鬼よ、己が道を往け   作:息吹

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ヒーロー殺し 後日談

 一夜明け。

 現在俺含めたあの場でヒーロー殺し、敵名ステインと交戦していた四人は保須市内の総合病院にて入院する羽目になっていた。

 俺以外の三人は少なからず、特に近接戦闘主体の緑谷や俺らが合流する前に接敵していた飯田なんかは怪我の具合もそれなりに酷く、さもありなんといったところ。

 俺は自前の治癒力があるので怪我らしい怪我なんて無いんだが……まあ、今回の件の中心人物を一纏めにしておきたいのだろう。

 事実、数刻前に警察署長の方が俺らを訪ねてきた。

 要件は勿論、ヒーロー殺しの件……正確には、その戦闘における俺らの個性使用――資格未取得者がプロヒーロー管轄外での個性使用、及びそれによって危害を加える形となってしまったことについてだった。

 俺はまだマシだ。事件発生時、一応俺は個性使用を認められている。と言っても、それは避難誘導や万一の際の防衛手段としての許可であり、今回のような積極的な戦闘での行使は流石にアウト。他三人は話を聞く限り、そういった許可を貰うことなくほぼ独断専行に近い形であの場に居合わせたらしい。当然こっちもアウト。

 加えて各々の管理者であったプロヒーロー達にも、相応の処罰が下されなければならない……筈だった。

 だが今回は相手が相手だったことや、現場の目撃者が極めて少ないことなど、いくつかの要因が組み合わさって内内に揉み消してしまえるという話だった。

 エンデヴァーを功労者として擁立し、署長曰く『偉大なる過ち』を隠蔽する。それでもプロヒーロー側は管理不行届の責任を負うことは避けられないし、俺らへの称賛の声もなくなるだろう……が、元より後者に関してはさして重要視している訳でもなし。全員で頭を下げてお願いすることとなった。

 

「つー訳で暇でよお。個性上怪我なんてないのに、ことがことだから未だ病院から出られねえ」

『だからって何でウチに電話かけてくんの。いや今はお昼休憩中だけどさ』

「おう、狙った」

『悪質!』

 

 んー日常。

 ステインとの対峙以来色々と思い悩んでいるんだが、こうした時間はその諸々を一時的にでも頭から離れさせてくれる。

 

『まあでも、無事でよかった。アンタは確かに強いけどさ、ニュース見て、アンタ達の名前が流れてきた時は流石に、こう、冷えた。肝が』

「ン、ご心配どーも。他の面子はまだ検査中で詳しくは分からんが、少なくとも命に別状はねえよ」

『そっか……正直、相間なら、そしてアンタがいるなら無事だろうとはちょっと思ってたところはあったんだけど、電話越しでも改めてちゃんと声が聞けて安心した』

「俺も、お前さんの声が聞けてなんか気持ちに一段落ついたわ。どうにも落ち着かなくてな」

『相間でもそういうことあるんだ』

「俺を何だと思ってるんだ」

 

 だって、から続く言葉はごにょごにょとしか聞こえなくて何言ってたのか分からなかった。

 別に俺だっていっぱしに緊張することもあれば、普通に浮足立つこともある。今回は、何だろう、昂り? まだ微妙にあの時の闘争状態が抜けきっていないのかな。

 視界の端で同じように誰かと電話していた緑谷にひらひらと手を振って見送る。

 俺もそろそろ戻るか。

 

「んじゃそろそろ戻るわ。悪かったな、付き合わせて」

『いいよ、別に。お大事に……って言うのも、アンタにはちょっと変な話だけどさ。お互いこうして時間合うかも分かんないし、次は諸々終わって、学校でかな』

「かもな。ン、じゃあな」

 

 別れの言葉と共に通話を切る。

 病室への道を戻りながら、ステインが最後に見せた執念と威圧感を思い出す。

 アイツにはアイツの、一本筋通った正義があった。正義、と言うと語弊があるか? 信念と言い換えてもいいだろう。

 別に全部が全部を肯定、賛同する気はない。どうあれ、その信念を貫くために他者を害すること是とした時点で彼は敵にしか成り得ず、いずれ討たれる運命にあった。

 だけども。

 だけど、『真のヒーローを求める』という点、それを為すために執念で立ち上がったあの瞬間、間違いなく俺は興奮の頂にあった。

 何が、どちらが琴線に触れたのかは正直分からん。その思想か、立ち上がったその姿なのか。そしてその後すぐに気を失ってしまっていたことに対して少なからず落胆を覚えていた。

 何だ? この思考の源流はどこで、どれだ? 思い返せる記憶の中にあの状況で興奮や悦楽を感じるようになるようなものは存在しない……と思う。あくまで思い返せる内だし。

 まるで思考が、いや人格か? それが二つに分かれているような感覚。と言っても気持ち悪さはない。この謎の情動もまた俺の一部だ。

 いやその俺の一部が別のものに挿げ代わってるようなものなのか?

 これが褒められたものではないというのは分かるんだが、それは論理的思考の結果であって、感情面ではどうにも受け入れちまってるんだよなあ。

 んー、と思い悩みながら病室の部屋を開けると同時、結構デカめの笑い声を浴びせられた。

 

「あっははは! と、すまない、相間君」

「いや元気なのはいいけどよ、何があった?」

 

 笑ってるのは飯田と、表情だけだが緑谷。轟だけが妙に沈痛な面持ちだ。

 はて。

 

「珍しく轟君が冗談を言うものだから、つい……」

「冗談なんかじゃねえ。こう、ハンドクラッシャー的な存在に……」

「「ハンドクラッシャー!!」」

 

 ぶふーっとついには二人揃って噴き出しているが、いまいち話の流れが分からん。

 おーん???

 

 

 

 

 

     ◇◆◇◆

 

 

 

 

「かははははは!! マジか、マジか爆豪!!」

「笑うな……! クセついちまって洗っても直んねえんだ……おい笑うな、ブッ殺すぞ……!」

「やってみろよ8:2坊や! アッハハハハハ!!」

 

 そこには切島、瀬呂と共に大爆笑する俺の姿が。

 視線の先には綺麗に8:2に髪を整えられた爆豪。確か彼の行先はベストジーニストだったか。一体何があったのやら。

 ……あ、戻った。

 無事襟首掴まれてシバかれている二人を尻目に席に戻り、落ち着く意も込めてボトルを一口。

 

「や、おひさ」

「おう、あれ以来か。そっちはどうだったよ」

「一応敵退治に参加させてもらったんだけど……後方支援や避難誘導とかで、実際に交戦はしなかったよ」

「本来は俺もその程度の筈だったんだろうけどな。巡り合わせが良いのか悪いのか」

「いやどう考えても悪い方でしょ」

 

 個人的には相手の善悪は置いておけば、直接相手したことに相当に価値はあったと思っているんだけどな。

 まあ一般的には凶悪殺人犯との相対なのだから、悪い方か。笑って誤魔化しとこ。

 他にも妙な呼吸法を身に付け何かに目覚めた麗日や、女性の闇を見てしまったらしい峰田など、各々色々な体験をしてきたらしい。

 爆豪は知らん。何があったらあの髪型になるんだ。

 

「ま、一番変化というか大変だったのはお前らだな!」

 

 そういう上鳴が俺から順に固まっていた緑谷、飯田、轟へと視線を動かす。

 

「そうそうヒーロー殺し!」

「……心配しましたわ」

「命あってなによりだぜ、マジでさ」

 

 他の面々も口を揃える。

 今回のこの件、対外的にはあの場に居合わせたエンデヴァーがステインを討ち取ったことになっており、俺らは()()襲われていた現場を発見、交戦となり、そこから退避しながら時間稼ぎをしていたということになっている。俺は俺で一応の個性使用許可があったので、直接戦闘ことこそ公表されていないが俺の個性を知る者からは前線に立って相手していたと認識されているみたいだ。だからこそ他の三人や襲われていたヒーローを退避させれるだけの時間稼ぎが出来ていたと思われている訳だ。

 俺の個性がそうした直接戦闘に向いた個性であることは調べれる立場の人からすればすぐに分かる。公にはしないが隠す必要もないってことだ。

 嘘を信じさせるには、九割の真実の中に一割の嘘を混ぜる、みたいな話しな気もするがな。

 

「オメーも大健闘だったってな、相間!」

「元よりそういうことの方が得意な個性だ。相手の個性も俺とは相性が悪かったみたいだしな」

 

 しれっと。

 まあ今の言葉自体は嘘じゃないとはいえ、言えるような内容でもなし。許せ。

 

 

 

 

 午後の授業も終わり、着替え中。

 今回の授業内容は担当したオールマイトの言葉をそのまま借りるなら『救助レース』。運動場γとかいう工業地帯を模した場所で行われた。5人1組で区域内のどこかにいるオールマイトを見つけ出し、辿り着くというのを競った形だ。

 まあ見つけ出すと言っても、定期的にゴール地点のオールマイトがブザーを鳴らして場所を知らせていたので、実質ただの障害物競走に近い。

 曰く、職場体験直後だからに遊びの要素を取り入れた、ってことらしいしな。各々どう成長したのかを見るって言う教育者的な立場によるものもあるだろうが、そう緊張感の要されるようなものではなかった。

 敢えて目を惹くものがあったとするならば、緑谷だろうか。

 自身の強化系の個性の使い方でも会得したのか、今まで局所的な0か100かの使い方だったものを薄く全身に行き渡らせるように使っていた。結果として壁やパイプのような細い足場も着地点にして立体的かつそれなりの速度の機動力を得た訳だ。

 と言っても、その個性が全身にも作用させることができるというのならいずれ辿り着くようなもの。寧ろその個性を持ちながら今までが()()だったのがおかしいレベル。引き続き頑張ろうな。

 俺はと言えば普通に、順当に結果を残した。

 緑谷と同じように、個性で身体能力上げて、上からゴールへ一直線。現状身体能力の一点で言えばまだまだ俺は他よりも上だ。そういう個性だし。今の緑谷もまだかな。

 

「おい、やべえことが発覚した!! こっち来い!!」

 

 ン、なにやら峰田が。

 

「見ろよこの穴ショーシャンク。恐らく諸先輩方が頑張ったんだろう! 隣はそうさ、分かるだろう!? 女子更衣室!!」

「峰田君止めたまえ! ノゾキは立派な犯罪行為だ!!」

「オイラのリトルミネタはもう立派なバンザイ行為なんだォォ!!」

 

 誰が上手いこと言えと。

 けどまあ止めるかァ。八百万の胸がどうとか、葉隠の下着がどうのと興奮しているが、飯田の言う通り普通に悪質な行為だ。

 というかただでさえ穴が通じているというのに、そんな距離が開いている訳でもないお隣同士。これだけ騒いでりゃ向こうにも聞こえていると思うがね。丁度耳郎というそういうのに長けた個性持ちもいるし。

 

「ほら、そこまでだ。言葉にするのはともかく、行動に移すのはアウトだろうよ……いや口にするのも大概だな?」

 

 壁に張り付いていた峰田の頭を鷲掴みにして引き剝がす。

 

「止めてくれるな相間! お前も気になるだろ!? 隠さなくていい、男なら誰だってそうだもんな! これは男の夢と浪漫の詰まった行為なんだよ!!」

「詰まってるのは煩悩と欲望だろうに。それに、女性の魅力は豊満であることばかりじゃないだろうさ。細身で引き締まっているのもそれはそれでいいものだぞ。こう、ササミみたいで美味そうだ」

「……え、ガチの食人(カニバリズム)の話してる?」

「何言ってんだ?」

 

 あれ、他の奴らからも何やら視線が。何か間違えたかな。

 別に豊満であることが魅力的であるというのを否定している訳ではないんだけどな。それもそれで食べ応えがありそうだし。

 そういう話じゃないのか?

 

「……スマン、ちょっと冷静になったわ」

「おう、そうか。そりゃ良かった。じゃあ俺も着替えに戻るわ」

 

 実はまだ上裸なんだよね、わはは。

 どことなく気落ちしたような峰田だったが、まあこの調子ならまた懲りずに覗くようなことはせんだろう。一応聞こえていると信じて声は掛けとくか。

 

「おーい、そっちも聞こえてたんだろー? 返事しなくていいから、一先ず八百万辺りに頼んでそっちで穴塞いどいてくれー」

 

 向こうからポスターなりなんなり貼っとくだけでこっちからは見えなくなるだろうからな。わざわざ確認するようなことはできないけども。

 後は先生のだれかに報告してしっかり塞いでもらえばそれでいいだろう。

 

「い、一応聞いとくけどよ」

「?」

「お前、好きな食べ物、何?」

「んー……酒。いや食べ物か。なら酒に合う料理とか、つまみとかかなあ」

「じゃ、じゃあ、女性の好みは……?」

 

 え、何急に。なぜ唐突にそんな思春期みたいな話振られてんの、俺。

 世間一般的に高校生は十分思春期だったわ。

 

「何だよ突然……女性の好みねえ。考えたことねえな。まあ、第一印象は顔じゃねえ?」

 

 結局最初に目に付くのはそこな訳だし。

 内面がどうのこうのって話はまずそれを知るだけの仲になるところからだしな。その時にその人の最初のイメージを形成するのは姿形な訳で。余程特筆するレベルなら体型もあるだろうが、やっぱ顔や表情の方がそういった要素が作られやすいだろう。

 といっても第一印象。別に顔の美醜に関わらず、ソイツと関わっていくのなら必然内面を知ることもあるだろうし、見た目ではなく言動でそれが変わっていくこともあるだろう。

 そういったことを加味した上での好みと訊かれると……なんだろうな。

 

「……悪いが思い付かねえなあ。取り敢えず、好きなった奴が好みだったってことでいいか?」

「お、おう。ちょっと安心したぜ」

 

 何に?

 内心首を傾げつつも、手早く着替えを終わらせる。色々とパーツの多いコスチュームだが、いい加減に慣れてきた。

 

 

 

 またある日のHRにて。

 

「えー……そろそろ夏休みも近いが、勿論、君らが30日間、一ヵ月休める道理はない――林間合宿やるぞ」

「「「知ってたよ! やったーー!」」」

 

 そうか。そういや学校行事の年表にそんなの書いてあったような。

 いい加減冬服の制服も鬱陶しくなってくる時分。クラス内の一部面々もカッターシャツで袖を捲っているような頃のことだった。

 

「肝試そー!」「風呂!」

「花火」「風呂!!」

「カレー……だな!」「行水!!」

 

 好き勝手まだ見ぬ未来への展望を口にする者もいれば、

 

「自然環境ですと、また活動条件が変わってきますわね」

「いかなる環境でも正しい選択を……か。面白い」

「湯浴み!!」

 

 真面目に授業の一環として捉えている奴もいた……何か混じってなかったか?

 

「風呂……温泉? 星身酒もしくは月見酒in温泉……!? 風流の極みか……!?」

「今までにないくらいテンション上がってるじゃん。俺びっくりよ」

 

 ちなみに俺は前者側だった。なんか瀬呂が言ってるが聞こえなーい。

 一人暮らしじゃ浴槽の大きさなんて高が知れてるし、街中じゃ星も見えない。両方なんてもっと無理。そういうのを売りにした施設も探せばあるのだろうが、まあ高校生には手が出しにくいだろう。

 それが叶うかもしれない、だと?

 あ、でも別に温泉とは決まった訳じゃないか。早とちり早とちり。でも『林間』合宿って言うくらいなんだし、人工物の光に照らされた空よりは余程澄んだ夜空が見えると思いたい。

 

「ただし」

 

 相澤先生の言葉に一瞬で静まり返る教室内。この辺ももう慣れたもんだ。

 

「その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は、学校で補修地獄だ」

「皆頑張ろーぜ!」

 

 まあすぐ騒がしさが戻るのもご愛敬ってね。

 どうにも勉強が苦手らしい切島や上鳴が騒いでいるが、相澤先生は話を遮るとか、その結果話を聞かないということにこそ注意をするので、話も終わった今はこの程度ならスルーのようだ。

 期末試験……まあ、なんとかなるだろ。

 グイっと一口、酒で喉を潤した。




 タイトル通り、後日談兼次までの小休止なので短め。

 ちょっと場面転換が多いのが気になりますが、原作だと一話挟んでの内容だったり、OFAの話があった後の数ページだったりなので仕方ないかといったところ。

 それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。

 演習試験はなんとなーく考えているんですが、合宿の方なあ……
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