とりあえず書きたかったシーンは書けたかなといった感じ。
ただ書いているうちに迷走しまくった感はある。主に後半は完全に予定から乖離していきました。
それではどうぞ。
身の竦むような、全身が鳥肌立つような恐怖が突き抜けた。
耳朶を打つのは咆哮。
誰かの叫び声。
その声はUSJ内にいる生徒にも勿論届いていた。特に倒壊ゾーンや土砂ゾーン、山岳ゾーンといったドームで内部が仕切られていない場所に飛ばされた生徒には強く響いた。
「…………ッハ」
「ッ……今の声」
切島のようになんとか呼吸を思い出すような者も居れば、
「……これ、敵じゃねえな」
切島と共に同じ場所に飛ばされた爆豪、土砂ゾーンに居た轟のように何かに気付いた様子の者も居た。
そして、
「――相間?」
その個性故に、声の発生源を特定できてしまう者も、また。
中央広場。
影改め相間が叫んだ瞬間、まず最初に反応を示したのは蛙吹だった。
「きゅう……」
眼を大きく見開いたまま、そのまま気絶するかのように後ろに倒れ込んでしまったのだ。
突き飛ばしてしまった時に力を入れ過ぎたのかと緑谷は一瞬不安になったが、それにしては様子が変だ。痛がってるようには見えないし、微動だにしないのは何故だろう。
次いで峰田。
「あ、あ……」
あの咆哮で遂に恐怖の臨界点を越えてしまったのか、周囲の水が変色する。敢えてそれ以上に何か語る必要もあるまい。
気絶中の相澤先生は変わらず不動。緑谷もまた足が竦んでしまって動きを忘れていた。辛うじて動いた眼球が蛙吹が倒れ込んだ時の水音に反応したくらい。
口を閉じ、俯きがちになる相間。そのまま倒れ込むように前屈みになり、腕をだらりと身体の前でぶら下げる。
顔が動いた。
「……殺せ、脳無」
彼が見据えるのは脳無。浮かべるは変わらず喜悦に歪んだ笑顔。
奇声を上げながら、脳無が相間に殴りかかる。
対する相間も、一度身を左右に揺らしたかと思うと、同じように拳を振りかぶって突撃していた。
だがしかし、それも確かではない。
二者の予備動作と衝突の体勢でそうと推測できるだけであって、動き自体は緑谷勿論、実の話死柄木や黒霧にも見えていない。
それ程までに速かった。
対オールマイト用に作られた脳無と、それと少なくとも同速を叩き出した相間という生徒は。
『クルォア!』
『AAAaa,AAAAAaaaa!』
拳の激突。
拮抗は一瞬。
「対平和の象徴用の怪人だ。オールマイト並のパワーにスピード、そしてオールマイトの攻撃を受け止めるための『ショック吸収』……なんだよ、見せかけだけかよ化物」
打ち勝ったのは脳無。
相間の腕は直ぐに後方に吹き飛ばされ、明らかに人間の肘の可動域を越えた曲がり方、どころか、皮膚を突き破って赤黒い何かが見える始末。
それでも彼は、笑みは消えなかった。
押し敗けた腕を見遣ったのは一瞬。すぐに脳無に視線を戻し、吹き飛ばされそうになる身を、その衝撃を利用してさらに捻る。
空いた左腕。爪を立て、拳を振りぬいた脳無の右腕に突き立て、食い込み、そして。
引き千切る。
吹き飛ばされるままに距離を取り、着地。片腕に収まった脳無の右肘から先をつまらなそうに投げ捨てた。
――パキパキパキ。
「無駄だって。そいつはさらに『超再生』も持ってる。どれだけ壊したところで、すぐに元通り――あ?」
緑谷は見ていた。死柄木もまたその光景を目にしていた。
先程聞こえていた何かが割れるような音の正体。それは、
「紅い結晶……相間君の右腕を覆ったと思ったら、すぐに割れた。でも怪我が治ってる……そうか。さっきのはあの怪我を治すための音だったのか」
鮮やかな血の色と同色の小さな結晶群。壊れた右腕を覆うように無数に生まれたその結晶は、腕を覆い隠すと、一斉に甲高い音と共に砕け散った。
残ったのは、血も骨も見えない、鮮血色の模様が走る負傷する前の腕。
その頃にはもう脳無も千切られた腕が再生していたが、傷口から生えるようにきちんと文字通り『再生』した脳無と違い、相間のはどこか別種の回復方法に思えた。
「パワーだけじゃないのか? 成程、だから異形型個性。諸々含めての一つの個性って訳か」
『クルル……』
「構わん。思う存分殴り殺してこい』
再度飛び掛かる脳無。
対する相間の動きは単純だった。
『AaaaaaAAAaaaa!』
その懐に潜り込んだ。
先の拳同士の衝突よりもさらに速い。予備動作すら殆ど見えない程。
打つ。
脳無はその巨体故に腕の内側は確かに隙になりやすいように思える。そこを狙ったのかもしれないが、脳無には死柄木が言ったようにショック吸収の個性も備わっている。いくら拳を直撃させたところで、効果は薄い。逆にその硬直を狙われてもう片方の腕で拘束、そのまま締め上げられる。
だが、脳無は膝を付き、動きは止まったままだった。
「……? どうした、脳無」
反応もなく、沈黙したままの脳無。
相間が右腕を引き戻し、三度距離を取ると、その右手には何か握られていた。
まだ鼓動するソレ。大きさは普通の人間のものよりもその巨体に合わせて数倍は大きい。繋がる太い管からは赤黒い液体が零れ落ちていて、
「心臓――!?」
握り潰した。
然したる脳無と言えども、心臓を抜き取られれば暫くは動きを止めるらしい。超再生のお陰でまた動き出すだろうが、それでも。
「一撃目で真正面からの衝突は無意味だと悟った? それとも俺の言葉を聞いて理解して殴るという動作を避けたのか? どっちにしろこんな僅かな時間で取れる戦い方じゃない。お前、つくづく化物だな」
再生の完了した脳無が立ち上がる。
一瞬後には横に倒れ込んでいた。
「チッ……!」
駆け抜けた相間が片腕に持つのは脳無の片足。
脚を千切られた脳無はバランスを崩しただけなのだ。
「脳無! ソイツに遠距離の攻撃手段はない! 合わせて殴り飛ばせ!」
言葉通り、次に相間が飛び出すとほぼ間を置かずに壁に激突する音が響いた。
土埃が晴れた先、壁に埋まっているのはやはり相間。だがその腕には黒い腕が二つ握られていて、反撃とばかりに脳無の両腕を奪っていったようだった。
破砕音は小さい。状態を見るに殴られたのは脇腹のようだが、どちらかというダメージは内部にいったらしい。
それでも尚相間は止まらない。変わらぬ笑みのまま、脳無の腕を投げ捨て、身体を壁から引き抜く。
消える。
『コォ……ル……』
次に相間の姿を視認できた時には、脳無の顔は真後ろを向いていた。脚の回復も終わってない今の脳無は、ただ俯せに倒れ込むしかない。
そしてそれを放っておく相間でもなかった。
『AAAaaaAAaaAAAAu,GAAAAaAAaaaaAAAAu!!』
跳躍。胸部を踏み潰して着地。背中側に向いた嘴のような脳無の口を蹴り抜いて折り、再生中だった腕を肩を踏み抜くことで再び壊す。
藻掻く動きに反応したのか、相間は今度は脚の方に視線を移す。片脚は健在。回復の優先度でもあるのか、もう片方の脚は再生の途中で心臓を潰されたため、膝の辺りで再生が止まってしまっている。
肩と同じように脚も踏み抜いて、相間は脳無の上からようやく降りた。
早くも胸部の再生は終わり、腕も半分近くが再生している脳無もまた化物染みているが、相間も相間でその猟奇的で残虐な戦い方はおよそ人とは思えない。
ただただ、怖い。
最早自分のものなのか脳無のものなのかも分からない血に汚れ、変わらず嗤い続ける彼の姿は、目の前にいる敵の誰よりも、緑谷や峰田を恐怖させるには十分すぎる程に強烈に映った。
「んだよ先生……聞いてないぞ。こんなガキが居るなんて、聞いてないぞ、先生!」
苛立ちを隠さない死柄木。
「ああクソ……ッ、脳無がこれじゃあ引き上げるしかない。ここからさらにプロヒーローが集まるんじゃ、その余裕さえ無くなる。黒霧、すぐにワープゲートを繋げ」
「賢明な判断です、死柄木弔」
「――まあそう簡単に逃がしはしないか」
迫る相間。見据える敵。
相間が次に標的と見做したのは、二人の敵、特に死柄木と呼ばれた敵の方だった。
拳を握り、腕を振りかぶり、殴る姿勢。
対する死柄木の反応は短い。
「黒霧!」
傍らのもう一方の敵の名を呼ぶ。
それだけで意図は通じたのか、はたまた最初からそうするつもりだったのかは不明だが、その敵の動きは迅速だった。
「失礼。貴方は地面でも殴っているといい」
『――AAAuaaa!』
「おっと危ない危ない」
死柄木に拳が届く直前、彼とその拳の間に黒い靄敵の個性と思われる靄が展開された。
そして、もう一箇所。全く関係のない場所で破砕音が轟いた。
すぐに転移系の個性だと気付いた相間だが、引き抜くことはしない。それよりも速く蹴りを放つ。
だがこれも黒靄の個性でスカされた。
流石に片腕片脚を飛ばされた状態は不利だと悟ったのか、転移され地面を貫いていた腕に力を込めて無理矢理離脱。
「お前だけでも壊しとくか」
その先に、黒靄から飛び出る一本の腕。
死柄木が黒靄敵の個性で片腕だけを転移させて相間に追撃を仕掛けたのだ。
広げられる五指。着地時の衝撃による一瞬の動きの停滞。敵の個性。
選んだのは、防御。
顔面狙いのそれを間に腕を挟み込んで防ぐ。腕は掴まれたが、それは向こうの隙に繋がる。
「――あ?」
「なに……?」
敵側はなにやら困惑しているが、知ったことではない。
掴む手を腕を捻ることで離し、逆に手首を掴み返す。そのまま引っ張る。単純な力勝負では、相間に軍配が上がる。
上半身が靄から出てきた所で、もう片方の腕を振りかぶる。
そして、
「チッ……脳無!」
横からの衝撃。と同時に同じ方向へわざと吹き飛び、その衝撃を緩和する。
完全には消しきれず、着地後に再度跳躍。二度目の着地も何メートルも滑ってようやく止まる。
どうやらあの間に脳無は最低限の再生は終えていたのか、相間の意識から脳無が外れていたあの瞬間を狙っていたらしい。もっとも、相間はそれを察知できていたのか、だからこその先の不自然な攻撃のキャンセルなのだろう。
そして脳無もまた、追撃のチャンスを逃さない。
相間が止まるよりも先に動き出し、その拳を握り締め、追撃。
また吹き飛ばされる相間もその腕を引き千切ってはいたが、今度は脳無はその程度で止まらない。
追い縋り、もう片方の腕を振りかぶる。
相間もまたそれは見えていたのか、着地による完全な失速よりも先に、前に飛び出す。
『クルアアアアアッ!!』
『AAAuAAaaaaaAAuGAAAaaaaa――――!』
そして。
激突の直前。
もはや遥か遠くに感じれる程の距離、施設入口。
真なるヒーロー。
「もう大丈夫――」
扉を吹き飛ばし、いつもの笑顔さえ浮かべずに立つその姿は。
「――私が来た!」
「待ってたよヒーロー……社会のゴミめ!」
◇◆◇◆
「嫌な予感がしてね……校長のお話を振り切りやって来たよ。来る途中で飯田少年とすれ違って、何が起きているかあらましを聞いた」
ネクタイを引き千切り、圧倒的な威圧感を敵達に与えながら歩みを進める。
恐怖、そしてそれが拭われたことによる安堵により涙を浮かべる生徒達、背中側のコスチュームは無残に破れ倒れ伏す13号に、眼下に広がる敵の集団。そして、他と違う存在感を放つ三人の敵と仲間達。
「もう大丈夫――私が来た!」
オールマイト。
笑みすら忘れ、彼はそこに立っていた。
施設内をぐるりと一瞥する。どうやら視界に映る中に生徒達は殆どいないようだ。精々が三人の敵の近くにいる程度。その中には、蛙吹と思われる女生徒を背負う緑谷の姿もあった。
入口から飛び降り――
「相澤君、すまない」
まだ残っていた有象無象の敵達の意識を刈り取りながら、気絶し押さえつけられていた相澤を抱える。
目にもともらぬ速さ。
オールマイトの強さを間接的にしか知らない敵達にとって、それは反応できる速度などではなかった。
次に彼が見据えるのは、水難ゾーンから続く水場に残る緑谷、蛙吹、峰田の三人と、その近くに佇む手だらけの敵と黒い靄を放つ敵。
「ッ!」
威圧感は一瞬。
次の瞬間には、三人を抱え敵から距離を取っている。
「皆入口へ。相澤君を頼んだ。意識がない、早く!」
「え? え!? あれ!? 速え……!」
「っ、オールマイト!」
「なんだい緑谷しょうね……ッ!?」
衝撃。
頭部を狙った一撃。咄嗟に腕で防がなければ、相応のダメージは免れなかっただろう。彼の体躯を考慮しても数メートル滑らせた威力だ。侮れない。
だが、今の一撃は誰から?
視線の先。そこに立つのは、
「相間少年……か?」
『AaaaaGAAAAaaa……」
オールマイトが疑問形になるのも仕方ない。
確かに今の相間はオールマイトの記憶にある彼の姿と記号としては一致している。袴ベースのコスチュームの下半身部分に、紅く走る模様。そしてなにより目立つ大きな角。ネックレスだと思われる装飾品には見覚えがないが、制服やコスチュームの下に着けているのかもしれない。
ともかくとして、彼が相間であることには違いはない。
だが、その雰囲気は記憶とはまるで違った。
一番大きな理由は、やはりその表情だろう。
嘲るように、愉しむように歪むその笑みは、プロヒーローとして相手してきた今までの敵と比べても遜色ない。
そう。
比較対象が敵という時点で、もう間違っているのではなかろうか。
『……GAAaAaaAAAAaaaaa!』
「くっ……緑谷少年達は早く相澤君を連れて離れるんだ!」
いくら敵のようだとはいえ、生徒に手を挙げるなど言語道断。迫る相間の拳に対して、回避を選択。
そう言えばと思い出す。入学時に提出される生徒の資料に、彼の個性に対する情報も載っていた筈だ。個性の暴走……否、
暴走時の止め方、又はその終了条件は……。
そして何も、彼を狙わんとする存在は何も相間一人だけではない。
「なんでヒーロー同士でやり合ってんのか知らんが……チャンスだ、脳無。やれ」
『――――ッ!』
黒の巨体が迫る。
相間の拳を回避したこの体勢では身を捻ることもむ不可能。受けるしかない。
体勢が不安定だった。吹き飛ばされる。思考も一旦中断。
だが、狙うべき相手も決まった。
「
腕を交差させ、バツ印の衝撃。所謂クロスチョップ。
脳無の後ろで水難ゾーンの水が吹き飛ぶ。
しかし脳無本体には大したダメージにはなっていないのか、数瞬の硬直の後、オールマイトに掴み掛らんとする。
身体を反らせることで躱すが、その隙を突くように相間からの蹴りが迫る。
「相間少年! 私は敵じゃないぞ!?」
『AaaaGAAAAaaaAAAaaaaAaaaa!』
防いだところを防御の隙間を狙って逆の脚で追撃。 已む無く掴み、脳無とは反対方向に投げ飛ばす。力は弱めたが、綺麗に着地してみせた所を見るに、動きもやはりやけに洗練……というよりは
懲りない脳無に一発。
「『ショック吸収』さ。いくら殴っても脳無には効かない」
「その割には、動きが硬いんじゃないか!?」
「チッ……あのガキの攻撃が響いてんのか……?」
さらに数発。
「脳無! ガキだ。そこのガキを先にやれ!」
単純なタイマン勝負では先のように削り切れられる。ダメージ的にも、肉体的にも。
だが、良くも悪くも今はオールマイトがいる。彼を狙っているこの状況なら、一撃を当てることはできるかもしれない。そして一撃さえ当てれたのならば、脳無のパワーは相間の物理的な耐久力を超える。化物染みた回復力は持っているものの、それは相間にとっても、そして生徒を守ろうとするオールマイトにとっても致命的な隙に繋がる。たとえ当てれずとも、生徒を狙うという行為そのものがオールマイトの動きを制限する。
脳無は死柄木の指示通り、真っ直ぐに投げられた相間のもとに向かった。
「くっ、させない!」
「馬鹿かよ、余所見が過ぎるぜ?」
「敵め……!」
接近した死柄木が手を伸ばしたが流石に打ち払われる。その隙に身を反転させ、オールマイトもまた脳無を向かえうとうと駆け出した。
互いの到着点である相間はと言えば、
『AAAAaaaaGAAAAAaaa,AAAaaaaGAAAAAaaa……!』
限界まで引き絞った右腕を、一気に突き出す。掌を押し出すように撃たれたその一撃は、反動で相間自身が少し押し出される程。
パキパキと、破砕音を右腕から発しながら放たれたその衝撃は、オールマイトと脳無の両方を吹き飛ばす。
なんとか着地したオールマイトに対し、脳無は膝から崩れ落ちる。
突然の勝機。
「っ――DETROIT SMASH!!」
これを逃す手はない。急接近し、アッパー気味に打ち込む。
しかし、先程告げられた『ショック吸収』の所為か、浮かす程の攻撃にならない。
歯噛みすると同時、脇を通り抜け、脳無に迫る影が一つ。
相間だ。
『AaaaaaAaaaAAua!!』
先と同じように腕を引き絞った姿。だが先と違うのは、それが両手であるということ。
放つ。
相応の反動があるのか、相間の両腕から何かが砕かれるような、引き裂くような音がしたような気がするが、当の本人は変わらず愉悦の眼差しで此方を見遣るのみ。
その一撃ですら脳無を浮かすことは叶わなかった。だが確かに、その動きは止まった。
ならば、
「ショック吸収だって? ならば私は、更に上から捻じ伏せよう……!」
一撃。
芯を捉えた。
二撃。
動きの視点となる肩や比較的衝撃が通りやすいであろう脇腹を狙う。
三撃。
顔面も含め、反撃を許さない程のラッシュ。
四撃、五撃、六撃……攻撃の手を緩めるなんてことはしない。
「敵よ、こんな言葉を知ってるか!?」
更に向こうへ。
「PLUS ULTRA!!」
最後の一撃が、個性と体力の限界を迎えた脳無を吹き飛ばす。余波で相間が吹き飛ばされていたので、後で謝らなくては。
施設の天井を突き破り、雲を突き抜け、遥か彼方へと飛んでいく脳無。
「チートがぁ……!」
ああ、まさしくチートだ。
相性不利の個性を相手に、いくら相間の一撃があったとはいえ、力押ししたのだから。
その見てくれの割には然程の危機にはならなかった(戦況を見れば、十分脅威ではあったが)脳無と呼ばれていた敵もいなくなり、今ここに居るのは敵二人にオールマイト。そして未だに目的が見えないどっちつかずの相間。その相間も、今のオールマイトのラッシュに気圧されたか、様子見のようにじっとこちらを見据えるのみ。その表情からは、いつの間にか笑みが消えていた。
「撤退です死柄木弔。私達だけではオールマイト一人の相手すら難しい」
「分かってるよ黒霧……クソッ! 何もかもが想定外だ! ふざけやがって……」
「そう簡単に逃げられると思ったのかい!?」
黒霧と呼ばれた敵がその靄を拡大させる。会話から察するに、どこかに移動する気なのだろう。
だが、これだけの騒動を引き起こした中心人物と思われる二人を逃がす訳にはいかない。
「おいおい……俺らばっかにかまけてちゃ駄目だろ」
『AaaaaaGAAAAa!』
「ぐう……ッ!」
完全に不意を打たれた。相間から意識を切り離した瞬間を狙われたのだ。
「待つんだ相間少年! さっきのことは謝る、謝るから!」
「じゃあな、平和の象徴――今度は殺す」
そして今回の事件の首謀者達は闇へと姿を消した。
だが、今回の騒動はもう少しだけ続く。
「そんなに怒らなくたっていいだろう!? 謝るから! 謝るからまずは攻撃しないでほしいなあ!」
『AAAAaAAAAaAAaAaaaa……!』
いまだ暴走状態にある相間と何故か彼に狙われるオールマイト。
的確に人体の急所や防御の隙を狙う相間に対し、オールマイトは手を挙げるわけにもいかず、やむを得ず掴んで投げてしまうことは数度あれど回避し続ける他ない。
必死に会話を試みるも、呻くような声が返ってくるのみ。
(何故だ!? 何故相間少年は私をこうも執拗に狙う!?)
何か因縁や気に入らない事でもあったのかと思うが、残念ながらそんな記憶はない。
他の教師陣がここに到着すれば状況は動くだろう。今はただ、彼の攻撃を避け続けるしかない。
「俺が相手になってやるよ、クソ敵が!」
「離れろ爆豪!」
「俺に命令してんじゃねえ!」
オールマイトの脇を爆発と共に駆け抜ける人影と、反対側を走る氷。
爆豪に、轟の個性だ。
爆豪は躊躇なく相間に爆発を叩き付け、轟もまた、彼を拘束せんと足元から一気に氷で閉じ込める。爆豪も言葉に反して退がってきている。二人の容赦無い攻撃に冷や汗が落ちるが、二人共もしかすると、相間を相間と認識せずに敵と判断しているのか。
二人に遅れるように切島少年が、別方向から緑谷が走り寄ってくるが見えた。
「爆豪少年に轟少年! いや、彼は敵じゃないぞ!?」
「アァ!? ……まさか、角野郎か!」
「角……相間、だったか?」
「そう! 正直手詰まりだったからね。君達の参戦は嬉しいんだが……っ!」
二人の前に出る。
直後に衝撃。正体は疎らに砕かれた氷塊。
「大丈夫ッスかオールマイト!?」
「平気平気! それより、早く皆の所に合流して他の先生方が来るのを待つんだ。ここは私に任せなさい!」
「うるせえよオールマイト……俺らが来た時点でアイツとアンタは殴り合ってた。でもアンタじゃアイツを殴れない。そういう奴だろ、アンタは。なら俺がぶっ殺す」
「こ、殺しちゃ駄目だって!」
「クソデクは黙ってろ! 殺さない程度にぶっ殺すだけだ!」
爆発。加速。接近。そして、着弾。
黒煙が相間と爆豪を覆い隠し、二人の状況が分からなくなる。
『AAAuaGAAAaGAAaAAAAua!』
「ぐっ……!?」
だがそれも数秒。黒煙の中から吹き飛ばされるのは相間ではなく爆豪の方。
ゆっくりと、煙を裂くようにして相間が現れる。
オールマイトの目から見ても爆豪の一手は的確だった。煙による目眩ましも含め、今の攻撃に反応できるのは中々いないだろう。
しかし結果として爆豪は押し敗けている。
それが意味することは、
(野郎、あの状況で
ちらりと新しくやって来た顔ぶれを見渡す相間。
爆豪、轟、緑谷、切島を順に見遣り……そして視線を外す。
「ッ!!」
四人の中でその意味に気付いたのは爆豪だけであった。
故に、飛び出すのもまた、彼一人。
(俺を
彼には分かる。あの視線は品定めする視線だと。
彼には分かる。視線を外したのは、コイツらじゃ敵足り得ない、という意味であると。
彼には分かる。足りない、つまりは力不足……弱い、と認識したのだと。
「死ねッ! クソ角があ!」
跳び、上空から接近。手を翳し、爆発を起こそうとする。
その腕を掴まれ一歩踏み込まれた。
逆の腕を挟み込み、掌を向けると同時に爆破。
構わず鳩尾を殴られた。
「ぐぉ……っ」
息が詰まる。
だが止まる訳にはいかない。
殴られると同時に離された腕を捻り、爆発。加速と微調整を経て地面に這うように着地。視線が向く前に攻撃を仕掛ける。
『……』
「ッ! チッ!」
急遽変更。すぐにその場を離れる。
浮いた瞬間、つい先程まで身体が存在していた場所が踏み抜かれ、少し陥没。罅が入る。その足で地面を蹴り抜き砂礫が爆豪の全身を叩いた。
咄嗟に防御したものの、吹き飛ばされる。
「少し凍っとけ!」
爆豪が離されたのを見て、轟の氷が迫る。
しかし相間はその氷結をつまらなそうに一瞥すると、
『AaGAAAAa!』
右足を先と同じように地面に叩き付け、その衝撃だけで氷を砕いて止めてみせた。
その表情に、笑みはない。
『……』
しかし動きは止まらない。
拳を構えつつ、轟に急接近。
「させねえ!」
「駄目だ切島少年!」
間に切島が入り込み、個性を発動させて腕を重ねることでその拳を受け止めようとする。
その威力を知っているオールマイトは切島の前に出ようとするが、もう遅い。
だが、オールマイトが想像したような結果にはならなかった。
『AaaaaaAAAaaaaAuaaaa……』
「おわっ!? 爆豪!?」
「クソッ、見えてやがったか……!」
響いたのは爆発音。
拳が当たる直前、それを開き切島の腕をそのまま掴み、復帰した爆豪の攻撃を防ぐ盾としたのだ。
無論相間とて目は二つしかなく、後方から仕掛けた爆豪の姿を視認していた訳ではない。
そのカラクリを現段階で把握できる程、四人にはまだ経験が足りなかった。オールマイトとて、推測はできても確証はない。
それはあまりにも非現実的過ぎるが故に。
「超パワーに超スピード。傷を巻き戻すかのような再生力に、驚異的な反応速度……まず間違いなく個性なんだろうけど、どれもこれもが桁違いだ……!」
どうにか分析しようとする緑谷だが、情報が足りない。
「っ。ごめん、相間君!」
『……GAaaaaaAaaa』
爆豪が離れ、切島が投げ飛ばされたその空白。思考を止め、彼をこれ以上動かさない為に自分から打って出る。
一瞬、相間の口角が上がった。
腕を引き、拳を放とうとする緑谷に合わせ自身も腕を引き、
「――SMASH!」
『AaaaAAuaAAAAaaaa!』
激突する。
互いに拳をぶつけ合い、その衝撃波だけで突風が巻き起こる程。
緑谷は我武者羅だっとというのに初めて腕を壊さずに拳を打てたこと、相間は面白そうな奴が四人の中にもいたこと、それぞれが喜びを抱きながらの衝突であった。
だが、残念ながら状況は変わらない。
「マジか、相間君……っ!」
無傷。
多少引き離さされてはいるものの、依然として相間はそこに立っていた。
『……AAAuaaGAAAuaGAAaAAAAa』
相間が大きく距離を離す。
そして息を大きく吸い込み――
『――GUUUOOOOAAAAAAAA!!』
咆哮。
それは強制的に呼び起こされる恐怖。本能的な畏れ。
「うぐ……っ」
「クソが……ッ!」
「この叫び声は……っ!?」
動けない。
その声は恐怖によって身体を縛るもの。
その声は恐怖によって意思を砕くもの。
その声は恐怖によって死を想起させるもの。
幸いだったのは、ここが雄英高校であり、相手がヒーロー科に所属している生徒とプロヒーローである教師であったことだろう。
何故ならば。
――
意思力の問題ではある。気の持ちようや精神状態によっては抵抗できるものではある。だが凡そ一般人であるならば、その声を聞いた時点で死を選ぶ。
彼が暴走した時の、一回目の咆哮とは込められた力の密度が違う。
そんな声を相間は、新参の三人が邪魔だからと、つまりは露払いとして使った。
『AAAAA――――GU!?』
突如、その咆哮が苦悶の声と共に止められる。
喉元を押さえ、振り向く先は施設の入口方面。
一瞬、相間の視線が微かに揺れ動いた。
『AAuaAa!』
左右の手が虚空を掴み、右腕で顔面を覆う。
投げ捨てられたのは銃弾。そして口でも銃弾を止めていたらしく、吐き出すようにして銃弾が地面に転がった。
「来てくれたか……!」
その銃弾の正体は、雄英の教師の一人、スナイプが撃った銃弾である。
状況証拠的に彼が敵だと誤認されてしまうのは仕方ないとは言え、一発撃たれた時点で場所を突き止め、二発目以降に対応するその反応速度は最早人の域を超えているようにすら思える。
視線の先、並び立つは雄英の教師陣。その数は十人以上。
「1-Aクラス委員長飯田天哉! ただいま戻りました!!」
飯田は状況を伝え、教師陣を連れてきてくれた。
もう敵の主犯格は逃亡済みだが、生徒の安否確認もある上に、残った敵も多い。しかし事態はすぐに解決に向かうだろう。
そして、それに満足しない、する筈のない存在が一人。
『――AaAua!』
相間。
彼の目標はただ一人。
オールマイト。
彼の行動理念、基準は酷く単純だ。それを邪魔するものを排除しようとはするものの、根幹は変わっていない。それこそ、暴走を始めてから、一切。
相間も雄英教師陣が揃ったことで状況がどう動くかは分かってしまったのだろう。だからこそ、制止の声も、迫る銃弾も、迎え撃とうとする生徒四人も、何もかもを無視して。
構える。
「……そんなに私に挑むと言うのなら、仲間達すら邪険にすると言うのなら、一発だけ相手してあげよう」
『GAAAAAA!』
「――DETROIT SMASH!」
本来なら脳無にはもう少し苦戦させる予定だったんですがねえ……
書きたいこと書いてたらUSJ編が後日談抜きに前後編で終わったし、Ⅲに分けようとすると切りどころ分かんないしで全部詰め込めました。
主に深夜と徹夜のテンションなのでクオリティは気にしてはいけない。
やけに強くなったな主人公。
主人公の個性詳細についてはもう少し先。多分次話の後日談くらいで。
んー……しかし思ったより問題児になったなコイツ。
・助けに来たオールマイトに喧嘩を売る
・挙句邪魔をして敵二人を逃す
……暴走とはいえ、マジで何やってんだ主人公。
ちなみに何の邪魔もない状態で脳無とタイマンした場合、どちらが先に体力尽きるかの泥仕合になりますし、オールマイトとタイマンした場合はストレートに主人公が負けます。緑谷には暴走してなくてもまだ勝てる。
勿論、平時主人公<<<<<(越えられない壁)<<<<<暴走主人公です。単純な出力以外でも平時の状態では(それこそ暴走しないぎりぎりまで出力を上げた状態でも)暴走状態には及びません。
友人曰く、「狂化スキルみたいなもんでしょ」とのこと。あながち間違いではない。
それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。
ほーら過去の君から負債が飛んできたよ主人公~。