織田信奈の野望~飛将伝~   作:Mk-Ⅳ

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第三十四話

上洛後も織田家は快進撃を続け、都周辺を確保することに成功する。

新将軍擁立も含め大躍進を果たし。当初の目標を果たした信奈は、翔翼と光秀を都の守りに残し他の者達と共に一度本拠の岐阜へと帰還するのであった。

 

「すまないなフロイス。どうしても信奈の予定が取れなくてな」

「いえ、お気になさらず。ノブナ様はご多忙な身ですから。お取次ぎ頂けるだけでも感謝しかありません」

「そう言ってもらえると助かる。そう遠くない内に信奈は戻ってくる。そうしたら君に会う余裕もある筈だ」

 

屋敷にて。申し訳なさそうに頭を下げる翔翼に、気にした様子で微笑むフロイス。

滞在してから、数日待ちぼうけさせてしまったことを気に病んでいるのだが。直接的なつながりのないフロイスからすれば、門前払いされてもおかしくない身であり。直訴する機会を設けようとしてくれるだけでもありがたい話であった。

 

「んぐんぐ…。我も早く織田信奈に会いたいぞ翔!」

 

個人的に信奈に興味があるらしい梵天丸は、団子を頬張りながらじれったそうにしている。

食べながら話してはいけません、とフロイスに嗜められており。姉妹のようなやり取りにを微笑ましく見ている翔翼。

 

「ああ、信奈もお前達に会いたがっているから、もう少しだけ待ってくれ」

 

フロイスらのことを伝えると、敬愛しているザビエルの教え子と母との不仲という自分と似た境遇をそれぞれに持つ彼女らに会うことを信奈は快諾したのだった。

 

「では、俺は光秀と今後のことについて話さねばならんので、暫し出かけてくる」

「はい、お気をつけて」

「うむ、土産に期待しているぞ!」

 

 

 

 

朝廷との交渉の他、将軍の警護役にも任じられた光秀は、義昭と共に本拠が完成するまでの仮御所である本國寺(ほんこくじ)に滞在していた。

 

「あ、翔翼殿。お疲れ様です…」

 

久方ぶりに会った光秀は、いつもの凛として毅然としているも、激務による疲労の色を隠せないのか目に隈がうっすらと浮かんでいた。

 

「お疲れ。大変だな『アレ』の相手も」

波紋頭上蹴打(おーばへっどしゅーと)ォォ!!」

 

視線の先には将軍となった義昭が。幕臣に混ざりながら、華奢な見た目に似合わずとんぼ返りしながら蹴鞠を打ち込んでいた。

お目付け役でもある藤孝が、織田家本隊が抜けた京の南部の守備のため不在なせいか。いつも以上に好き勝手振舞っているらしい。

 

「ええ、まあ…。顔を合わせる度にやけに誇張した自慢話を聞かされまして…」

「手伝ってやりたいが、俺は公家のことはさっぱりでな。すまない」

「いえ、翔翼殿には都の治安維持を担っていただいておりますので。おかげさまで朝廷からの覚えも良く、それだけでもとても助かっていますから」

 

せめてもの労いにと、翔翼が頭を撫でると、照れくさそうにしながらも嬉しそうに受け入れる光秀。

そんなことをしていると。光秀の配下が慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「も、申し上げます!!武装した軍勢が、この将軍御所目掛け押し寄せて来ております!!」

 

その報告に周囲がざわつく中。光秀はすぐに下知を下す。

 

「利三!ここで迎え撃ちます、総員を戦闘配置につかせなさい!それと、岐阜の信奈様や周辺の味方に援軍要請を!」

「御意に」

 

命を受けた女性武将――美濃統一後に配下となった斎藤利三が配下らに指示を出していく。

 

「み、光秀殿っ。この本國寺は堀で囲まれただけのただの寺ぞ!ここは逃げた方が良いのでは?」

「それこそ敵の狙いです!将軍様が矢でハリネズミになるのをご所望か!」

 

狼狽した幕臣を一蹴すると、自らも鉄砲を持ち武装していく。

その間にも、光秀隊の者達が屋敷の畳を剥がし縁側へ並べ、それを積み上げた俵で固定し即席の防壁として要塞化していく。

 

「良いお前達」

「将軍様!?」

「余は光秀を信じておる。ここはそなたに任せるぞ」

 

毅然としたした態度で言い放つ義昭に、幕臣らからおお…流石将軍様だッ、と感嘆の声が漏れる。

…当人の目からは『痛いのは嫌!自分が死ななきゃ何でもいい!』という意思がありありと翔翼には見えていたが…。

 

「五右衛門ッ。お前は勝龍寺城にいる細川殿の元へ向かえ!この状況を打開するには、彼の力が必要だ!」

「ハッ!」

 

共として連れて来ていた五右衛門を送り出すと、翔翼は利三の元に向かう。

 

「利三殿!すまないが刀以外の武具を持参して来ていない、貸してもらえるか!」

「はい、こちらをお使い下さい」

 

既に用意されていたようで、彼女の配下が防具を取り付けてくれる。取り付けが終わると同時に槍を受け取ると光秀の元に戻る。

 

「敵は三好の残党だろうな」

「ええ、彼らはここら一帯の地理を知り尽くしていますから。ですが、こうも早く反攻してくるとは…」

「もしかしたら、噂の三好の梟雄(きょうゆう)が絡んでいるかもしれんな」

「松永久秀がですか?しかし、彼女は織田家へ迎合する姿勢だった筈…」

「将軍の暗殺をするくらいだ、それくらいの騙しはするだろうさ。ともかく、岐阜の信奈が来るまで数日、細川殿や浅井家の援軍はすぐに到着する筈だ。それまで耐えれば勝ちだ」

「はい。義昭様は奥の間へ――って速ッ!?」

 

安全な場所に移そうとするよりも先に、もう退避している義昭であった。

奥の間から、頑張れー応援しておるぞ~と顔を覗かせてくる将軍に、ある意味関心するのであった。

 

 

 

 

「ええい、あんな防備の薄い寺、何故落とせぬ!」

「そ、それがっ。敵の鉄砲の数が多く、その威力にお味方が攻め込むのに二の足を踏んでしまっておりまして…」

 

本國寺を攻める三好本陣にいる総大将の三好長逸は、伝令からの報告に苛立ちを隠せず、馬上で拳を己の膝に打ちつける。

奇襲に成功したにも関わらず、予想に反して敵の守りは固く。敵陣から絶え間なく聞こえてくる発砲音が敵を絶対に近づけまいとする意志と共に、城壁の如く立ちはだかっているかのような錯覚さえ覚えそうになってしまう。

 

「明智隊は鉄砲の扱いに長けております。近畿でも右に出るのはかの雑貨衆くらいなものでしょう」

「関心しておる場合か久秀ッ!このままでは細川藤孝や浅井が来てしまうぞ!そうなれば、今度は我らが危うくなるのだぞ!!」

 

気楽な様子で並び立つ松永久秀に怒鳴り散らす長逸。やはりこの女狐と組んだのは間違いだったか!と内心後悔し始める彼を他所に。久秀は動じた様子もなく話す。

 

「落ち着きなさいませ長逸殿。総大将がそのように取り乱しては勝てる戦も勝てませんわよ?」

「わ、わかっておる!だが、このままでは埒が明かないぞ!」

あの方々(・・・・)にお任せすれば何も問題ありません。どうかご安心を」

「むぅ。だが、あんなよそ者を本当に信用して良いものかどうか…」

「確かに彼らは三好家とは縁こそありませんが、織田家打倒という点では我らにも劣らぬ情熱を持っておりますわ」

 

うふふ、とまるで遊びに興じるかのような笑みを浮かべる久秀。戦場に余りに不釣り合いなその姿に、長逸はじめ周りにいる者達は、味方である筈なのに敵以上に恐ろしく見えるのであった。

 

 

 

 

敵の追手を振り切りながら、五右衛門は勝龍寺城へと辿り着くと。すでに本國寺の異変を察知しているようで、出陣の準備に取り掛かっているようであった。

 

「間もなく軍備も整う故、安心されよ使者殿――といいたいのだが、一つ問題があってな」

 

甲冑に身を包んだ藤孝と謁見すると、彼はどこか困ったような顔をしていた。

 

「何か?」

「うむ。句がな…」

「は?」

「良い句が詠めんと私は力を発揮できんのだ…」

 

筆と短冊を手にうむむ、と唸っている藤孝。彼は武人としだけでなく、文化人としても名を馳せており何かにつけて句を詠みたがる習慣を持っているのだ。

そんな頼みの綱に、大丈夫かこの人?と不安を隠せない五右衛門であった。

 

 

 

本國寺では圧倒的寡兵にも関わらず、織田方は奮戦しており。一進一退の激戦が繰り広げられていた。

そんな中。三好方に混じって大柄な男と美男子の二人組が戦局を見定めていた。

 

「…親父、そろそろ往ってもいいだろ?」

「ああ。頃合いだ先陣はお前に任せる」

 

大柄の男の了承を得た美男子が、待ってました!と言わんばかり、意気揚々と前線へ駆け出すのであった。

 

 

 

 

「…敵の勢いが増したな」

 

翔翼が呟くと、眼前の敵方からの鬨の声が強まり。鉄砲に怯んでいた敵兵が次々と塀を超えて侵入してくるようになる。

 

「前に出る。ここは頼む」

「はい。お気をつけて」

 

翔翼は駆け出すと、敵の足軽を槍で次々と薙ぎ倒していく。

 

「怯むな!!押し返せィ!!」

 

味方を鼓舞していると、塀の上から声をかけられる。

 

「ふふふ。見つけたぞ大空翔翼、我が宿敵よ!!」

 

声の主は20代前半程の若者であり。武士の出で立ちでこそあるものの、公家といった方がしってくりする程の優男であった。

 

「?」

 

最もそんな男に翔翼は覚えが無く、思わず首を傾げる。会ったこともない者に宿敵などと言われても正直困るしかない。

 

「ふっ。この俺が誰だかわからないと言いたそうだな。無理もない、かつての俺は自堕落に染まった生き方しかしていなかったからな。だが、俺は生まれ変わった、そう愛を知ったことで――おわぁ!?」

 

やけに気取った振舞いをしている美男子を光秀が狙撃するも、上半身を大きく後ろに逸らして避けられる。

が、それにより塀から転げ落ちるも、見た目に似合わぬ身体能力で華麗に着地を決める美男子。

 

「チッ」

「うおおぃ危ねーだろ光秀!!人がせっかく場を盛り上げてやってるのによぉ!!」

 

外したことと、いやに鼻につく男の仕草に思わず舌打ちしてしまう光秀。

そんな彼女に抗議してくる美男子。何やら彼女のことも知っているようだが、当然ながら光秀にも見覚えはなかった。

そんなやり取りをしていると、幕臣の者達が美男子に斬りかかる。

 

「賊め!我ら若狭衆が将軍には手出しさせぬ――」

「ああ、その先は言わなくていいぜ。テメェらには興味がねぇから」

 

美男子は手にしている刀で、幕臣らを瞬く間に斬り伏せるのだった。

 

「若狭衆が一瞬でっ!?」

 

その光景を見た利三が信じられないといった様子で驚愕する。彼らは幕臣の中でも勇猛で知られる手練れであったからである。

予想外の強敵の登場で一同に緊張が走る。

 

「道は愚息が切り開いたッ。攻め込めえぇい!!」

 

そこに畳みかけるように、大柄の男が率いた集団が侵入してきた。

 

「あなたはッ!?」

「久しいな光秀。そして、大空翔翼よ。貴様と織田信奈に受けた雪辱を晴らしに来たぞ」

「よう斎藤義龍。元気そうだな」

 

斎藤義龍――

かつて父である道三に反旗を翻し美濃を奪い。信奈と彼の後継者の座をかけて戦うも、勝利に固執した結果、家臣の離反を招き。それを翔翼に突かれる形で敗北を喫した男である。

その後、斬首すべきという道三の意向を無視してまで、解き放った際に放った言葉通り。己の存在意義をかけて再び織田家の前に立ちはだかってきたのである。

 

「…ということは。そこの男は…」

 

そして、彼の放った『愚息』という言葉に、光秀はふと湧いた疑問に従い美男子に視線を向ける。

 

「ふふふ。そう、俺こそ斎藤義龍の嫡男にして、斎藤家に輝く希望の星こと斎藤龍興さッ!!!」

 

ババーンッ!!!という擬音でも聞こえそうな大袈裟な仕草で名乗った美男子――龍興に、光秀も利三も彼を知る者は、翔翼以外皆唖然とした顔で固まってしまう。

斎藤龍興と言えば。大名の子であることをいいことに、遊び惚けて父の義龍にすら半ば匙を投げられていた、はっきり言えば駄目男であった。

だが、今の彼は美濃にいた頃の肥え太った体は鍛え上げられた武士として理想的なものに。そして、脂の乗りきった顔つきは、男性すら振り向きかねないまでに整った美麗なものに変化していたのだった。

 

『『『『だ、誰えええええええエエエエエエエエェェェェェェェェ!?!?!?!?!?!?』』』』

 

その余りの変わりように、光秀らは悲鳴を上げるかのように叫ぶのであった。

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