織田信奈の野望~飛将伝~   作:Mk-Ⅳ

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第二十一話

稲葉山での騒動から暫く経ち。斎藤家内では当主義龍の器に疑問を持つ者が続出していた。

そのことを察知した信奈は斎藤勢の勢力を取り込むべく。稲葉山城のある西美濃を一息に攻略する短期決戦から、東美濃方面を制圧し敵の戦意を挫く長期戦略へ方針を転換。今までの戦力の中核であった天才軍師半兵衛と美濃三人衆の一角である安藤守就を失い。更に残る稲葉一鉄と氏家卜全が自身の城に引き籠ってしまったことで、家中の不和と合わさり大幅に弱体化した斎藤勢は後手に回り続け、東美濃の大半が織田家の勢力下となり。家臣や国人衆が次々と織田家へと寝返っていたのであった。

そして次なる一手として、西美濃にある墨俣と言われる地に城を築くことであったが…。

 

「も、申し訳ございません姫様!当初は順調だったのですが…途中で敵の奇襲を受け、現場は大混乱に陥り人足が逃散してしまいました!!」

 

新たに築かれた小牧山城の城主の間にて、勝家が上座に座る信奈へ涙目になりながら平伏していた。

墨俣は稲葉山城の目と鼻の先にあるため、どれだけ迅速に普請しようとしてもすぐに敵に発見され妨害を受けてしまうのである。

本来拠点づくりは安全が確保された上で行われるものであり、敵地での築城はかなりの危険が伴った。逆に言えば、成功させればこの上ない威圧となり形成は完全に織田家へと傾くこととなる。

 

「敵に見られながら城を作れって言ってるのだから、簡単にできるとは思ってないわ。最小限の被害で抑えられただけで上出来よ」

 

胡坐をかいて拳に顎を載せた信奈は、さして落胆した様子もなく告げる。無理難題を言っていることは百も承知であり、失敗しようとも特に処罰するつもりは元よりなかった。

とはいえ、彼女の描く戦略にかの地への築城は不可欠であり、どうにか打開したいことであった。

 

「…誰か他に名乗り出る者はいるかしら?」

 

そういって視線を間に集まる家臣らに向けるも、大半が渋い顔をして静まり返る。我こそはという者は既に失敗しており、筆頭家老である勝家でさえ失敗したことに、最早自ら志願しようとする者が出ないのも無理もないことであろう。

 

「信盛」

 

そんな中、平然とお茶を啜っている信盛に声をかける信奈。()いる者の中で成し遂げられる可能性があるとしたらこの男しかしないだろうと見たからだ。

 

「いや~無理ですね。こんな無茶な任務まともな方法(・・・・・・)じゃどうにもならないでしょう」

 

はっはっはっと笑いながらも、その目はもう『切り札』を切るしかないと語っていた。

 

「…翔は?」

 

空席となっている空間に視線を向ける信奈。そこにいる筈の野盗面した常識外れ男の姿はどこにもなかった。

 

「『俺の出る幕はない』って言ってサボってますぜ姫様」

 

やれやれ、と言いたそうに肩を竦める可成。墨俣への築城が決まってからというものの、翔翼は軍議にも参加せず、かと言って何かをするわけでもなく悠々自適な生活を送っているのであった。

 

 

 

 

小牧山城周辺にある川辺を訪れた長秀は、馬を駆りながら目的の人物を探す。子供らの遊ぶ声の方に向かうと程なく草原の上に寝ころんでいる翔翼が見つかった。その側では赤兎が彼を守るようにしながらも寛いでおり、長秀が近づくと警戒するように顔を上げるが、彼女の顔を見ると問題ないといった風に再び寛ぎだした。

 

「見つけましたよおさぼりさん。軍議をほっぽり出すなんて家臣として零点です」

 

馬から降りしゃがみ込んで頭側から顔を覗き込むと、閉じていた目を片方だけ開けて長秀の顔を確認した翔翼は、再び目を閉じてしまう。

 

「出る必要のないものに出て刻を無駄にするより、有意義なことに費やした方がいいだろ」

「ただ遊んでいるだけじゃないですか」

「失敬な、幼子が安全に遊べるよう見守ることは大事だろうが!」

 

カッ、と目を見開き力説する翔翼に、そうですね、と一応は同調しておく。川に入って遊んでいる子もおり、溺れたりしたら確かに大変である。…まあ、正直な話、この手の話をさせると長くなるので、早めに話題を変えたかったというのもあるが。

 

「信奈様がお呼びです。墨俣への築城、あなたに任せるそうですよ」

「…他の者達はしくじったか」

 

どこか気怠そうな様子で動こうとしない翔翼。任務に乗り気でないようである。

 

「…珍らしいですね。いつもなら、この手のことには勝手に動こうとさえするのに」

「別にすぐにどうこうなることでもないだろ。他の者に任せればそのうち上手くいくさ」

「そうもいかなくなりました。一益殿から北畠家ら伊勢方面が怪しい動きを見せているそうです」

 

隣に腰かけた長秀の言葉に、片目だけ開ける翔翼。

 

「織田が美濃を取り巨大になれば、自分達の身が危険に晒されると踏んだか。出る杭は打たれるってやつか」

「それが戦国の習わしなのでしょうね。己を守るためには、それが最善ですから」

「…それえを跳ね除けてこそ天下を狙える、か」

 

ようやく体を起こす翔翼。それでも乗り気ではないのか変わらないようだが。

 

「策は考えてあるのでしょう?」

「ある、が上手くいく保障はないなぁ」

 

半目で頭を掻きながら、覇気のない声で話す翔翼。根拠のないことでも、自信を持って事に当たる彼にしては珍しい姿であった。

 

「あなたなら必ず成功させられると、姫様だけでなく皆信頼していますよ」

「それだ」

 

ズイッ、っと不満げな顔を寄せてくる翔翼。

 

「はい?」

「そうやって何でもかんでも俺に任せればいいって考え方は気にいらん。俺がいない時はどうする気だってんだ」

 

近いです、と両手で顔を押し返しながら、彼が今回の任務に乗り気でない理由に検討がつく長秀。

 

「家中があなたに甘えている現状は良くないと?」

「おう、これから美濃だけでなく領土が広がっていくんだ。そうなったら何でもかんでも対応できるようにはならん、俺は分身できる訳じゃないんだぞ?」

 

そういって腕を組み眉を潜ませる翔翼。

 

「まして俺ァ神様なんかじゃないんだぞ?できることなんか限られるってのに、困ったら俺に任せようなんて当たり前みたいに考えられても困る。いざって時は自分の力でどうにかしようって気概がないと、この先やっていけんだろうよ」

 

なあ、と訴えてくる翔翼の主張に、確かに、と同意する長秀。同時に、家中の期待を一身に背負うことへの不安もあるのだと感じ取っていた。

 

「あなたの言うことは最もです。でも桶狭間でのような功績を上げれば、期待されて当然でしょう。今やあなたは織田家の英雄なのですから」

「英雄ってなぁ。俺はただ自分にできることをしてるだけなんだが…」

「あなたにとってはできて当然なことであっても、私達にとっては『奇跡』を見せられているようなものですからね。皆頼りたくなるのも無理もないことでしょう。だから、あなたはもっと自分の立場を自覚すべきです。これから大空翔翼という名は天下に知れ渡り、より多くの人々の期待を背負うことになるのですから」

「…過大評価し過ぎではないか?」

「客観的に分析した結果です」

 

そりゃどうも、と翔翼は辟易しながら愚痴る。

 

「さて、そろそろ行くとするか。悪かったなこんな話に付き合わせて」

 

立ち上がりながら臀部の土等を払う翔翼。

 

「あなたの可愛げのあるところが見れて、満足度満点なのでお気になさらず」

 

おおらかに微笑む長秀に、敵わんよお前さんには、と白旗を上げながら赤兎に乗る翔翼。

 

「…このことは誰にも言わんでくれよ。何か恥ずかしんでな」

「ええ、2人だけの秘密にしておきます」

 

口に人差し指を添え、どこか子供っぽい笑みを浮かべる長秀。その姿はどこまでも楽しそうであったのだった。

 

 

 

墨俣への築城の任を負った翔翼は、すぐさま墨俣に向かう――ことなく。そのすぐ側を流れる木曽川、その上流に配下の者達と共にいた。

次々と木を切り倒し、その場で(・・・・)城壁や櫓といった部品を作り上げ、それらを筏に載せていく。

今回翔翼が立てた策は。材料を運び現地で一から築城していては刻がかかり敵に発見される確率が高まるため、敵の目の届かない地であらかじめ組み立てを行い、現地へ迅速に輸送し一息に城を完成させてしまおうというものであった。

翔翼の配下である小六らは、元は尾張の野武士や川賊のため。正規の部隊よりも、敵の目を掻い潜り行動することが得意であり、隊としてでなく個別に美濃に潜入し現地で合流することができた。

そして材料は現地で調達し、輸送は川を利用することで迅速に行動することが可能となるのだ。これは従来の常識に縛られない彼だからこその策と言えるだろう。

 

「積み込み終わったぜ兄弟、後は運ぶだけだ」

「うむ、分かった」

 

作業に混ざっていた翔翼は、副将である小六の報告に満足気に頷くと、先頭にある筏に相棒である五右衛門と共に乗り込む。

筏を留めていた縄が切られると、川の流れに沿って筏は進みだしていく。

木曽川は流れが急なため、流される筏は激しく揺さぶられるも。忍びである五右衛門は元より、翔翼も何事もないかのように堂々とした佇まいでどっしりと構えている。

 

「おい!妹のことしっかり頼むぜ(・・・・・・・)兄弟!」

 

別の筏に乗り込んだ小六が、濁流の音に負けじとはいえ、やけに大声で叫んできた。

 

「あ、兄上っ!!」

 

顔を赤く染めた五右衛門が、何故か慌てたようにして叫び出す。

実は小六と五右衛門は血の繋がりこそないが兄妹であり。五右衛門の今は亡き父が尾張に流れ着いた際に、野武士であった小六の父となったことで契りを交わしたのだ。その後蜂須賀党を結成した彼らの父は尾張内の野武士らや川賊の川並衆らを纏め上げ独立勢力と言える規模の集団を作り上げることとなる。そして、織田家に仕官して間もない翔翼に仲間となるべく乞われ、その人柄に惚れ込んだ彼は我が子らを託したのであった。

 

「分かっている!川に落ちるようなことはさせんよ!」

 

翔翼が五右衛門を抱き寄せると、うにゅ!?と彼女の顔が赤く染まっていき、なんてことを!と言いたそうに兄を睨む。

そんな妹に小六はいい笑顔で手の親指を立てる。ちなみに、彼らの父は今際の際『ふつつかな娘ですが、どうか末永くよろしくお頼み申す』と翔翼に五右衛門を託していたりする。…その意味は十分に伝えわっていないようではあるが。

 

「親分もっと寄って!」

「攻めれるときに攻めないと!」

「親分のうにゅキター!」

 

背後から子分である川並衆が声援を送ったりと湧き上がるが、全力で無視する五右衛門。

そうこうしている内に墨俣に到着した一行は、すぐさま築城に取り掛かる。

 

「頼むぞ川並衆!ここからは速さが勝負だ!」

「任せてくんな大将!どこよりも立派な城にしてみせますぜ!」

「今こそ親分への愛が試される時!」

「矢だろうが鉄砲だろうが飛んでこようが、成し遂げるぜ!」

「「「「「そう、『大将と親分の愛の巣城をぎゃあああああああああ!!!」」」」」

 

顔を真っ赤にした五右衛門の手裏剣が、意気込む子分ら目がけ乱れ飛んだ。

 

「敵に見つかるから余り騒がんでくれ。それと、その名称は信奈がぶちキレれそうだから止めてくれ」

 

らしくなく暴れまわる相棒と、喜びながらしばかれるその子分らにやんわりと窘める(たしな)翔翼であった。

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