「な、何だ!?どこから来やがったこのチビッ!?」
「誰がチビかッ!後数年もしたらフロイスみたいなぴちぴちンないすばでぃになるわ!」
「え~」
「何だその疑いの目はッ。たたっ斬るぞエセ二枚目!!」
「アアッ!?どこからどう見ても二枚目だろうがガキィッッ!!」
突然の乱入者に動転する龍興と、その発言にキレる梵天丸。
そのままギャーギャーと子供のような(片方は子供だが)言い合いを始める両者に、翔翼が割って入る。
「おい、梵天丸どうしてお前がここにいるんだっ」
「三好の連中がここらに現れたという話を聞いてな。戦になるかもとフロイスがお前のことを心配しているんで様子を見にきたのだ。
ふふん、と得意げに胸を張る梵天丸。三好の動きを読む先見の明と、包囲下にあるこの寺に乗り込む気概とそれを可能とする能力といい。やはりただならぬ才覚を宿している少女だと実感するのだった。
「この梵天丸が来たからには安心するが良い。黙示録のびぃすとの力を宿す我ならこのような奴らすぐにけちょんけちょんに――っとわぁ!?」
いつものように格好つけようとする梵天丸だったが。様子見をしていた義龍が間合いを詰めてくると、慌てて後ろから倒れ込むようにして体を逸らすと、首があった空間を刃が薙いだ。
すぐさま刀を翻して追撃しようとする義龍に、梵天丸は逸らした勢いを殺さず後ろに跳ぶと、逆立ちの姿勢で片手で地面を掴むとそれを支点にして足を地に着けて態勢を整える。
間一髪の回避に思わず冷や汗をかく彼女に、義龍は更に追おうとするのを翔翼が遮り刀を打ち合う。
「退がれッ、お前にはまだ無理だ!」
「む、むぅ…。確かに我が相手をするには役不足のようだ。ここはこのエセ二枚目で我慢してやるとしよう」
力量差を理解できたのか、素直に身を引く――ことはなく、代わりにと龍興に刀を向けて対峙しだした。
「だぁから誰がエセじゃあ、こぉのチビがァ!!」
「チビじゃない!せめて、りとるびぃすとと呼べこのエセがぁ!!」
罵り合いながら斬り合い始める梵天丸と龍興。その様を見て違う!と翔翼が叫んだ。
「そういうことじゃない!戦場に出るのはまだ早いと言っている!」
「ムッ翔まで子供扱いするな!この梵天丸、もう一人前であること見せてくれる!」
意固地になってしまったようで、退く気のない梵天丸に頭を悩ませる暇もなく。押し込んでくる義龍と斬り結ぶのだった。
そんな激戦が繰り広げられている一方で。此度の戦の中心と言える将軍義昭は、相変わらず吞気に光秀の周りをうろついているのであった。
「おおっ、寺に火矢が!水…水はないか!?」
――そんな彼の目の前で敵の攻撃で火災が起きるようとすると、消化すべく水を探すも見当たらないでいた。
「むぅ、ないのか…致し方ないここはこれで…」
キリっと何かを決意すると、義昭は袴に手をかけて下半身を露出しようとしだしたではないか。
「天下の将軍が、何をやっているんですかぁ!?!?!?」
そんな彼を、光秀は敵を撃ちながらも全力で止めに入るのであった…。
援軍を求め細川藤孝の元へ向かって五右衛門は、当の大将の不調はともかく。軍勢を整えた一向は、脇目も振らず翔翼らのいる本國寺へ進軍していた。
当然三好側も最寄りいる藤孝に備え、途上にある桂川に三人衆の2人である三好政康、岩成友通の両名を布陣させており、川を挟んで両軍が激突するのだった。
「むうっ…。来たぞ!!創作の神が!!」
「いやっ、来てるにょはてきでごじゃる!!」
飛んで来る矢、弾をものともせず句を書き綴る藤孝に、思いっきりツッコむ五右衛門。
そうこうしていると、没頭する藤孝目掛け数本の矢が飛来してくるではないか!
「!細川殿あぶにゃい!!」
咄嗟に五右衛門が助けに入ろうとするも、それよりも先に矢が藤孝へ――
馳せ参ず… 主君の大事と 桂川 流るる水面に うつるは乱世
「――待たせたな…。さあ、戦を始めようか」
刺さる直前に、片手で全ての矢を掴むと握力を込めてへし折る藤孝。その姿は先程までの冴えない様相から一変し、名将と呼ぶに威圧感を放っていた。
「藤孝様は良い句ができると、真の力を発揮するのでやんす」
「何でござるかその能力!?というかどちら様で!?」
突然出てきた側近の解説に、五右衛門はもうツッコむことしかできないでいた。
――が、そんな彼女をよそに。大将に呼応するように、戦意を滾らせながら前進を開始する細川軍に、三好軍が蹴散らされるのにさほどの刻はかからなかったのだった…。
「申し上げます!!細川藤孝率いる軍が、政康様、友通様を破りこちらに迫っております!!」
「ええい、早い!!早過ぎるぞあやつら!!!」
伝令からの報告に、総大将である長逸は、苛立ちをぶつけるように軍配を地面に叩きつけた。
藤孝相手に勝てるとは思っていなかったが、せめて足止めくらいはできるだろうと踏んでいたのにこの体たらく…。味方の不甲斐なさに泣きたくなる彼に、更なる凶報が届く。
「申し上げます!!東より浅井の手勢がこちらに迫っております!!」
「チィッ今度は近江の若造かッッッ」
北近江から京へと続く街道にて。浅井勢の先鋒は封鎖している三好勢に向け、速度を一切緩めることなく猛進していく。
兵力にさして差がないとはいえ、敵など意に介さないかのような進軍に、相対する三好勢からすればある種の恐怖を与えていた。
そんな彼らに、軍勢の先頭に立つ逆立った頭髪が特徴的な男が吼える。
「我が名は浅井家が家臣磯野員昌ッ!!立ち塞がるもの一切合切粉砕する者なりィ!!死にたくなくば路を開けいィ!!」
突撃突破の磯野員昌と呼ばれる浅井家随一の勇将は、軍勢そのもをまるで弾丸をも超える質量を持つと言われる南蛮の新兵器『砲弾』が如き勢いで三好勢に突進し、文字通り粉砕するのであった。
「申し上げます!!浅井勢が封鎖を突破ッ、更に各地から幕府配下らの軍勢も迫ってきております!!」
「更に京と南近江の堺に、織田信奈率いる織田本隊も迫っているとのことッ!!」
次々に舞い込む悲報に、長逸は歯軋りしながら卓を殴りつける。
「~~馬鹿なッ動きが速すぎるぞ!?」
これほどまでの短期間で敵の援軍が現れるなど、完全に想定外であり襲撃を受けた直後に伝令を走らせていなければ不可能な芸当であった。
「(明智光秀…。単に朝廷への仲介役と見ていたが――ッ)」
彼女を仕えたばかりの新参者としか見ず、織田信奈の懐刀と呼ばれている大空翔翼にだけ警戒していたが。それが誤りと気づくには余りに手遅れというほかないことだろう。
「ん?久秀?久秀はどうした!?」
ふと、何か静かだと先程まで隣にいた者を探すが、その影も形もなかくなっているではないか。
周りにいた側近らもそのことにようやく気づいたようで、ざわめきが起きる。そして、最悪の事態が長逸の頭をよぎった。
「も、申し上げますッッッ。久秀様の軍が敵に降伏致しましたぁぁぁ!!!」
「~~あぁぁの女狐ぇぇぇ、やはり謀りおったなぁぁぁぁぁ!!!」
泣きつくように駆けこんできた配下の言葉に、長逸は額に浮き上がった血管がはちきれんばかりに絶叫するのだった。