深紅の狙撃手《クリムゾン・スナイパー》   作:伊藤 薫

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 夜間斥候を担当する小隊の編成はほとんど喜劇に近かった。

 ジークリンデの小隊に新しくやってきた兵士たちの驚きは特に大きいようだった。終始こんな具合だった。4人の若い兵士がジークリンデの小隊に編入された。まだ士官学校を卒業したばかりの新兵たちだった。4人の兵士が兵舎に駆け込んできた。

 ジークリンデは狙撃教則に眼を通し、丘陵地が多い地方での射撃について学んでいる最中だった。リーゲル軍曹は他の3人の兵士と一緒に銃を点検している最中だったが、4人の新兵には空いているベンチに座るよう勧めた。4人は地面に背嚢を置き、のんびりとした風情で壁のベンチに腰を下ろし、辺りを見回し始めた。

 新兵たちはジークリンデの姿に気づくと顔を見合わせる。一斉にニヤついた。

「君もこの小隊に配属されてるのかい、お嬢さん?」1人がそう聞いた。

「ええ」

「そりゃすごいな!」彼は仲間たちにウィンクした。「俺たちはアタリだな。なんてイカす衛生兵だ!ホントに美人さんだな。君にクギづけってところだ。仲良くしようぜ。俺はロベルト。君の名前は?」

「ジークリンデよ」

「やあジーク、そうしかめっ面するなよ。兵隊さんにはもうちょっと優しくするもんだ。悪いことは言わないからさ」

 ジークリンデは苛立ちを抑えながら低い声を出した。

「そうして欲しければ、軍の規則に従いなさい。気をつけの姿勢で私の前に整列して自分たちが到着したことを指揮官に報告しなさい」

「指揮官はどこだよ?」

「私よ」

「ジーク、からかうなよ。そんなことあるわけないだろ」

 この時、新兵たちの頭上にリーゲル軍曹の雷が落ちた。

「コラ、大バカ者どもめ!それが上官に対する態度か!その場で腕立て伏せ50回!30秒以内ですませろ!」

 4人の新兵たちは訳が分からないといった表情を浮かべ、地面に手を付き、腕立て伏せを始めた。リーゲルは4人が時間内に所定の回数を終えるまで、罵声を浴びせ続けた。それが終わると、4人は這う這うの体で気をつけの姿勢で整列し、官姓名を名乗った。ジークリンデは指揮官として初めての訓示を行った。それでも新兵たちの顔には、まだ驚いた表情が貼りついたままだった。

 最後にリーゲルは皮肉っぽい口調で付け足した。ジークリンデは苦笑を浮かべた。

「言っておくが、我らが指揮官は常に本気であり、下らない冗談は好まない。ふざけたことをすれば、脳天に鉛玉をぶち込まれるだろう」

 ジークリンデは小隊に対して準備を命じた。新兵たちには新品の短機関銃2丁と替えのドラム式弾倉(マガジン)が3個ついた軽機関銃を支給された。ジークリンデが手に取ったのはSVT-40だった。装弾数10発の着脱式マガジンを備えたアサルトライフル。銃弾には口径7・92ミリの短小弾を使用した。

 銃器の他はスコップ、ナイフ、水筒、携帯食料、200発の弾薬と手榴弾5個をそれぞれ携行した。ジークリンデのベルトにも弾倉2個付きの拳銃がぶら下がっていた。しかし夜間偵察で拳銃が必要になるとしたら、それは事態が最悪に悪化した場合しか考えられない。

 夕暮れ時に小隊は基地を出発した。ジークリンデは装備の重量に耐えながら、ぎこちない足取りで狙撃地点まで徒歩で向かった。暗視装置は旧式の物しかなかった。背中にくくりつけた巨大なバッテリー。バッテリーと太い電線で繋がれたライフル。不格好な暗視用照準器。ライフルには二脚架も取り付けられている。だが、自分を嗤う者は誰もいない。ジークリンデには分かっていた。

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