鬼よ、己が道を往け   作:息吹

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 初めましての方は初めまして。そうでない方はこんにちは。もしかするとこんばんは。息吹と申します。

 前から書いてみたいなとは思っていたヒロアカssです。後悔はしていない。苦悩はしている。
 ということで見切り発車気味ですが、書き始めちゃいました。オリ主と耳郎を絡ませたかっただけ。

 それでは、どうぞ。


入学試験

 ――ね? 約束。

 

 ――君は、ヒーローになって。

 

 ――世界で一番強くて格好いい、そんな、最高のヒーローに。

 

 ――だから。

 

 

 

 

 ――――ばいばい。

 

 

 

 

     ◇◆◇◆

 

 

 

 目が覚めた。

 身体を起こし、枕元に置いてある時計を確認すると、時間は目覚ましの約五分前。若干の早起きである。

 のそのそとベッドから出て、腕や肩を伸ばし、寝ぼけ眼のまま着替える。

 あー……入学試験だ。

 筆記試験はもう既に終わっている。自己採点では合格ラインはほぼ確実に超えているため、倍率は300を超えるらしいけど、まあ大丈夫だろう。あとは今日の実技試験次第って訳だ。

 洗面所へと向かって歯磨きと洗顔を済ませ、冷蔵庫から()()()()()()()()()()()()()()

 いくら個性社会になったとしても、未成年の飲酒は違法である。

 だが、俺の場合、飲まないといけない。きちんと役所を通して許可は取ってある。

 スキットルボトルにとぽとぽと移し入れる。

 本当は瓢箪とかの方が『っぽい』んだけどなあ。流石にこっちの方が携帯するには便利だ。ちなみにだが、このスキットルの材料もちょっと特別製で、まあ下手な刃物くらいなら傷一つ付かないし、ちょっとした自強化系の個性を持った奴の拳でも凹みもしない。流石にオールマイト並となると話は別だが。

 

「あとは……んー、出る前にもう一回所持品の確認するか」

 

 受験票や実技試験用の服……は、ジャージでいっか。

 その他鞄の中身を確認し、最後に、机の上に置いてある小さな木箱へと手を伸ばす。

 その木箱を見た人間は、まず間違いなく同じ感想を抱く筈だ。

 

 ――結婚指輪、と。

 

 だが残念。確かに中身は指輪だが、そんな甘酸っぱいものじゃない。小さい頃に受け取ったプレゼントだ。当時の年齢を考えれば中の指輪のデザインはシンプルに過ぎる……それこそ、まさしく結婚指輪の体を為しているので、おそらくソイツの母親にでも相談したのだろう。もう指のサイズに合っていないので、紐を通し、ペンダント代わりにしている。

 あ? ああ、くれた奴は勿論女の子だ。男から指輪のプレゼントなぞ受け取りたくない。

 首にかけ、指輪を手に握り、目を伏せる。

 

「……うし! 行くか!」

 

 小さな本棚の上に立ててある写真を見やって、この部屋を後にする。

 ああ言い忘れてたけど、この部屋には俺一人しかいない。入試の為に一週間程度こっちに来ているんだ。地元はもっと田舎の方。いや都心に比べたらどこもだいたい『都心よりは田舎』だとは思うが。どうせ明日には帰る。まだ中学は終わってないし。

 俺が受験する高校、ないし、行く予定の高校との距離は駅二つ分。丁度快速(地域や路線によっては急行と言ったりするのか?)だと一駅分。まあ近い方だろう。

 朝飯代わりにおにぎりと飲み物、あと単純に食いたいからという理由でチョコ系のお菓子を二つほどコンビニで買い、駅へと向かう。

 丁度通勤ラッシュにぶつかったのか、電車内で押し合い圧し合いしながらなんとか高校の最寄り駅に着いた。いや、こういう時ものの数分で降りれるっていいな。一番楽なのは高校の近所に住んでしまうことというのには目をつむる。

 まず間違いなく同じ高校受けるのであろう見慣れない制服の人達を横目に、スタスタと目的地へと歩みを進める。

 

「どけデク!」

「か、かっちゃん!」

「俺の前に立つな、殺すぞ」

「おっ、お早うがんバ張ろうねお互ががい……」

 

 ……門をくぐってすぐの所で何やら剣呑な空気が流れていたが、まああまり気にする必要もないだろう。知り合いでもない。

 

 

 

『今日は俺のライヴにようこそー! エヴィバディセイヘイ!!」

 

 演説者のテンションは高いが、残念。受験生からの返答はなく、この講堂? は静寂に包まれたままであった。

 壇に立つのはプロヒーローの『プレゼント・マイク』。ヒーローでありながらラジオ番組にも出演しているんだったか。流石に有名だし知ってる。

 

『こいつぁシヴィ――! 受験生のリスナー! 実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!! アーユーレディ!?』

 

『YEAHH!!!』

 

 いやうるせえ。

 

『入試要項通り! リスナーにはこの後! 十分間の〈模擬市街地演習〉を行ってもらうぜ!! 持ち込みは自由! プレゼン後各自指定の演習会場へ向かってくれよな!!」

 

 その後の説明と入試要項を纏めると。

 会場にはそれぞれ1~3ポイントのロボットの仮想敵がいて、制限時間内にどれだけ稼げるか、が合格基準になるらしい。勿論、他受験者へ危害を加えたり妨害したりするのは論外。

 だが、入試要項には仮想敵の種類が()()記載されている。

 その点については生真面目そうな眼鏡君がプレゼント・マイクに質問したことで解消した。

 どうやら1~3ポイントのロボ敵の他に0ポイントの敵も配置されているらしく、こっちは所謂お邪魔虫。各会場に一体居て、まあ避けていけ、ってことらしい。

 確かにわざわざ戦う必要性はないな。

 あとその眼鏡君は何やら個人的にも物申していたようだが、俺じゃなかったし、別にいいか。

 それにしても、戦闘向きじゃない個性の奴はどうすればいいんだろうな、この試験。

 

『最後にリスナーへ我が校の”校訓”をプレゼントしよう』

 

 うん?

 

『かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った! 〈真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者〉と!!』

 

『Plus Ultra!!』

 

『それでは皆、良い受難を!』

 

 そして、俺の高校実技試験――全国最難関レベル、雄英高校の入試が始まった。

 

 

 

 

     ◇◆◇◆

 

 

 

 

 ということで会場へ。先に受験生は試着室でジャージ等、動きやすい恰好に着替えてからの移動だった。人数が人数だけに、それだけで既に数十分は経っている。

 会場の前で軽いアップを行い、開始に備える。

 周囲の生徒も同じように準備運動を行うか、知人でもいたのか、軽く談笑してる姿も少ないとはいえ見受けられる。まあ全員、緊張の文字が顔から読み取れるのは共通か。

 ……場の空気に中てられたかな。俺も少し緊張増してきた。

 ジャージの下にある、胸元のペンダント、というよりは指輪を握る。

 ああ、大丈夫だ。こんな所で俺は止まってられない。目指すはさらに遥か先。誰よりも強くて格好いい、最高のヒーローなんだから。

 

『ハイスタートー!』

 

 急に届いてきた大音量に、誰もが呆けた表情をした。

 この声は……プレゼント・マイク?

 どうやら入試の説明を行った場所にある一番高い所から全試験会場に向けて叫んでいるらしい。何の建物かまでは分からんが、よくよく目を凝らせば小さく人影が見えるし、多分そう。

 つい数十分前にも聞いたその声と台詞の内容を吟味するよりも先に、彼は言葉を続ける。

 

『どうしたあ!? 実践じゃカウントなんざねえんだよ! 走れ走れぇ!! 賽は投げられてんぞ!!?』

 

 言い終わるよりも先に駆け出した。

 いまこの会場に居る生徒の中では誰よりも早く飛び出したみたいだ。前を行く人、横に並ぶ人はいない。遅れて慌てて走り出す足音が後ろから無数に聞こえる。

 

「狂襲・参式……!」

 

 自分の個性の出力を二段階程上げて、さらに加速する。

 一応保険の為に、ウエストポーチからスキットルを一つ取り出し、一気に飲み干す。空になった容器は仕舞い直す。大丈夫。あと三つ予備はある。

 

「んだよあの角の奴、めっちゃはええ!?」

 

 なんか金髪の奴が叫んでるが、気にせず行こう。

 大体、俺の個性は確かに速くはなるが、加速特化の個性や単純に出力が大きい増強系個性と比べると劣るんだぜい。

 一々説明解説はしねえけども。

 他の受験生を置き去りにして入口から真っ直ぐ伸びる大通りを駆け抜け、しばらくして脇道に逸れるつもりだ。ここで時間を潰されて他の人と取り合いになるくらいなら、最初から人の居なさそうな場所を狙って倒す。

 だがまあその道中に居る分は倒すか。

 飛び出してきた一輪ロボット……1P敵の頭部を蹴り抜き、四脚ロボ……は2Pか。どことなく蠍を思わせるそのフォルムの尻尾のような部分を掴んで、同時に迫って来ていた二体の1P敵に投げつける。1P敵はそれで沈黙したが、2P敵は念のために頭部を踏み砕く。これで5P。

 

『標的発見! 死ネッ!!』

「その語彙力どうにかなんなかったのか……?」

 

 少しの距離を開けて次に飛び出してきたのはミサイルポッドらしき武装をした仮想敵。3P敵か。

 視線の先、ポッドが開く。

 実弾なのか、威力を落とした玩具なのかは分からんが、まあ撃とうとしてるのは火を見るよりも明らか。

 そして俺の個性は、遠距離には対応していない。

 だから。

 

「よっ」

『ッ!?』

 

 一息に詰め寄り、開いたポッドに()()()()()()()()

 驚いたような声を上げる3P敵。振り落とそうと暴れるが、もう遅い。発射は止められない。

 俺の腕で押さえられたミサイルポッド内で爆発。その爆発で指示系統がやられたのか、それきりこの3P敵は動かなくなった。

 ふむ。誘爆するかと思ったけど、そうならない設計がミサイル本体かポッドにされてるのかもな。そこらへんの軍事的というか兵器関連には大して詳しくない。

 ()()()()()()()()()右腕の調子を走りながら確認して、問題がないことを確かめるとさらにスピードを上げた。

 そうだな……せめて50台中盤は取っておきたいところだな。

 ()()()()()()の腕など気にする必要はない。痛みもない。

 俺は行く手を塞ぐ仮想敵を前に、さらに前進した。

 無意識に、口角を上げながら。

 

 

 

 およそ残り時間三分を切っただろうか。

 既にさらにスキットルボトルを一つ空にした俺は、この会場で一番高い建物の屋上に居た。ポイント数は約60弱。まあ多いに越したことは無いか。

 途中からこうして高所に居るから、もう地上を走り回るだけの仮想敵の相手はしていない。

 では何故、俺はこんな所にいるのか。

 勿論、他の受験生や仮想敵の撃破状況を把握するっていうのもあると言えばあるんだが。

 

「……0P敵はどこだ?」

 

 未だに姿の見えない仮想敵。仮称0P敵の居場所を探していた。

 別にあれを相手にする必要はない。俺も最初はそのつもりだった。

 だが、こうも姿を見せないとなると、何となく嫌な予感もするもので。

 耳を研ぎ澄ませ、目を凝らし、風の向きすら感知しながら、仮想敵の居場所を探る。

 そして、ようやく聞こえてきた、聞き覚えの無い駆動音。場所は左後方。

 振り返る。

 ……。

 …………。

 

「いやデカすぎだろオイ……」

 

 どこにその巨体を格納していたのかと思わざるを得ない程の大きさ。俺が今居る、会場内で最も高い建物よりも高さだけでもある。さらに横にもでかい。

 確かにプレゼント・マイクは所狭しと大暴れしてるって言ってたけどさあ。これは違くね? つかどうやってあの巨体のバランス制御してんだろ。雄英ってすげー。

 ……はっ。あまりの非現実さにちょっと現実逃避してた。いかんいかん。

 さてどうしたものかと、一応撃破するつもりでその巨体を眺めていると、

 

『――――』

「……あっはっは」

 

 笑ってみたが駄目だった。

 大きさ故の緩慢な動きで、自身を支えるように建物を掴んでいた0P敵の片腕が上がる。

 某ポケットなモンスターのレジ系を彷彿とさせるカメラレンズと、俺の視線が交錯する。

 うん。

 完全に標的になった(ロックオンされた)

 持ち上げる時の鈍さは何だったのかというレベルの速度で腕が降ってくる。こいつ重力に従いやがって。

 咄嗟に頭上を庇うと同時、衝撃。

 流石に重量には耐え切れず、俺は崩壊する建物と一緒に下へと落ちて行った。

 

 

 

 

     ◇◆◇◆

 

 

 

 耳郎響香は焦っていた。

 一つは思ったよりも仮想敵の撃破ポイントを稼げていないこと、もう一つは、急に出現した超巨大な仮想敵が思ったよりも近くに来たこと。以上二つの理由により、彼女は大いに焦っていた。

 すぐ後ろの建物が上から潰されるように崩壊する。

 爆音と砂埃で、一瞬周囲の情報が断絶する。

 

(いやいや冗談キツイって! 相手にするしないとかの次元じゃない!)

 

 必死に逃げ惑う。幸い足元は見えるので、間違って変な方向に向かってしまうこともない。自分の個性だと後ろの爆音が五月蠅すぎるので使えないが、そもそも使う必要すらない。

 だから、その叫び声が届いたのは、全くの偶然なのだろう。

 

「ガッ、ァァァァァアアアアアッ!!」

 

 人の声。

 

「ったくどうなってやがんだここの安全意識は!? 俺みたいな個性じゃなきゃまず間違いなく死ぬぞ!? 高さ云々じゃなく、そもあの重量が迫ってくるだけで大怪我必至だ!」

 

 男の、人の声。

 有り得ない。

 だって。どうして。

 

 ――今しがた崩壊した建物の跡地から声がするのだ?

 

 その異常性が、耳郎の足を止めてしまった。

 彼女の中の常識が囁く。

 普通はあの高さから落下して、いや、この巨体に殴られて無事である筈がない。衝撃に耐えられるような個性だったとしても、今みたいに叫ぶ程の気力が残るのか? プロでもなんでもない、ただの受験生に。

 この土埃で0P敵の方も標的を見失っているのか、少し音が止んだ。

 目潰しが消えてしまえば、あのロボットはまた動き出してしまうだろう。その前に、この声の主の安否の確認はしておいた方がいいのだろうか。声は元気そうだが、それでも殴られ、落ちたことには変わりないのだろうし。

 

「ん? 何だ、誰かそこにいんのか?」

「っ」

 

 迷ってるうちに、向こうから声がかけられた。相手もこちらの姿は見えていない筈だが、何か自分のように、人の居場所が分かる個性なのだろうか。

 ……いや、それならそれで何故今平気そうなのだろうか。およそそういう個性ならば、身体はさして丈夫ではないと思うのだが。

 

「だ、大丈夫なの? ウチの勘違いじゃなきゃ、瓦礫と一緒に落ちてきたと思うんだけど」

「んー、ああ、それなら大丈夫だ」

 

 誰かが立ち上がる音と、小さなコンクリ片がパラパラと落ちる音がした。

 

「取り敢えず、離れることをお勧めしよう」

「いや、あんたもでしょ。早く逃げた方がいいって」

「かはは! いーや、俺はアイツをぶっ壊す。殴られた借り、というか、んな危険物で殴りかかってきやがった腹いせにぶん殴ってやる。じゃねえと気が済まない」

「ウ、ウチは逃げるからね!?」

「おう。その方が賢明だ」

 

 土埃の先の男子生徒は、気にした素振りもない。

 むしろ腰のポーチから何か飲み物が入っているのであろう容器を取り出し、一気に傾ける程の余裕を見せている。

 一般的な水筒というには少し小さいような気がしないでもないが、わざわざこんな状況で飲むということは個性に関係しているのかもしれない。

 いや、そんなことよりも。

 踵を返し、元の進行方向に足を向ける。

 今ここで自分が一緒に居る必要はない。自分の個性では何もできない。相手がアレでは、逃げる方が理に適っている。

 誰に向けたのかも分からない必死の言い訳が心の内を占める。

 

「狂襲・陸式!」

 

 もう向こうはこちらを気にしないことにしたのか、未だ動けない耳郎を無視して飛び出していったようだ。一際大きな音が辺りに響く。

 同時に土埃もある程度晴れたのか、ようやく周囲の状況が視認できるようになった。

 そして、耳郎の目に入ったのは。

 

 ――散乱する建物の残骸。

 ――大きく腕部を振りかぶる0P敵。

 ――蜘蛛の巣のように罅割れた先程の男子生徒が立っていたと思われる場所。

 ――そして。

 

 

 ――――哄笑を響かせながら0P敵の胴体を殴り飛ばす男子生徒の姿。

 

 

「かははははははは!」

 

 その一撃で、仮想敵の巨体のバランスが崩れた。

 しかし、片腕で建物を掴み転倒を防ぎつつ、もう片方の腕を男子生徒へと伸ばす仮想敵。

 だが、男子生徒の動きも優れていた。

 受け身の取れない、足場のない空中で器用に体勢を整え、向かってくる手指に掴まる前にするするとその手に降り立った。

 轟音を鳴らしながら、その上を駆ける。いや、跳ぶ。

 何の音かと思えば、どうやらその一歩一歩が仮想敵の腕の装甲を壊しているらしい。人体で言う所の肘に相当するのであろう箇所に到達した時点でそれより下が地面に落ちた。

 ……あ、振り落とされた。

 仮想敵は我武者羅に振り回したのだろうが、丁度彼の身体が空中に在る時に腕が直撃したらしく、すぐ横の建物に激突した。

 

「まだまだァ!」

 

 意も介さず、すぐに人影が飛び出した。放たれる跳び蹴りが、頭部を蹴り抜く。

 しかし破壊には至らず、動きを鈍らせるだけに止まった。他の仮想敵と同じように、指示系統は頭部に集約されているらしい。

 

 ……その大怪獣バトルの体を為し始めた光景を前に、耳郎は。

 

「~~っ。あー、もう!」

 

 走り出す。

 ――仮想敵と男子生徒が今まさに戦っている、その場所へ。

 それに気付いたのは、男子生徒の方が先だった。

 

「ああ!? お前さん、何でまだいる!?」

「分かるか馬鹿!」

「あァ!?」

 

 そうだ。自分でも分からない。何でこっちに走り出したのか。自分に何が出来るのかも分からない。

 それでも。

 自分の目指すヒーローは。

 

「ここで逃げちゃ駄目だと思うから……っ!」

 

 ちょっと話したからとか、仲間意識が芽生えたからとか、そういうものでは決してない。たった数回言葉を交わしただけ、今初めて会った相手にそこまで意識することなんてない。

 でも、だからと言って、戦ってるのが分かってるのにそれに背を向けて逃げ出すのは違う。

 共闘だという訳でもない。元々戦う必要のない相手、彼が相手にしてるのも、仕返しの意味合いが強い。

 それでも。

 

「耳郎響香!」

「あン!?」

「名前! 耳郎響香! 呼び名がなきゃ連携取れないでしょ!」

 

 視線の先、構造の関係上出っ張った部分を掴んで落下を防いでいた彼は、手を離し、再度蹴り飛ばすことで耳郎の近くに降り立った。

 

「かはは! 良いね。そういうの俺は好きだぜ?――俺は相間。相間(そうま)或鬼(あき)。見ての通り、個性は『鬼』さ」

 

 そう言って、相間と名乗った彼は額から伸びる二本の角を撫でた。

 短めの白髪。背は耳郎よりも二十センチ近く高い。この戦闘のためか黒いジャージをボロボロにしているが、腰のポーチは大して傷付いていなかった。

 そして何よりも目を引く、二本の角。髪の白と相反するように赤黒く伸びるそれは、その無機物っぽさも相まって、皮膚や骨の変形というよりは額を突き破って直接生えているかのような印象を受ける。

 破れた衣服から見え隠れしたり、顔に走ったりしている赤い模様はお伽噺の赤鬼を彷彿とさせ、対峙する耳郎は少しばかり恐怖を覚えてしまったが、これは内緒の話。

 

「ウチは『イヤホンジャック』。音拾ったり、爆音にして流したり」

「……アレに通用するか?」

「……動力部分に直接流し込めば、或いは」

「最悪効かなくても問題ない。俺の個性は自強化。力や速度、耐久力から五感まで、まあ色々強くなる」

「めっちゃ強個性じゃん」

 

 しかし相間は、自嘲気味に鼻で嗤って、

 

「それだけなら、な」

 

 それ以上は語らず、彼は0P敵に向き直った。

 ポーチから取り出したスキットルボトルを一つ空にし、拳を握る。

 

「直接の相手は俺がする。お前さんはサポートをお願いできるか?」

「どうせウチの個性じゃそんぐらいが関の山。あんたも、巻き込まれないでよね」

「巻き込まれても俺なら大丈夫……さっ!」

 

 跳躍し、仮想敵が振り下ろしてきた無事な方の拳(?)と、自身の引き絞った拳をぶつけて殴り合う。

 押し勝ったのは、相間。

 弾かれた腕の重量に引っ張られるように、後方へとバランスを崩し始める。

 しかし、向こうにそんな意思というものがあるのかは定かではないが、あたかも反撃するかのように壊れた方の腕を振るう。殴るにはもう腕や手の部分は残っていないから、建物を削り飛ばすつもりなのだろうか。

 耳郎もまた走り出す。

 流石に彼程の爆発力は持っていない。そんな個性じゃない。他の仮想敵には直接プラグを挿して心音を爆音にして流し込むことで行動不能にはできたが、それがこの巨体に通じるかは定かではない。定かではないのに、アレに近付くのは危険が過ぎるか。

 だから、プラグの届く約六メートルの範囲には近付かない。それよりも離れた所で彼のサポートを。

 正直、時間さえあれば相間はこのデカブツを破壊するだろう。そこに耳郎の出る必要性はない。

 だが、こうして残っているのに何もできませんでした、ではプライドに関わる。

 空中でバランスを取り、瓦礫を迎え撃とうと構える相間の姿を確認して、プラグを地面に挿した。

 いつもはこんなことは出来ない。でも。

 やらなきゃいけない。

 

「相間! 足元壊すよ!……っ」

 

 すぐそこで巨体が軋む音が、重力に引かれる音が流れ込み、耳が痛むが、我慢。

 流し込む。

 ドクン! と一際大きな心音が地面を伝わり、相間と仮想敵との戦いでボロボロになっていたコンクリの地面を崩していく。

 仮想敵を巻き込みながら、耳郎を中心にクレーターのように地面が陥没した。いまだ滞空状態だった相間には影響はない。それを狙った。

 本来の耳郎の音量ではこんなことは出来なかっただろう。だが、やってみせなきゃいけないという使命感と、戦闘により既にボロボロだったのが幸いした。

 崩れ行く足場と落ちていく自分。今後は音量の上限と指向性が課題かなと思いつつ、相間に向かって親指を上げる。

 意味はただ一つ。

 やれ、と。

 彼はただ、ニッと口角を上げただけだった。

 空中で身体を上下反転。倒れいく0P敵の頭部を狙って、飛び出す。

 

「らっしゃああああアアアアアアッ!!」

 

 再度反転。飛び蹴りの要領で細長い頭部に突き刺さるようにして、相間は仮想敵に止めを刺した。

 最後の抵抗か、緩々と腕が持ち上がり――伸びてきたプラグに爆音を流され、一瞬動きを止めた後、力なく落ちて行った。

 

「なんだ。ちゃんと効くじゃん」

 

 小さく呟くと同時、遥か後方から大音量の声が届く。

 

『終了――――!!』

 

 そして、短くも長い十分間が終わりを告げた。

 

 

 

 巨体の上でプラグの長さを元に戻しつつ、耳郎は相間が突き刺さったままの仮想敵の頭部に声を掛ける。

 幸いにも、地面を崩壊させたにも関わらず上手く着地できたのか、こちらも捻挫や目立った怪我はなかった。

 

「そっちは大丈夫ー?」

「……配線だとかの所為かな。少しビリビリしてる気がする」

 

 破壊音と共に内側から装甲を蹴り壊しながら現れるのは、思ったよりも平気そうな相間の姿。

 ほ、と一安心。

 ちゃんと個性で息をしているのは聞こえていたし、何か怪我をしている様子でもなかったのは分かっていたが、それでもこうして直接目にすると安心する。目の前で大怪我されてても困るし。

 衝撃に耐えられなかったのか、彼の靴は既にどこかへと消えており、裸足でトントンと耳郎のもとまで登ってくる。

 

「ん。お疲れさん。ナイスアシスト」

「そっちこそ、お疲れ。正直ウチが居る必要は無かったと思うけどね」

「フォロー要る?」

「要らん」

 

 そか、と短く返答すると、相間はその場で座り込み、ポーチをまさぐった。

 取り出すのは、土埃の中でも飲んでいたと思われる飲料の入った容器。

 っていうか、先は気にならなかったが、その形は。

 

「……未成年飲酒?」

「個性の関係上飲まないといけないの」

 

 確かに、こうして落ち着いてみると微妙に酒臭いような気がしないでもない。

 

「ってか、角と赤いヤツ、短くなったり消えたりするんだ」

「個性の出力を上げると角は伸びるし、模様も範囲が大きくなる。今も心臓部分にはあるぞ」

「見せなくていい。見せなくていいからっ」

 

 服を捲ろうとした相間を慌てて止める。

 はあ、と溜息を一つ溢す。なんだか今のやり取りでようやく緊張が抜けた気がする。

 

「あ、あれ?」

 

 ペタンと、座り込んでしまう。

 ちょっと気恥しくて立ち上がろうとするも、足腰に力は入らず、なんだかプルプルと震えるばかり。

 

「……腰抜けたか」

「わざわざ言わなくてよろしい」

 

 むっとした視線を向けると、気にした様子もなくカラカラと笑いを返されるだけだった。

 

「まあ無理もない。こんな奴、立ち向かう方がどうかしてる」

「それは自慢? それとも自嘲?」

「お前を褒めてんだよ」

 

 おっと予想外の返答が。

 突然のことに思考が停止した耳郎の脳に、相間の声が届く。

 

「俺はこんな個性だったし、まあ荒事にも多少は慣れてた。けど耳郎、お前は違うだろう? およそ普通の生活をしてて、こんな圧倒的脅威って奴に立ち向かうことなんてそうそうない。だがそれでも、お前は逃げることを選ばなかった。立ち向かうことを選択してみせた。そんな狂気こそ、ヒーローの素質だろうよ」

「……遠回しに自慢しているようにしか聞こえない。しかも狂気て。せめて勇気と言ってよ」

「自慢してるつもりはねえんだが……しかし、ふむ。それもそうか。狂気という言い方はアレか」

 

 言ってることがヒーローのそれではないような気がする。

 それに勿論、相間が自慢してるつもりはないのは分かり切っている。だが、照れ隠しくらいは許してくれたっていいだろう。

 動かない足を無理矢理起こして体操座りにして、膝に顔を押し付ける。

 まあ、同年代だとは言え、褒められて悪い気はしない。

 しかしヒーローの素質云々の前に。

 

「でもま、ウチあんまポイント稼げなかったし、合格はしてないかもね」

「それに関しては俺も何とも言えないなあ。俺も途中からコイツ探して仮想敵倒してなかったし」

「それじゃあ頑張ってこれ倒したのに二人して落ちるかもしれない訳だ? 何それアホくさ!」

「是非もねえな」

 

 バシバシと足場にしてる0P敵の装甲を叩く。

 だが、そっか。

 

「……ウチ、きちんと立ち向かったんだ」

「ん」

 

 相間は何も言わなかった。しかし、その沈黙は有難かった。

 なんだか、感慨深い。

 最初この仮想敵が出てきた時はあまりのスケールの違いに逃げ出すことしかできなかったが、何の因果か、今はこうしてその残骸の上で共闘相手と談笑している。本当、何をどう転んだのだろう。

 仮想敵の出現場所が違ったら、耳郎のその時の居場所が違えば、相間があの建物にいなければ。

 何かが違っていたら、今ここに自分は居なかっただろう。

 相間は……なんだかんだコイツを相手取って一人でも狂気的に笑いながら戦っている気がする。

 空白。

 耳郎は手持無沙汰にプラグを伸ばして弄び、相間は不定期にスキットルを傾ける。

 

『怪我人。怪我人。保健室ヘ』

『I found』

 

 暫くすると、小さなロボットが二機、担架を手にやって来た。

 ボコボコになった道路では走行できないのか、相間や耳郎からちょっと離れた所で立ち往生している。

 

「……まだ立てないようなら運んでやるが?」

「心配すんな。もう立てるし」

「なら一応診て貰っとけ。俺は個性があるから後回しでもいい」

「却下。ウチよりあんたでしょ。あんたの方が大立ち回りしてたんだから、ウチより先」

「……ここで問答しても仕方ないしな。一緒に付いていけばいいだろ」

 

 降りるときは装甲も地面も不安定だったため手助けしてもらったが、時間が経ったこともあり耳郎は既に立ち上がることはできるようになっていた。

 どっちが担架を使うかでまた一悶着あったが、結局どっちも歩いていくということで落ち着き、担架ロボット――なんと自己紹介され、ハンソーロボと名乗られた――に先導される形でその場を離れる二人。

 出入口のゲートで他の生徒から色々詰め寄られることになるのだが、それはまた別の話。

 

「ま、もしお互い合格してたら、新学期からよろしく」

「おう。また会えるといいな」

 

 ――雄英高校入学実技試験、終了。




 主人公の個性の詳細はいずれ。

 本当は紹介くらいで終わらせるつもりだったんですが、
「俺の名前は~~」
 みたいな紹介の仕方や、
「俺は~~、君の名前は?」
 みたいな原作キャラとの絡ませ方があまり好きじゃなかったので、結果、こうなった。自分にしては長い。

 とりあえず耳郎が一番活躍してる文化祭までは書かないとなあ……(遠い目)

 それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。

 ゴメン、砂藤……退場させて。ゴメン、上鳴……これからお前の出番を色々食うわ。主に耳郎関連。
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