回帰の刃   作:恒例行事

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新たな出会い

 ちんまりと、俺の前に座る少女。

 髪を横で留めて、着物を身につけている、

 

 …………カナエ、この子は? 隠し子か? 

 

「誰が隠し子ですかっ! 人攫い……とは少し違いますが。身売りされてたので、私達が買い取りました。そのまま攫ってきました」

 

 お前今自分で攫ってきたって言ったよな? 

 

「…………柱ってすごいですね!」

 

 誤魔化すな。

 ……まあ、誰も文句は言わんだろうが。名前は? 

 

「………………」

 

 ……カナエ。この子の名前は? 

 

「えっ、ああ、はい。カナヲです。ほらカナヲ、挨拶」

 

 ぺこりと頭を下げるカナヲ。

 とりあえず頭を軽く撫でてから、別の部屋に行く。

 

 俺がここに来た──というより、そもそもこの屋敷。蝶屋敷という名前をつけられたこの屋敷は、カナエが柱になったことで与えられた。

 今は引越しも終えて、新たに診療所として開設する予定らしい。

 

 いいのか? 家族で暮らさなくて。診療所になんてしたら、時間は取れなくなるぞ。

 

 そういう時カナエはふんわりと微笑み、横に首を振る。

 

「良いんですよ。私達の時間は、もう十分にとりましたから。それにしのぶの医学は凄いですからね!」

 

 毒関連で、よく調べていたのは知っている。

 ……まあ確かに、いちいち町の医者を頼るわけにはいかないか。その町に、鬼殺隊の息のかかった医者がいるとは限らない。

 

「お館様にだって絶賛される腕前ですからね、しのぶ。姉としては良いのだけれど──……」

 

 顎に人差し指を当てて、悩む仕草を見せるカナエ。

 

「しのぶにも好きな人ができたら、落ち着くのかなぁ」

 

 ……さて、どうだろうな。どちらにせよ俺が嫌われてる事には変わらなそうだ。

 

「あら、そうとは限らないかもしれませんよ?」

 

 ふん、言っとけ。

 自分から動くことのないカナヲの目線まで腰を落とし、目を合わせる。つい先日まで身売りに出されていたという弊害もあるのか、自分から考えて行動するということができないようだ。

 

 それもまた、仕方ない、か。

 俺たちは正義の味方ではない。あくまで鬼を殺すだけの存在だ。

 鬼を殺して、子供を救うことはできる。

 

 だが、子供を育てることは出来ない。

 

 ──……ま、そのうち変わるだろうさ。俺が変われるんだ。

 

 人間というのは、それなりに変われる。

 

「……本当に変わりましたねぇ、不磨さん」

 

 前も言っただろう。お前に誑かされただけだ。

 

「……むぅ。なんか納得いきません」

 

 そもそも、好きな人がなんとかとか言ってるが──そういうお前はどうなんだ。いるのか。できて、何か変わったのか? 

 

「へっ」

 

 もし出来て何も変わってないなら、それを期待するのは意味がないぞ。

 

 さて、それで、他の部屋はどんな感じなんだ? 

 診療所として使うなら、大きな部屋がないと厳しいだろ。ただでさえ鬼殺隊は損耗が激しいからな。いざとなったらぶち抜く、とかしないといけない。

 

 ……カナエ、聞いてるのか? 

 

「…………どうしよう。もしかしてバレてる? いや、でも、そんな積極的になることはあり得ない筈。ああ、どうしようしのぶ……!」

「──ちょっと姉さん。カナヲを連れて何して……んの……」

 

 しのぶが乱入してきて、そして現状を見て固まる。

 一人で頬を抑えて変な動きをしているカナエと、ピクリとも動かないカナヲ。その前に座り込んで目線を合わせている俺。

 

「…………何してんの?」

 

 知らん。カナエに聞いてくれ。

 

 

 

 

「全くもう、なんで姉さんは……」

 

 胡蝶しのぶにとって、胡蝶カナエは大切な姉妹である。唯一同じ血を流す、肉親。

 カナヲを引き取ったとは言え、まだまだ日が浅い。幼少期の影響か、カナヲの精神には大きな傷跡が残っている。それをどうにか取り除かねば、彼女が前に進むことはないだろう。

 

「ていうか不磨さんに甘えすぎよ。なんであの人の前だとああも変になるのかしら……」

 

 あの人──姉と同じく、鬼殺隊炎柱不磨回帰。

 

 自分たちより長く鬼殺隊に在籍し、その戦績は恐ろしいもの。

 討伐した鬼の数は最早数えることすら億劫な程、十二鬼月と名乗る上位的な存在も何度も何度も討伐している。

 現鬼殺隊最強の一角と言っても過言ではない。

 

 しのぶ個人は、そこまで好ましい人物ではない。

 自己犠牲が強すぎる上に、カナエをひたすら言葉責めした(しのぶ主観)過去がある。カナエ本人は『気にしてないし、寧ろあの人の優しさがわかった』などと言っていたがしのぶはそうは思わなかった。

 

 こんなに優しい人を、なんて言い方をするんだ。

 柱だからなんだ。思い上がるな。

 

 当時抱いたこの想いは、未だ変わることはない。

 寧ろ強くなっている節もある。とは言っても、あの頃は遭遇することだって少なかったし出会ったのだって僅かだった。

 

 なのだが、ある日突然鬼殺隊の組織長より命令が下り共に狩りを行うことが決定してしまう。

 それ以来──なんだかんだ縁があり。しのぶが望む望まない関係なく、今の生活がある。

 

 今のしのぶの命があるのは、まあ間違いなくあの男のお陰だろう。そこは否定するつもりはない。今の戦い方も、あの男の行動から考えて選んだものだ。

 そういう意味では、助けられてることの方が多い。事実だ。事実だが。

 

「……納得いかない」

 

 優しい姉の事だ。最初は『かわいそうな人』とでも思っていたのだろう。そうして何度も共に居て、なんだかんだ自分を否定はするけど拒否はしない不磨に少しずつ惹かれていき、優しさも垣間見得てきて落ちた。そんな感じだろう。

 

「…納得いかない」

 

 そうして不磨自身も、恐らくカナエをそれなりに好意的に思っている。

 これは間違いないだろう。明らかな嫌悪感を出してるしのぶ自身にもそんな悪辣な対応はしないが、やはり冗談というかなんというか──普段の対応が違うのだ。

 

 しのぶにはある程度事務的。

 カナエには若干だが、感情的なような気がするのだ。それこそ、一番初めから。

 

「……あの人自身が正反対、だからなの?」

 

 全く異なる二人。

 本来であれば接触はあれど、交わることなど決して無かった筈だ。

 

 溜息をこぼし、世の中はよくわからないと諦める。

 そもそも、鬼なんて存在に殺されるというのがもうおかしい。なにが鬼だ。非科学的だ。医学を学べば学ぶほど、鬼の滅茶苦茶さに呆れる他ない。

 

 いい加減にしろと言いたくもなる身体能力、なんだそれはと問いたくなる血鬼術。果ては十二鬼月。何が十二鬼月だ、人殺しの怪物が偉そうにするな。

 地獄に堕ちてしまえ。

 

 政府は鬼なんて超常的な存在は認めず、鬼殺隊は政府非公認の組織に。

 脅威を正しく認識できている人々もいるが、多くの人々は鬼を噂程度だと思っている。それはそれで良いだろう。

 

 だが、いざ鬼に襲われた際。

 知らなかった、あんな奴がと言われるのは腹が立つ。なんでもっと早く来なかったと言われたことだって何度もある。

 

 そういう時、大体不磨が前に出て庇ってくれた。

 鬼に遺族を襲われた、その不甲斐なさと怒りは理解できる。そこで喚くだけなのか。お前たちは──そう、しのぶは思ってしまう。

 それに対して、後から言われた言葉。

 

『鬼は屑だ。だが、鬼に襲われた人は屑ではない』

 

 当たり前の話。

 わかってはいる。わかってはいるが、口だけで行動に移さない人間には苛立ちが募るのだ。

 

「……駄目ね。切り替えよう」

「…………何がだ?」

「え゛っ」

 

 後ろからかけられた声に驚く。

 

「……なんで勝手にうろついてるんですか」

「カナエに行けと言われてな。どうやら案内をする気はあまりないらしい」

 

 肩を軽く竦めながら口元を柔らかく歪ませ笑う不磨に、最初と全然違うと感想を抱く。

 鬼を殺すこと以外興味は無い、お前たちなんぞどうでもいいと言わんばかりのあの頃に比べて本当に変わった──しのぶはそう感じた。

 

「貴方が揶揄うからでしょ。もっとちゃんと──」

「──わかってる。わかってるさ」

 

 言葉を阻み、吐き出すように話す。

 

「……わかっては、いる。だけどな」

「ふん。そこまでわかってるならもっとちゃんと考えてください」

「……ああ」

 

 苦し気な表情になる不磨に、苛立ちを抱く。

 わかっているくせに。全部、全部。

 

 姉さんの気持ちも、自分の気持ちも。わかっているのだ、この男は。

 

 けれど、答えを出せない。

 出すのを恐れている。

 

「…………強い癖に、弱いんだから」

 

 苛立つ。

 その在り方に。

 自分の人生と、他人の人生を天秤にかけているその考え方に。

 

 そして──それに対して、こんな態度をとる事しかしない自分に。

 

 


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