深紅の狙撃手《クリムゾン・スナイパー》   作:伊藤 薫

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 トールヴァルトの暗殺を阻止するためには当然、武器が必要だった。

 ジークリンデは補給廠の兵器倉庫にしのび込んだ。リーゲルともう1人の兵士が倉庫で備品の整理をしていた。9ミリ拳銃を突きつけたジークリンデに2人の兵士は降参して両手を挙げた。リーゲルと一緒にいたのは第五七歩兵旅団のカイルベルトだった。

「酒が飲めない大男と未成年が倉庫番をしてる。情けない話だ」リーゲルが自嘲した。「それより中尉は?無罪放免になったのか?」

「少し事情が変わりましてね」

 ジークリンデは拳銃をしまい、現在進行中の暗殺計画を手短に説明した。これからそれを阻止するために2人に手伝ってほしいと頼んだ。カイルベルトは突然の展開に口をあんぐりさせたが、リーゲルは顎を手でさすりながら思案顔を浮かべる。

「中尉殿の元教官―トールヴァルトはすでに現地にいる」リーゲルは言った。「別荘を見下ろす山の中に。暗視装置を持って」

「そうです」

 ジークリンデは疲れた口調で言った。頭痛がひどかった。2本の指で目元をつまむ。遠くから音楽が聞こえる。軍放送が流しているポピュラー音楽だろう。笑い声もしていた。

「憲兵隊や別荘の警護に連絡すればいいじゃないですか」カイルベルトが言った。「彼らに警告すれば―」

「その憲兵隊に敵が潜んでいるんだ」リーゲルは言った。「別荘に電話線が繋がってないということだし。仮に線が繋がってたとしても、この騒ぎだ。誰も出やしない」

「誰か風邪薬を持ってませんか?」ジークリンデはむっつりと尋ねた。「外は盛り上がってるみたいですね」

「それは皇帝が来てますから」カイルベルトが言った。「もうひとつ手があります。山の猟師たちですよ。中尉がお会いになったハージェクさんとか。そうした人たちに連絡を―」

「その猟師たちにどうやって連絡するんだ?お手上げだな。どうだ、仕事はもう切り上げて俺たちもパーティーに参加するか」

「軍曹」

「分かってる、カイルベルト」

「軍曹、私たちはまだ―」

「その通りです、エーリヒ」ジークリンデは言った。頭が割れそうに痛かった。「こうなることは分かってたんです。最初から予感してました。こういう展開になると」

「どうやら俺も中尉と同じらしい」リーゲルがだるそうに立ち上がりながら言った。「今の時期は本当に暗くなるのが早いな?」

「2人とも何の話をしてるんです?」

 カイルベルトが尋ねた。返事を聴くのが何故か怖かった。

「カイルベルト、車を取ってこい」リーゲルが言った。「それからこの建物のどこに電話があるか教えてくれ」

「一体どういう―」

「私たちがやるんです」ジークリンデはようやく説明した。「貴官と私と軍曹で。それしかありません。早く車を取ってきてください」

「車じゃ別荘までとてもたどり着けませんよ」カイルベルトが言った。「何百キロも離れているんです。もう8時近い。そんな短時間では―」

「飛行場までは2時間で行けます。運が良ければ、飛行機が使えます。そうすれば―」

「何を言ってるんです?夢でも見てるんですか?飛行機で山に行ったとしても、別荘があるのはどこでしたっけ?アッペンツェル湖でしたか。あの辺に着陸できるような場所がありません」

「飛行機が着陸する必要はありません」ジークリンデは言った。「私たちは別荘に落下傘降下するんです」

 リーゲルは倉庫で電話を見つけた。実際に見つかったのは民生用の無線装置だった。リーゲルは飛行場にいる爆撃機部隊の司令を呼び出した。相手はリーゲルと同期で士官学校を卒業したクレープス大佐だった。

「少し困ってるんだ。そうだ。そいつは大した問題じゃないが、時間が問題でね。飛行機が要る。そう、ラムイェーガーだ。素晴らしい飛行機だな」リーゲルはジークリンデを見上げ、送話口を手で押さえてから言った。「奴さん、すっかり出来上がってやがる」それから間髪入れずに続けた。「へえ、全て木造だって。ああ、それで少し大変なことを頼みたい。いささか急を要する事態だ。俺たちはハルツ山脈に行かなくてはならなくてね。山にいる残兵を捕まえなくちゃならない。そう、上の連中に話を通してる暇はなんかない。ああ、その通りだ。飛行機を都合してもらえると助かる。そう、そう、2時間くらいだ。ああ、分かった。そうだな、もちろんだ。それじゃ」ようやくリーゲルは受話器を置いた。

 ジークリンデは尋ねた。

「断られたんですか?」

「いや、大丈夫だ。とにかく飛行場に10時に来いと。爆撃機が準備されてるはずだ」

 リーゲルは立ち上がった。2人は倉庫を飛び出した。基地のそこら中でお祝いしている連中を押しのけて走った。カイルベルトが基地の入口でジープとMP-34短機関銃を用意して待っていた。

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