鬼よ、己が道を往け   作:息吹

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 ということで原作に戻ってきました。

 やっぱりヒロアカって名前が大きいですね。二話しか投稿してないのに、もうお気に入りに登録してくれる人がいらっしゃるとは。
 ヒロアカというだけでお気に入り登録してる人がいても不思議ではない。

 この話で単行本一巻の内容がほぼ終わる筈です。

 それでは、どうぞ。


個性把握テスト

「実技総合成績出ました」

 

「救助Pゼロで一位とはなあ!」

 

「仮想敵は標的を捕捉し近寄ってくる。後半、他が鈍っていく中派手な個性で寄せ付け迎撃し続けた。タフネスの賜物だ」

 

「対照的に敵Pゼロで八位」

 

()()に立ち向かったのは過去にもいたし、他の会場にも一人いたけど……ブッ飛ばしちゃったのは久しく見てないね」

 

「思わずYEAH! て言っちゃったからな――」

 

「しかし自身の衝撃で甚大な負荷……まるで発現したての幼児だ」

 

「妙な奴だよ。あそこ以外はずっと典型的な不合格者だった」

 

「細けえことはいいんだよ! 俺はあいつ気に入ったよ!」

 

「YEAH! って言っちゃったしな――」

 

「そして、()()に立ち向かったもう一人……」

 

「点数自体はやや敵Pに偏ってはいるが、それでも次席合格。行動を見るに、一位も狙えるポテンシャルはあるように思えるけど」

 

「狂気、狂気か……雄英(ココ)に志願した人がヒーローをそう称するなんてね」

 

「戦闘センスや能力は一位と比べても遜色ない。()()と真正面から殴り合いをしたのも、それはそれで凄いわ」

 

「思わずYEAH! って言っちゃったもんな――」

 

「(…………ったく、わいわいと……)」

 

 

 

 

     ◇◆◇◆

 

 

 

 

 春。

 入試の時に借りていた部屋を再度借りる形で、俺は地元から上京して独り暮らしをすることになった。

 ただ、俺離れが出来ていないらしき母親曰く、「そのうち私も行く」だそうだが。うん。いやまあ日常生活の負担が減るのはいいのかもしれないけど、我が家の場合は増えるんだよなあ……あの寝ぼすけめ。

 何の仕事をしているのかも判然としないウチの母親なら本当にこっちまで引っ越ししかねないので、それはそれとして諦めるのが早いかもしれない。

 

「んー……」

 

 忘れ物はないだろうか……ないな。ない、筈。

 スキットルボトルも十分量あるし、指輪のペンダントも着けている。今日は入学式やガイダンスだけだから教科書の類は必要無いだろう。

 でも、その筈なのに何でコレが必要なんだろうか?

 疑問に思いつつも、携帯用のウエストポーチを入れるために若干大きめのリュックを背負って家を出る。

 

「行ってきます」

 

 一言、そうとだけ言い残して。

 

 

 

 

 道中のコンビニでグミ系のお菓子とキャンディー系のお菓子を買って、電車に揺られること数分。まだまだ見慣れることのない校舎を真正面に見据えながら、校門をくぐった。

 合格通知の後に送られてきた書類によれば、俺のクラスは1-Aになるらしい。

 まだ人気の少ない廊下を、教室を探しながら練り歩く。

 つーか無駄にでけえ。いや、無駄ではないのか。個性上、その身体が大きくなってしまう個性だって無い訳ではないだろう。そういった人達向け……だと思う。それに、そもそも広い。講堂の規模や、実技試験会場が敷地内だっていう話だ。そりゃ本校舎も相応に広くなるのかもしれない。

 まあ、だからこの教室の扉もやけにデカいんだろうな。

 ようやく見つけた目当ての教室の前、見上げる程に大きな扉であった。

 

「これもある意味バリアフリーの一種……なのか?」

 

 片引き戸の扉を見上げつつ、取っ手に手を掛ける。

 小、中学のように見慣れた友人達が居る訳ではない。色んな所からこの難関校、雄英高校に受かった初対面の人達。緊張が無い訳ではないが、元来の性格か、そこまで気にもしていない。

 大方いつも通り、ってことだな。

 

「お? よう、お早うさん。初めましてだよな?」

「ん? ああ、初めましての筈だ。えーっと……?」

 

 ガラガラと扉を開けて教室に入ると、真っ先に赤髪の男子が話しかけてきた。

 うーむ。何となく感じる暑苦しさ、もとい、熱血っぽさ。初対面の俺によくそんな笑顔で声を掛けれるものだ。

 

「悪ぃ、自己紹介がまだだったな。俺は切島。切島鋭次郎。まあ好きに呼んでくれや」

「よろしく、切島。俺は相間或鬼、俺の方も好きに呼んでくれ」

「おう、よろしくな! 相間!」

 

 手を差し出されたので、掴むと、力強くブンブンと握手された。

 いっそここまで真っ直ぐな奴だと好感が持てる。根っからの好い奴なのかもしれないな。

 教室はまだ人の数が少なく、切島と俺を含めても五人といない。そして切島がこの性格だからか、自然全員が一塊になって談笑していて、なんとなく、流れで俺も加わることになった。

 えーっと、何だ。蛸とムササビを合体させたみたいなムキムキの腕を生やした男子生徒と、顔は地味目だけど尻尾が生えた男子生徒、そして紫っぽい肌にピンク髪、頭から触覚が生えている点ではなんだか親近感を覚える女子生徒。

 

「障子目蔵と言う。相間……だったか」

「……おう。それ、喋れるんだな」

 

 ムササビ蛸改め障子の一本の腕が伸びたと思ったら、その先端に口ができてそのまま話しだした。声帯どこにあるんだろ。

 

「俺は尾白。尾白猿夫。よろしく、相間」

「よろしく。マシラ、マシラ……猿か」

「俺の名前の漢字を音だけで分かったの君が初めてかもしれない……!」

 

 なんだか感極まっているが、アレだ。ムジナを狸、カガチやクチナワ(ハ)を蛇の別名と知ってるのと同じ感覚だ。握手の後に流れるように尻尾のフサフサの部分を触らせてもらって、最後の女子生徒に目を向ける。

 

「……やっぱり君だー!」

「俺は俺だが?」

「違う違う! ほら、入試の時! でっかいロボットぶっ飛ばしてたの君でしょ!?」

 

 近付いてからずっと俺の顔、より正確には角を見ていたので何だろうとは思っていたが、どうやら向こうは俺のことを知っているらしい。だが俺は彼女の事を知らない。誰だ。

 しかし、でっかいロボットって言うと、0P仮想敵のことか。確かに殴り飛ばしてはいたが、それを知っているということは試験会場が一緒だったのか。そりゃそういう可能性だって十分有るか。

 ピンク髪の女子生徒はその時のことを思い出して興奮しているのか、切島、障子、尾白の三人にも説明していた。

 

「彼……えっと」

「相間」

「さんきゅー! あっ、私は芦戸三奈ね。でさ、相間だけどさ。入試の時のめっちゃデカいロボット居たじゃん? 皆の会場にも出たよね?」

「ああ。俺がいた会場では、なんか誰かが一発でぶっ壊してたけど……」

「ん。切島、もしかすると俺も同じ会場かもしれん」

「マジかよ障子。偶然ってすげえ。五人中二人ずつ同じ会場かよ」

 

 どうやら切島と障子は俺と芦戸とは違う会場で一緒だったらしい。

 しかし、

 

「アレを、一発……?」

「そうそう。詳しい見た目とかは見てないんだけどよ、誰かが飛び出したと思ったら、そのままあのロボット殴り飛ばしてたぞ?」

 

 いくら全力は出していなかったとはいえ、俺が何度も殴りつけてようやく機能停止したあの仮想敵を、ワンパンだと……?

 いや有り得ない話ではない。俺の個性は増強系に近しいとはいえ、単純なパワーという点では、オールマイトのように純粋にパワーが増大するような個性と比べるとやはり少々劣る。その、ワンパン生徒も、所謂同じタイプの個性を持っていたというだけの話だろう。

 だが、理屈ではそう分かっていても、動揺を禁じ得ない自分もいる訳で。

 少し、何かが疼く感覚。

 

「それはまた詳しく聞いてみたいけど……でも相間だってあのロボット倒してたんだよ? 遠目だったけど、片腕を壊したのは見えてたもん」

「凄いな。アレを破壊したのか」

「んんん……いや、切島達が見たっていうワンパン生徒の方が凄いだろう。俺の場合は何度も殴打を入れなきゃいけなかったからな」

「つまりアレを相手に殴り『合い』をしたのか……」

「そう聞くとお前もお前でヤベえな」

 

 戦慄の表情の切島。だがどう考えてもあの仮想的をワンパンした某生徒の方がヤベえだろ。

 なんだか癖になり始めた尾白の尻尾の先端を手慰みに触っていると、新しく扉が開く音。皆が引かれるように視線を向けると、集まった視線にギョッとしたような顔をする女子生徒。

 その顔はどこかで見たことあるようなボブカットと心電図のようなハイライト。三白眼に、耳たぶから伸びるイヤホンのような……

 

「――お」

「――あ」

 

 向こうも俺を認識したのか、ほぼ同時に素っ頓狂な声を上げた。

 

「耳郎! おお、やっぱ受かってたのか!」

「相間じゃん! そうだとは思ってたけど、アンタも合格か!」

 

 素直に喜ばしい。

 オールマイトの総評が入っていたあの映像の中で、なんとなく耳郎が合格しているようなことを匂わせる発言はあったが、直接彼女の姿を見ると安堵のようなものが込み上がる。袖振り合うも他生の縁。ちょっと話しただけだが、顔見知りがいるのは嬉しいものだ。

 耳郎も耳郎で嬉しそうに顔を綻ばせてくれている。荷物を適当に近くの机に置き、俺らの輪に入ってくる。

 

「んと、知り合い?」

「いや、全員初対面。そこの女子生徒は俺のことを一方的に知ってたみたいだが」

「芦戸三奈でーす! だってあんなに目立ってたんだもん。そりゃあねえ」

「ウチは耳郎響香。察するに、入試会場が一緒だったのかな。もしそうならウチとも擦れ違ってたかもね」

「えー! まさかの三人目!?」

 

 ……俺は見逃さなかったぞ。芦戸の目が一瞬、『面白いもの見つけた』とでも言うように光ったことを。その目には見覚えがある。具体的には、中学時代に俺がいつも身に着けているペンダントを、厳密にはペンダントトップにしている指輪のことを知った時の女子の目とほぼ一緒だった。

 経験上、その目をした女子との会話はロクな事にはならない。だから咄嗟に先程まで話題にしてた入試の時の話を振ったんだ。

 そして偶然にも耳郎がその話題に乗ってくれたお陰で、変な勘繰りを入れられずに済んだ。

 それから順に障子達も自己紹介を終え、他のクラスメイトが来るまでの間、しばし話に花を咲かせていた。

 ただ、入ってきた時間的な理由なのか、なんとなく二つに話題が分かれ、俺と耳郎、切島や芦戸達の四人というように微妙に人的にも分かれてしまった。まあすぐそこに居るんだし、グループができたと言う程のものでもないのだが。

 そして俺と耳郎とになったとなれば、自然と話すことはあの入試以降のことになる。

 

「オールマイトの総評で何となくそうじゃないかとは思ってたが、いやなに、嬉しいもんだ」

「何でアンタが喜んでるのよ。それに、合格と言っても下から数えた方が早い順位だったし。っていうか、順位で思い出した」

 

 苦笑気味だった耳郎が、急になにやら恨みがましい目線に切り替わる。

 

「アンタしれっと次席合格してんじゃん。入試の時は、自分も分からない、みたいなこと言ってたくせに。騙しやがって」

「騙してはないだろう。それに合格ラインの点数も分かってなかったし、救助Pの存在もあの時は知らなかった。どれだけ点数があったところで不合格の可能性はあっただろ」

「うっさい。そんなことはこっちも分かってるし」

「じゃあ何故俺はプラグをプスプス挿されなきゃならないんだ……」

 

 制服の上からとはいえ、肌に直接感触はある。しかし傷も痛みもない。割と真面目にこのプラグ部分どうなってんだろう?

 コード部分を掴み、まじまじと観察する。

 

「へっ?」

 

 ふむ。形状自体はイヤホンプラグと殆ど一緒。血の跡もないから、『挿す』ならぬ『刺す』ではない様子。

 コツン、と指先で弾いてみる。

 

「うひゃっ」

 

 ほうほう。割と硬質。だが金属程ではないような気もする。正確に硬度の差なんて測れないからあくまで感覚だが。

 掌に挿そうとしてみると、思ったよりも簡単に挿さった。が、やはり流血もなければ痛みもない。ただ何となく触れている感触があるだけ。

 いや簡単に調べてみてるけど、余計に謎が深くなっていくなこのプラグ……

 

「い、いい加減にしろぉぉぉぉぉぉ!」

 

 耳郎の怒声が聞こえると同時、掴んでいたコードが手を離れ、もう片方と合わせて俺に襲い掛かってきた。

 軌道的に耳を狙っていると思わしきその襲撃を反射的に避けようとして、だが同時に一回くらいは食らってみたいという衝動が湧いたのでそっちに身を任せることにした。

 ぷすりと耳に異物が入り込む感覚。

 そして、爆音。

 

「……うおー」

 

 意外とうるせえ。音、というより振動が直接身体の内部に響く感覚だ……これはちょっとした新感覚。

 

「えっ? 何でそんなにけろっとしてんの?」

「え? 何かおかしいのか俺?」

「?」

「?」

 

 二人して首を傾げた。

 いや、まあ確かにうるさいとは思ったけど、そもそも入試の時のように破壊を目的とする程の音量を流し込まなかったんだろ? だったら俺が別に普通にしていようがおかしくはないと思うけど。

 だが耳郎の台詞から考えるに、どうやらそれはちょっと異常らしい。おっかしいなあ。

 考えられるとすれば、俺の個性で耐えてしまった、って辺りだろうか。いや俺の個性の防御力が、身体の中に響かせられる音、にまで対応してるのかどうか知らないけど。そんな経験今が初めてだし。

 再度、今度はそれぞれ逆方向に首を傾げ合う。

 

「……おい、なんか凄い音したけど、どうしたんだ?」

 

 いつの間にか会話が止まっていた四人の中から、切島が話しかけてくる。どうやら音は俺を飛び出して付近にも漏れ出していたらしい。反応を見るにそこまでの音量ではないようだが。

 大丈夫だと告げつつ、まあ何か耳郎の気に障ってしまったんだろうと遅まきながらに察する。

 地面に突き()したり、ぷすぷす俺に挿してくるから考えてなかったが、もしかするとコード及びプラグの部分にもきちんと触覚はあるのかもしれない。まあ自在に伸ばしてくるんだし、そっちの方が有り得る話かもしれない。

 確かに思い返してみれば、コードを掴んだ時、プラグを指弾きした時にも何やら可愛らしい声が聞こえたような気がしないでもない。

 単にちょっと時計見せてー、とか、眼鏡貸してみてよー、とか。所謂装飾品に触ってみるような感覚だったが、それならそれで確かに申し訳ないことをしたな。

 初対面で尻尾に触らせてくれた尾白とかの方が少数派なのかもしれないな。

 

「あー、いや、悪い。感覚があるとは思わなんだ」

「……せめて触るなら触るで事前に言え。っていうかあんま気安く触るな」

「なら最初から伸ばさなければ……」

「あ?」

「ナンデモアリマセン」

 

 とまあそうこうしている内にちらほらと他の生徒の姿も見えてきた。

 時間ギリギリに入ってきたボサボサ頭の男子生徒とショートボブ? の女子生徒、それに二人のちょっと前に教室に来てその時教室に居た全員に挨拶と自己紹介を果たした堅苦しい眼鏡君……あれ? よくよく思い返せば彼は入試説明の時にプレゼント・マイクに質問してた人では?

 ……ど、どうやらこの三人は面識があるらしく、扉の前で少々話し込んでいる。耳を傾けると、なにやら彼らも彼らで入試の時に何かあったご様子。合縁奇縁ってやつかな。

 あ、チャイム鳴った。

 そのすぐ後、扉の前で立ったままだった女子生徒の後ろで立ち上がる影。

 ……え、誰?

 寝袋に飲料ゼリー、ボサボサの髪に無精髭……いやホント誰。

 

「ハイ。静かになるまでに八秒かかりました。時間は有限、君達は合理性に欠くね」

「……先生?」

「……だと思う」

 

 席の指定がされてなかったので、なんとなく前後で座った俺と耳郎。すぐそこに切島や障子もいるぜ。

 ぬー、っと寝袋から出てくる先生(仮)を目に、俺らは彼の正体に当たりを付ける。発言からして教師で間違いはないと思うけど。

 しっかし声色といい、なんだか草臥れてる人だなあ……。

 

「担任の相澤消太だ、よろしくね」

 

 まさかの担任であった。

 

「早速だが……体操服(コレ)着てグラウンドに出ろ」

 

 ごそごそと寝袋の中から取り出したのは雄英の体操服。青地に白で『UA』とデザインされた服だ。

 成程。入学式やガイダンスだけの筈なのに体操服が必要だと書かれていたのは最初からこの人がその予定だったからか。納得。

 

 

 

 

     ◇◆◇◆

 

 

 

『個性把握……テストォ!?』

 

 クラスの複数人が驚いたように声を上げた。

 場所は変わって、言われた通りグラウンド。何の説明もないままここに来たが、居るのは1-Aの面々のみ。更衣室で簡易的に自己紹介は済ませたから、男子だけなら名前はなんとか分かると思う。

 

「入学式は!? ガイダンスは!?」

「ヒーローになるならそんな悠長な行事、出る時間無いよ」

「……!?」

 

 ショートボブ少女が皆の心情を代表するように相澤先生に詰め寄るが、素っ気なく返される。

 

「雄英は”自由”な校風が売り文句。そしてそれは、”先生側”もまた然り。……お前達も中学の頃からやってるだろ? 個性禁止の体力テスト」

 

 先生は携帯にも似た端末を見せる。そこにはソフトボール投げや立ち幅跳びと言った、所謂『普通の』体力テストの項目八つが並んでいた。

 

「国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けている。合理的じゃない。まあ、文部科学省の怠慢だな」

 

 嘲笑気味の相澤先生。

 だが、その言葉には頷けるものがある。

 個性社会となった現代、いくら無個性の人間が少なからず存在するとはいえ、そちらばかりを気にする訳にはいかないだろう。多数決を採る際に少数派の意見も取り入れた結果、本来の目的から遠ざかるのと似ている。

 それに、俺のような複合型含め、異形型個性の奴らなんか、使う使わないの境界線が曖昧な奴だっている。それを無視して個性禁止と言われても、自分ですら加減が分からないことなんてままあるだろう。

 

「実技入試成績トップは爆豪だったな。中学の時、ソフトボール投げ何メートルだった?」

「67メートル」

「じゃあ、個性使ってやってみろ」

 

 呼ばれた爆発ヘアーな男子生徒、爆豪は指示に従ってソフトボール投げ用の円の内側に立つ。

 つーか、しれっと言われたけど、彼が実技入試成績主席、つまり俺の上の奴だったのか。眼鏡君改め飯田に教室で『机に足を置くな』と注意されて喧嘩売ってたイメージしかねえ。

 

「円から出なきゃ何してもいい。早よ。思いっ切りな」

「……んじゃまあ」

 

 振りかぶり、

 

「死ねえ!」

 

 ……死ね?

 頭髪と同じように個性も爆発するような個性なのか、炎と風を生み出し、他の奴らの髪を揺らしながらの投擲。

 火力は凄まじく、一瞬にしてボールは空へと消えてった。が、目を凝らせばなんとか見えそうな気がする。

 しかし、実技入試のロボットの口調を思い出すな……。

 

「まず、自分の『最大限』を知る。それがヒーローの素地を形成する、合理的手段」

 

 電子音と共に今の記録が出たのか、相澤先生は端末の画面を俺らに向ける。

 そこに表示されている記録は――705.2メートル。

 

「705メートルってマジかよ」

「何だこれ!? すげー面白そう!」

「個性思いっ切り使えるんだ。流石ヒーロー科!」

 

 金髪に黒メッシュの上鳴の言葉を皮切りに、クラスが俄かに色めき立つ。

 まあ無理もないだろう。体力テストに限らず、一部見逃されている小さな部分を除けば日常生活での個性の使用は禁止されている。その抑制が無いというのだ。テンションも上がると言うものだ。

 

「……面白そう、か……ヒーローになるための三年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?」

 

 生徒達の興奮を一気に冷ますように、相澤先生の言葉が冷たく響く。

 

「よし。八種目トータル成績最下位の者は、見込み無しと判断し、除籍処分としよう」

『……はあああ!?』

 

 何が可笑しいのか笑みを浮かべる先生の言葉を一瞬遅れて理解した生徒たちが、驚きと非難を込めた叫び声を上げる。かく言う俺も、叫びこそしないものの、目を見開いてる訳だが。

 

「ど、どうしよう相間!? ウチの個性、こういったこと向きじゃないんだけど!?」

「落ち着け耳郎。多分嘘の筈だ。そうそう除籍なんてしない……と思う」

「はっきりしなよ!」

「断言できる訳ねえだろ!」

 

 近くに居た耳郎も相当狼狽えている。

 だが、それはそうだ。三百倍とかいう頭おかしい倍率を超え、ようやく入学した雄英高校を、まさか登校初日に除籍にされるかもしれないなんて、誰が予想できていただろう。

 特に耳郎のようなパッと見身体を動かすことに向かない個性の奴等の狼狽っぷりは大きい。あの服だけ浮いてる透明少女……少女だよな? 身体の起伏的に。彼女もぴょんぴょん跳ねてその身を一身に使って抵抗を露にしている。

 俺は性質が増強系に近しいから最下位とまではいかないだろうが、やはり耳郎のようなタイプの個性持ちには厳しいものがあるよなあ。

 

「生徒の如何は先生(オレたち)の自由。ようこそ、これが――雄英高校ヒーロー科だ」

 

 一旦冷静になった生徒達だったが、ショートボブ少女が前に出た。

 

「最下位除籍って……入学初日ですよ!? いや、初日じゃなくても理不尽すぎる!」

「自然災害、大事故……そして身勝手な敵達。いつどこから来るか分からない厄災。日本は理不尽に塗れている。そういう理不尽(ピンチ)を覆していくのがヒーロー」

 

 その理不尽と最下位除籍の理不尽は別種だと思います先生……。

 

「放課後マックで談笑したかったならお生憎、これから三年間、雄英は全力で君達に苦難を与え続ける。”Plus Ultra”さ。全力で乗り越えて来い」

 

 挑発的に指をクイクイと曲げる相澤先生に、生徒達の顔付きも変わる。

 皆一様に真剣な表情となり、肩を回したり小さくジャンプしたりと、早くも準備運動を始める奴もいた。勿論、ショートボブ少女のように緊張が抜けきらない奴もいるにはいたが。

 

「さて、デモンストレーションは終わり。こっからが本番だ」

 

 

 

・50メートル走

 

 飯田が3秒台とかいう驚異的な記録を叩き出したが、聞けばそもそも足が速くなる個性なのだとか。より正確には脚力が強くなる、といった感じのような気もするが、脹脛を見るに本当に文字通り加速する個性なのかも。名前は”エンジン”だったか。

 それに金髪キラキラ眼の青山も面白かったな。臍からレーザーが出る”ネビルレーザー”という個性らしいが、撃てばきちんと反動があるらしく、それを利用して後ろ向きに立ってレーザーを放ち進むという芸当をやってみせた。途中で切れたから何事かと思えば、一秒以上射出するとお腹壊すのだとか。

 そして、何人か挟んで俺の番。

 少々多めに酒を飲み、先に走った耳郎にウエストポーチを持ってもらうよう頼んで、スタートラインに着く。

 スターティングブロックに少し力を入れ、しっかりと俺の膂力に耐えきれるのかどうかを簡易的にだが確認する。

 ……まあ、多分大丈夫だろ。

 

『位置ニツイテ、ヨーイ――」

「……狂襲・拾式……ッ!」

 

 数秒にも満たない時間なら、全力でも大丈夫の筈だ。

 

『――ドン!』

 

 飛び出す。

 一度身を沈めるように膝を曲げ、弾丸のように。

 50メートル『走』だったか。残念。50メートル程度、個性を全力行使した俺の膂力なら――!

 

『1秒78』

 

 計測機の機械音声すら置き去りに、ゴールラインを駆け抜ける。

 身体を反転させ、爪先と両手で地面を抉るように減速させながら出力を下げていく。伸びていた角や、全身に行き渡っていたであろう模様が引いていく。

 平時の状態まで戻ったのを感覚で判断しながら、身を起こす。

 一応もう一度酒を摂取しておこうとスタートライン近くにいる耳郎のもとに歩き出そうとすると、なんだか他の奴等が唖然とした目で俺に注目してることに気付いた。

 ……ドヤ顔すればいいかな。

 

「君……速いな! まさかぼ……俺の記録が抜かれるとは思わなかったよ!」

「かははっ。そりゃ50メートルなんてごく短距離じゃ、俺の方に分があるだろうさ」

 

 何をしたか。簡単。()()()()()

 わざわざ『走って』やる必要は無い。青山だってそうだった。だから俺は、単純な膂力だけで50メートルを突っ切っただけだ。着地地点とかも特に無かったから、減速を気にしなくてよかったしな。

 スタートを切って、約20メートル付近で一歩着地し、そこからさらにブースト。その名残か、跡がレーンに残ってる。あ、整備ロボが均しちゃった。

 耳郎からポーチを受け取り、一言感謝を告げてから中のスキットルボトルを取り出す。

 相澤先生の無言の圧力によりもう次の走者が準備する中、くぴくぴと喉を潤す。

 

「……実技入試の時にも見たけど、やっぱりアンタの個性の爆発力は桁違いだね」

「今回は本気だったからな。しっかり身体を温めておけばもう少し縮めれそうな気もするが」

「アレで最速じゃないってマジかよ……」

 

 まあ気がするだけで、実際の程は分からんけどね。そうそう今みたいな十割の出力なんて使わないし。

 ()()()()

 

 

・握力

 

 障子の片腕ってどっからどこまでを指すんだろうな……?

 540とかいう馬鹿力を見せた彼を尻目に俺も力を込める。個性の出力としては十割出してはいるが、三秒で止めた。これ以上は危ない。

 記録はクラス内で三位。障子以外にも、お嬢様然としたポニテ少女が俺の上にいたらしい。

 しかしあのポニテ少女、この体力テストで道具を使うのはアリなのか?

 

 

 

・立ち幅跳び

 

 50メートル走の時と同じように、思いっ切り地面を蹴って跳んだ。

 相澤先生が言っていた通り、計測の際には十割出しているけど、三種目の時点でもうこれ以上は危険だと感覚で分かるんだけど。明確な安全圏は多くても五種目目までなんじゃなかろうか。

 記録は二位。一位は爆豪で、爆発で飛ぶように記録を伸ばしてた。

 

 

 

・反復横跳び

 

 これは流石に膂力だけでどうこうできるものではないか。

 なんかぷよぷよしたものの間で高速移動してるミニマム男子改め峰田の動きを見て、今回は十割である必要は無いと判断した。

 結果は四位。毎回有用な道具をどこかからか持ち出してくるポニテ少女と、左右に爆発を生むことで速度を上げた爆豪がさらに上に居た。

 てか爆豪の個性の汎用性や応用の幅がすげえ。

 

 

 

 そして、第五種目、ソフトボール投げの時。

 ショートボブ少女が記録無限を叩き出し、俺の中での渾名が無限少女へと変わるという出来事があったが、ことはそのすぐ後だ。

 何人か挟んで、円の中に入っていくのは、今の所一つも目立った記録を出していない少年。今朝教室にギリギリで入ってきた奴で、名前は確か、緑谷だったか。

 ブツブツと何事かを呟きながら進むその姿には、激しい焦燥が見て取れた。

 

「…………」

 

 既に俺の計測は終わっている。一回目は蹴り飛ばしたら相澤先生に「せめて投げろ」と注意を受けたので、普通にオーバースローで投げて記録を出した。ボールが適度な重さがあったのも相まって、記録は約700弱。爆豪には若干及ばなかったが、十分だろう。

 あと先生、俺にそれを言うなら、なんか大砲みたいなものを取り出したポニテ少女はどうなるんですか。無視ですかこんちくしょう。

 閑話休題。

 緑谷の個性は、今の所不明だ。

 ただ、何となく察しは付いている。

 彼の見た目にはこれといった特徴はない。身体の内部に顕在でもしていない限り、彼の個性は発動型の個性なのだろう。

 そして、今朝切島や障子達が話していたワンパン生徒。

 体力テストを見た感じ、あの大型敵を一撃で壊せそうな奴は、爆豪、轟、ポニテ少女辺り。

 だが話では、ソイツは『殴り飛ばしていた』らしい。この三人に、殴り飛ばすような個性は辛うじて爆豪が当てはまるかもしれない程度。しかし爆豪だったなら爆豪だったで、その感想は『殴り飛ばした』ではなく『吹き飛ばした』だとか、そういった類のものになるだろう。

 そうであるならば、あの緑谷という少年がそのワンパン生徒と同一人物であると考える方がしっくりくる。

 無論、そのワンパン生徒がこのクラスに居るのなら、という前提だが。

 まあどのみちどんな個性であろうと、今のままでは緑谷は最下位決定だ。一つも目立った記録が無いのだから。

 視線の先、緑谷は大きく振りかぶり――投げる。

 記録は……

 

『46メートル』

 

 無慈悲な音声が鳴る。

 だがその結果に一番驚いている様子なのは、緑谷自身のようだった。

 

「な……っ、今、確かに使おうって……」

「個性を消した」

 

 前に出ていくのは、髪が逆立ち、マフラーのように首に巻いていた包帯のようなもの蠢かせる相澤先生であった。

 

「つくづくあの入試は……合理性に欠くよ。お前のような奴も入学できてしまう」

「個性を消した……? っ! あのゴーグル……! そうか……! 視ただけで人の個性を抹消する個性、抹消ヒーロー、イレイザー・ヘッド!!」

 

 イレイザーヘッド……?

 たしかに俺はそこまでヒーローに詳しい訳ではないが、名前も聞いたことがない。耳郎の方にも目を向けると、首を横に振るという返事があっただけだった。彼女も知らないらしい。

 この雄英に勤める教師はれっきとしたプロヒーローでもあるので、ちゃんとしたヒーローの筈……なのだが。

 個性を抹消、つまりは無効化? もしそうなら、確かにあまり大衆に知られるのもマズイのかもしれないな。

 包帯擬きで緑谷を拘束し、近寄らせ、何事か話し込んでいる二人。雰囲気的には、説教でもしているのだろうか。何故個性を使って全力を出さない、的な?

 暫くして離れる相澤先生。緑谷は二投目もきちんと投げるのか、円の中に戻っていった。

 思いつめたようにブツブツと呟いている姿は、最早芸の一種ではなかろうか。

 そして二投目、大きく振りかぶって――

 

「SMAAAAASH!!」

 

 爆風。そして、衝撃。

 圧倒的なまでのパワーで投げ出されたボールはみるみる小さくなっていって……ピピッと電子音が相澤先生の持つ端末から鳴った。

 記録の程は分からないが、相当な距離を飛んで行ったのは間違いない。ようやく目立つ成績を残せたのか。

 

「先生……まだ、動けます!」

「こいつ……!」

 

 大記録は出した。出した、が。

 ……指先、腫れてないか?

 

「うわ、痛そー……」

「やっぱワンパン生徒イコール緑谷なんだろうが……何だアレ、全然扱えてなくないか?」

 

 ボール投げだけで指先が腫れあがっているのに、あの仮想敵を殴り飛ばしたときは、一体どれ程の反動を受けたと言うのだ。

 殴れば反動が自身に返ってくる。押し出せば、その分の負荷が掛かっている。緑谷の場合、出力が大きすぎる所為でその反動に身体が付いて行ってないのだろう。

 だが、個性発現から約十五年の歳月がある。だというのに、あれじゃまるで、個性が発現したばかりの子供と変わらない。

 なまじ俺や緑谷のような、出力の大きい個性はそういった調整が大事だというのに。

 

「どーいうことだ! こらワケを言え、デクてめぇ!」

「うわああ!」

「んぐっ! んだこの布、固……っ!」」

 

 何故か怒ったように飛び出していった爆豪だが、相澤先生の包帯擬きで拘束されてしまった。

 先生の説明によると、あれは捕縛武器なんだとか。

 興奮のためか爆豪が掌で連続で発生させていた爆発も消えているのを見るに、個性の方も消したのか。

 

「ったく、何度も個性を使わすなよ……俺はドライアイなんだ」

 

 個性便利なのに勿体ないなあ。緑谷が漏らした、『視た人の』って台詞から考えるに、視界に納めることが発動条件っぽいのに。

 

「時間が勿体ない。次、準備しろ」

 

 先生が個性を解き、緑谷が恐る恐るといった様子で爆豪の脇を通り抜ける。

 無限少女が心配そうに駆け寄る中、緑谷は中断することなく、体力テストを最後までやり遂げた。

 その後、前屈では舌を使って20メートル近くの記録を出した蛙みたいな少女や、持久走では地面を凍らせ摩擦を限界まで無くした状態で滑る紅白饅頭みたいな頭の轟など、さらなる大記録が出る中、緑谷は腫れた指の痛みからか全然記録を伸ばせていなかった。

 そして、結果発表。

 

「んじゃ、パパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので。一括開示する」

 

 相澤先生が端末を操作すると、空中にリストが表示さ――

 

「ちなみに、除籍は嘘な」

 

 ――え。

 

「君らの個性を最大限を引き出す、合理的虚偽」

『は――――!?』

「あんなの嘘に決まってるじゃない……ちょっと考えれば分かりますわ……」

 

 ポニテ少女よ、それを最下位かどうか瀬戸際だった奴に課すのは酷な話だと思うぜい……

 そのポニテ少女の成績はトップ。いや、彼女に限ってはマジで”体力テスト”じゃなくて”個性把握テスト”だったもんな。……彼女自身だけの力で結果を出した種目が一体どれだけあるものか。

 因みに、俺の結果は四位。

 単純な身体能力という面では俺が一番だと言う自信はあるが、それは個性が増強系に近しいから。応用が利くという点で、二位と三位の轟、爆豪には敵わなかったという話だ。

 

「ほ、よかった」

「やっぱお前さん、身体能力はそうでもないのな」

「当たり前でしょ。あんたと違って、ウチは可憐な乙女ですので」

「自分で言う? ソレ」

「ウチも言っててキャラじゃないとは思った」

「これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類があるから、戻ったら目ぇ通しとけ」

 

 除籍はないと分かり、体力テストも無事終わったということで、生徒達の緊張が和らぐ。どことなく、空気も弛緩する。

 緑谷は相澤先生に保険室利用の為の紙と指示を受け取り、そのままグラウンドを出て行った。

 俺もまた、耳郎や芦戸にまた後でと告げながら、他の男子共と一緒に更衣室へと向かった。

 なんかやけに疲れたが、これで初日が終わる……。




 ということで、全部詰め込んだ結果また文字数が大変なことに。

 現時点で主人公は女子組の名前や、誰が推薦組なのか分かっていません。自己紹介碌にしていないからですね。女子とのつながりは耳郎と芦戸。轟は轟で自分の事あまり話さなさそうだし、主人公も突っ込まないから盛り上がらない。ホントにそれでいいのかお前。

 ずっと原作リークばかりもあれだったので時々耳郎との会話を混ぜてみましたが、違和感はあまりない、筈。ないといいなあ……。
 つか最初からヒロインと仲いいなお前。

 それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。

 まああと数話もすればいつのまにか名前呼びしてるんじゃないですかね(適当)
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