鷹の呼吸 胡蝶朱翼   作:黒チワワ

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鬼殺隊になるまで/同期から見た朱目の男

「鬼狩りになるは育手の修練を乗り越えねばならない」

「…じゃあここは育手がいる道場ですか?」

家を立ち野を超え山を越え休まず走り続けて数日、町はずれの一軒の道場の前に着いた。

今まで行先をいくら訪ねても何も答えてくれなかった悲鳴嶋さんが唐突に口を開いたので少し反応が遅れてしまった。

「そうだ。育手はそれぞれの流派、場所、やり方に応じて身体能力を上げる全集中の呼吸を使える剣士を育てる。基本となる流派は炎、水、風、岩、雷の五つでほかの流派はここから派生した流派だ」

「君の戦いからして、私の使う純粋な力で押す岩の呼吸よりも斬撃で切り刻む風の呼吸の方が適正にあっているだろう」

鬼を直接殴り飛ばした時よりも風圧を飛ばし肉を抉った時の方が手ごたえがあったし、鬼も苦しんでいたからそうかもしれない。

「この道場にいるお方はかつて鬼殺隊の最高位の剣士、柱であった風の呼吸の使い手だ。怪我で柱を退いてから育手になった。とても厳しい人だがこの人の元での修行を乗り越えることが出来れば、必ず君の力の糧となるだろう」

「育手の修練はどこも命を落しかねぬ程過酷で厳しい。修練を乗り越えても藤襲山で行われる最終選別で生き残れる者は極わずかだ。強い復讐心を持っていても、覚悟や信念を抱いてもなお鬼を前にして土壇場で心が折れ、逃げ出す者も後を絶たない。人のために命を懸けて戦える者はそう多くはない…」

「……」

悲鳴嶋さんの言葉にはどこか重みがあり、それが彼自身の体験に基づいて得られた事実なのだろう。

「もし君が本当に残してきた家族の事を想うのなら、家族を奪われた怒りが本物なら乗り越えて見せろ。修練と想いだけが唯一不滅の鬼から大切なものを守る手段なのだから」

「…わかりました。ここまでありがとうございます」

 

 

 

〇月〇日

今日から師匠の元で修行の日々が始まる。

教えてもらった型を忘れないように日記に書き残しておこうと思う。

姉さんとしのぶに字の書き方を教えてもらっておいて本当に良かった。ありがとう姉さん、しのぶ。

師匠はかつて悲鳴嶋さんと同じ鬼殺隊の最高位である柱だった程の実力者であり、師匠の訓練はとても厳しい物だった。

どうやら俺は既に全集中の呼吸を習得していたらしく、兄弟子たちに混じって訓練に参加した。

師匠が風の呼吸の技、壱ノ型 塵旋風・削ぎを木刀で放ち、その攻撃を受け止めたり、避けながらも文字通り骨の髄まで体に技を叩き込み、型を覚えるという単純なものだ。

反吐をぶちまけて気絶するまで休憩はないし、師匠に攻撃を与えるまで次の型には進めない。

あまりに早く失神するとバケツで水を掛けられて無理やり起こさせる。

持っている木刀が折れたら、素手で殴りかかるか倒れている奴の木刀を使うかしかない。

師匠の放つ技はどれも凄まじく、まともに受けると嵐に巻き込まれたようにに吹き飛ばされる。

師匠は俺たち全員相手にしてもかすりもしなかった。

師匠や兄弟子達の顔や体に同じ様な切り傷があるのは多分この修行が原因だろう。

師匠が技を放つ度に気絶し、倒れる者が増えまさに辺りは死死累々といった阿鼻叫喚の地獄絵図だ。

初日は全身ボコボコのゲロまみれで、鏡に移った自分が別人に見えるほど腫れた。

正直心が折れそうだが、母さんとの約束を守るため、何より残してきた二人のために挫ける訳にはいかない。

明日は避けて見せる。

 

〇月●日

訓練を始めて数週間経ち、何とか避けたり防ぐことが出来るようになった。。

だが、師匠に一撃を与えられていない。

そもそも技をうまく放つことが出来ない。

うまく師匠の懐に潜り込み、木刀をふり技を放とうとすると力を入れ過ぎて根本から折れてしまう。

なら力を抜いて技を放とうとすると、手から木刀がすっぽ抜けて遥か彼方に飛んでったしまった。

ボコボコにはされなくなったが、まともに木刀も握れなかったら何時までたっても次に進めない。何とかしなければ。

そういえば兄弟子の中で一人師匠に技を当てて、弐の型に進んだ奴がいたな。

兄弟子の中で一番動きがよかったから印象的だった。

確か名前は不死川実弥という名前だったはずだ。

日中は師匠の訓練で聞けないから夜の内にコツを聞いてみよう。

 

〇月△日

今日も壱の型から進めないが収穫があった。

実弥に技のコツを教えてもらう代わりに稽古をつけてもらえたのだ。

相手にされなかった最初に比べるとかなりの進歩だ。

これで何か手がかりがつかめるかもしれない。

 

〇月▽日

兄弟子たちの数が日を経るごとに減っている。

己の限界を悟り、書置きを残し、道場を去る者。

病院に運ばれた者は、治療のため病院にいるのか、逃げ出したのか戻ってくる者も最近は少ない。

残っている者も目が死んでいる奴が増えてきた。辞めるのも時間の問題だろう。

気持ちはわからなくはない。

だが、俺は何が何でもあきらめるわけにはいかない。

実弥は厳しい訓練に耐え、肆ノ型まで進んでいる。

あいつにも何か背負っている物があるのだろうか。

いつまでも負けてはいられないな。

 

〇月□日

実弥との稽古を経て、風の呼吸に近い動きは出来ているが癖がかなり強い事がわかった。

風の呼吸を派生させて、自分に合った理想の型編み出したらどうだと実弥に助言された。

見た目に反して、親切な奴だ。

 

△月■日

師匠の元で修行を受け数か月が経った。

俺の理想の動きは、天高く舞う鷹だ。

目蓋に焼き付いて離れない、双翼で風をきり、上空を勢いよく飛ぶ鷹。

俺は木刀を二刀構え、塵旋風・削ぎを基に剣技で風を起こし、その風の中に飛び込み回転しながら突進して斬り込んだ。

名付けるなら、鷹の呼吸 壱ノ型 飛鷹展翔。

今までと比べものにならない速度で師匠の懐に飛び込み、木刀を弾き飛ばし一撃を与えられた。

ようやく俺が弐の型に進める様になった頃には、三十人程いた弟子達は俺実弥以外残っていなかった。

 

■月〇日

壱の型を超えてからは、何度か三途の川を渡りかけながらも順調に風の呼吸を鷹の呼吸に昇華できた。

弐ノ型、参の型と進み俺が漆ノ型を超え、鷹の呼吸の型に組み込んだ頃、ついに最終選別の知らせが来た。

最終選別を受けるか否かは育手である師匠にゆだねられたおり、俺と実弥は二人とも最終選別を受ける実力があると認められた。

だが師匠の方針で、最終選別を受けるのは1年に一人と決めあり、二人のどちらが受けるか俺と実弥の真剣での勝負で勝った方がが最終選別を受ける事になる。

実弥との稽古での勝敗は今まで五分五分だ。

負けるわけにはいかない。

 

 

 

「勝負は一回。真剣で勝負する。先に相手に一撃を与えるか、無力化した方が勝ちだ。勝者に今年の最終選別に受けさせる。異論はないな?」

師匠が立会人として今回の勝負の説明をする。

「はい」

「あァ」

俺と実弥は間合いを開けて、位置に着く。

真剣は普段使う木刀よりいくらか重い。

「勝って最終選別に行くのは俺だァ。てめぇは弟弟子らしく道場で待ってなァ」

「実弥こそ兄弟子なら兄弟子らしく弟弟子に花を持たせたらどうだ」

「その減らず口今すぐ聞けなくしてやるぜェ」

互いに刀を構え、呼吸を整える。

"風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ”

"鷹の呼吸 壱ノ型 飛鷹展翔(ひおうてんしょう)”

自身で起こした風に飛び込み、回転しながら二刀で突進してくる斬撃を迎え撃つ。

互いの剣技で弾け飛ばされ、軌道がずれる。

実弥の背に回り、すぐさま追撃を開始する。

"鷹の呼吸 漆ノ型 飛鷹風車(ひおうかざぐるま)”

垂直方向に身体ごと一回転させ、体を翻し再び実弥に向かって突撃する。

「読めェてんだよォォ!!」

"風の呼吸 伍ノ型 木枯らし颪”

だがこれを実弥は背中を反らして空中で避け、空中から地上に向かって螺旋状の斬撃を振り下ろす。

「お返しだ!!」

"鷹の呼吸 陸ノ型 帆翔流転(はんしょうりゅうてん)"

水平方向に横長の風を巻き起こし、旋回しながら攻撃を避け、回避と同時に流れる様に横から斬りつける。

「ぐっ!!」

攻撃を刀で受け、実弥の体が宙に飛ぶ。

"鷹の呼吸 肆ノ型 飛鷹谷風(ひおうたにかぜ)"

自身の体を吹き上げる風を巻き起こし、実弥の懐に飛び込む。

「舐めんなァァ!!」

"風の呼吸 陸ノ型 黒風烟嵐”

下方から巻き上げるように切り上げ、上空に弾け飛ばされた。

だが防がれるのは予想通りだ。

空中に弾け飛ばされるのが狙いなのだから。

「手の内を知っているのはお前だけじゃないぞ、実弥!!」

「コイツ・・!?」

”鷹の呼吸 伍ノ型 飛鷹地嵐(ひおうじあらし)”

伍ノ型は落下速度も加わるため壱ノ型、肆ノ型、漆ノ型と比べ速度が出る。

伍ノ型は技を放った位置が高ければ高いほど威力が増す。

上空から吹き降ろす風を巻き起こし、上空から獲物を襲う鷹の様に身を翻しながら、二対の刀を振り下ろした。

"風の呼吸 参ノ型 晴嵐風樹”

実弥を取り巻くような剣戟を繰り出したが、構わずそのまま突っ込み、実弥を巻き込みながら落下する。

「俺の勝ちだ」

「っち・・・」

首に向かった刀を片方の刀で防ぎ、もう片方の刀を首元に押し付けた。

「勝者、朱翼!よって今年の最終選別に受ける者を朱翼に決定する!」

師匠は高らかに宣言した。

勝負は俺の勝利で幕を閉じた。

「…ろくに木刀すら握れなかった奴に負けるとはなァ」

「実弥のおかげだな」

「勝った奴に言われても嫌みにしか聞こえねぇ…俺に勝ったんだ雑魚共に喰われるなんて下らない死に方すんじゃねえぞ」

「無駄死にするつもりはない。生き残ってみせるさ」

「甘ったれた事言ってんじゃねェ、山に居る雑魚共全員ぶっ殺せェ!!」

「出来るだけ多くの鬼の頸を斬ってみせる」

「手ぶらで帰ってきたらぶん殴るからなァ」

「わかってる」

俺達の会話を師匠はいつもの険しい目つきを少し緩めながら聞いていた。

 

 

最終選別の舞台である鬼襲山は季節外れの藤の花が月明りに照らされてどこか浮世離れした雰囲気が辺りに漂っていた。

山の中腹にはすでに20人程度の鬼殺隊を志す者達がそれぞれ張りつめた顔を浮かべながら選別の時を静かに待っていた。

覚悟を決め落ち着いている者もいるが、足が震え怯えている者もいた。

師匠は最終選別を毎回一人ずつ受けさせるが、育手によっては複数人を最終選別に受けさせる者もいるようで、何人かは複数人で固まって待っている。

狐の面を被っている少二人組の少年もおそらく育手が同じなのだろう。

皆程度の差はあれど体や顔などに、傷跡や包帯を巻いており、ここまで来るのに厳しい訓練を乗り越えてきたのがわかる。

それでもこの中で生き残るのは数人しかいない。

どれだけ努力しても、鬼殺隊に入る前に死んでいく者がほとんどなのだ。

しばらくすると、白樺の木の妖精の様な美しい女性が現れて最終選別の説明を始めた。

「今宵は最終選別にお集まりいただきありがとうございます。此処までの山には鬼が嫌う藤の花が一年中咲いており鬼が外に出ることができませんが、これより先は藤の花が咲いていませんので鬼共がおります。この中で七日間生き残ることが最終選別の合格の条件でございます。では皆様ご武運を」

説明が終わると皆一斉に駆けた。

生存率の低い最終選抜だが、より多くの鬼を殺せば全員生かすことが出来るだろうか。

実弥の言うような皆殺しまでいかずとも、出来る限り鬼の頸を落そうと心に決め、七日間選別が始まった。

……と初日に意気揚々として挑んだ最終選別だが、既に五日目に入ったが未だ鬼を一匹も倒していない。より正確に言えば一匹の鬼にも遭遇していない。

負傷した者には会っているのだから鬼はいるはずなのだが……

この六日間やったことといえば、負傷した者の手当て位である。

手当した人数は十人は超え、最終選別を受けている者の半数以上にものぼるがそれだけである。

昨日手当した後藤によれば、鬼に殺されそうになったところを、狐の面をつけた宍色髪の少年に助けられたそうだ。

一昨日手当した尾崎も狐の面の少年に助けられたと言っていた。

今まで治療してきた者ほとんどが一様に同じことを言っていた。

ということは、俺が十人治療程治療している間にその少年は最低でも十匹の鬼を倒していることになる。

このままでは少年が助けた者の治療をしている間に、この山にいる鬼共をすべて倒されてしまうかもしれない。

人を助けらるのは確かに好ましいが、俺は負傷者の手当てをするために鬼襲山に来たのではなく、鬼の頸を斬り、強さの糧にするために来たのだ。鬼殺隊に入るために来たのだ。

もし一匹の鬼も倒さずに最終選別を終えたら実弥にぶん殴られるだろう。

まずい、まずいぞ。非常にまずい。あと二日しないのに。

山中を走り回りながら必死に鬼を探す。

しばらく探索していると、どこからか男の叫ぶ声が聞こえた

声のした方に行ってみると、二人の男が揉めているのが見えた。

「錆兎、錆兎!」

「その怪我じゃ無理だ!俺たちが行っても彼の足手まといになる!」

狐の面をした黒髪の少年が、四日目あたりに手当てした村田に止められている。

狐の面の少年は額から血を流しており、戦える状態には見えない。

「どうした!?何があった」

「君はあの時の…」

「錆兎を助けてくれ!一人で大型の鬼の方へ行ってしまったんだ!」

「その鬼は強いのか?」

「あぁ、大量の腕を操る鬼でいくら斬っても生えてくる。たぶん今まで喰べてきた人間は一人や二人なんかじゃない…今までの鬼とは別格の強さだ」

「錆兎の刀は今までの鬼との戦いで摩耗してるんだ!一人じゃ無理だ!」

鬼の強さは人を喰った数に比例する。

人を多く喰べた鬼は時として、肉体を変化させ、人知を超えた妖しき術を操ると師匠から教わった。

鬼の急所である頸も固くなる。

そんな鬼に対して一人で戦うのは確かに無謀だ。

刀が摩耗しているのなら尚更だ。

「その鬼と錆兎はどこにいる?」

「東の方角だ。そんなに距離は離れていない」

「わかった。その鬼は俺が何とかしよう。村田、そいつとどこか安全な所で隠れててくれ」

「わかった!気を付けてくれ!」

「錆兎を頼む!」

二人の声を背にして、錆兎と鬼のいる方向に駆けだした。

 

 

 

 

 

 

「お前鱗滝の弟子だろ?俺はアイツに捕まったせいでこんな所に閉じ込められている。だから俺は狐の面をしたアイツの弟子を皆殺してやると決めれるんだ。」

「!?、じゃあ今まで鱗滝さんの、俺たちの兄弟子を殺したのは…」

「俺だよ。皆腹の中さ。かわいそうにこんな面をつけてなきゃ殺されずに済んだかもしれないのになぁ。鱗滝が殺したようなもんだ。育手失格だよなあ」

「お前は俺が殺す!」

あいつは兄弟子達を、俺達が大好きな鱗滝さんを侮辱した。

誰よりも強く、身寄りのない俺達を想ってくれる鱗滝さんが育手失格な訳がない。

"水の呼吸 参ノ型 流流舞い”

流れるような足さばきで四方から伸びてくる無数の腕を避け、斬り刻みながら間合いを詰める。

鬼の愉悦を浮かべた表情が次第に焦りに変わっていく。

地中から伸びてきた腕を踏み台にして、鬼の頸に刀が届く間合いへ跳んだ。

なぜか刀を振るう瞬間鬼が笑みを浮かべたが構わずに斬りかかった。

兄弟子達の未練をここで晴らす!

"水の呼吸 壱ノ型 水面斬り”

"鷹の呼吸 壱ノ型 飛鷹展翔”

風を切る轟音と共に何者かが横に急接近し、刀を鬼の頸を振り下ろす前に俺を脇に抱えて地面に飛び降りた。

「誰だか知らないが邪魔をするな!コイツは俺が倒さなきゃならないんだ!」

突然割り込んできた朱目の男の脇から逃れ、叫んだ。

「その鈍らでか?」

俺の持つ日輪刀を指を指しながら言った。

言われてみれば確かに連日の鬼との戦いによって摩耗している。

あの鬼の頸は斬れないかもしれない。

「だからといって引く訳にはいかない!俺の兄弟子達はアイツに殺されたんだ!ここで逃げたら男じゃない、何よりも鱗滝さんに顔向け出来ない!」

「だからといって無駄死にするつもりか?あの鬼はその鈍らで頸を斬り損ねた瞬間を狙って頭を握り潰すだろう。それをお前の育手を望むと思うのか?」

「……しかし」

「なら逃げなくてもいいから、俺があの鬼を倒すまで此処で見ていろ。お前の代わりにお前の兄弟子の未練と育手の屈辱を晴らしてやる。しっかり見届けろよ」

男は二対の刀を構えながら鬼の方へと向き直った。

「お前鱗滝の弟子じゃないな。狐の面をしてないもんな」

「ああ、俺の師匠は鱗滝という名ではない。貴様は今まで何人人を喰った?」

「俺は鱗滝に閉じ込められた江戸時代…慶応の頃から狐の面の子を十一、他のガキを合わせるとお前で五十人目くらいだなぁ」

「……クソ!」

鱗滝さんは十一人もの弟子をコイツに奪われたのか。

いったいどれほど苦しんだのだろう。

「鬼襲山には人を二、三人程喰った鬼しかいないと聞いたが江戸から大正まで生きながらえた鬼がいるとは驚きだな」

「……大正?アァアアァ年号がァ!!年号がまた変わっている!!許さん、許さん!鱗滝!!!」

「安心しろ、これ以上お前が年号を気にする必要はない。なぜなら大正時代でお前の命が終わるからだ。楽に死ねると思うな」

「ほざけぇ、ガキが!」

前方から無数の腕が伸び朱目の男に向かって襲い掛かる。

"鷹の呼吸 参ノ型 双翼乱舞(そうよくらんぶ)"

二対の刀で凄まじい連撃を放ち、全ての腕を真正面から斬り落としながら前に進む。

俺でも全ての腕を斬り落とすことは出来ず、回避しながら間合いを詰めていたのになんて奴だ。

「ッ危ない!」

男の死角の地中から腕が伸び、襲い掛かった。

「何!?」

男は後ろに目でもあるのか、前を向いたまま後方の腕を斬り落とした。

「その程度じゃないだろ?もっと腕を生やしてみろ」

「くそっくそっ!!!」

鬼は後方に伸ばしていた腕を戻し、全ての腕を前方向に集め無数の腕が壁のように男に迫る。

"鷹の呼吸 玖ノ型 嘴穿壊砕(しせんかいさい)"

二対の刀から大砲の様な斬撃が二つ放たれ、無数の腕を貫通して鬼の下半身を大きく抉った。

「ぐぅうう!?」

下半身を抉られた鬼は体勢を崩し、仰向けに倒れた。

「その穢れた命を以て、俺の力の糧となれ」

”鷹の呼吸 壱ノ型 飛鷹展翔”

二対の刀を交差させ、斬撃と共に体を回転させながら鬼の下半身から鬼の体を全て斬り刻みながら猛進し、太い腕に覆われた頸を捻じ切った。

鬼が消える間際に何か言っていたようだったが、風を切る轟音で何も聞こえなかった。

男は終始鬼を圧倒し、勢いと鋭さを併せ持つ剣技でねじ伏せて見せたのだ。

「フハハハハ!!いいぞ、いいぞ。俺の技は鬼に通じた!俺は確実に強くなっている!師匠との訓練の日々は、実弥との稽古は、この数年間は無駄ではなかった!!だがまだだ、まだ足りない。俺はもっともっと強くなって見せる!そして鬼共を一匹残らず殲滅してみせる!!!」

男は刀を鞘に納めることなく、猛禽類の様に朱い瞳を鋭く光らせながら叫んだ。

男の獣じみた戦い方も相まって、自分が仕留めた獲物を前にして吠える鷹の様に見えた。

 

 

 

 

 

 

「…すまない、見苦しい物を見せたな」

錆兎がいることを忘れ叫びまくってしまった。

控え目にいってもかなり頭のおかしい奴に見えただろう。

「…いや、こちらこそお前が来なければ殺されていた。気にしていない」

狐の面で表情が分からないが顔が引きつっていない事を願いたい。

錆兎と話していると後ろから村田と兎の面の少年が走ってきた。

「錆兎、よかった無事で…」

「男がめそめそと泣きつくな!」

「だって、錆兎が一人で突っ走るから…」

「…心配をかけてすまない。ありがとう」

錆兎が狐の面の少年にげんこつをしたあと、頭を優しく撫でた。

友人関係というよりも、兄と弟の様に見える。

「あの鬼を倒すなんてお前すごいな!手当てだけじゃなかったんだな」

「一言余計だ」

「痛たたた、脇腹をつねないでくれよ!」

村田の脇腹をつねっていると錆兎と狐の面の少年が前に来た。

二人とも面を外して口を開いた。

「錆兎を助けてくれてありがとう…!俺の名は富岡義勇だ」

よほど錆兎の事が心配だったのか、富岡は目を潤ませている。

「お前が来なかったら俺は死んでいた。兄弟子達の未練を、鱗滝さんの屈辱を晴らしてくれて本当にありがとう。この恩は忘れない。俺の名は錆兎だ。よければ名前を教えてくれないか?」

錆兎の顔は口元から頬にかけて大きな傷が目立つ。修行の跡だろうか。

そういえば、自己紹介をしていなかったと思い、村田の脇腹から手を離す。

「俺は胡蝶朱翼だ。今まで鬼狩りをしなかった分を働いただけだから気にするな。それより冨岡額の傷を見せてくれ。簡単だが手当てする」

「朱翼は医療の心得があるのか」

「めちゃくちゃ痛いけどな。雑巾みたいにざくざく縫われるぞ」

「……痛いのか」

そんなやりとりをしている間に五日目の夜が明けた。

残りの六日目と七日目は鬼が全く現れず、何事もなく七日目の朝を迎え最終選別は終わった。

鬼のいる山をぬけ、最初に集まった藤の花が囲まれている山の中腹にいくと、選別開始時と同じ位の人数が集まっていた。

ぱっと見た感じだと、負傷した者はいるものの、欠けた者はいないようだ。

離れた所では錆兎が助けた人達にお礼を言われている。

「一人であれだけの人数を助けるとは、やはり錆兎はすごいな」

錆兎なら鬼殺隊の最上位の剣士である柱にもなれるかもしれない。

「何言ってんだよ、確かに鬼から守ったのは錆兎だけど、治療して選別最終日まで戦えるようにしたのは君だろ。ほら、後ろ見てみろよ」

村田に言われ後ろを振り向くと、後藤と尾崎がいた。

「おっ、いたいた。あんたのおかげで最終日まで生き残る事ができたぜ。ありがとうな」

「…いや、俺がやったのは簡単な手当てだけだ。そんな大層なことじゃない」

「そんな事いわないでください。確かに直接鬼から助けて貰ったのは錆兎さんですけど、こうして最終日まで途中で離脱しないでいられたのは胡蝶さんが手当てしてくれたからですよ」

「そうだぞ、もっと自信持てよ」

「…そうか、助けになったのなら何よりだ」

そう言うと、二人は笑った。

しばらくすると、初日にいた白髪の女性がやってきた。

「皆様、最終選別突破おめでとうございます。長い鬼殺隊の歴史において最終選別で全員が生還する事は非常に稀な事であり、当主の煇哉共々喜んでおります」

俺が倒した鬼は、腕の鬼一匹だけだが、結果だけみれば全員生還でき、少しでもそれに貢献できたのなら喜ばしいことだろう。

「村田、煇哉って誰の事だ?」

「鬼殺隊の一番偉い人、産屋敷の現当主の産屋敷耀哉様だよ。お館様って呼ばれてる。鬼殺隊に入るんだから自分の上司の名前くらい知っておけよ。あの人はお館様のお内儀のあまね様だ」

そんな偉い人だとは驚きだ。

「まず、皆様に隊服と鎹烏を支給させていただきます」

あまね様がパンパンと手を叩くとどこからともなく鴉が飛んできた。

「鎹烏と言い、皆様に任務の連絡、本部からの通達を伝える鴉でございます」

「鴉か…どうせ鳥なら鷹がよかったな」

「カァァ!カァア!」

「痛い、痛い!やめろ!」

小さな声で愚痴を漏らしたら、鎹烏が突っついてきた。

コイツ人の言葉がわかるのか?

「次は鬼を滅する日輪刀を造る鋼をご自身で選んでください」

大小様々な鋼が置いてある。

鋼の良し悪しなどわかりかねるので、触ってみて一番しっくりくる物を選んだ。

その後は、体の寸法を測り隊服が支給され、腕に階級が刻まれそれぞれ解散した。

「朱翼、俺はお前と肩を並べられるくらいに強くなる。そして今度はお前の命を守ってみせるぞ」

別れ際錆兎にこんな事を言われた。

鬼殺隊の任務はどれも命掛けだと聞いた。そんな事もありうるだろう。

「そうか、その時は頼むぞ錆兎」

「あぁ、任せろ!」

こうして長い長い最終選別は終わった。

 

 

 

最終選別からおよそ二週間後、ひょっとこの面をした男が訪ねてきた。

「私は鉄穴森鋼蔵と申します。朱翼殿の刀を打たせて貰った者です」

「刀匠の人ですね。俺が胡蝶朱翼です。どうぞ中へ」

鉄穴森さんを道場の客間に案内する。

刀が来る事を予想してたのか師匠が既に茶の用意をして座っていた。

「では、さっそくですが刀を抜いてみてください。二刀流の方に刀を造るのは初めてでして、合うといいのですが…」

「日輪刀は別名色変わりの刀と言う。呼吸の適正によって刀の色彩が変化し、適正が高ければ濃い色彩が出る」

つまり自分がどれくらいの才能があるのか、伸びしろがあるかある程度わかるということか。

鞘から刀を抜いてみる。

「灰緑色か。風と岩の呼吸の適正が高いみたいだな」

「渋い綺麗な色だ。握り心地はどうですか?」

「…えぇ、しっくりきます。ありがとうがございます鉄穴森さん」

「気に入って頂いて何よりです」

「カァァ、胡蝶朱翼ァ。北北東の町へ行かレヨ!」

客間の戸から鎹烏から飛び込んできた。

コイツ喋れるのか。

「鬼狩りとして最初のをオ、任務に遅れテはいけまセン!カァすぐ向かエカーッ」

カタカナ混じりで若干聞こえ辛いが鬼殺隊として最初の任務がさっそく入ってきたようだ。

鉄穴森さんを見送った後、支給された隊服を着てすぐに支度を整える。

町はずれのこの道場とも別れの時が来たようだ。

「朱翼、これを持っていきなさい」

師匠が持ってきたのは鷹の羽の模様があしらわれた羽織。

「師匠これは…」

「お前の門出祝いだ。今までよく頑張ってきた」

数年間師匠の元で修行してきたが、今初めて褒められた。

「…今までお世話になりました。本当にありがとうございました」

「お前は儂の弟子だ。自信を持て」

「はい、行ってきます」

玄関を開け外に出る。

庭の方を見ると実弥が素振りをしていた。

「実弥、いままで世話になったな。俺もう出るよ」

「…そうかァ。前の勝負の借りを返すまで死ぬなよ。勝ち逃げは許さねぇからなァ」

「そうだな、実弥こそ最終選別で鬼に喰われるなよ」

「雑魚にやられるかよォ。早く行ってこい、任務に遅れるぞ」

「あぁ、行ってくるよ」

二人に別れを告げ、道場を後にする。

師匠の元での修行は長いようで短い数年だった。

「カァ、話は済んダカ。ならすぐ向かってチョーダイ。カァア、悪鬼滅殺ゥ。カァー殺してェエちょォオオダイねーッ」

…それにしてもうるさい鴉だ。まさかずっとこんな調子じゃないよな?

若干の不安を抱きながら俺は初任務に向かった。




胡蝶朱翼
鷹の呼吸を生み出した。
二刀使い。

師匠
元風柱。

不死川実弥
一応兄弟子にあたる。

後藤
後に隠になる。

尾崎
ポニーテールの少女。

村田
サラサラヘアーの少年。

錆兎
原作と違い生存した。

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