回帰の刃   作:恒例行事

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無限列車

 揺れる身体と、目まぐるしく変わる景色。

 既に何十回も食べた弁当をもう一つ注文し、再度意識を集中させる。

 

「……全く鬼が出ない!」

 

 煉獄杏寿郎が汽車に乗ってから、既に数時間が経っていた。

 

 

 

 

 

 

「ここまで警戒心が高いのか……それとも、俺に気が付いて逃げ出した、か」

 

 腕を組み、外を眺めながら杏寿郎はつぶやいた。既に何度も同じ汽車に乗っているせいで車掌に若干怪しまれたが仕方ない。汽車に乗るのが趣味だ、と答えると割と何とかなった。

 

 事の発端は、この汽車で行方不明者が数十人出たと情報があった事。まずはじめに隊士を数人送り込み、様子を見たが……全員が消息を絶ち。

 そしてその後も絶えず人がいなくなる事から、柱である自分がここに派遣された。

 

 この汽車に乗った鬼殺の剣士は、既に何人も帰っていない。それが意味するところはつまり……もう、生きてはいないであろうという事。

 柱である自分が未来ある若者を守れずに、こうやって生きていることが腹立たしい。

 

「悔やんでも仕方のない事、か。その通りなのだがな……」

 

 煉獄杏寿郎は不屈である。

 何度折れても、何度止まっても、決して倒れる事はない。諦める事はない。

 

 だからと言って、傷つかないわけではないし弱らないという事でもない。弱くなって、そのたびに自分に落ち込んで、それでも這い上がっていく。

 先代──回帰に比べれば随分泥臭いと自分では思う。

 

「お客様。こちら、追加の……」

「おお、すまない! ありがとう!」

 

 車掌が持ってきた弁当を開け、速攻で食べ始める。既に何個も積みあがったソレは小山と言えるほどだろう。

 

 うまいうまいと言いながら、少しずつ考えを整理する。

 まず、この汽車に鬼が居る事は間違いないだろう。でなければ、乗っている最中の隊士が消える説明が付かないからだ。どんな血鬼術を使うにしても、汽車丸ごとどこかにやってはそういう話が出るしほかの乗客も失踪していれば警察が動く。

 ならば──この汽車に潜んでいる。若しくは鬼殺隊のみを引き寄せる何かを行使しているのだろう。

 

 問題は、現状たった一人で【柱】がいるのにも関わらず何一つ干渉してこない事である。そもそも夜ではないからまだ仕掛けないと言えばそうかもしれないが……それにしたって、気配が無さすぎる。日中に移動するわけはないだろうし、夜になってから乗り込んでくるのか? 

 

「ううむ、わからん──うまい!」

「……煉獄さん?」

「む?」

 

 声を掛けられ、そちらを見る。

 

 そこにいたのは、例の鬼を庇っていた竈門隊士と……猪の頭を被った斬新な隊士と、黄色い頭の少年。

 

「竈門少年に、黄色頭少年に、猪の頭(いのがしら)少年か!」

「はい、それと黄色頭じゃなくて我妻善逸ですし猪の頭じゃなくて嘴平伊之助です!」

「うむ、そうか! まあ座るといい!」

 

 それぞれ席に座った三人の、最後に弁当を掻き込んで話を聞く。

 

「それで、竈門少年は俺に用があったと聞くが」

「はい。実は……」

 

 話を要約すると。

 

 ・竈門少年の家に伝わる、【ヒノカミ神楽】という物。

 ・それを呼吸と混ぜて扱えた。

 ・とても強力なものだったが、何か鬼殺隊に伝わっていないのか。

 

「うむ。──知らん!」

「えっ!?」

「悪いがヒノカミ神楽というのを聞いたのも初耳だ!」

 

 がーん、目に見えて落ち込んでる竈門少年を見る。

 

「まあそう落ち込むものでもない。竈門少年、君の刀の色は?」

「黒です」

「そうか、黒か……黒色の刀を持つ隊士が活躍している所は残念だが見たことが無い。だがまぁ俺の継子になるといい! 面倒を見てやろう! ああそれと嘴平少年! あまり騒がない方が良いぞ! この汽車には鬼が出るからな」

「え?」

 

 猪頭の嘴平伊之助に声をかけた所、何故か隣にいた我妻が反応する。

 

「嘘でしょ鬼でるんですかこの汽車!?」

「出るぞ!」

「やだァ──────!! 鬼の所に行ってる訳じゃ無くて鬼の場所に乗り込んでるの!? ここに出るの!?」

「うむ! 短期間で数十人の一般人と、数名の隊士を送り込んでいるが一人も帰還しておらん! だから柱である俺が来たのだ」

 

 騒ぐ我妻に受け答えして、杏寿郎は少しだけ違和感を感じる。

 

「失礼……切符を……」

「うむ、すまない!」

 

 気のせいかと一蹴し、歩いて来た車掌に切符を手渡す。そして次の瞬間──一気に違和感が強くなる。

 

「拝見しました…………」

 

 虚ろな瞳でそういう車掌に抱いたのではない。

 そう。たった今この車両に入って来た人物に対して違和感を抱いたのだ。

 

 灰色がかった髪色、見覚えのある羽織──そうして、自分のよく知る男の顔。

 

「──回帰?」

 

 そう問いかけると、此方を見て目を開く。

 

「……驚いた。杏寿郎殿(・・・・)か、随分立派(・・)になられた」

「やはり回帰か! 久しいな! そして、やはり生きていたのか!」

 

 席を立ち、詰め寄る。

 ああ、懐かしい。腰に携えた刀も、その眉間に皺が寄っているのも、全てが懐かしい。

 

「煉獄さん! あの、この人は……?」

「此奴は不磨回帰──先代(・・)炎柱だ!」

 

 と言いながら肩を叩く。羽織がふわりと漂い、自分の身に着けている羽織と大差ない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)事に違和感を少しだけ感じるが、すぐにその違和感も消えた。

 

「俺の弟弟子でありながら、俺より先に鬼殺隊に入り! 十二鬼月を次から次へと討伐して柱になった強い男だ!」

「ええ、よろしくお願いします」

 

 手を差し出し、竈門達と握手をする回帰を見て──

 

 

 

 

 

 

 

 

「──杏寿郎。聞いていますか?」

 

 母である瑠火が話しかけてくる。

 おや、先程まで俺は何をしていたのか──? 一瞬思ったが、すぐさま思い出す。

 

 ああ、そうか。

 

 明日鬼殺隊最終戦別に行く回帰の為に食事を用意しているのだった。

 

 何故こんな事を忘れていたのか、杏寿郎は自分を疑った。

 

「はい、母上! 千寿郎の分をどうするか、ですね!」

「その通り。まだ千寿郎は赤子同然──という程でもありませんが。私が食べさせますから、杏寿郎はしっかり回帰を見送りなさい」

 

 勿論だとも。

 しっかりと見送る。ああ、ここで見送らねば──何故か一生後悔する気がするのだ(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 部屋を出て、庭で刀を振っている回帰を迎えに行く。

 相変わらず鋭い振り、美しい型を一瞬だけ眺めて声をかける。

 

「回帰! 食事が出来たぞ!」

「──ありがとうございます、杏寿郎殿」

 

 そうして振り返って、顔を見る。変わらぬ表情、だが幼さが残る。

 

 ──ほんの一瞬だけ、顔が変わったような気がする。なんというか、常人ではないような、心がもう、ここにはないような。

 

「……? どうされました、杏寿郎殿」

「いや、何でもない! 早くしよう、今日はお前の好物尽くしだぞ!」

「それは楽しみです」

 

 二人並んで廊下を歩く。

 

「それで、回帰。明日の最終選別はどうだ?」

「どうだ、とは……問題は無いですよ」

「そうか! ならばよし! 俺が最終選別を受けるまでまだ長いからな、その間に回帰に追いていかれぬようにせねばならん!」

「……杏寿郎殿には勝てません。貴方は私とは違う」

「む、そうか? だが何も問題は無い! 今は先に行かれようとも、いつか必ず並び立ってみせる!」

 

 そう言うと、苦笑を浮かべる回帰。

 困っているわけではなく、同じような事を思っているが故に出た表情だろう。そして、何か心がざわつく感覚を得る。

 

「……?」

 

 何だろうか。

 なにかが自分の大事なものに触れようとしているような。

 

「どうかしましたか?」

 

 回帰の声も、聞こえない。何だこの心のざわつきは。

 

 何か、不快な感覚が──

 

 

 

 

 

 

「……よもや」

 

 再度突如変わった視界。

 これまで見ていたのは夢だ──それも、自分が望んだ夢。あの頃に戻りたいとは思わないが、あの頃を何時迄も大切に思う自分の夢。

 

 腹立たしい。

 

 鬼に利用されるだけではなく、ずけずけと自分の心の内に入られるとは。それも、乱暴に漁られた上に好き勝手に操られるとは。

 

 ──腹立たしい。

 

 このようにしてやられようとは──杏寿郎は内心煮えくり返っている。

 鬼の血鬼術にしてやられ、柱である自分が他の隊士たちの後……一番最後に目覚めた。

 

 ──腹立たしい! 

 

「よもや、よもやだ! ──穴があったら、入りたい!」

 

 自らを恥じて、状況を確認する。

 そうだ。もうあの頃には戻れないのだ。そもそも、戻ってどうする。結局自分の最も信頼する友人──不磨回帰が今と変わらない運命を辿るのは決まっている。

 

 最初の最初、回帰が今の道を歩まないためには家族を失ってはいけない。そして、自分がそれを知っていて尚夢に見なかったという事は──! 

 

「──不甲斐なし……!」

 

 友を想っていると言っておきながら、自分にとって都合のいい物を夢想する。

 

 ──怒りだ。

 

 抱いたこの感情は、怒り。鬼へと、自分へと向けた怒り。

 

──全集中・炎の呼吸──! 

 

 感情を高ぶらせる。炎を呼び起こすのだ。

 

 

「是非も無し──悪鬼滅殺あるのみ!」

 

 


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