織田信奈の野望~飛将伝~   作:Mk-Ⅳ

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第十四話

松平家との同盟を締結した織田家は、軍備を整えると美濃攻略へと乗り出した。

桶狭間の戦いの勝利による勢いもあり、織田勢の士気は高く。当主が変わったばかりで不安定な斎藤勢に有利に戦は進むと思われたが――。

 

 

 

 

「かかれィ!!」

 

美濃国内の山間部に潜んでいた大空隊は。翔翼の合図の元、斎藤勢の補給部隊に襲いかかった。

補給部隊は瞬く間に追い散らせ、翔翼らは物資を強奪することに成功した。

 

「深追いはするな!新手が来る前にずらかるぞ!!」

 

兵糧や武具等が乗った荷台を配下に運ばせる翔翼。そんな彼に、木の枝の上に乗った五右衛門が話しかける。

 

「他のお味方は手こずっているご様子で」

「思いのほか敵の動きが良いからな。竹中半兵衛、厄介だな」

 

斎藤勢の指揮を取る竹中半兵衛なる者によって、織田勢はことごとく先手を打たれ何度も撤退に追いやられていた。

まるで神のようにこちらの動きを読み、策謀を巡らしてくる半兵衛を恐れ、足軽らの士気は激減し最早まともに戦うことができない状態となってしまう。

本来であれば一度兵を引き時期を見計らうべきだが、信奈は手を引こうとせず此度の出兵では気を伺うためと陣を張り続けた。

対する斎藤勢は攻められた場合のみ応戦し、自ら攻めてくることはないため戦線は膠着状態に陥った。

この状況を打開しようと、信奈は敵の補給線を抑えようと部隊を動かし、小競り合いが続いていた。

 

「他の部隊は補給路を抑えるどころか、物資を奪うことさせできず。げんちょうわがたいちゃいのみぶっちをうみゃうことにゃ――」

「一旦仕切り直した方がいいぞ」

「…現状我が隊のみ物資を奪うのが精一杯。この度ののぶにゃとのらしくありまちぇんにゃ」

 

補給線への防御は固く、織田家で最も機動性の高い翔翼の部隊しか、敵の防衛線を潜り抜けられていなかった。

 

「意固地になっているのさ、根は素直だからなあいつ」

「蝮殿とのことですかな?」

 

やれやれと言いたそうに話す翔翼に、思い当たることがある様子の五右衛門。そんな彼らの耳に、四方から喧騒が聞こえてくる。

 

「大将あちこちから敵が迫って来てやす!」

「引くぞ!物資は燃やせ、敵に渡すな!」

「もったいないですぜ!」

「死ぬよりは安いわ!早くしろ!!」

 

渋る配下に怒鳴りながら隊を纏めていく翔翼。

 

「大空氏、こちらが手薄でござる!」

「一番厚いのは!」

「あちらで!」

「では、厚い方を破る!」

 

翔翼の言葉に配下がざわめき立つ。

 

「わ、わざわざ敵の多い方にですか!?」

「手薄な方はきな臭い、その方が安全だ」

「野郎共、兄弟の勘を信じろ!そうやって今まで生きて来れただろうがァ!!」

 

小六が発破をかけると、配下から迷いが消えて雄たけびが上がる。

 

「良し、では逃げるぞ野郎共!!」

 

先頭を走る翔翼に続き、部隊は包囲を破ると命からがらに撤退するのであった。

 

 

 

 

「逃げられただと?」

 

斎藤勢の本陣にある陣幕にて、翔翼と同年代の鎧姿の男が伝令からの報告に眉を潜ませる。

こちらの防衛線を軽々と破って、補給路を脅かしてくる翔翼の隊を殲滅すべく策を巡らすも、破られてしまったのだ。

 

「第二陣は何をしていたか」

「はっそれが、敵は包囲の最も厚い箇所へ突撃をかけ脱出致しました」

 

問い詰めるような男の言葉に、伝令は信じられないと言いたそうに答える。

この策では敢えて包囲に薄い箇所を作り、そこを突破させ油断した敵を、別に伏せていた部隊で包囲し殲滅するものであったのだ。

だが、敵は最も厚い箇所――即ち安全な箇所から脱出したのである。

包囲されたという心理的に圧迫された状況から、目に見えて危険な方へ進むのは並外れた精神力では不可能であろう。

 

「大空翔翼、織田信奈の懐刀と呼ばれるだけのことはあるか。できればこの場で討ち取っておきたかったが…」

 

そういって、男――竹中半兵衛は無念そうに空を仰ぎ見るのであった。

 

 

 

 

織田本陣――その陣幕の中では、信奈始め家臣団が集まっていた。誰もが意気消沈した様子をしており、それを纏めるべき信奈は苛立った様子で親指の爪を噛んでいた。

 

「戻ったぞ」

 

そんな空気を、どこ吹く風と言わんばかりに入ってくる翔翼。

 

「あ、戻ったのか翔――って大丈夫なのか!?」

 

返り血に塗れている翔翼を見た勝家が驚愕する。

 

「包囲殲滅されかけただけだ問題ない」

「いや、あるだろ」

 

何事もないかのように話す翔翼に、可成のツッコミが入った。

 

「信奈限界だ。軍を引け」

 

信奈の前に立った翔翼は、立ったまま――臣下の礼を取ることなく言い放つ。

 

「まだよ。まだ戦えるわ」

「こいつらの顔を見てもか?」

 

家臣らの顔を見るよう促す翔翼。誰もが沈んだ顔をしており、彼の考えに賛同しているようであった。

 

「それに兵糧も持たない、そうだな信盛?」

「ええ、敵から奪って持たせていましたが、それも無理となるとどうにもなりませんね」

 

翔翼の言葉に、信盛がお手上げと言いたそうに両手を上げる。

 

「お前が取れるのは、このまま全員揃って仲良く死ぬか、惨めに逃げ帰るか。どちらかだけだ」

「……」

 

敗北を受け入れられないのか、両手を握り締めて俯き歯を食いしばる信奈。

そんな彼女の頬を両手で挟み顔を上げさせ、無理やり目線を合わせさせる翔翼。

 

「このまま終わるか、この経験を次に生かすか。どちらだ織田信奈!!」

「…撤退するわ!陣引けィ!!」

 

信奈が立ち上がりながら号令を発すると、ハッ!と応じた諸将が行動に移っていくのであった。

 

 

 

 

敵に追撃されることもなく、清洲へと帰還した信奈らは評定場へと集っていた。

 

「ハッハッハッ!此度も見事に半兵衛めにしてやられたな信奈殿」

 

そんな彼女らを満面の笑みで出迎えたのは、美濃の蝮こと斎藤道三であった。織田家に保護された彼はそのまま客将として身を置くこととなった。

だが、信奈の父である前当主信秀の代には幾度となく織田家と争っていた身であり、自分が手を貸すといらぬ事態を起こしかねないと隠居したのだ。

道三の言葉に、不満全開といった様子で不貞腐れている信奈。

 

「そんな言い方しなくてもいいだろ爺さん!信奈様はあんたのために頑張ってんだぞ!」

 

勝家が畳を叩きながら抗議の声を上げた。

道三は高齢であり、いつ『もしも』が起きてもおかしくはなく。信奈は彼が生きている内に再び美濃の地を踏ませてあげたい、生涯を捧げた地で眠らせてあげたいと躍起になっていたのだ。

そんな彼女の心意気が伝わるだけに、家臣団は強く進言できず苦戦する要因となっていた。…一人だけ、だからどうしたと遠慮しない男はいるが。最も、そのおかげで最悪の事態は免れていたりする。

 

「だからよ。こんな老いぼれをのために戦っているのでは、いつまで経っても天下は取れんぞ信奈ちゃん」

 

娘に語り掛けるように優しく話す道三。彼にとって、信奈は光秀と同じくらい大切な存在なのだ。

 

「これ以上そなたの足を引っ張るのであれば、儂は腹を切ることも辞さん」

「そんなの駄目よ!」

 

道三の言葉に、信奈は慌てながら立ち上がる。

 

「せっかく拾って上げたんだから、あたしの許可なく勝手に死ぬなんて許さないからね!」

「ならば己の為すべきことに専念せよ。こんな所で躓いている余裕はないのだからな」

「…分かったわよ」

 

渋々と言った様子だが頷くと座り直す信奈。

 

「まあ、爺さんのことがなくても竹中半兵衛には勝てんがな」

 

翔翼が遠慮なく言い放った言葉に、場の空気が重くなった。

 

「実際このまま正面から相対するのは0点です。何か手を打つ必要はあるかと」

「暗殺でもするかの?なんなら姫自ら行くが?」

 

長秀が話していると、伊勢方面の守備を担当していてこの場にいない筈の一益が、翔翼の膝の上に座っていた。

 

「よう、そっちはどうだ?」

「なーんもなくて、一日中寝ていられるくらい平和じゃ」

「仕事しろ、尻叩くぞ」

 

翔翼の言葉に、にゃー!それは嫌じゃ~!と天井に張り付いて逃げる一益。

 

「暗殺何て論外よ。それじゃあたしが半兵衛に勝てないって認めるもんじゃない」

「なら引き抜きであればどうだ?」

 

不服そうな信奈に、翔翼提示した内容にその場にいる一同の視線が集まる。

 

「それならば信奈の名は傷つかなないし、兵を失わず戦力の強化になるだろ」

「そりゃそうだが。それができれば苦労はしないだろ」

 

翔翼の提案に消極的な様子の可成。引き抜き工作は確かに強力な手ではあるが、それ故に成功させるのは至難であった。

 

「俺に考えがある。ここは任せてもらいたい」

「そこまで言うならあんたに任せるわ。必要なものはある?」

「できれば光秀に来てもらいたいが」

「私で良ければ喜んで」

 

翔翼に声をかけられた光秀は快諾の意を示す。彼女は桶狭間での戦い後、正式に織田家に仕えていた。

こうして、翔翼の一世一代の大勝負が始まるのであった。

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