそうだけどどうかしたのかい?……表情から察するにまた輝夜に振り回されてる様に見える」

 

「そうなんです……実は……」

 

〜少女説明中〜

 

「うわぁ……キミも大変だね」

 

「大変です……いつか死んじゃいそうです……」

 

「はっはっはっ、死なないように寝てる時に腹を掻っ捌いて胆を食べればいいじゃないか。一緒に寝てるんだろう?」

 

「……妹紅さんもなんですか?」

 

「何が?」

 

 なるほど、いかれてるのは月の民とかじゃなくて蓬莱人の方だったのか。

 

「いえ、何でもないです」

 

「ふーん。あ!そうそう、抱き枕なら力になってくれそうな奴が1人いるよ」

 

「本当ですか!?」

 

「あぁ、本当だ。そいつは魔法の森に住んでる奴でね」

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