実験体29号「織斑チナツ」 作:地味子好き
「姉様!」
扉を開けると、嬉しそうな声が聞こえてきた。
「ああ。今日も来たよ。ノイン」
私はあの日からこうやって毎日妹へ会いに来ている。
始めは10分だった面会時間もだんだん伸ばされ、今は2時間も一緒にいれるようになった。
「ふふふ、姉様のお話はとっても楽しみです。今日もいっぱいお話してくださいね?」
「ああ。今日は…そうだな。日本の料理の話でもしてやるか。」
今までの会話はほぼ全て日本語で行われている。
もともとノインは見つけ出された段階で、ドイツ、フランス、イタリア、そして英語が話せた。
それに加えて、短い千冬との会話のみで日本語を完璧に話せるようになっていた。
「なるほど。ヨーロッパとは全然違うのですね。それにしても生で卵や魚を食べて大丈夫なんですか?」
「ああ。生で食べる前提で期限やら保存やらがされてるからな。日本に行ったら一緒に食べよう」
「はい!とっても楽しみです」
言語はできる、といっても彼女の新たな情報源は現状数冊の各言語の本と千冬の話だけで元々の知識も研究所で教わったことのみ。
とにかく偏っていた。彼女にとって知っている音楽はクラシックのみでしかもその殆どがワーグナーだった。
書物だって、年頃の少女が読むような小説は読んだことがなかったようだし、甘い菓子の類も今まで食べたことがなかったようだった。
それもあって、ノインは私とのこの時間をとても嬉しそうに過ごしてくれていた。
「ノイン、何か飲むか?」
時計を見ると午後の四時を過ぎていた。ここにきてからずっと話しっぱなしで一息つくにもいい時間だった。
「はい。ではココアを……姉さまッ!」
いきなりノインが叫びその腕を異形のものへと変えた。
その次の瞬間、
「この発射音…感触、姉さま!これは151用の20ミリ弾です!」
「狙撃だと!?ラウラ!」
私は大声で外に待機させているラウラのことを呼んだ。
「ラウラ…!?おい!」
ラウラの反応は無い。不審に思った私は足に装備した拳銃を抜き、部屋の扉を開ける
「お?やっと出てきたか!こっちは待ちくたびれたぜぇ…」
扉を開けた先にいたのは山吹色の髪をした女だった。しかもその身体にはIS―ラファール・リヴァイヴを身にまとっている。
「貴様…!」
「おっと、できればこっちはテメエとやり合うつもりは無ェ。あのヘテロクロミアのガキもちょっと眠ってもらってるだけだしよォ」
ラファールを纏った女の後ろにはラウラが倒れていた。
「何が狙いだ」
千冬は無駄と知りつつも拳銃を女へ向ける。
「アンタがたいそう大事にしてるそのガキをこっちへ寄越せ。つーか、
「貴様らが例の……!」
あの老人がSieと呼んでいた組織、そのメンバーが目の前にいる。だがいくら千冬でも生身で軍仕様のISと立ち向かうには今は不可能だった。
「姉さまッ!」
「おっとッ!」
ノインはISの両腕を部分展開し私の前に立つ。
「おうおう、おいでなすったか。早速だが、アタシら…亡国機業の元に来い。あのジジィから聞いてるんだろ?」
「嫌です!私は姉さまと一緒にいるんです!」
「チッ!あのジジィが死んだおかげでいろいろ面倒くさくなりやがった。コイツは使いたくなかったんだけどな。まぁいいや」
女の手に握られていたのは何かのスイッチだった。
「それはッ!」
「御察しの通り、このボロイ病院を発破解体してもいいんだぜェ?さぁて、お前が来るのを拒否すれば何人死ぬだろうな?」
持ち出したのは古典的な戦法―だがしかし、今のノインにとっては効果的な戦法だった。
ノインも目に見えて呼吸が激しくなっている。
「死ぬ……?死ぬ、死ぬ、死ぬ!シヌ!しぬ!死ぬ!死んじゃう!!みんな死んじゃう!」
「ノイン!?」
違う。ノインは爆弾と自身の葛藤で呼吸が荒くなっているわけではない。
死ぬという一言に反応して錯乱しているように見えた。
「死ぬのはイヤぁぁぁぁぁぁぁッ!」
ノインが叫んだ瞬間、彼女の背から黒い触手のようなモノが何本も飛び出る。
「なッ!?」
その触手は一瞬のうちに女のラファールへと突き刺ささってゆく
「これはッ!なんだ!急に暗く…?ああッ!やめろッ!やめろッ来るな来るな来るなッ!クソッ!あ、あぁぁ!ァァァァァ!」
女はいきなり叫びだした。まるで
ISを展開したまま、座り込む。そして何かから逃げ出すかのように床を張って逃げようとしだした。
「
「あ、あい、えすを、か、解除!」
新たな声がした。
その声の主もまた、ラファールを装備していた。だがそのカラーリングは燃えるような赤だった。
「はじめましてねぇ。織斑千冬。今回のところは私達の負け。挨拶もろくにできなくて悪いけど、帰らせてもらうわ」
そのもう一人の女は、オータムと呼ばれた女を抱え、天井を破壊する
「ッ!待てッ!」
しかし、そう言ったときにはもう二人の姿は空の彼方へ消えていった。
「ノインはッ!」
ドサッと後ろで倒れる音がした、
「ノイン!ノイン!」
千冬は必死に彼女に呼びかける。
「姉さま…よかった…」
意識はある。だがまだ呼吸は荒い。
「ブリュンヒルデ!すまない!地下の防護隔壁が降りて出られなかった。ノインは!」
「ヨゼ、ノインのISのことは……あの研究所のデータにあったか?」
「いや。なかった。どれだけ探しても欠片もね」
「そうか…。ノインとラウラを」
「ああ。すぐに地下のほうに移す」
「頼む」
亡国機業と名乗った襲撃者はもとより、ノインのISの能力。どちらにしてもまだ不明な点があまりにも多かった。
千冬はガラスでめちゃくちゃになった部屋へ戻った。
たった数分の出来事だったが、織斑千冬が亡国機業への憎しみを強めるには、時間など関係なかった。
と、言う訳でオータムとスコールの登場です。原作ではアラクネ、ゴールデンドーンを装備している二人ですが、まだ原作開始よりも結構前なのでラファール・リヴァイブです。一応ラウラもクラリッサも設定上ドイツ製第二世代機(名称未確定)に乗ってる設定です。
ノインのISについては後々……ということで。
Tips
151→第二次世界大戦中にマウザー社が開発したMG151/20のこと。スコールが狙撃に使ったのは実際には南アフリカのダネル NTW-20である。どちらも同じ20x82ミリ弾を使用する。
拳銃→千冬が使っているのはHK45SH。.45スーパーACP弾を使えるように改修し、スライドに黒うさぎの刻印をした黒うさぎ隊用独自モデル。(架空モデルだがHK45自体は現実に存在する)