実験体29号「織斑チナツ」   作:地味子好き

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少女は眠りにつく

「フロイライン、これは決定事項なのだよ」

 

 

「しかし!」

 

 

ドイツ国家IS運用委員会、その会合の中に織斑千冬はいた。

 

 

「既にテロリスト集団が()()()()報復兵器V5(ノイン・ウント・ツヴァンツィヒ)を奪還しようとしている。彼女は元来、軍ではなくIS委員会が管轄するべきものなのだ。」

 

 

丸眼鏡をかけた初老の男がそう言い放った。

 

 

「だから、()()()()()()()()()()()()()()。彼女の身の安全も考えた上だ。理解してくれ」

 

 

「それでもあの娘は!」

 

 

「分かっている。精神的に不安定で、体躯もまだ未成熟だ。しかしだ。融合型ISの生体保護機能を考えれば、十二分に安全と、メンゲレもそう結論付けている。話は以上だ。もう退出してくれ」

 

 

そう言われた織斑千冬は、それ以上反論する姿勢を見せなかった。

 

 

反論できない、というより、反論することが無駄と考えたのだろう。

 

 

こんなところで無駄な時間を過ごすより、残り少なくなった彼女との時間を作ることのほうが、先決だと考えたのだろう。

 

 

彼女の後姿は、初老の男にはそう見えた。

 

 

 

 

「……まさか、私もお前もこのようなところで過去との因縁に付き合わされるとはな」

 

 

 

男はそう呟く。

 

 

 

「マルガリ―テ御婆様、貴女の愛した夫が妄信したその産物は、今私の前に再び現れた。()()()()()()()()()()()()()()()()のね……」

 

 

 

ドイツ国家IS委員会、それは偶然か、それとも必然か。

 

 

その本部があるのは、かつて褐色の館と呼ばれていた建物の中であった。

 

 

 

* * * *

 

 

 

窓ガラス越しの彼女の姿は実際の距離よりも何万倍も離れているように感じた。

 

 

「ノイン……」

 

 

私には、弟がいる。まだ彼女に話していない大切な家族。

 

 

そして、()()()()()()()もいた。

 

 

「私は…また…」

 

 

私も、一夏も、あの子も、ノインも、兵器なんかじゃない。

 

 

その限界は、たとえ人間を超えていたとしても、私達は人間なんだ。

 

 

笑い、泣き、怒り、そして愛する。他と何も変わらない、ただの人間なんだ。

 

 

「教官……お時間です」

 

 

「クラリッサか……」

 

 

部屋の扉を開けて入って来たのは教え子の一人、クラリッサ・ハルフォーフだった。

 

 

「心情は……お察しします」

 

 

「ああ……すまない。もう少しだけ、いいか」

 

 

そう言うと、クラリッサはうなずき、無言で私の後ろで立っていた。

 

 

「…私はお前を絶対に救う。必ず」

 

 

私はそう呟いて部屋の外へ出ていった。

 

 

 

* * * *

 

 

 

「始めたまえ」

 

 

バルト海に存在する、独波国境を持つ島、ウーゼドム島。

 

 

その島に存在する、ペーネミュンデ特別技術開発センターでは、まさしく生きた人体の冷凍保存という世紀の実験が行われていた。

 

 

「分かりました。所長」

 

 

IS工学によって得られた技術をもとにIG.ファルベン社、トート機関によって開発された新型のコールドスリープ装置は現在ドイツのみが保有している。

 

もし実験が成功したならば、それはドイツがまさしく第四帝国と化し、経済面以外においても欧州を牽引する国家となれることを意味していた。

 

 

「成功、しますでしょうか」

 

 

「してくれなければ、我々は唯の子供殺しだよ」

 

 

そう話しているのはドイツIS大臣であるアルベルタ・シュペーア、そしてトート機関の機関長であるフリードリッヒ・ギネスであった。

 

 

12.7ミリ弾をも弾く防弾ガラスを隔てた先には人形の様に美しい少女が眠っている。

 

 

「ボーデン委員長も仰られていたが、まさか()()()()()()が集まるこの時代に新たなアーネンエルベ(遺産)が現れるとはな…」

 

 

旧第三帝国の遺産は多岐にわたる。現在へと至る軍事技術はもとより、政治的、科学的に大きな貢献を与えた。

 

しかし時としてそれはドイツにとって不利に働くことになる。

 

数十年前発生した、旧ナチスドイツの科学技術者たちによるバイオテロ、そしてならず者国家への核技術の流出。

 

そして現代の最強の兵器、インフィニット・ストラトスと融合した少女。

 

 

「報復兵器V5号、正式名称Gottes-WaffeV-29(神の兵器試作29号)。その能力の全容は不明…か」

 

 

ギネスは瞳を閉じる。

 

 

(あの帝国はどこまで私たちを締め付ける!まだ殺したりないのか!)

 

 

「凍結、始まります」

 

 

操作員の声にその閉じた瞳を開けた。

 

ヴゥゥンという起動音と共に少女の周りには薄い膜が生み出され、それが羽衣の様に彼女を包んで行く。

 

 

「完全凍結まで、drei…zwei…ein…完全凍結、完了」

 

 

「非検体の身体は?」

 

 

「異常なし、シミュレーションと同一です。……待ってください!値が異常値を!」

 

 

「何だと!」

 

 

同時に、施設内に存在したサイレンが一斉に鳴り響いた。

 

 

「シュペーア大臣!侵入者です!」

 

 

「侵入者だと!?」

 

 

「はい!物理的にも電子的にも防護壁が突破されています!今すぐ退避ルートを使って退避を!時間は委員会直属の武装IS部隊がッ!」

 

 

次の瞬間、壁が爆ぜる。同時に二つの数メートルの巨体(インフィニット・ストラトス)もまた吹き飛んできた。

 

 

「馬鹿な!防御特化の重ISだぞ!対IS用シュルツェンだって装備しているはず!?」

 

 

空気よりも軽くなった微小の壁の破片がまだ空を舞っている。

 

それが集まりできた煙の中で異様な影が動いていた。

 

 

 

「ウサギの……耳?」

 

 

 

場違いな、異質な、異常な、おかしな、傾奇な、影。

 

 

 

青と白のドレスにウサギの耳、そして紫色の髪。

 

 

 

ISをも一撃で倒すその力は、まさしく人類最強。

 

 

 

 

 

「あは、面白そうなことしてるねぇ。束さんもまぜてよ」

 

 

 

 




満を持しての束さんの登場です。

Tips

<用語>

褐色の館→ミュンヘンにあった旧ナチ党本部。空爆で焼失したが再建され現在は国家IS委員会の本部になっている。実際には国家社会主義資料センターとなっている。

ペーネミュンデ特別技術開発センター→有名なA-4ロケットの試験はペーネミュンデという場所で行われていたので流用。個人的に好みの地名。

IG.ファルベン→合成燃料や化学工業などで活躍したドイツの企業。実際はWW2後に解体されているがこの世界では戦後も存続し、業種を変え運営されている。

トート機関→WW2以前よりアウトバーンや要塞、飛行場などの建設を請け負った土木組織。この世界では戦後は先進技術、現在はIS技術の研究を行っている。

報復兵器→一連の兵器群に付けられた名称。Fi-103(V1号)、A-4(V2号)が有名。
ムカデ砲またはHs117がV3号とされる。この世界ではV4号は終戦時に計画されていたA-6ロケットにWunderWaffe(超兵器)である原子爆弾を搭載したもの。Gottes-Waffeとはそれを超える神の兵器の意味。またVとは試作を意味するVersuchの意味

対IS用シュルツェン→ただの追加シールド

<人物>

ドイツ国家IS委員会委員長 ルートヴィッヒ・ボーデン
→ハインリッヒ・ヒムラ―の妻、マルガレーテ・ボーデンにはヒムラ―との間の子の他に養子を持っていた。その養子の息子が彼である。

ペーネミュンデ特別技術開発センター所長 ワーナー・ハイゼンベルク
→ヴェルナー・ハイゼンベルグの孫。特段詳しい設定は無し

副所長 ミラージュ・フォン・ブラウン
→ヴェルナー・フォン・ブラウンがペーネミュンデにて秘書官との不貞によって生まれた子供の孫。フォン・ブラウンの本名はヴェルナー・マグナス・マクシミリアン・フライヘア・フォン・ブラウンであったため、マクシミリアンをマクロスのマックス(マクシミリアン・ジーナス)にたとえミラージュと命名。

トート機関長 フリードリッヒ・ギネス
→フリッツ・トートのフリッツはフリードリッヒの略称であり、トートはTodtと書くことからトッド、つまりダンバインのトッド・ギネスの連想でこの名前に。

IS運用大臣アルベルタ・シュペーア
→アルベルトの女性名がアルベルタ。ハイゼンベルグ同様詳しい設定は特に無し。



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