鬼よ、己が道を往け   作:息吹

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 二か月半……かあ……

 長らくお待たせしました。別作品書いてる途中で飽きてこっち書いてて飽きて戻る……みたいなことを繰り返していたらこんなに時間が……・
 ポケモンたのちい。

 取り敢えず体育祭編Ⅲということで第三競技です。

 それではどうぞ。


体育祭編Ⅲ

『ヘイガイズ! アーユーレディ!?』

 

 レクリエーション種目も終わり、会場の準備も整った。

 

『色々やってきましたが! 結局これだぜ、ガチンコ勝負!!』

 

 三種目目、最終競技、一対一のガチバトル。

 既にトーナメント形式で対戦相手のことは分かっている。俺の最初の相手は青山、次は常闇か八百万、次はー、うん、爆豪あたりだろうな。決勝は轟がやはり鉄板か。

 緑谷と轟の組み合わせが意外と早い形で実現しそうなのが気懸りだが、俺が気を揉んでも仕方ない。自分の相手の事だけ考えるようにしよう。耳郎に応援されたしな。

 実は尾白やB組の……庄田? とやらの棄権が認められてメンバーが変わったりしてるのだが、大した話ではないだろう。

 そんでまあ五試合目。俺の試合だ。

 第一試合で緑谷と戦った普通科の心操って奴の個性の話だとか、第二試合の轟の初手ブッパな話とかあるが、取り敢えず今はそれは置いておこう。第三試合以降は予想以上に試合が爆速で進んでいくから早めに控室に移動して観戦していない。

 まあプレゼントマイクのバカでかい実況の声のお陰でおおまかな試合の流れと勝敗は分かっているので別にいいか。

 上鳴はもうちょっと頑張ろうぜ?

 まあ早く進むなあと思ったところに飯田とサポート科のハイテンション少女改め発目との試合だった訳だが。

 丸々十分使っての自分の開発品アピールとはこう、商魂逞しい的な感想抱くよネ。

 さて、そろそろ移動するか。

 

「青山か……」

 

 正直彼の個性についてはよく分かっていない。臍からレーザーが出ること、出し続けるとお腹を下すこと、あと妙に目立ちたがる……は個性じゃない。為人の話か。

 対策と言える対策も思いつかないんだが、レーザーの威力、速度、連射性等を鑑みるに、俺にとってはそれほど脅威にはならないだろう。出力段階次第では正面から耐えれそうだ。あくまで推測なので一応避けることには避けるが、変に意識して移動範囲を自分から狭めないようにしないとな。

 試合ステージを前にして、プレゼントマイクが俺達の紹介を始める。

 

『第五試合! 腰にベルトがあっても変身しねえぞ! ヒーロー科、青山優雅!』

「ボンジュール☆」

 

 キラキラしてら。

 

『バーサス! 試合成績はトップクラス! けど妙に目立たねえ! ヒーロー科、相間或鬼!」

「まあ派手さはないよなあ……」

 

 何か放出する系の個性じゃないからな。結果だけ見ればそれなりでも、その様相は割と地味なんだよ。

 許可を取って持ち込みを許された酒を一口流し込む。

 

『START!!』

 

 俺達が指定の位置に立ち、プレゼントマイクの試合開始の声が響く。

 青山の個性は言ってしまえば純粋な遠距離型の個性。純近距離向きな俺とは正反対に位置するとも言える。青山側の理想は俺を近付けさせずに一方的に照射。場外ないし戦闘不能を狙うこと。

 対して俺はその攻撃を掻い潜って彼に近付き、一発殴り飛ばすこと。人一人くらいなら一発で場外まで持っていける自信があるし、たとえ抵抗して場内に残ろうとも、ダメージにはなる。

 さて、では個性を抜きにして青山自身の戦闘能力は如何の程か。

 

「せいっ!」

 

 正解は、そうでもない、だ。

 狙いが若干甘い。やや身体の右側を狙ったレーザーを半身になって避ける。逆側を再度狙ってきたが、今度は左に寄り過ぎだ。右へ。ついでに一歩前へ。

 少し太くなったか? 流石に半身では避けきれない。一歩分左へ。少し上に逸れたな。しゃがんで躱す。立ち上がるのに合わせて一歩前へ。

 連射速度が上がる。精度は少しずつ良くなっている。だが、俺を捉えきれるほどではない。

 足元を狙った照射をジャンプで避けて、空中を狙った二撃目を地面への強制方向転換でやり過ごす。一瞬ベルトの中心が俺から離れたのを見て、青山の視線と身体の向きから次の狙いを予測。予め移動しておく。となるとまた狙いが修正されるので再度先読み。苦し紛れに撃ったところでそんなものに当たる程甘くはない。

 わざと動きを鈍らせ一撃を誘発し、まんまと引っ掛かってくれたので悠々と避ける。

 

『おいおいおいおい! ほぼ正面からゆっくり近づいてるだけなのに、相間に当たらない当たらない!』

『最初の方はある程度の予測と共に見てから避けてたが、今じゃ既に完全に予測してる上に敢えて一撃を狙わせてる』

『流石フィジカルお化け! 青山どう切り抜ける!?』

 

 距離を取ろうとしたのか青山が一歩下がる。その間に俺は二歩は進める。

 さらにもう一歩。大きく跳んで何歩分進んだ?

 迎撃用のレーザー。既に予測済み。身を屈めて低姿勢で前へ。

 

「……そろそろ限界か?」

「うっ……」

 

 もう彼の顔は青い。酷い腹痛に襲われているのだろう。膝も震え、少し及び腰だ。

 

「リタイアするならした方がいいんじゃないか?」

 

 返答は腹辺りを狙ったレーザー。棄権する気はない、と。

 照射時間的に考えて、もう一発撃つのも限界だろうに。

 だが、その心意気に敬意を表し、俺も一撃で終わらせよう。

 

「狂襲・肆式――」

 

 残りの距離を一気に詰める。

 狙わせる時間も与えない。避ける暇も与えない。この距離、この速度に反応できる程、青山の目は慣れていない。

 踏み込み。拳に力を込める。引き絞る。

 打ち込む。

 

「うぐっ!?」

「――ハッ!」

 

 のめり込むように突き刺さった右腕。天閃程の威力は乗せていないので、相当痛い、程度で済んでいる筈だ。

 しっかりと踏ん張れなかったらしく、吹き飛ぶ青山の姿。俺との距離を取る為に下がっていたのもあり、あっさりとその姿は場外へと飛ばされてしまった。

 

『青山君場外! 相間君、二回戦進出!』

 

 審判役のミッドナイトが告げると同時、観客が湧いた。

 まあこれで一種のアピールになったのなら上々。多分俺なら速攻を仕掛けて勝負を決めることもできたのだろう。今の動きを開幕でできない理由はない。

 ただどのみち青山は時間経過で弱体化する。それを待つのも戦略の内だろう。

 個人的に、どうせ弱体化してしまうのなら、それまでの全力を見たかったというのも否めないが。

 イレイザーヘッドこと相澤先生とマイクによる今の試合の総評を背に、俺は一度A組用の観客席に戻るのであった。

 

 

 

 

 ということで予選二戦目。

 予選を勝ち抜いたのは緑谷と轟、B組の塩崎って奴と飯田、んで俺と常闇、切島と爆豪だ。

 緑谷と轟の試合は激しすぎる試合だった。思わず飛び入り参加したくなる程には。まあお互い色々抱え込んでいたみたいだが、俺が踏み入っていい領域ではないだろう。結果だけで言えば、轟の勝利に終わった。

 塩崎某と飯田の試合は、飯田が自慢の脚で塩崎を場外に運んで決着。

 他にも第八試合の麗日と爆豪の試合なんかも語りたいところだが、置いておこう。

 

「ま、まずは目の前の相手、か」

「……」

「よろしくな、常闇」

「たとえ級友と言えど、今は敵同士。慣れ合うつもりはない」

 

 仰々しい物言いだなあ。

 常闇踏影。個性の詳細は青山よりも知らない。なんか黒い奴が身体から出てるっていう印象しかない。

 ただ騎馬戦の時の動きを見るに、それなりに自由の利く上に距離も伸ばせるというのは分かっている。オールレンジ対応で、パワーも未知数。スピードはそうでもないが、果たして回避と迎撃、どちらが正解か。

 

『両者定位置に着いたな? それじゃあ――START!』

黒影(ダークシャドウ)!」

 

 伸ばされる黒い奴改め黒影。

 フォルムとしては鳥類っぽい頭に人形の腕、下半身に相当する部分は常闇自身と繋がって存在しない。

 掴み掛かるつもりなのか大きく広げられた両腕が迫る。

 

「狂襲・伍式――」

 

 取り敢えず、様子見一発。

 

「っ、防げ、黒影!」

「――穿て、天閃!」

 

 右腕を番え、撃ち出す。

 反動で腕はボロボロに、地面に足もめり込み、踏ん張った影響で罅が出来ている。

 パキパキと治癒を開始する右腕を尻目に常闇の方を見ると、俺のこのモーションに見覚えがあったためか、咄嗟の防御には間に合った様子。しかし折角けしかけた黒影は吹き飛ばされ、常闇の近くにまで戻ってきている。

 成程成程、物理で押し出すことは可能、と。となると直接的な殴打も効果ありかな?

 騎馬戦の時直接妨害や攻撃を弾いていたから、多分そうだろうとは思っていたが、やはり俺みたいな物理一辺倒な個性でも対応は可能らしい。

 酒を一口。

 さて。

 

「――フッ!」

「くっ!?」

 

 身を屈め、一瞬で肉薄。

 咄嗟に常闇は飛び退き、間に黒影を挟み込む。

 掴もうとする腕を首と思われしき箇所を掴んで飛び越えるように避ける。黒影の背中を足場にして常闇の目の前に着地。伸びた腕を打ち払い、空いた手で一発拳を鳩尾に。

 身体をくの字に折り曲げ苦悶の声を漏らすが、止まりはしない。黒影に邪魔される前に拳を引き戻し、膝で顎を蹴り上げる。

 そしてあまりにも大きすぎる隙。わざわざ狙わない理由もなく。

 掠るように顎を撃ち抜く。それで十分だ。

 念のために黒影も対処しておかなければ。黒影で単体で動ける可能性もある。

 ようやく俺に追いついてきた黒影を裏拳で怯ませ、回し蹴りで転倒? させる。そのまま踏みつけて動きを封じる。突然の出力増加を警戒して力は抜かずに伍式段階での全力で踏んづける。

 

『グ、苦ジイ……』

「……降参、だ」

 

 立ち上がれない常闇、動きを封じられた黒影。どう足掻いても詰み。

 俺と常闇の勝負は、彼のリタイアで幕を閉じた。

 

『い、一瞬で勝負ついちまったよイレイザー……』

『先程の青山戦と違い、速攻で勝負を仕掛けたからだろうな。初撃で個性が通用するかの確認。終わると同時に勝負。青山もそうだが、個性に頼り切りだと個性の相性なんて簡単に覆ると言う良い実例だな』

『あ、技術方面に言及ナシ?』

『脳震盪の事を言っているのなら……まあ、不可能ではないだろうが』

 

 先生が言い淀むのも分かる。俺は別に何か武術を修めているわけでもなんでもない。しかし素人があんな綺麗に脳震盪を決めるのも考えにくい。

 だがこれに関しては俺に言われても困るのが正直なところだ。できるからできる。それ以上に言えないのだから。

 イマイチ俺自身もこの個性について全容は把握しきれていない。俺の知らない何かが眠っているのはほぼ確実だろうが、それが何か、どんなものかまでは見当もつかない。

 縮小する角と紋様。酒をもう一口。

 ああ、うん。

 そうか。

 ……そっか。

 

 

 

 準決勝。

 俺と常闇の試合の次だった切島と爆豪の試合は根負けした切島がダウンして爆豪の勝利。

 準決勝第一試合の轟vs飯田は、飯田が超加速で惜しい所までいったものの、運び出されていた轟が全身を凍らせ行動不能に。轟の勝利で終わった。

 そして準決勝第二試合。俺対爆豪。

 

『第一種目ではデッドヒートを繰り広げ、第二種目では同じチームで手を取り合った二人だが、今この瞬間は敵同士! 昨日の友は今日の敵ってかー!? 慈悲も情けもいらねえ! 全力でいこうぜ! 相間vs爆豪!!』

 

 熱気が、歓声が、会場を包み込む。

 爆豪相手に青山や常闇のような試合運びはまず不可能だろう。予め酒を飲んでおく。決してカウントダウンをストックするようなことはできないが、ゼロに近づけておくようなもの。二割くらいは気分だ。

 スキットルボトルが一本これで空になり、残すは二本。さてこの試合のうちにどれだけ消費してしまうことやら。

 

「クソ角」

「それで返事するの凄く癪なんだが……何だ」

「テメェ、今たのしいかよ?」

「…………」

 

 ……ふうん。

 

「ああ、勿論。まさかお前さんからそんなことを言われるなんて思っても――」

「しらばっくれてんじゃねえよ」

「――どういうことか、訊いても?」

 

 少しずつ口角が上がる。

 爆豪は気付いている。そのことに僅かな喜びと期待が湧き上がってくる。

 この感情は駄目だ。不謹慎だとか、場に相応しくないだとか、相手への侮辱だとか、色々言い方はあるだろうが、つまりはこの感情はそういうモノに分類されるものだ。

 だが、彼は気付いている。気付かれてしまっている。

 何が何でも隠したかったと言う程ではないが、それでも気付かれないようには一応の注意はしていた。では何故、彼は気付いた?

 

「テメェは本気で戦う時、笑うんだよ」

「ほう?」

「あの時もそうだった。俺を雑魚(モブ)と認識しやがったあの時、テメェはオールマイトに向かって笑っていた!」

「……その時のことを言われても、俺は困るんだがね」

 

 USJ事件(あの時)、つまりは俺の暴走状態の時のことを言っているのだろう。

 俺にその時の記憶はないが、オールマイトとの闘いに楽しさを見出している俺の姿は容易に想像がつく。成程、一応話には聞いていたが、やはり爆豪もその時の俺をきちんと見ていたらしい。

 

「だったら愉しめよ。嗤って愉しんで、あの時みたいな全力で来いや! 俺はそんなお前をブッ殺して、完膚なきまでの一位を獲る!」

「断る」

「ンだと!?」

 

 きっぱりと告げる。

 爆豪が俺がつまらないと感じていることに気付いている理由は分かった。そうだな。全力で愉しんでいる姿を見たことがあるのなら、それと比較して今の俺がひどくつまらなさそうに見えるのも納得できる。

 相手は本気だった。勝利を掴もうとしてた。そんな相手に対して抱く感情につまらないなんてものがあっていい筈がない。

 だが、それとこれとは話が別だ。

 

「お前が暴走状態(あの時)の俺の勝利しか認めたくないように、俺は暴走状態(その時)の勝利を勝利だなんて認めない」

「最初から勝った気で舐めた口利いてんじゃねえ! 勝つのは俺だ! だから全力でかかってきやがれ!」

「全力は出さない。出せない。それでも、本気のつもりではあったんだが」

「そんな詭弁はどうでもいいんだっつてんだろォが!」

 

 視線がぶつかり合う。お互いの主張を曲げようとしない意思が、火花を散らす。

 アイツはアイツ自身の矜持の為に暴走状態の俺に勝ちたい。

 俺は俺の意地の為に、暴走状態になる訳にはいかない。

 ならどうするか。

 

『準備はいいみたいだな? それじゃあ――START!!』

「嫌でも呼び起こさせてやるよクソ角野郎おおおおお!!」

「やれるもンならやってみやがれ爆発さん太郎がよォ!!」

 

 試合の中で無理矢理発現させるかさせないかを賭けた勝負を繰り広げるのだ。

 

 

 

 

 爆豪の個性は近~中距離向けの爆発を起こす個性。調整次第ではそれなりの距離も攻撃できる可能性があるが、やはり警戒すべきは俺の間合いでもある近距離時。

 爆発の威力は馬鹿には出来ない。直接当たれば付け入る隙を与えることにもなるし、ダメージも無視できないものになるだろう。

 そして何より、彼はあれでスロースターターだ。爆発の原理を知らないので理屈は分からないが、時間が経てば経つほど爆発の威力が増していくのは第一種目で確認済みだ。

 では爆豪が取るべき初手の一撃は何か。

 答えは上から。

 

「死ねえ!」

 

 空中で距離を取っての上からの個性による絨毯爆撃。回避させるつもりもないってか。

 

「狂襲・陸式!」

 

 その程度なら真正面から受けてやる。範囲と距離のせいで威力は大きく落ちている。

 迫りくる爆炎と煙幕に顔だけは覆って防御態勢。直後、身体が炎に包まれる。視界も悪い。炎も煙も邪魔だ。

 だから一息に消し飛ばす。

 

「ハッ!」

 

 腕を振るい、炎と煙を散らす。

 爆豪の姿は既に地面の上。この距離なら俺が詰める方が早い。

 距離を詰めようとした俺の予備動作は見えていたのか、空中に逃げようと下向きの爆発を起こす爆豪だが、顔面狙いだった俺の拳が爆豪の腹に突き刺さる方が早かった。

 鈍い音が鳴り、ゴロゴロと転がる爆豪。

 しかし怯むことも呻くこともせずに、むしろ自分から間合いを詰めてきた。

 

「もう一発!」

「見え見えなンだよ!」

 

 右の大振り。外から内へと受け流し、回す腕で俯せのまま叩き落す。追撃の蹴りを爆発による目眩ましと強制移動で避け、再度距離が開く。

 それをそのままにする俺達ではない。

 両者共に駆け出し、お互いの拳でお互い顔面を殴り飛ばした。

 しかし個性の差か。俺は蹈鞴を踏むだけだったが、爆豪はまたゴロゴロと飛ばされていた。

 

「どォした。大口叩いた割にはそンなもンか、あァ!? 俺に全力を出してほしいンだろォがよォ!」

「うるせえ、死に曝せや!」

 

 今度は空中から接近することにしたらしい。そうだな。俺は基本的に空中での機動力に欠けるから、空中から、位置的に有利な上を取るってのは間違いじゃない。

 しかし爆豪は第一種目の時、俺より前にいたから知らないのだろうか。

 別に俺は空中機動に関して、からきしという訳ではない。

 跳躍。

 

「上なら安全とでも?」

「予測できとるわそんなもん」

 

 なに?

 爆発。いなす。二撃目。弾く。蹴り。先んじて潰す。

 しっかりと対応してきた爆豪。流石にできないこともない程度の俺の空中機動力は爆豪より各段に劣る以上、既に失速し、落下を始めている。

 その前に爆豪の背を借りて再跳躍。

 

「ぐっ……! 待てコラテメエ、人を足場にすんなや!」

「なら来い!」

「死ね!」

 

 器用に身体を半回転させ、上を向いた爆豪がさらに上を取った俺を追う。

 そして俺は、一回くらいなら着地を挟まず空中で方向転換できる。

 追ってくる爆豪に対し、自分から急接近。流石の対応力で爆発で迎撃されるも、それを無視して蹴りを突き刺す。

 そのまま重力に従い落下。

 流石に地面に衝突する前に足は引き抜いたし、爆豪自身も爆発で落下ダメージを抑えようと試みていたが、それでも相当のダメージにはなった筈。

 ――規模が分からない。最初から防御に専念。

 身構えた俺へと、土埃の中から爆炎が襲い掛かった。

 回避し、黒煙はすぐに晴れたが、そこにはもう、爆豪が立つ姿があって。

 

「「まだまだァ!」」

 

 駆ける。

 爆発で加速した膝を片手で受け止め、投げ飛ばす。

 そのままなら場外へと飛ばされてしまうのを爆発で減速し、再加速。

 左腕を叩き付けるような攻撃を一歩踏み込んで内から外へと弾き、空いた胴帯に一撃。

 が、間髪入れずに右手の爆発で反撃される。

 回し蹴りで蹴り落と……掴まれた。爆発で意趣返しとばかりに投げ飛ばされるが、無理矢理真下に方向転換。力み過ぎたのか地面が罅割れるがご愛敬。

 一度酒を飲むために腰のポーチのスキットルボトルに手を掛け、

 

「させるかよ」

 

 爆発。

 酒を飲むことへの妨害? だがこの程度では、違う。目眩まし。本命は次、のさらに次。音がする。二度目の爆発音。空気を切る音。これは加速。三度目。こっちはブラフ。呼吸。爆発。真の狙いは――

 

「そこかァ!」

「チッ!」

 

 およそアナログ時計で言う所の四時から五時の方向。接近に合わせてカウンター気味に後方への蹴り上げ。

 咄嗟の回避に成功したのか、はたまた黒煙のせいでタイミングがずれたのか、鼻先を掠める程度にしかならなかったが、同時に爆豪側の攻撃も阻止した。

 着地音。

 腕を振るい、煙を払う。

 

飲酒行為(ソレ)、要は薬なんだろ」

「ほう?」

「異形型個性かつ常日頃から同じモン飲んでるとなりゃ、そりゃ燃料か薬かのどっちかだ。そんでテメエが嫌でも全力を出さねえって言うなら、薬だと考えた方がしっくりくるわな」

「…………いやはや。誰かに教えた覚えはないから、まさか自力で辿り着かれるとはなァ」

 

 正解だ。この個性に付きまとう暴走を遠ざける唯一の方法である飲酒行為。確かに抑制化するという点で見れば、薬という言い方にも納得がいく。

 わざわざ暴走状態のことを言い広めるようなことはしていないので、酒を飲むことに関してはいつも個性の都合上必要、とだけ返していたが、まさか気付かれるとは。

 

「薬と考えるならそれを飲ませるのはお前が全力から遠ざかるってのと同義だ。なら、させねえ」

「これは、ちとばかし辛いかなァ……」

 

 酒を飲むという行為は言ってしまえば大きな隙だ。今までは勝負事の前や後、もしくは飲むだけの余裕があると判断した時にしか飲んでいなかったが、その妨害を積極的に行おうとする爆豪相手だとそんな隙を探すのは困難を極めるだろう。

 蓋を閉め、ボトルをポーチに仕舞う。

 既に出力は漆式を下回らなくなってしまっている。先程伍式以下に抑えられないか試したが、無理だった。角はさらに肥大化し、模様も顔に到達しているだろう。

 

「時間が掛かる程全力に近付くってなら、時間稼ぎでもなんでもしてやる。こっちも温まってきたとこだ」

「ハッ。暴走には至らずとも、出力が上がっているのは確かだ。時間経過は決して不利という訳じゃねェのはお前も分かってンよなァ?」

「――死ね!」

「――来いやァ!」

 

 加速。

 激突。

 散開。

 跳躍。

 回避。

 追撃。

 反撃。

 先程までより一段階ギアを上げての戦闘。特にスピードという点において顕著だ。

 飯田のような勝負を決めるためのごく短時間の加速ではなく、戦闘スピードという途切れることのないもの。それは攻撃であり、移動であり、回避であり、技術であり。停止と減速、移動と加速の緩急と変わりゆく戦況への対応。

 轟と緑谷の試合のような大技と派手さによる見栄えのある試合にはならない。精々が爆炎程度しか生じていない以上、あんな風にはなる筈もない。というより煙のせいで視界は悪いまである。

 まあ俺は天閃を使っていないし、体育祭にサポートアイテムやコスチュームアイテムの持ち込みは出来ないとはいえ、爆豪も戦闘訓練のような超火力技を使っていない。お互い、威力という点においては全力は出していない。

 俺は個性の進行を早めないため、爆豪は知らね。まあ撃たない理由は使い所を見極めている以外にもあるだろう、ということしか分からない。

 酒を摂取するのが厳しくなった以上、天閃は迂闊には使えない。回復するからと使い過ぎると、一気に暴走までのカウントダウンが進んでしまうからな。普通に考えて壊れた腕を戻してるのだから、相応に出力は上げないといけないのは当然だ。基本酒を飲んで誤魔化しているだけで。

 腕を掴んで腹を蹴り上げ、浮いた身に掌打。転がる身を綺麗に立て直し、すぐに迫りくる。カウンターとして蹴りを入れようとすると、器用に躱して爆発を食らった。咄嗟の防御は間に合ったものの視界が煙に包まれる。音で大まかに距離と方向を推測して追撃を警戒……ビンゴ。しかし反撃は当たったものの、クリーンヒットには程遠く、爆発で俺の頭を越えるように縦回転で一瞬だが後ろを取られる。

 裏拳で打ち払うように振り向くが、しっかりと受け止め、いや逆方向への爆発で相殺? 何故だ。身体強化に近しい俺の個性の前で、わざわざ受け流すではなく受け止めたのか。苦悶の表情を浮かべてまで止めた意味。肉弾戦において距離を取り直さない意味。何が狙いだ。何をしようとしている。小規模の爆発。自分もろとも大爆発? それじゃあ耐久性能や回復力で勝る俺の有利になるだけ。なら攻撃とは考えにくい。至近距離。非攻撃。爆破の性質。

 つまり。

 

「……目潰し!」

閃光弾(スタングレネード)!」

 

 閃光。

 音はそうでもない。相応の爆発程度。だが光量がマズい。完全に今この瞬間は視界が機能しない。段々と収まってきてはいるが、これにも俺の耐久力や回復力の効果があるのか、それとも普通の速度なのか直接的な傷がない以上判断がつかない。自分も同じだけの光に包まれていた筈だが、予め予測出来ていたかどうかってのは結構結果に関わってくる。片目を塞ぐ、ないし瞑っておくだけでも爆豪側なら十分だ。

 ステージ上での自分の立ち位置は凡そ把握している。境界線際は背後からの攻撃を気にしなくていいというメリットはあるが、ふとした時に場外に出かねないという危険を捨てる程のものではない。ならば立つべきは中央。

 およその当たりをつけて移動し、地面を這うような体勢に。アナウンスがないということはミスって場外側に出たということもなさそうだ。

 一度、足音。同時に爆発音。

 音の発生源に目を向けるが、多少回復した程度の視界では見える筈もなく。

 連続、しかもかなり短い間隔。

 

「ここで使う予定は無かったんだがよ……」

 

 研ぎ澄ませた聴力が爆豪の言葉を捉える。掻き消すように音を、つまりは威力を増しているのであろう爆発が近付いてきている。

 おおよその距離を推測。方向をやや右、そして上に微調整。接触までの時間を計り、タイミングを見極める。迫るスピードは多少速くなっているか?

 

榴弾砲(ハウザー)――」

 

 立ち上がる。視界は大分回復したが、結局爆煙で見通しは悪いし普通にチカチカする。まあ見えないよりはマシか。

 音が迫る。空気の流れが出来上がっている。

 音のブレ方でどういう風な攻撃かはある程度察した。あとはそれに合わせるだけ。

 …………。

 ………。

 ……。

 

「――ガアァッ!!」

「――着弾(インパクト)!!」

 

 距離と回転で威力を上乗せした一撃と、カウンターとして放った右の回し蹴り。

 大爆発。

 吹き飛ばされる。だが、()()()()()()()()()

 蹴りにも手応えはあった。だが見えなかった以上、分からない。

 結果は。

 

 

 

 

 

     ◇◆◇◆

 

 

 

「榴弾砲――着弾!!」

 

 会場を炎と煙が包み込む。

 『榴弾砲着弾』。爆豪が考案していた対相間の近接戦闘能力であり、対轟の氷結と火炎のための大技。決め手である以上使い所は見極めねばならず、またなるべくなら手の内を明かさないという意味もあって決勝の轟戦にまで取っておきたかった切り札の一つ。

 近接が得意。というより基本近接しかできない相間の相手をするにあたって、自らも同じ土俵に立つのは悪手だ。だが敢えて爆豪は近接にもある程度付き合うことを選んだ。

 それは保険。

 もし、榴弾砲着弾を使わないといけないと判断した時、確実に当てるための布石。

 目眩ましで視界を潰し、回避の選択を潰した上で十分な威力を乗せた一撃。反動で暫く爆発を起こせないだろうが、確実に場外にまで吹き飛ばすか戦闘不能にさせる程の威力。

 

『ここにきて爆豪決めに来たー! 麗日戦で見せた特大火力に勢いと回転を加え、まさに人間榴弾!!』

『先に閃光で目潰しをしている辺り、身体能力に優れる相間への対策を考えているのが見受けられるな」

『さてさて、煙も晴れてきた! 結果はー……マジかよ』

 

 だが、ただ一人、爆豪本人だけは、まだ勝負が終わっていないことを悟っていた。

 煙が晴れた先、境界線ギリギリだが、それでも彼は、まだステージに立っていた。

 カウンタ―で蹴られた個所が酷く痛む。反動のせいで腕も痛み、爆発が起きない。

 攻撃が当たるあの瞬間、相間は迎撃に成功していた。

 身体能力が高いから閃光弾というワンクッションを挟んだが、爆豪の否、本人以外のこの試合を見ていた全員の想定以上に彼の五感強化の恩恵は大きかった。それこそ、視界の八割以上を奪われた状態でもカウンターを決める程度には。

 その所為で榴弾砲着弾の狙いが逸れ、直撃には至らなかった。それ故、吹き飛ばされはするものの、相間にとっては耐えれる程度にまで威力は落ちていた。

 そもそもの話。榴弾砲着弾は着弾方向に炎が拡がる。ならば、会場全体が包み込まれるという事態が相間に直撃していたのならば有り得ない。

 とは言ってもやはり完全に防いだ、もしくは躱したという訳ではなく、雄英の上半身分のジャージは今の大爆発が決め手になったのかボロ雑巾同然なまでに至る所が燃えるか破けるかの状態で、下に着ていたらしきインナーも破け素肌が見えてしまっている。

 一見して怪我はない。だが回復性能を考えれば、なんら不思議ではない。

 身体中を走る紅い紋様に一回り以上大きく、長くなった角。まるで血管のような紅は、既に顔の七割程度を埋めている。

 肩で息をするその姿に多少のダメージは見受けられるが、逆に言えばその程度しか分からない。

 しかし、それでいい。

 

「フーッ……フーッ……」

 

 その荒げた呼吸は、なにもダメージの所為だけという訳ではあるまい。

 ()()()()()()()()()()()()動かない相間を見て、爆豪は確信する。

 

「……限界なんだろ。こっからが本番だ。テメエをぶっ殺して、俺が一位になる!」

「は、はは、まだ行けるさ。まだ、手放してね、え……?」

 

 ふと、相間が自分の胸元に手を当てた途端、動きが止まった。

 何かを探すようにペタペタと身体中を触り、見当たらないのか、表情がどんどんと焦りと絶望に染まっていく。

 そして爆豪もまた、この場にそぐわないあるモノを発見していた。

 それは偶然だっただろう。相馬の元から離れるのも。留め具が壊れてしまったのも。爆豪の近くに落ちたのも。先に爆豪が見つけたのも。

 会場の光を反射して、きらりと光るモノが足元に落ちていた。

 拾い上げればそれは、千切れたチェーンと、ネックレストップとして使っているのかシンプルな指輪が二つ。

 

「ンだコレ……?」

「っ! 返せ……ッ!」

 

 投げ捨てた。

 爆豪のものではない以上、それは相間が身に着けていた物か、もしくは可能性は低いが前の試合をしていた誰かが落としたものをセメントスが気付かずそのままにしてステージを補修してしまったかだ。

 どっちみち、爆豪には関係ない。誰のものであれ今この瞬間においては不必要であるし、試合か体育祭そのものが終わった後にでも誰かが拾うだろう。

 持っていても仕方ない。そもそも興味がない。

 だが。

 当の持ち主本人にとっては違う。

 彼も理性では分かっている。ここでわざわざ追う必要は無い。試合を終えた後に拾えばいい。大きさが大きさだが、捜せばすぐ見つかる程度のものである。だからこうして飛び出す必要も、手を伸ばす必要も、爆豪すら無視して追い抜く必要もない。

 ああ、だが、それでも。

 身体は勝手に動いてしまった。

 

「………………あ?」

 

 いつの間にか目の前から相間が消えていて、と思えばすぐ後方から激突音と破壊音がした。

 呆けた顔と表情で振り向けば、そこには何かを大事そうに抱えるような姿勢のまま会場の壁に激突して瓦礫の上で倒れる相馬の姿が。

 手の中にある『何か』を見て、ひどく安堵した表情を浮かべる相馬がいて。

 彼が立ち上がり、自分を見つめる爆豪を見て何かに気付いたような表情の後にバツが悪そうに目を逸らして、

 

 そこで爆豪の堪忍袋の緒が切れた。

 

「テ、ッメェふざけんじゃねえ!!」

「……」

「言ったよな!? 俺が獲るのは完膚なきまでの一位なんだよ! 本気のテメエをぶっ殺さないと意味が無えんだよ! 大技も使った。決着は付かなかった。オメエも本気の一歩手前だった! だってのに、その結末が()()()だと!? 馬鹿にすんのも大概にしろやぶっ殺すぞ!!」

「…………悪い」

「謝るな! 俺が求めるのは謝罪ではなく決着だ再戦だ! こんな勝負は認めねえ。徹底的にお前を殺し尽くす!」

 

 辛うじて残っていたジャージの胸元を掴み、今まで以上に、そしていつも以上に激情を露にする爆豪。

 相間もその怒りは正当だと理解しているためか、他に何を言うでもない。

 だが、どれだけ爆豪が熱くなろうと、相間の行動の真意が分からずとも、ルールはルールである。

 

『相間君場外! 決勝戦進出は爆豪君!』

「ふざけんな! こんな決着認められるか! もっかい、コイツをブッ飛、ばし、て……」

 

 辺りに独特の匂いが立ち込める。

 それはミッドナイトの個性による吸ったものを深い眠りへと誘う香り。感情的になった爆豪を鎮めるため、彼女は自身の個性を使用したのだ。

 

「取り敢えず二人を医務室へ。目立った怪我は見当たらないけど、あのレベルの戦闘だったし、一応診てもらって」

「ありがとう、ございます、ミッドナイト。了解、しました」

 

 え、と困惑の表情を向けるよりも前に、ふらふらと相間は自分の足で会場を後にしていった。

 スキットルボトルを取り出し酒を口にするその後ろ姿は、どこか小さく感じた。




爆豪vs相間の試合開始前後の緑谷
「相間君の個性は異形型個性だけどある程度発動型の個性の特性もあって十段階に自分の個性の出力を変えれるらしいけどUSJみたいな暴走状態についてはよく知らないんだよねでもかっちゃんなら多分それを使えみたいなこと言うだろうしあ試合が始まったかっちゃんの爆発は確かに便利だし強力だけど相間君の防御力も相当だ傷もすぐに治ってしまうしいくらスロースターターなかっちゃんの個性といえど攻めきれないんじゃジリ貧だでも肉弾戦闘しか相間君はできないみたいだし相性は悪くないネックになるのはかっちゃんの攻撃力と相間君の耐久力やっぱり相間君の個性はその威力や見た目もそうだけど一番凄いのはその耐久能力と回復能力だよね敵を倒すのもそうだけど倒れないってのはそりゃ当然大事な訳で――」
麗日「デクくん、こわい」

試合中盤頃の緑谷「お酒を飲むのを妨害した……?かっちゃんはその意味に気付いてるってことなのかないつも飲んでることに異形型個性であることそれに今までのよく飲むタイミングはあったあった書いてあるねふむそう考えるとやっぱり個性の出力を意図的に抑えるために飲んでるって線が一番濃厚かな今度聞いてみよう二人共個性の威力が増してきているし相間君も分かり易く見た目に出てる遠目じゃ気付きにくいけど明らかに角が大きくなってる戦況は相間君がちょっと有利だけどさすがかっちゃんそのタフネスさは凄いなあまだまだ状況はわからな―わまた二人共出力が増したみた――」
麗日「デクくん、こわい」

決着後の緑谷「自分から飛び出したように見えたけど、一体何だったんだろう?」
麗日「デクくんが普通に喋ってる……!?」
緑谷「僕普通に喋れないと思われてたの!?」
耳郎(独り言の自覚ないのかな)

 
 爆豪と相間が戦って相間が普通に負ける様子が想像できなかったので自滅していただきました。
 納得いかない点は多々あるでしょうが、↑でも言われている通り相間の個性の真骨頂は実は耐久力の方なんですよね……最後のも含めて。
 実力不足で爆豪の強さを上手く引き出せなかったのが今回の悩み。戦闘能力(才能だとかセンスだとか諸々)が主人公ずば抜けているとは言え、爆豪も普通に頭一つ抜きん出ている訳で。近接で戦わせたから近接得意な主人公が動けるのは仕方ないとは言え、もっと拮抗させたかった。

 それでは次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。

 主人公自身把握していない主人公の個性。

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