織田信奈の野望~飛将伝~   作:Mk-Ⅳ

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第三十五話

「あ、あれが斎藤龍興だとっ!?」

「そう言われると確かに面影が――いや、別人なまでに変わってるじゃねーか!!」

 

謎の美男子が龍興であると発覚すると。光秀ら彼を知る旧斎藤家の面々から途轍もない波紋が沸き起こった。

 

「ふふふ、驚くのも無理はねぇ。かつての俺は遊び惚け惰眠を貪るだけのろくでなしだった。だが、今は違う!あの日信奈ちゃんに出会って俺は生まれ変わったのよ!愛の力で戦う真・斎藤龍興へとなッ!!」

 

ババーンッッ!!とでも擬音が聞こえそうな勢いで、天に向かって叫ぶ龍興。余りの自信に、まるで後光がさしているような幻覚さえ見えてしまいそうであった。

 

「た、確かに見た目や武術は見違えたが。おつむのできまではそう変われるものでは…」

「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり…」

「知能も上がっている、だと!?」

 

フッ、と無駄に気取った顔で、美濃にいた頃なら絶対に言えなかった文言を放つ龍興に更なる波紋が沸き起こる。

 

「当然さ。俺には智将である祖父斎藤道三、そして猛将である父義龍の血が流れている!つまり名将となる器を持って生まれた逸材ッ!。信奈ちゃんへの愛が俺の中に眠る獅子を――いや大蛇を目覚めさせたのさ!!美濃の蝮の孫だけに!!!」

「最後のは別に言わなくてもいいだろ…」

 

何か若者特有の病的な感じの挙動を見せる龍興に、誰ともなくツッコミを入れる。

 

「……」

「どうした我が宿敵大空翔翼?真の力を開放した俺に言葉すら出ないか…」

 

これまで無言を貫いている翔翼に、勝ち誇ったように気取った構えを取る龍興。

 

「?……???」

「…おい、何だその困ったような感じは。まさか、こいつ誰だっけ?とか思ってねーだろーなぁ!?!?!?」

 

よく見ると。無言を貫いているというより、思い出そうとして思い出せないで悩んでいるといった様子であった。

 

「今までの話聞いてたか!?斎藤龍興だよ!斎藤道三の孫のッ!!」

「?????????」

「龍興って存在自体知らねぇって反応すんなよオオオオオオオオオ!?!?!?」

 

完全に存在を忘れ去られている反応に、両膝を突いて泣き叫びたくなるのをどうにか堪え、手にしていた刀を地面に投げつけて叫ぶ義龍。

宿敵とさえ呼んでいた相手に記憶すらされていなかった事実に。敵味方問わず憐憫の目が向けられていた。

 

「ほら、墨俣で奇襲部隊を率いていたこう、ね情けない――うん、まあ情けない男いたじゃん、ね?」

「(必死過ぎる…!)」

 

 

さっきまでの威勢はどこへやら、己を蔑んでまで思い出してもらおうとしている龍興に、流石に可哀想になった光秀であった。

 

「!」

 

ようやく、ようやく思い出したのか。ああ、といった様子でポンッと握った右手で左手の平を打つ翔翼。

 

「あ、思い出してくれた?」

「義龍の子か。随分と見違えたな」

「反応うっすーい…。もうちょっと驚いてくれてもよくな――あだァ!?」

 

期待していたよりも遥かに冷めた対応に、項垂れながらツッコむ龍興の後頭部を、義龍が槍の柄で殴った。

 

「~~~~ってーなっ。何すんだ親父!!」

「いい加減にしろ。刻限が勝負だと言っただろうが、往くぞ!」

「わ、わーてるよ!」

 

尻を蹴るように喝を入れると、槍を構え翔翼へ突進してくる義龍。巨体から生み出される剛力を生かした突きを体を横に逸らし避け、続く横薙ぎを屈んで逃れると、反撃に出ようとした間隙を突いて龍興が刀を振り下ろしたきた。

 

「もらいィ!」

「!」

 

咄嗟に横に跳んで回避こそできるも、切断された左の肩口部分の鎧が地へと落ちた。後一歩反応が遅れれば肩ごと腕が地に落ちていたかも知れず。翔翼の表情が険しくなる。

 

「オォ!!」

 

そんな翔翼を義龍が追撃し、振り下ろされた一撃を槍の柄で滑らせるようにして逸らすが。普及品であるただの槍では重撃に耐えられず、受けた部分から亀裂が走った。

そのことを気にする間も与えん!と言わんばかりに義龍は暴風雨の如き猛攻を加えていき。翔翼は対応こそできるが、槍で受ける度に亀裂が広がってしまい、一旦間合いを取ろうとするが。そこに龍興が斬り込んできて妨害してくる。

 

「悪いな。できれば俺一人で勝ちたいんだが、はっきり言ってお前の方が遥かに強いんでね。これ以外の勝ち筋が見い出せないんだ。卑怯だって罵ってくれていいぜ?」

「?何故だ?貪欲に勝利を目指す、それが武士というものだろう?お前に恥ずべきことなど何一つなかろう」

 

斬り結びながら、己を卑下するように嗤う龍興に、不思議そうに首を傾げる翔翼。戦乱の世となって久しい今日では、『武者は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つことが本にて候』という言葉に象徴されるように、戦いにおいて卑怯の謗りを受けてでも戦いに勝つことこそが肝要とされていた。

故に己の弱さを認めた上で、手段を選ばす勝利をもぎ取ろうとする龍興に、翔翼は賞賛こそすれ罵る気など微塵も湧かなかった。

 

「へへ、そうかい。なら遠慮なく行くぜェェ!!」

 

照れくさそうに鼻を指で擦ると、気負うものがなくなったためか、繊細さの増した動きで龍興が翔翼を牽制し、義龍が一方的に攻撃を加えられる状況を作り追い込んでいく。

 

「翔翼殿っ!」

 

加勢したい光秀だが、次々と攻め寄せる三好勢の対応で手一杯であった。

 

「こっちはいい!!将軍を守れ光秀っ!!」

 

深手こそ負っていないも、義龍らの攻撃は徐々に彼を捉え始めており、次第に浅い生傷を増やしていく翔翼。

そんな彼を目の前にして、どうすることもできないことに光秀は歯噛みするしかできなかった。

 

「光秀様!!敵が次々と塀を登ってきております!!」

「焦るな!!しらみつぶしに討て!!門に近寄らせるな!!」

「光秀!!」

「ばか――将軍!?危険ですからお下がりを!!」

 

何を思ったのか防具も纏わず顔を出して来た義昭に、湧き上がる苛立ちを懸命に抑えながら対応する光秀。

 

「そう言うな!!良いことを思いついたぞ!!」

「なんと!?それは一体!?」

「塀を登られたんだって?へ~~」

「――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの刻アレを撃ち殺そうとした自分を良く抑えられたなと、あの頃の自分を褒め称えたいです。本当に辛かったです、人生で一、二を争うくらいに、はい。

――と後に彼女は語っていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!!」

「もらったァァ!!」

 

義龍の一撃を真正面から防いだ槍がへし折られてしまい、無防備となった翔翼に、龍興が上段の構えで斬り込んでくる。

即座に腰に差している刀を抜こうとするも、義龍の一撃から受けた衝撃で態勢を多く崩してしまったため、後手に回ってしまう。

渾身の力を込めた斬撃が迫る中、それでも足搔こうと動く翔翼。だが、無常にも刃は彼の身を斬り裂いて――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「梵天丸もかくありたいとにかくすごぉいそおおおおおど!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

龍興が斬りかかろうとするより前に。一つの人影が包囲している三好勢の頭を踏み台にしながら寺へと接近し、塀を登ろうとする者をも踏み台にして、塀に乗ると。勢いそのまま跳躍して斬られる寸前の翔翼を庇うように割って入り、手にしている刀で龍興の刀を弾いたのであった。

 

「ふげぇぇ!?!?」

 

予想外の一撃に盛大にすっころぶ龍興。それを尻目に、乱入してきた者は翔翼の側へ降り立たった。

 

「ふっふ…。危なかったな、わが友よ!」

「梵天丸…!?何故ここに!?」

 

翔翼を救ったのは、片目を眼帯で覆い漆黒のかっぱに身を包んだ南蛮かぶれの少女――梵天丸であった。

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