織田信奈の野望~飛将伝~   作:Mk-Ⅳ

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第十話

第二陣へと突撃した織田勢。対する今川方は一糸乱れぬ動きで頑強に対抗していた。

山上に布陣していることを活かし、斜面を上がろうとする織田勢に矢を浴びせていく。

 

「何て堅固な、まるで隙がない!」

「だったら作ればいいだけよ」

 

今川の統率力に驚嘆する光秀に、信奈は落ち着き払った様子で話す。なお、射程圏内に立つ彼女にも矢が飛んでくることがあるも、利家が槍で叩き落としていた。

 

「どのように?」

「いいから見てなさい。私が作った軍団の力を」

 

そう語る信奈の目には、家臣らへの絶対の信頼があった。

 

「盾をしっかりと構えろ!敵を引きつけるんだ!!」

「俺達は右に回り込む!着いてこい!」

「それじゃ、姫らは左に行こうかのぉ」

 

勝家率いる部隊が矢面に立ち敵を引きつけている間に、可成の隊と一益の隊が左右に別れて敵の死角に回り込んで接近していく。

足軽の1人に至るまで一つの生物が如く統制され、将の命に忠実に動く今川勢は、軍団として完成された芸術品と言っても過言ではなく。逆に織田勢は各将が個々に判断し独自に動き、まるで統制が取れていない粗悪品のようであった。

『織田に勝ち目などない』この光景を見た殆どの者は、そう思うだろう。実際に対峙している今川勢もそう考えていた――が。

 

「さ、左右から敵が!?」

「ご指示を!ご指示を――ガァッ!?」

 

左右から雪崩れ込まれた今川勢は、想定外の事態に個々で判断して行動できないため対応が追い付かないでいた。

 

「敵が崩れた!正面突き破れェ!」

「我らも前進せよ、柴田隊に続け!!」

 

勝家の前進に合わせ、後陣を担当していた長秀の隊が続き。今川勢の戦線が大きく押し出されていく。

 

「逃げるなァ!!間もなく援軍が来るッそれまで耐えれば我らの勝ちグァッ!!」

「大将がやられちまった!」

「もう駄目だ、逃げろォ!!」

 

将の命令に忠実であるために、その将が討ち取られた途端態勢を立て直す暇もなく壊走が始まってしまっていた。

 

「凄いッ!」

 

敵を圧倒していく織田勢の戦いに光秀は感嘆の声を漏らす。

一見烏合の衆のような動きであるが、各自は信奈の掲げる目標に向けて独自に動くことで、柔軟かつ強固な連携を可能としているのだ。

 

「敵陣に穴が開いたわ!馬廻最後の陣まで突撃よッ!」

 

他の隊が敵を左右に分断したことで、第三陣までの道が開いたのを見逃さず。号令と共に下馬した信奈は、槍を手に自ら戦闘に参加していく。

 

「俺らはどうする嬢ちゃん!」

 

翔翼が不在のため、小六と五右衛門ら大空隊は一時的に光秀の指揮下に入っていた。

 

「信奈様を援護します、行きましょう!」

 

敵の血に塗れながら進んでいく彼女を、利家ら馬廻と光秀の隊が追従していくのであった。

 

 

 

 

「お味方の将多数お討ち死に、第二陣も間もなく突破されますッ!!」

 

義元のいる第三陣にて、その報は悪夢であった。

三陣にいるのは馬廻のみであり、それ以外の戦力は既に前線に投入しており。兵数では優位であるにも関わらず、追い詰められているのは自分達である等認めがたいことであった。

 

「狼狽えるなァ!!!」

 

同様する配下に守信が喝を入れた。

 

「城に篭っていればいいものを、織田信奈は自ら首を差し出しに来たのだ!これは好機である!この地を奴らの墓場にしてやれィ!!」

 

オオッ!!と、士気を上げる配下に満足すると。守信は天幕に入り中で怯えた様子の義元の前に跪く。

 

「じ、爺。戦の音が近くなっているがどうなっていますの?」

「…第二陣も陥落寸前。間もなくこの陣まで敵が迫ってまいります」

 

包み隠さず現状を伝えると、義元はそんな、と弱弱しく声を漏らす。

雨の影響で辺り一帯が泥沼となり、最早逃げることも叶わなくなっており。生き残るには敵を倒す以外に道はなかった。

 

「ですが、ご安心を。我ら馬廻衆命にかけても御身をお守り致します」

「そ、そうね。爺らが負けるなんてことありえないものね」

 

安堵したように胸を撫で降ろす義元に、それではと、告げると立ち上がり出ていこうとする守信。

 

「爺ッ!」

「はい」

「死んではなりません。死んでは…妾を1人にしないで…」

 

背後からかけられた掠れながらの言葉に。フッと微笑むと守信は振り返り深々と頭を垂れると、天幕から出ていく。

 

「(これが儂の最後の戦となろう…)」

 

長年戦場で培ってきた感と言えるものが、自分は生きて帰れないと告げていた。新しき(織田)古き(今川)を倒す。この戦は新たなる時代の到来を告げるものとなるのかもしれない。

 

「(だが、それでも。譲れぬ意地があるのだ!この命にかえても、義元様はやらせはせん!!)」

 

配下らの元へ戻ると、戦闘音はもう間近まで迫っていた。

 

「旗を掲げよッ!!!我ら今川馬廻の力、見せてやれィッッッ!!!」

 

配下らが気勢を上げながら旗を高く掲げると同時に、二陣へと打って出ると信奈率いる馬廻と光秀の隊と槍を交えるのであった。

 

 

 

 

織田家馬廻は、信奈の代では武家や土豪の家を継げない次男以下の者達を中心に構成されていた。理由として家の運営に関わることが少ないので訓練に専念できること。

 

「進めェ!!この戦勝てば出世は思いのままだァァァ!!」

 

また、長男がいる限り日陰者である彼らは手柄を上げるために、死を恐れず戦えることを挙げられる。そして――

 

「姫様のために道を開けろォ!御恩に報いるぞォ!!」

 

腐るだけだった自分達に、進むべき()を見せてくれた信奈を想う心も合わさり力となっていた。

 

「一歩も退がるなァ!!姫様に救われた命、今こそお返しせよォ!!」

「姫様のためにィ!!」

 

対する今川馬廻は戦乱や飢饉で住む場所を失い、義元の治世に救いを求め生き永らえた者達が大半であった。義元は難民を積極的に受け入れ、彼らに住みかと職を与え保護したのだ。

そのため、今川馬廻もまた主君への忠義は負けておらず。訓練力こそ劣るも、元より尾張勢は他国よりも身体面で劣っていることもあり、互いに一歩も引かぬ激戦が展開される。

 

「ッ…!」

 

膠着し始めた戦況に焦燥感が募る信奈。いつ敵の援軍は現れてもおかしくない以上、早急に決着をつけなければならないが、打開するべき手札が不足してしまったのだ。

 

「織田信奈ッ覚悟!!」

 

信奈目がけ2人の鎧武者が迫ってくる。繰り出された槍を手にしている槍で弾き、返す刀で鎧武者の1人に突き返す。

 

「グッ!オオオォォォオオオ!!!」

 

槍は胴体に突き刺さるも、鎧武者は刺さった槍を掴んで抑えてくる。そして残った1人が再び槍を繰り出す。

信奈は槍を手放し刀で応戦する。すると、刺された鎧武者が槍を引き抜き、信奈を羽交い絞めにしてしまう。

 

「しまッ――」

「共に死ねェ織田信奈ァァァ!!!」

 

羽交い絞めした鎧武者が叫ぶと、もう1人が諸共串刺しにしようと槍を構え迫ってくる。

 

「姫様!!」

「信奈殿!!」

 

利家らは他の敵の相手で手一杯であり、どうすることもできず。自力で脱することもできない信奈。それでも彼女は諦めずもがく。

槍が突き出されようとしたその時、飛来した矢が鎧武者の喉元を貫いた。

 

「なァ…!?」

 

射抜かれた鎧武者は無念と言う形相で、槍を手放し崩れ落ちる。

 

「信奈ァァァアアア!!!」

 

咆哮と共に赤兎を駆る翔翼が、戟で信奈を羽交い絞めにしていた鎧武者を斬り倒した。

 

「無事か!」

「ええ、ありがとう…じゃなくて、何しに来たのよあんた!?」

 

当たり前のように命令違反を犯している翔翼に、思わずツッコミを入れてしまう信奈。

 

「何って、加勢に来たんだろうが。ほら行くぞ!!」

「あ、ちょ!」

 

信奈の静止を聞かず、赤兎を走らせると敵勢に突撃していく翔翼。

 

「なんだあいつは!こんな不安定な足場で、何故ああも馬を操れる!?」

 

泥濘で滑りやすくなっているにも関わらず、翔翼と赤兎はまるで何事もないかのように駆けており。立ちはだかる敵を蹴散らしながら進撃していく。

そんな翔翼の背中に、利家が飛び乗ってきた。

 

「お前馬廻だろうが、信奈の側にいろ!」

「姫様には皆がいる。翔を守ることは姫様を守ることになるから、犬千代は翔を守る」

 

左側から迫る敵を槍で払う利家。脇に負った傷のせいで、左側への対応が遅れていることを見抜いたようである。

頑なな口調から、説得は難しそうであり。信奈の周りには勝家らも集まりだしていることと、敵に囲まれた中では降ろしている余裕もないため、このまま進むことを選らぶ翔翼。赤兎が主以外を乗せることに不満の色を見せるも、我慢してもらうよう宥める。

囲みを突破し柵を跳び超えて三陣に突入すると、中心にある天幕が目につく。そこに義元がいると見た翔翼は天幕へと赤兎を走らせる。

 

「ッ!」

 

天幕のい前にいた鎧武者が放った矢を翔翼は戟で払うと、その矢に隠すように放たれていた第二射が頭部に命中し、落馬してしまう。

 

「翔ッ!?」

 

利家が慌てて赤兎から飛び降り駆け寄ろうとする。

 

「オォォオオオ!!」

「!」

 

瞬く間に距離を詰めてきた鎧武者が繰り出してきた槍を、跳んで躱す利家。

着地と同時に利家は槍を横薙ぎに振るうも、槍で軽々とで受け流され態勢を崩される。

 

「ぬん!」

「うッ!?」

 

頭部目がけて振り下ろされた槍を利家は受け止めるも、老齢とは思えぬ剛力に槍に亀裂が入る。

 

「やらせはせん。これ以上は、この岡部守信がやらせはせんぞォ!!!」

 

魂の咆哮ともいえる気迫と共に放たれた蹴りが、胴体に炸裂し利家は吹き飛ばされるのであった。

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