織田信奈の野望~飛将伝~   作:Mk-Ⅳ

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第十一話

助骨が折れる感覚を受けながら蹴り飛ばされる利家は、受け身も取れず地面を転がっていく。

起き上がろうとするも痛手のため体が動かない利家。そんな彼女に止めを刺そうと、警戒しながら歩み寄っていく守信。

 

「ぬうッ!」

 

殺気を感じた守信は槍を横向きに構えると、翔翼が振り下ろした戟とぶつかり合い、その衝撃で押し出される守信。

対する翔翼は頭部から血を流しふらつきながらも、利家を庇うように背にして守信に戟を向ける。兜で矢を逸らすも、衝撃で脳震盪を起こしているのだ。

 

「翔…動いちゃ、駄目…死んじゃう…!」

 

更に落馬した衝撃で、脇腹の傷口が開いて血が流れ出てしまっており。これ以上無理に戦えば例えこの戦に勝とうとも命を落とすことになりかねない、そう感じた利家は彼を止めようとする。そんな彼女に、翔翼は顔だけ向け口元に笑みを浮かべる

 

「死なんさ。まだ、あいつが見る景色の一端しか見ていないのだからな。――大空翔翼、いざ参るッ!!」

 

警戒して様子を見ていた守信へ駆け出し、戟を突き出す翔翼。

守信は槍で逸らすと、喉元目がけ槍を突き出し。それを翔翼は首を逸らして避ける。

 

「セィッ!」

 

守信は腰を捻りながら横薙ぎに派生させ、側頭部へ叩きつけようとすると。翔翼は腰を下ろし避けるも、続いて放たれた蹴りが胴体に叩きこまれる。

 

「グッ…!」

 

脇腹からの痛みが増し膝を着きそうになるも、翔翼は歯を食いしばり耐えると肩から体当たりし、態勢を僅かに崩した守信に戟の刃で下段から斬り上げようとする。

守信は足で戟を払うと翔翼を殴り飛ばす。踏みとどまれず数歩後ずさるも、すぐに態勢を立て直すと踏み込んで激を繰り出していく翔翼。

 

「(何故、倒れん!?)」

 

次々と捌きながら守信は内心驚愕する。出血量からしてとうに力尽きてもおかしくないにも関わらず、未だに闘志が衰えるどころか激しく燃え上がっているではないか。

 

「何故、そうまでして戦える!?お前程の者が命をかける価値が、織田信奈にあるのか!」

 

獲物を打ち合わせながら思わず守信は叫んでいた。信奈の才を認めてはいるが、目の前の男をここまで奮い立たせるだけのものがあるとは思えなかったからである。

 

「あいつは、言ったのだ。『乱世なんか終わらせて、戦に怯えず誰もが笑顔で暮らせる世を作ってみせる』とな…。決して口だけじゃない…あいつは、本気でそんな…未来を目指している…。俺は、そんなあいつの『翼』になると誓ったのだァ!!!」

 

気迫と共に押しのけると、翔翼は頭上で戟を回転させ信盛の脳天目がけ振り下ろす。

 

「ッ!」

 

守信は体を逸らしながら槍で受け流し、無防備となった胴体へ突きを放とうとする。

翔翼は対処しようとするも、消耗し過ぎたため反応が遅れてしまう。そんな彼に守信は勝利を確信し、槍を突き出そうとし――

 

「アアアアア!!!」

 

咆哮を上げた突き出された利家の槍に阻まれる。

 

「翔は…犬千代が、守るッ…!」

 

骨折している胸部からの激痛に、歯を食いしばりながら槍を繰り出していく利家。

 

「(こんな痛み、翔のに比べたら…!)」

 

翔翼はどれだけ傷ついても、大切な人達を守るために困難に立ち向かってきた。利家はそんな彼の背中に、憧れ肩を並べて戦場に立てるよう努力してきた。強引に着いてきたのも、彼の力になりたい一心であった。

 

「翔は、死なせなィ…!!」

 

気迫と共に槍を突き出すが、受け止められた槍に巻き上げられて弾き飛ばされてしまう。

 

「その覚悟は良しッ!だが、甘いわッッ!!」

 

無防備となった利家に、槍を突き刺そうとする守信。

 

「させるかァ!!」

 

翔翼が利家を突き飛ばすと、彼女の喉元へ放たれた槍が右大腿部へと突き刺さる。

 

「翔ッ!?」

 

庇われた利家が悲痛な声を上げる。ただでさえ瀕死であるのに、これ以上の手傷は耐えきれるものではなく。まして、大腿部は出血しやすく今の翔翼には致命傷になりえた。

 

「オオオォォォォォオオオ!!!」

 

翔翼は怯むことなく、槍を左手で掴むと力づくでへし折った。

 

「なんとぉ!?」

「ハァァァアアア!!」

 

翔翼は、無防備となった守信の脇腹を戟で殴り飛ばす。

 

「グァッ!」

 

受け身も取れず地面を転がり倒れ伏す守信。起き上がろうとするも、体が思うように動かせず再び伏せてしまう。受けた傷が大きいのもあるが、何より――

 

「(老いた肉体を、これ程恨めしく思ったことはないわッ!!)」

 

歯ぎしりしながら地面を掴んで握り締める守信。高齢となった体では、最早体力が追いつかなくなってしまったのだ。

 

「翔…」

「…行くぞ。義元はあの天幕の中だろう」

 

もう守信は障害にならないと判断した翔翼は、利家に支えられながら天幕へ向かおうとする。

 

「どこへ行くッ。儂はまだ生きているぞッ!!!」

 

ふらつきながらも起き上がると、気迫と共に刀を抜き構える守信。

 

「もう勝負はついた爺さん。老い先短い命を粗末にするな」

「舐めるな若造!主君に命を懸けているのは、貴様だけではないわッ!!!」

 

足取りはおぼつかず、構える刀は満足に握れず震えていた。にも関わらず、背後にある天幕に近づかせまいと闘志を漲らせていた。

守信の覚悟を感じた翔翼は利家から離れると、戟を軽く振り回し構えた。

 

「ならば、勝負ッ!!」

「来い、若造ッ!!」

 

同時に駆け出した両者。獲物の長さで優る翔翼が、先手を取り戟を振り下ろそうとする。その瞬間、守信は腰に差していた鞘を抜き翔翼の顔目がけて投げつけた。

視界を塞ぎ反応を遅らせ、鞘を払おうとしている間に間合いを詰めようとする守信。

 

「オオオォォォオオオ!!!」

 

だが、翔翼は動揺を見せないどころか、鞘が顔に当たろうとも構わず踏み込んで戟を振り下ろした。

 

「何ッ!?」

 

予想外の動きに驚愕しながらも、刀で受け止めるが耐え切れずにへし折られ。刃が守信の右肩口から左斜め下に斬りつけた。

 

「グっォオ!」

 

傷口から血を流しながら膝を着く守信。

 

「まだだ、まだ…!」

 

それでも再び立ち上がろうとする守信。武器を失おうとも素手で戦おうとしていた。

 

「その信念と覚悟、見事。なれば、俺はあんたを超えて先に進もう」

 

そんな守信に敬意を払うと、戟で首を撥ねようとする翔翼。

 

「覚悟ッ!」

 

戟が振るわれ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ちなさいッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようとして、天幕から響いた声に翔翼は動きを止める。

 

「義元、様…!」

 

声の主を見た守信が驚愕の声を漏らす。天幕から姿を現したのは主君である今川義元であった。

義元は必死の形相で駆け出すと間に割って入り、守信を庇うように立つと、震えた手で刀を持ちながら翔翼を睨みつける。そんな彼女の気迫を警戒し、数歩退がる翔翼。

 

「姫危のうございます、お下がりを!」

「嫌ですわ!じ、爺は殺させません。わ、妾が相手になります!!」

「お止め下さい!姫が敵う相手ではありません!!」

 

今にも斬りかからんとする義元を、後ろから抱き着いて必死に止める守信。対する翔翼と利家は反応に困っている様子であった。

ハッキリと言って、義元の動きは武芸を習っているとは思えない程に杜撰であり、恐怖の余り体が小刻みに震えており斬ろうと思えば容易くできるだろう。だが、守信を懸命に守ろうとする彼女の健気さに、気が引けてしまっていた。

 

「どうしよう翔?」

「…義元公にはここで死んでもらうしかあるまいよ」

 

困惑する利家の問いに、暫し逡巡した翔翼は戟を足元に突き立てると、殺気を込めて刀を抜きながら歩み出る。

 

「ヒッ!?」

 

殺気に当てられた義元は、委縮して刀を落とし座り込んでしまう。そんな彼女を守信が庇うようにして抱きしめる。

 

「もう、嫌…どうして妾らがこんな目に…」

「義元様…申し訳ござらん。この老骨めの力が足りぬばかりに。ですが、お1人には致しません、来世では雪斎と共に静かに暮らしましょうぞ…」

 

遂には泣き出してしまった義元の頭を撫でながら、死を覚悟する守信。せめて次の世では平穏に暮らせることを切に願う。

 

「当主の座なんていらなかった。ただ、大切な者達と平穏に過ごしたかっただけなのに…。乱世等もう嫌ッッッ!!!」

 

悲痛な叫びを上げて泣きじゃくる義元へ、翔翼は静かに刀を振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今川義元桶狭間にて討ち死にす――この報を受けた今川勢は総退却し、後に『桶狭間の戦い』と呼ばれることになる一連の戦いは織田家の勝利にて幕を閉じるのであった。

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