織田信奈の野望~飛将伝~   作:Mk-Ⅳ

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第五話

対今川の最前線にある丸根砦に翔翼と光秀はいた。この砦は丘を1列の柵と堀で囲ったものだったが、翔翼の指示で先行していた小六らによって、柵を3列に拡張されていた。

先頭に立つ翔翼の眼前に広がる平原には、松平家の旗を掲げた一千程の規模の軍勢が陣を敷いている。

対する丸根砦は、翔翼と光秀の直臣を加えても二百足らず。傍から見れば勝ち目の無い状態と言えよう。

 

「良いか!この日一日を耐えられれば、我らの勝ちだ!織田の意地を見せよ!!」

 

背後に振り返り、眼前にいる配下の者達に激を飛ばすと、オオー!と気勢が上がる。

この戦の目的は敵の撃退ではなく。こちらの力を松平勢――ひいては当主である元康に見せることで、このまま織田家を攻めても損をするだけであることを教え、交渉の場に着かせることであった。

 

「光秀!鉄砲隊はお前に任せる、好きに使え!」

「承知!」

 

少し離れた位置にいる光秀に伝えると、側で敵を監視していた兵が声を上げる。

 

「翔翼様、敵に動きが!」

 

視線を敵方に向けると同時に、法螺貝の音が響き渡ると、前衛の部隊が早足で迫って来る。

 

「備えよ!」

 

翔翼の号令と共に、各将兵が持ち場に着いて行く。

 

「鉄砲隊は、私の下知あるまでは決して放つな!」

 

自らも鉄砲を持つ光秀が念を押していると、敵方から発砲音が鳴り響く。

弾丸が並べ立てている木盾等に当たるも、かなりの距離から放たれたので、貫通することなく弾かれる。だが、先に撃たれたというのは配下に少なからず動揺を与えた。

 

「怯むな、ただの脅しだ」

 

翔翼が冷静に言い放つと、すぐに動揺は収まる。

次に、距離をある程度詰めた敵勢から鐘の音がなると、駆け足となり一気に迫って来る。

 

「鉄砲構え!」

 

光秀が声を張り上げ射撃体勢に入ると、他の者も続いていく。

鉄砲も既に有効射程圏内であり、当たれば致命傷となり、更に矢も放たれるようになる。矢や弾丸が掠れるスレスレを飛んでいくこともあるが、光秀は一切動じることなく敵を見据えていた。

 

「放てぇ!!」

 

最大限に威力が発揮さる距離まで敵勢が迫った瞬間。光秀の号令の元、一斉射が行われる。

放たれた弾丸は、敵勢の前衛に殺到し次々と仕留めていく。

光秀は撃ち終えた鉄砲を背後にいる手渡し役に渡し、弾込めされた別の鉄砲を新たに受け取ると、敵兵へ放つ。渡し役は更に背後にいる装填役へ渡し、装填役は渡された鉄砲に弾込めをし渡し手に渡す。

『火縄銃交換型連続射撃』と呼ばれる、鉄砲の最大の欠点である装填時間を克服するために、織田家が編み出した戦法である。

これにより、連続した銃撃が敵勢に襲い掛かっていく。

 

「弓隊、投石隊放て!」

 

更に弓矢による射撃と投石も加わり、次々と敵兵が倒れていく。

だが、精強で知られる三河兵は怯むことなく反撃を行い、砦側にも被害が出始める。数で勝る敵勢は味方の屍を踏み越えて迫り、堀を超えた敵兵が柵を破ろうとしてくる。

 

「寄せるな!叩き返せ!」

 

翔翼が指示を飛ばすと、敵兵に戟を突き刺していく。

 

「小六!」

「おうよ!」

 

他の場所から押し寄せてくる敵勢を、小六と配下が迎え撃つ。

 

「焙烙玉だぁ!!」

 

配下の1人が敵勢を指さして叫ぶ。その方を見ると、敵勢の一部が蹴鞠程の大きさがある球体状の物体を砦内に投げ入れてくる。

地面を転がる物体には、導火線がついており。火が本体に達すると爆発を起こし、周囲にいた複数の兵が吹き飛ばされる。

焙烙玉は次々と投げ込まれ爆発を起こし、小六らのいる場所にも落ちてきた。

 

「ヤベェ、逃げろ!」

 

小六らは急いで逃げると、背後から爆発音が響いた。視線を向けると立っていた場所の地面は抉れ、柵は跡形も無く砕け散っており、後少し逃げ遅れていたらと思うとゾッとした。

そして、柵の無くなった場所から敵勢が雪崩れ込んでくる。

 

「我一番乗り!雑兵では相手にならん!誰かおらんか!!」

 

母衣を背負った武将と見られる者が、槍を構え威嚇してくる。

 

「俺が相手だ!」

 

翔翼が戟を構え駆け出すと。敵将は槍を突き出してくるが、軽々と受け流すと距離を詰め戟を横薙ぎに振るうと、三日月状の刃が敵将の胴体を鎧ごと綺麗に両断した。

 

「恐れるなぁ!押し包んで仕留めよ!」

 

翔翼が激を飛ばすと、小六らが乗り込んできた者達を迅速に囲んで仕留めていく。

その間、光秀は焙烙玉を投げようとする敵兵を狙撃する。放たれた弾丸は眉間を貫通し、その衝撃で敵兵は焙烙玉を落とし足元で爆発すると、他の焙烙玉にも引火し次々と多くの敵勢を巻き込んで爆発が起きるのだった。

 

 

 

 

「敵の抵抗。想像以上に激しいですな」

 

松平軍の本陣にある陣幕にて、筆頭家老である酒井忠次が前線の様子を見ながら顎を撫でる。

 

「やはり鉄砲は城攻めにおいて、厄介ですな。欠点である弾込めの間を狙おうにも、障害物で足止めされてしまう」

 

家臣の1人が砦から鳴り響く発砲音に、眉を潜ませる。

 

「それにしてはやけに発射の間隔が短いが…」

「恐らく、数丁を撃ち役と弾込め役とを分担させて運用しているのでしょう。流石信奈殿です、今川家ですらようやく導入され始めた鉄砲の欠点を補う戦法も既に編み出しているとは」

 

忠次の疑問に、陣幕の中心にいる。肩にかかる長さの緑髪に眼鏡をかけており、たぬき耳と尻尾をつけた10代前半の少女――松平元康が己の見解を述べる。

 

「動きも良い。敵将も優秀なようで」

「翔翼殿ですからね。当然でしょう」

 

砦に掲げられた鷹の羽が描かれた旗を見ながら、元康はどこか懐かしむように語る。

 

「…確か織田家に人質としていらっしゃった頃に、親交があった者でしたか」

「ええ、信奈殿の懐刀にして、織田家で最も警戒しなければならない相手です。常識が通用しませんから、どんな手を使ってくるか読めません。ですから忠次、忠勝を前進させて下さい」

「はッ」

 

伝令を走らせるため側から離れる忠次。それを見送ると、砦に視線を移す元康。

 

「これも戦国の習い。あなたといえど、松平家の脅威となるのなら、全力で排除させて頂きますよ翔翼殿」

 

指で眼鏡の位置を直す元康。日光が眼鏡の鏡面に反射されて目元が隠され、その表情を伺い知ることができなかった。

 

 

 

 

「三の柵へ後退せよ!」

 

奮戦する織田勢だが。兵力の差は如何ともしがたく、2列目の柵が破られてしまう。

翔翼は殿を小六の隊に任せ、残りの兵を纏め上げ最後の柵へ後退していく。

 

「小六様、敵の新手です!」

 

敵勢の中から飛び出してきた部隊は、鹿の角をあしらった兜を被った者に率いられ。装備がこれまでの者達よりも新しく。放つ気配も只ならぬものであった。恐らく敵の中核をなす部隊であろうと小六は見た。

 

「怯むな、槍衾用意!小六隊の力を見せてやれ!」

 

手にしている槍を敵に突きつけながら下知を飛ばすと、配下が気勢を上げながら新手の部隊へ向けて槍衾を形成していく。対する敵部隊も槍衾を形成して互いに、槍を叩きつけ合う。

最初こそ互角であったが、次第に小六隊の方が押されていき隊列が乱れていく。

 

「敵は崩れた、押しだせィッ!!」

 

敵武将の号令に合わせ敵部隊が押し込んでくると、耐え切れず小六隊の隊列が崩壊し敗走する者が出始めてしまう。

そこから敵部隊の追撃が入り。槍に殴られるか突き刺されて地面に倒れ伏したり、組み伏せられて刀か脇差で首を取られていく小六隊。そして、小六自身にも敵兵が襲い掛かる。

 

「逃げるな、押し返せ!!」

 

小六は激を飛ばしながら、敵兵を槍で打ち倒していくも。部隊は完全に壊走状態となっており、立て直しは不可能となってしまっていた。

味方の後退が完了していない以上、後退は許されない。殿である自分達が逃げてしえば、他の部隊が背後を突かれ、戦線そのものが崩壊してしまうからだ。

そのため、小六は残った僅かな者達を自身の周囲に集め敵を迎え撃つ。

押し寄せる敵勢を倒していくも、残った配下も次々と倒されていき、小六自身も傷だらけになっていく。それでも彼の闘志は衰えることはなかった。

 

「オラオラオラァ!この蜂須賀小六の首、欲しい奴はいないのかァ!!」

 

小六は槍を握り直すと、振り回して吼える。彼の周りには討ち取った者達が転がっており、仲間らの死体を見た心理的衝撃も加わって、敵勢の勢いが削がれ浮足立つ。

 

「その威勢や良し!俺がお相手仕る!」

 

後方で指揮に専念していた敵武将が前へ歩みだす。

 

「忠勝様!?お下がりを!」

「良い。これ以上の犠牲を、我が姫も望んでおらん」

 

配下が止めに入ろうとするも、敵武将は手で制すると、小六と対峙する。

 

「俺の名は本多忠勝!いざ尋常に勝負!!」

 

手にしている槍を振り回すと、穂先を小六に突きつける忠勝。その構えは隙が見えず、全身から漂う闘志に、思わず後ずさりしてしまいそうな程の威圧感があった。

また、手にしている槍は小六の持つ、武将が一般的に用いる物よりも一回り近い長さをもち。日光に照らされた刃は、いかなるものをも絶つことができるのではないかと思える程の鋭い輝きを放っている。

 

「上等!かかってこいやぁ!」

 

気圧された己を鼓舞する意味も込めて吼えると、忠勝目がけて駆けだす小六。気迫と共に槍を喉元へ突き出した。

その一撃を忠勝は軽々と槍で受け流し、その勢いを利用して槍を頭上で振り回すと、小六の脳天へと振り下ろす。小六は慌てて槍を引き戻して受け止めるも、勢いを止めることができず槍がへし折れてしまう。忠勝の槍はそのまま小六の脳天へ――

 

「ハァ!」

 

叩きつけられようとした瞬間、間に割って入った翔翼が戟で槍を弾いた。

 

「ムッ!」

「兄弟!?」

「部隊を連れて下がれ小六。こいつは俺が相手をする」

 

横やりを受けて一旦後退する忠勝から視線を逸らさず、小六に下知を飛ばす翔翼。

小六は、大将である彼を残していくことに躊躇いを見せるも、自分がいても足手纏いにしかならないと考え、生き残りを連れて最後の柵まで後退していく。

 

「忠勝様!こやつ敵の総大将ですぞ!」

「うむ。だが、お前達は手を出すな。犠牲が増えるだけだ」

 

翔翼を囲もうとする配下を止める忠勝。主君から話には聞いていたが、こうして対峙してみると、彼女が最大限に警戒していることにも納得ができた。この者を数で押しつぶそうとすれば、数多の屍を積み重ねることとなるだろう。被害を抑えるためにも、自分を当てた彼女の判断は正しかった。

 

「本多忠勝。姫の命により貴殿の首、貰い受ける!」

「大空翔翼。受けて立つ!」

 

同時に駆け出すと、突き出された戟と槍が交差するのであった。




捕捉
今作の本多忠勝は、信長の忍びのものと入れ替えさせて頂いています。
又、史実だと彼は桶狭間の戦いが初陣なのですが、この時点で歴戦の猛将になっています。
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