ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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生誕祭

 

 

 

 

「思ったより早く感じる1年でしたね」

 

 僕は自室の椅子に腰かけ、暇潰し用として買ったスケッチブックと色鉛筆を用意する。

 携帯を見れば、現在の時刻は午前8時を指していた。

 ベランダを開けると冷たい風が吹いているが、防寒対策は出来ているのでストレスなくそこから見える風景を描いていける。

 4月からこの学校に来て約9か月。

 この世界のことは色々と推測して日向創が構築した世界だとはわかっているが、当の本人からの接触は1度しかきていない。

 それだけこの世界は順調なのかと思えば、櫛田桔梗に接触しているケースもある。

 僕の知らない所で活動していることに間違いはないが、そろそろ目的の一つでも知りたくなる頃合いです。

 

「……1月1日」

 

 今日は1月1日。

 新年の始まり、元日です。

 そしてこの日は日向創の誕生日、すなわち、同一人物ともいえる僕の誕生日だ。

 

「誕生日、ですか」

 

 色鉛筆を動かしながら、僕は思考に耽る。

 1週間前、石崎くんから1月1日の午前10時半から時間を空けて欲しいという連絡があった。

 その内容は新年の始まり、皆で遊ぼうという誘い。

 新年の始まりくらいゆっくりしたいでしょうに、必死に誘ってきました。

 その理由は推測するまでもない。僕の誕生日をサプライズで祝いたいのでしょう。

 僕はこれまで二度の誕生日会に参加している。

 気付くなというほうが難しい。

 

「……僕の誕生を祝うという意味を彼らは分かっているのでしょうか」

 

 カムクライズルの生まれた日、それは世界の希望が生まれた日。

 その日は、世界有数の科学者や権力者がこぞって拍手をして出迎えていた。

 その日に、僕は希望ヶ峰学園の設立者、神座出流の名を与えられた。

 その日から、僕は彼らに崇められながら生きてきた。

 その日を、僕は忘れていない。

 全てが予想通りの結果ばかりになる日々の始まりを、僕は忘れていない。

 

「まぁ、淡い期待だけしておきましょう」

 

 風景画を描き始めてから10分。

 完成したそれを手直しすることなく、スケッチブックを閉じた。

 気付けばスケッチブックの残りページも少なくなっている。

 今日の景色がここに残ると思えることを期待しながら、僕は身支度を始めた。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 午前10時を迎えると、チャイムが鳴った。

 僕は玄関を開ける。

 

「明けまして────!?」

 

 開口一番、石崎くんが元気よく挨拶をしようとするが、その途中で固まった。

 その後ろで控えていた伊吹さんもあんぐりと口を開けている。

 

「明けましておめでとうございます、石崎くん、伊吹さん」

 

 石崎くんと伊吹さんが目配せをする。

 特段仲の良くない2人だが、その連携は非常に早かった。

 2人して見ている光景が一緒だと気づけば、ようやく2人は会話に戻ってくる。

 

「あ、明けましておめでとうございます。カムクラさん……、その髪型は?」

 

「イメチェンです。屋上の件で僕の髪が千切れたことをあなたも覚えているでしょう?」

 

 そう言えば、彼らは思い出したようで納得する。

 

「あのままでは流石に変でしたので切りました」

 

「な、なるほど……」

 

「別に、今までも変な髪形とは自覚していましたよ」

 

「あ、やっぱり……!? い、いいえ、似合っていましたよ!」

 

 言い淀んだ彼の心内を推測することは容易い。

 今更肯定しても遅いです。

 

「……あけおめ」

 

 へらへらと笑って誤魔化そうとする石崎くんに代わって、伊吹さんがぶっきら棒に告げる。

 この手の挨拶を言ってくれるだけ珍しい。

 

「明けましておめでとうございます。

 珍しいですね、伊吹さん。あなたがこの手の遊びに参加するとは」

 

「……まぁ、椎名も参加するからね」

 

「彼女もですか。正月は読書三昧かと思いましたが、これまた意外ですね」

 

 今日の遊びに特別感があるなと暗に告げて、僕は2人の反応を観察する。

 

「さ、早速遊びに行きましょうカムクラさん! 

 俺、正月の朝からやっている店選んでおいたんすよ! おせち料理、食べに行きましょう!」

 

「朝から元気ですね、あなた。

 そんなにイベントが好きな性格でしたか?」

 

 さらにイベントという言葉を強調させると、ビクリと不自然に体を揺らす。

 焦った様子で返答してくることから、何かやましいことがあるのは丸分かりだった。

 

「べ、別にイベントとかは好きじゃないっすけど、お、俺、おせち好きなんすよ! 

 ほ、ほら上手いでしょう? えーと、恵方巻!」

 

「伊達巻のことですか?」

 

「あっ……、そ、そうっす!! まぁ、とにかく! 早く食べに行きましょうよ!!」

 

 愛想笑いを浮かべ、移動を促してくる。

 その後ろで伊吹さんは顔を手で覆っていた。

 そんな様子に気付くことなく、石崎くんはエレベーターの方に1人進んでいく。

 

「なぜ、彼を案内役に選んだんですか?」

 

 感情が表に出やすい石崎くんが案内役なのは人選ミスでしょうに。

 

「行きたいってゴネたのよ」

 

 伊吹さんは呆れた態度で告げる。

 どうやら、この件では一悶着あったようだ。

 その話し合いが容易に想像できる。

 

「実際の所、連絡の段階で気付いてたでしょ?」

 

「ええ。そしてあの態度で確信しました」

 

「……そっ。まぁ、予想通りね」

 

 エレベーターが到着したので、僕たちは雑談を一度切り上げて移動する。

 正月の朝であるため、学生寮ですれ違う人間はいない。

 学生たちは皆、ゆっくりと羽を伸ばしているのだろう。

 寮を出ると、やっと人に遭遇し始める。

 僕たちと同じように朝からケヤキモールに出向く人間がチラホラと見える。

 中には、正月にもかかわらずトレーニング帰りの健康的な人間もいました。

 僕たちは雑談をしながら、それらの道を通り抜けていく。

 そしてとうとう、ケヤキモールにある目的の店の前に到着する。

 

「この店っす! 予約して席も取らせてあるんで早速入っちゃいましょう!」

 

 店の景観はホテルにありそうなレストラン。

 高級感がややあるが、内装自体は一般的なものですね。

 目を惹かれたものは店頭にいくつか設置していた宣伝用の幟に書かれていたこと。

 石崎くんの言う通り、おせち料理をバイキング形式で提供するそうだが、この閉鎖的な空間でそんなキャンペーンをして赤字になっていないかが気になります。

 

「石崎くん、いくらですか?」

 

「いやいや、もう払ってます! カムクラさんはそんなこと気にせず、今日は楽しんでください」

 

 もはや隠す気がないでしょう、彼。

 僕はそんな彼の後ろを進んでいく。

 開店したばかりで店内はガラガラだ。これなら、多少騒いでも他の客の迷惑にはならないだろう。

 

「おっ、来た来た!」 

 

 レストランの奥の方まで進むと、8人用のテーブルと席が用意されていて、手前に座る園田くんが座りながら手を振っていた。

 他の座席にもクラスメイト、それも僕に縁がある生徒たちが待っていた。

 園田くん、椎名さん、矢島さん、金田くん、そしてアルベルト。

 僕の席と、付き添いをしていた2人の分を合わせればぴったりだ。

 どうやら、龍園くんはいないようですね。

 屋上の件が終わってから1週間以上経つが、未だ音信不通。

 立ち直っているだろうが、彼は今何をしているのでしょうか。

 

「カムクラさ────!?」

 

 僕に挨拶しようとするが、途中で固まった園田くん。

 その反応は伝播していき、皆が唖然とした様子になった。

 はい、デジャブです。

 

「皆さん、明けましておめでとうございます」

 

「……あ、明けましておめでとうございます」

 

 皆が固まっている中、椎名さんが何とか挨拶を返す。

 それを皮切りに皆が続く。

 何だか、社交辞令みたいになってしまいましたね。

 

「カ、カムクラくん、その髪どうしたの? もしかして……失恋?」

 

 恋愛脳な矢島さんにはしっかりと断言しましょう。

 でないと、また余計な噂が広がりかねない。

 

「イメチェンです。変ですか?」

 

「へ、変じゃないよ。けど、前と全然違うから驚いっちゃって」

 

 ぶんぶんと顔を振り、オーバーリアクションを見せる矢島さん。

 皆はその意見に同意した後、感想を述べる。

 

「思いきりましたね~。でも、すっげぇ格好いいっすよ!」

 

「はい、とても似合っていると思います」

 

 金田くんとアルベルトもその意見に頷いていた。

 全体的に好評。

 彼らの共通認識を当てるなら話しかけやすくなったでしょうね。

 

「さて、僕への感想はそこまでにしましょう。バイキングにも時間制限があるのでしょう?」

 

 僕は話を先に進めるために、話題を変える。

 バイキングの時間は2時間。

 十分に時間はあるが、予定は早めに終わらせるに限ります。

 

「そうっすね~。じゃ、先にご飯を取っちゃいましょう! そこから乾杯します!」

 

 進行役は園田くん。

 そう宣言した後、率先してバイキングに進んでいく。

 皆もそれに続く。

 食べるものを選んでいる内に、だんだんと賑やかになっていく。

 他の客も来店してきて活気良いレストランに変わっていけば、その雰囲気のまま皆が席に着く。

 ちなみに、僕の隣には石崎くんと伊吹さん、正面には椎名さんが座っている。

 

「ほら、石崎」

 

 幹事役である園田くんから石崎くんに乾杯の挨拶を促す。

 バトンを託された石崎くんは緊張しながらも、ジュースの入ったコップを持った。

 皆が真似して、石崎くんの言葉を待つ。

 

「えー、明けましておめでとうございます」

 

 石崎くんらしくない硬い始まりに笑いが広がっていく。

 恥ずかしそうにする石崎くんだが、気を取り直して進めていった。

 

「新年1日目から集まってくれて皆、ありがとうな! 

 今日は全力で楽しもうぜ!!」

 

 シンプルながら盛り上がりには十分な言葉。

 園田くんと矢島さんを中心に観客のボルテージが上がっていく。

 

「カムクラさん! これ付けてもらってよろしいでしょうか?」

 

 とうとう、僕の名が呼ばれた。

 皆も、その瞬間を待っていたように笑顔を見せ始める。

 彼はあらかじめ用意したであろう白い襷を取り出して、僕に手渡す。

 僕はそれを受け取り、広げた。

 

「これは……」

 

 書かれていた文字は『本日の主役』。

 ダサい。

 しかし、これを付けなければ話が進みそうにないので、僕は致し方なくそれを付けた。

 そしてつけた瞬間、

 

 

「お誕生日、おめでとうございます!!」

 

 

 石崎くんの声とともに大きな拍手が僕を迎え入れた。

 パチパチとタイミング良く揃った音色が僕の耳に届く。

 御座なりな手順と分かりやすい歓迎、サプライズとして点数は低いが、彼らが僕を祝いたいという気持ちは伝わってきた。 

 祝福は伝播するのか、気付けば、レストランの店員も拍手に加わっている。

 いや、どうやら予め店側に伝えていたようですね。

 店員のうち2人が学校側から支給された携帯を持って僕たちの様子を撮影している。

 この辺りは思った以上に念入りです。

 しかし、それでも、

 

「……予想通りですね」

 

「ですよね~」

 

 僕がそう告げれば、園田くんがすぐに笑って肯定した。

 石崎くんを除いて、皆が僕の反応に納得した様子を見せていた。

 

「まぁ、そもそもカムクラ氏を騙せるなんて不可能に近いですし、仕方ありませんよ」

 

「それはそうですね~」

 

 金田くんに椎名さんが同意して、それに皆が続く。

 場の雰囲気がさらに和んでいくことが分かる。

 

「どうっすか、カムクラさん! 喜んでくれましたか!?」

 

 1人、石崎くんだけがソワソワとした様子で僕の答えを待つ。

 どうやら、僕が楽しんでいるかどうか分からないようだ。

 本当に予想通りの反応。

 まさしく、凡人らしい行動ですよ。

 

 

 

「────つまらない(・・・・・)催しですよ。ですが、感謝はしましょう」

 

 

 

 僕は正直にそう告げた。

 誕生日を祝われるという初めての行為に、心の内に劇的な変化は現れない。

 それでも、今日の準備をしてくれたことに感謝だけはしなくてはいけない。

 

「うっ、うう、ありがとうございます!」

 

 涙を流す石崎くん。

 感涙にしてはオーバーリアクション。

 しかし、こういう凡人らしいところが彼の長所なのでしょう。

 

「……それじゃ、乾杯!!」

 

 気を取り直した石崎くんが、乾杯の合図を取った。

 コップ同士がぶつかる音が響けば、歓声が広がる。

 

 そこからは、また予想通りの時間が始まった。

 まるで崇められた神のように皆が僕に接待を行う。

 食べたいと思った料理は運ばれ、一緒に写真を撮られたり、その様子を録画されたり。

 本当に対応があの時と変わらない誕生日です。

 しかし、純粋な好意があるだけでこうも変わるとは、存外オモシロイものです。

 

 

 その後も僕は『本日の主役』として彼らと共に1日を過ごした。

 

 

 Cクラスの親密度が上がった!! 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 その日、僕は夜の18時頃までケヤキモールで過ごした。

 沢山のプレゼントを受け取り、午後はカラオケやボウリングなどの娯楽をやってみました。

 どれも簡単すぎてツマラナカッタですが、偶にやる分には良い気分転換です。

 最終的に、クラスメイトとは寮の共有ホールで解散して、今はプレゼントが入った紙袋を持って自室に戻った所でした。

 

「……これは」

 

 僕の部屋の前に2つの箱が積み重なっていた。

 1つは大きめな段ボール。

 もう1つは青い包装紙に包まれた箱。

 青い箱には『Happy Birthday』の文字が書かれていたので、僕は自分宛のものだと判断して部屋に持っていく。

 プレゼントを机の上に全て置いた後、いの一番に行うことはシャワー。

 長い時間外にいたため、汚れを落としたかったからだ。

 すぐに浴び終え、僕は夕食の準備に取り掛かる。

 今日は誕生日なので、手抜きです。

 サラダとチキンだけで良いでしょう。

 

「……この時間帯にチャイムですか」

 

 夕飯の準備が完了するとすぐに、玄関のチャイムが鳴った。

 僕はすぐに対応した。

 

「よぉ。入れろや」

 

「……明けましておめでとうございます、龍園くん」

 

「ああ」

 

 訪問者は龍園翔。

 暗く、落ち込んだ雰囲気はなくなり、普段の龍園くんが戻ってきていた。

 屋上の一件以来、全く話していなかった彼だが、どうやら元気そうだ。

 コンビニの袋を手に下げていることを見れば、買い物帰りだろう。

 

「ボッチを卒業したか」

 

 部屋に招き入れた彼は我が家のように遠慮なく進んでいき、プレゼントを見てそう告げる。

 そのまま、クッションを持ってきて床に敷いて座った。

 相変わらず、礼儀がないですね。

 

「……それで、今日は何の用ですか?」

 

 彼相手には無礼講だ。

 僕は冷やしていた無料飲料水を彼に投げる。

 綺麗にキャッチした彼は袋からおでんを取り出して食べ始めた。

 

「決まってんだろ、お前の誕生日を揶揄いに来たんだ」

 

「なら、その卵ください。僕は誕生日です」

 

「断る。これは俺の飯だ。

 だが安心しろ。ちゃんと誕生日プレゼントを買ってきてやったからよ」

 

 龍園くんは袋から赤い包装紙で包まれたものを取り出し、見せつける。

 

「どういう風の吹き回しですか? 自分の誕生日を祝われたからそのお返しとで言うつもりですか?」

 

「バカが、俺がそんな性格な訳ねぇだろうがよ」

 

 おでんを頬張りながら彼は言う。

 僕も食事にしましょう。

 それと、玄関に置いてあった段ボールと青い箱の中身を確認する必要があります。

 僕はそれらを同時進行で行っていく。

 

「何が入ってた?」

 

「これは……、ホーロー鍋ですね」

 

 僕は段ボールの方から開封した。

 中にはホーロー鍋とメッセージカードが入っていた。

 

「『誕生日おめでとう、これで今度料理を作って』。……櫛田桔梗より」

 

 宛先人の名は櫛田桔梗。

 プレゼントのセンスは良く、頻繁に料理をする僕のような人間からすればこれはありがたい代物だった。

 

「クク、いつの間に桔梗と仲良くなったんだぁ、おい」

 

「本当にここ最近ですよ。和解しました」

 

「あんなに敵意を向けていた女を堕としたのか。たらしが」

 

「ナンパ師の才能くらい持っていますから」

 

 持ってはいるが、当然この才能は使用していませんよ。

 

「それにしても、本当に図々しくなりましたね」

 

 料理を作ってやるかは確約したわけじゃない。

 しかし、彼女は作ってもらえる前提であることが窺える。

 そもそも、借金が残っているにもかかわらず、人にプレゼントを贈ることに僕は呆れ気味だった。

 

「そっちの青い箱も見せろよ」

 

 いつの間にかおでんを食べ終えた龍園くんは観客としてプレゼントを見ていた。

 断る理由もないので、青い箱の包装も解いていく。

 中にあったものはレディース用のハンドクリームとまたもやメッセージカード。

 僕は龍園に聞こえるように、それでいて辟易しながらそれを読んだ。

 

「『お気に入りのハンドクリームです。是非、使ってみてください』。……坂柳有栖より」

 

「クク、欲望丸出しだな」

 

 ハンドクリームを送るということは手を大切にして欲しいということ。

 そこからは派生して異性からハンドクリームが送られることの意味合いは恋愛感情の意思表示に変わることが出来る。

 当然、諸説ありだが、坂柳さんが面白半分でこれを贈ったことには違いないだろう。

 

「お前はゲテモノもいけるらしいな」

 

「馬鹿言わないでください。僕とて選ぶ権利はあります」

 

「ほう? 坂柳の貧相な身体じゃ満足できねぇときたか」

 

「そういう意味ではありませんよ」

 

 失礼すぎる龍園くんの意見は一刀両断です。

 僕が彼女を面倒に感じるのは才能厨であり、恋愛脳だから。

 この学校で最もときめいている乙女相手には流石に分が悪い。

 坂柳さんの意識が綾小路くんの方へ向かうことを祈るしかありません。

 

「クク、どっちのプレゼントもセンスこそあれど、俺に比べたらまだまだだな。ユーモアがねぇ」

 

 話題を変える龍園くん。

 2つのプレゼントを認めこそすれど、対抗している。

 余程自信があるようですね。

 

「なら、期待しましょうか」

 

「まぁ待て。これを受け取る前に俺の話を聞け」

 

 プレゼントを机の上に置く龍園くん。

 急に雰囲気を出したことに違和感はない。

 元々、この話をするつもりだったのだろう。

 僕は崩していた姿勢を戻して対話に臨んだ。

 

「カムクラ、俺は屋上の件が終わってから、今後どう立ち回るかをここ最近考えていた。

 そしてやっと、答えが出たぜ」

 

「その答えは?」

 

 龍園くんはまるで反省するようにゆっくりと答えていく。

 

「俺は綾小路に完膚なきまでに負けたが、このままじゃ終わらねぇ。

 奴にはこの借りを返す必要がある。それもお前の力を借りずにだ」

 

 意を決したような面構え。

 固い意志表明、その気高い覚悟が強烈に伝わってくる。

 

「だが、今の俺じゃお前の力なしで綾小路には勝てない。『知略』『暴力』と俺の専売特許で完敗した以上、何か他の策を模索する必要がある。

 しかし、ダメだ。どうシミュレーションしても、今の俺じゃ奴に勝てる確率は0に近いまま。気に食わないが、視点を変える必要があると判断した」

 

「ふーん、プライドを捨てますか?」

 

「いつものことだ。最後に俺が勝っていればそれまでの過程は関係ない」

 

 龍園くんは大胆に笑う。

 そして溜めた後、告げた。

 

「俺は綾小路を倒すために、俺に足りていなかった部分を一歩下がったところから見て学んでいく。

 つまり、俺は一度後方に引き、綾小路や坂柳のようなポジションに移るってわけだ」

 

 集団の前から、後ろへ。

 最前線を走る雄大な王から、最後方で構える不敵な王へ。

 それが龍園くんの答えだった。

 

「つまり、あなたの最も得意な『暴力』を意図的に最終手段にする、ということですか」

 

 暴力を封じた龍園翔。それは何ともツマラナイだろう。

 だが、最終手段にしただけで使わないとは言っていない。

 その使いどころを見極めるために一度表舞台から引き、己の力が最も効果的な場で振るわれることを学ぼうとしている。

 すなわち、まだ彼は成長しようとしている。

 

「しかし、綾小路くんや坂柳さんを学ぶだけでは彼らを超えることは出来ませんよ」

 

「クク、馬鹿が。別にあいつらのようにやるって言っただけであいつらを真似るわけじゃねぇよ。

 それに俺は、俺を捨てるつもりはさらさらないんでな」

 

 龍園くんは鼻で笑った。

 そして、僕の指摘を間違いと言わんばかりに僕を指差した。

 

「お前だ、カムクラ。相手に何もさせない戦略、そしてリーダーとして集団を率いていく力。

 それを俺に見せろ。お前ほどの教科書は他にいねぇ」

 

 龍園くんは力強い言葉で言い切った。

 これはつまり、

 

「────あなたが玉座に戻るまで、この僕が王になれと?」

 

「ああ、そう言った」

 

 プライドをかなぐり捨て教えを請う姿。

 傲慢にも、この僕から成長の機会を得ようとしている。

 

「あなたの考えは分かりました。

 しかし、よろしいのですか? 僕が一時的にでもリーダーになれば、その座を取り返すのは至難の業ですよ?」

 

「つまり、取り返した時が俺の勝ちってことだ」

 

 百も承知のようだ。

 それでいて退かない。

 どこまでいっても、龍園翔は龍園翔ですね。

 

「良いでしょう。あなたの頼み、この僕が引き受けましょう」

 

 僕がそう言えば、龍園くんは満足げに立ち上がった。

 僕へのプレゼントを机に置きっぱなしにして、彼は僕の部屋から去っていく。

 

「さて、彼は何を用意してくれたのでしょう」

 

 僕は赤い包装紙を丁寧に解いていく。

 そして、

 

「……まぁ、彼らしいと言えば彼らしいですね」

 

 そこから出てきたものは────避妊具だった。

 はい、確かに龍園くんらしさとユーモアが溢れた一品と言えるプレゼントです。

 わざわざ包装されている所に、彼のお茶目な部分が垣間見えます。

 

 

 センス0ですけどね。

 

 




chapter7.5終わりです。
外伝なので平和な日常を書いてみましたが、わりと満足。
次回からはchapter8です。
原作では話の都合上、女子の話が端折られていましたが、そのへんも補足しながら書いていくつもりです。
これからもよろしくお願いします〜。

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