ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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対戦よろしくお願いします。


Chapter8
混合試験


 

 

 

 人類史上最大最悪の絶望的事件。江ノ島盾子によって引き起こされた世界に絶望が伝染した事件。

 これによって、世界は大きく姿を変えた。

 青かった空は血のように赤く、栄えた建物は瓦解した。様々な場所から業火が広がり、そこら中には人間の死体が広がった。

 挙句、この壊れた世界には、正中線を境に体の色が白黒に分かれたクマのぬいぐるみを頭に被った奇人たちが跋扈している。

 それらの中には、スーツを着て集団を形成する者もいた。

 僕はそんなツマラナイ世界を観察していた。

 

「皆さん、絶望を広げましょう」

 

 集団には当然トップがいる。

 スーツを着た奇人たちのトップは陶器のような真っ白な肌、宝石みたいに赤い目、発色の良い金髪が特徴的な女性だった。

 気品ある容姿には、思わず跪いてしまいそうな“カリスマ”が備わっていて、さながら本物の王女のようだ。

 彼女はスーツを着た奇人たちに高い所から演説のような指示を出してから、カメラを持った赤髪ショートカットの女性と集団から離れていく。

 2人はまだ崩れきっていない建物の最上階、僕のいる場所にまで足を運び、崩れた世界を見物していた。

 

「良い景色。空は赤くて、煙が昇っている。まさに絶望的な光景ね」

 

 不気味な笑顔とともに、赤髪の女性はカメラのシャッターを切った。

 満足そうに写真を見返しながら、譫言のように自画自賛に励む。

 その“自信過剰”は彼女の才能からなので虚栄心ではない。それにしては異常な欲求が垣間見えるが、それが超高校級の絶望というものだ。

 

「ところで小泉さん、未来機関の動きはどうなっていますか?」

 

 金髪の女性が赤髪の女性、小泉真昼に尋ねる。

 超高校級の写真家である彼女もまた、絶望の残党として責務を果たしている。

 

「みぃんな、江ノ島盾子が死んだことに驚愕していたよ。今頃、超高校級の希望様の回収に全力を出してるんじゃない?」

 

「なるほど、ならば奴らはそっちに手一杯になりそうですね。それに、彼女の死によって絶望の勢いは減ってしまいそうです。あぁ、本当に絶望的です」

 

 数日前、江ノ島盾子は超高校級の希望に敗北した。

 その事実が広まってすぐに、世界が活気づき始めた。

 このままでは世界に広げた絶望が希望に伝染されかねない。

 だからこそ、絶望の残党と呼ばれる主犯たちはさらなる絶望を広げようと躍起になっていた。

 そして、金髪の少女は小泉同様主犯の1人だ。

 超高校級の王女の才能を持った人の上に立つべくして生まれた才女、ソニア=ネヴァーマインド。

 彼女は自らの“カリスマ”を用いて、“信徒”を作るように人々を絶望に追いやっている。

 そこに“約束”や“信頼”はなく、利益もなしに絶望を撒き散らしていた。

 

「あぁ、もっと絶望させなきゃ」

 

「だよねぇ。……そうだ、見てよこの写真。この前撮った人物画なんだけどさ、いい感じに撮れてない?」

 

 小泉真昼は何枚かの写真を鞄から取り出す。

 それらの写真にはストーリー性があり、たった1人の若い女性を集団の女性で押さえつけてから、無惨な死体に変わっていく様が撮られていた。

 

「あら、中々素敵です。この眼球とか踏み潰したくなっちゃいます」

 

 2人は女子会でもするかのように笑顔で雑談をする。

 拷問後の人間の死体で嬉々として話していた。

 

「ツマラナイ」

 

 2人が談笑している最中、僕はついついボヤいてしまう。

 絶望にすら退屈したこの日常。

 あぁ、ツマラナイ。

 

「あらあら、どちら様?」

 

「誰でもいいでしょう」

 

「……私の“信徒”ではない。それにその綺麗なスーツ。あなた、もしかして未来機関の人間ですか? なら、是非絶望して頂かないと!」

 

 疑問を浮かべるソニア=ネヴァーマインドの言葉を僕は無視する。

 どうでも良い事だ。

 どうせ、あと数日で僕は自分の記憶を消す。

 思い出など残らない。分かりきったその後の展開もどうでもいい。

 

 あぁ、ツマラナイ。

 

 

 

 ──────

 

 

 眠っていた意識が覚醒する。

 耳を通過する和気藹々と騒がしいクラスメイトの声。

 周囲を確認すれば、各々がお喋り、携帯、ゲームなどと自由に過ごす姿が視界に入ってくる。

 

(……酷い目覚めだ。頭痛がする。絶望病のウイルスが内側にいるような気分だ)

 

 現在の居場所はバスの車内。

 三学期が始まった朝の時間に集合して、僕たちは学校側の指示に従って移動していた。

 高速道路を学年毎にクラス各1台、計12台のバスが連なって走行するために、全学年の大移動は非常に大掛かりなものだ。

 そんな中、朝の集合が早かったため、僕はバスの中で仮眠を取っていた。

 

「おはようございます、カムクラ氏」

 

 隣の席で読書をする金田くんがこちらに会釈をする。

 僕は挨拶を返した後、固まった体を伸ばしてほぐしていく。

 酷い感覚で調子はまだ戻らないが、それもあと数分の辛抱。問題なく肉体を稼働できると超分析力に映る。

 

「……僕が眠ってから2時間くらいですか?」

 

「はい、それくらいですね」

 

 金田くんは腕時計を見て告げる。

 バス移動は3時間と予め言われているため、その内の2時間を仮眠に当てた。

 しかし、それ以外のことは殆ど学校側から説明を受けていない。

 バスに乗る以前に受けた説明は、ジャージの着用と予備のジャージや着替えの下着を複数用意してこいとだけ。

 相変わらず、それ以外のことは自分たちで対策しろというこの学校らしい対応だ。

 そして生徒達も馬鹿ではない。

 殆どの生徒はこの大移動がただの旅行ではなく、特別試験の前段階と気付いている。

 

「魘されているようでしたが、大丈夫ですか?」

 

「問題ありません。身体の感覚も戻ってきましたから」

 

 どうやら、僕は魘されていたらしい。

 やろうと思えば夢をコントロールして見れる僕が悪夢に魘される。

 酷い冗談だ。この世界で暮らしてから、精神が劣化したのは確実ですね。

 

「……『そして誰もいなくなった』ですか」

 

 話題を変えるために、金田くんの持つ本を見て僕は本の題名を当てる。

 ちなみに、彼が僕の隣にいる理由は席順が五十音順で決まったからです。

 

「はい。椎名さんにお勧めしてもらいました。とても面白いです」

 

 笑って説明する金田くんだが、彼もまた椎名さんからのセールスマン顔負けの熱弁を受けたから読んでいるのでしょう。

 それが思いの外オモシロイらしい。

 

「盛り上がっている最中にすみませんが、静かにしてください」

 

 トンネルを抜け、外の景色が明るくなるとすぐに、マイクを持った坂上先生がクラスメイト達に向けて声を掛ける。

 

「これから『特別試験』の説明を始めます。まずは資料を配ります。

 その資料は降車時に回収するのでルールはしっかり把握していくようにしてください」

 

 坂上先生がその言葉を告げれば、先程まで騒がしかった生徒たちの声は囁き声すら一切聞こえなくなる。

 配られていく資料を手早く回していけば、彼らは資料を見ながら坂上先生の話を傾聴する。

 金田くんに限ってはメモ帳を取り出し、試験に必要なことを書き記そうとしていた。

 

「おそらくあと1時間後、これからあなたたちはとある山中の林間合宿へと案内されます。

 説明に割く時間が短いほど、『猶予』も大きいことになることは予め言っておきます」

 

 つまるところ、特別試験までの開始時間は残り1時間。

 そして、その1時間は「説明」と「対策」に分けられ、対策の時間のことを猶予と表現していた。

 

「試験の名称は『混合合宿』、今回の特別試験は全学年を交えた7泊8日の林間学校と認識してください」

 

 20ページほどの資料をパラパラと読んでいくと、資料には合宿地の写真から宿泊する部屋、大浴場、食堂などと詳しく載っている。

 これだけ見ればまるで旅行のしおりを読んでいる感覚になるが、要所に特別試験の説明が記されていて、晴れ晴れとした良い気分にはなれない。

 前回のペーパーシャッフルは口頭による説明でしたが、今回は資料を渡されている。

 察するに、今回の特別試験はそれほど複雑なものなのだろう。

 

「今回の特別試験は精神面の成長を主な目的とした合宿です。そのため、社会で生きていく上でのイロハを始め、普段関わりあうことのない人間とも円滑に関係を築いていけるかを確認し、そして各自、それを学んでいくことになります」

 

 全学年を交えた合宿ですか。

 上級生との関わりは部活に所属していない生徒にとって、ないに等しい。

 学校側にとっては自主的に先輩と関わっていくことが理想的だろうが、大多数にとっては具体的に接触する機会でもなければそう上手くいかない。

 だからこそ、特別試験という形で交流の場を設けた。

 そこで重要なのは具体的にどうルールを敷くかです。

 いくら交流に重きを置いているとはいえ、特別試験と銘打っている以上何かを比べる。

 高校生にとって、1年の差は肉体的にも精神的にも大きな成長の差が存在してしまうので、対等な勝負は難しい。

 なればこそ、交流もできて特別試験も大きな差をなくしたルールを上手く作る必要があります。

 

「まず、あなたたちには目的地にたどり着き次第、男女別に分かれてもらいます。

 そして学年全体で話し合いを持ち、そこで6つのグループを作って貰います。

 グループの詳細を説明しますので、5ページを見てください」

 

 皆に合わせたゆっくりとした説明だったため、僕は先に全ての資料を読み終わった。

 再度確認をするため、坂上先生が話している部分へページを戻しながら話を聞く。

 同時進行で、今回の特別試験のルールを頭の中で纏めていく。

 

 

 〈グループ形成する上での注意点〉

 

(1)グループは総人数ごとに上限、下限があり、男女を分けた総人数により算出される。

 ・60人以上:8人~13人。

 ・70人以上:9人~14人。

 ・80人以上:10人~15人。

 

(2)グループ内には最低でも2クラス以上の生徒が存在しなくてはならない。

 

(3)グループの総人数が多ければ多いほど、グループの構成クラス数が多いほど『報酬』に影響する。

 

 

 5ページの内容は以上です。

 1クラスの生徒数は40人、男女比は1:1なので、1年4クラスの男女はそれぞれ合計80人ずつとなる。

 すなわち、適用されるルールは10人~15人で6グループを作ること。

 ルールの人数が事細かに記されている理由は退学者のことを想定しているためでしょう。

 

「既に理解していると思いますが、このグループは他クラスの生徒と混合して作られます。

 林間学校中はこのグループで特別試験を乗り越えてもらいます」

 

 資料を読み終わったであろう生徒達から不満の声が聞こえてくる。

 これは少々仕方ない。

 これまでの試験、一時的に協力をすることはあれど、ここにきてクラスの垣根を取り払った協力が急に必要になった。

 それも共同生活レベルで。

 炊事、洗濯、入浴、就寝などと日常生活を共に行っていくと資料には記載されている。

 今まで味方だったクラスならまだしも、敵だったクラスとも手を取り合わなくてはならない。

 人間である以上、苦手があるため仕方のないことだ。

 

「7ページに進みます。試験内容は『道徳』『精神鍛錬』『規律』『主体性』。

 これらの項目より林間学校の最終日に総合テストが行われていく。この総合テストこそが『結果』に関わってくるので、しっかりと資料に目を通してください」

 

 資料にはこの4項目について抽象的に書かれている。

 明確な答えがないので、今から対策を取ることは難しい。

 スケジュールも大雑把に書かれているが、こちらは林間学校につき次第詳細が発表されるようだ。

 

「1年生の中で6つのグループを作り終えた後は、同じようにグループを作った2年生3年生と合流して、さらに大きな6つのグループを作ってもらいます」

 

 分かりやすく言えば、グループには同学年で作る「小グループ」、その後2年3年と合流した「大グループ」があること。

 つまり、最終的に1年生から3年生を合わせた6つの「大グループ」で試験を受けるということです。

 

「次のページを捲ってください。このページには、肝心の『結果』と『報酬』が記載されています」

 

 次のページには見開きでこの試験の幹である情報が載っていた。

 

 

 〈結果と報酬〉

 

 6つに分けられた大グループのメンバー全員の試験結果から算出された『平均点』で評価される。

 

(1)平均点が1位~3位の大グループの生徒全員にプライベートポイント(以下pp)、クラスポイント(以下cp)が与えられる。

 1位:1万pp、3cp

 2位:5000pp、1cp

 3位:3000pp

 

(2)平均点が4位~6位の大グループ全員にpp、cpが減点される。

 4位:5000pp

 5位:1万pp、3cp

 6位:2万pp、5cp

 

(3)小グループ内におけるクラス数によって報酬倍率が変化する。(これは4位~6位には適用されないものとする)

 2クラス構成のグループの場合:両ポイントともに1倍

 3クラス構成のグループの場合:(以下略)2倍。

 4クラス構成のグループの場合:3倍。

 

(4)小グループ内における総人数によって報酬倍率が変化する。(これは4位~6位には適用されないものとする)

 10人:両ポイントともに1.0倍

 11人:(以下略)1.1倍

 12人:1.2倍

 13人:1.3倍

 14人:1.4倍

 15人:1.5倍

 

(5)小グループ内において、『責任者』を決めなくてはならない。

 ・『責任者』と同じクラスの生徒は報酬が2倍となる。

 ・『責任者』は学校側の用意した平均点のボーダーラインを小グループの平均点が下回ってしまった場合、『退学』となる。

 ・『責任者』が『退学』になった場合、グループ内の1人に連帯責任として『退学』を命じることが出来る。(ただし、ボーダーを下回った原因の一因だと学校側に認められた生徒しかその対象にすることは出来ない)

 

(6)『退学者』が出たクラスは1人につき、−100cpを支払わなければならない。(cpが0の場合、借金として残る形とする)

 

 

 坂上先生の説明と照らしながらまとめるとこんな感じでしょう。

 色々と気になることはあるが、まずは試験の最大報酬に注目する。

 グループ構成をCクラス12人、他クラスの生徒を1人ずつ引き入れた15人の構成であった場合、報酬倍率は1.5倍×3倍=4.5倍。

 加えてCクラスの生徒が責任者となる場合、報酬倍率は4.5倍×2倍=9倍。

 そしてこのグループで1位を取れば、1万pp×9×12(人数)=108万pp、3cp×9×12=336cpを得ることになる。

 

「……カムクラ氏、この試験の報酬ですが……」

 

 金田くんが僕に確認するように聞いてくるので今の計算結果を告げる。

 そうすれば彼の目は大きく広がった。

 彼がそのような反応をするのも当然、この報酬は破格だ。

 リスクを負う必要はあるが、最高報酬を得た場合、CクラスはBクラスに上がれる可能性が非常に高い。

 無論、4位~6位の生徒数にもよりますが。

 

「この試験、『責任者』の存在が気になりますね」

 

 金田くんはメモ帳を見ながらそう告げる。

 良い着眼点です。参謀として必要な素質は持っていますね。

 僕もその点は少々疑問に思っていたことがあるので、後で確認する必要があります。

 

「以上で説明は終わりです。質問はありますか?」

 

 即座に椎名さんが手を挙げた。

 

「もし退学者が出てしまった場合、救済の手段はありますか?」

 

「あります。退学の取り消し……つまり『救済』は原則としてどの学年も一律です。

 1人に対して2000万pp、そして今回の試験に限り300cpを支払わなくてはいけません。これは救済措置であるため、退学時に受けるペナルティは消失しない点もご注意ください」

 

 人の価値を2000万としてどう感じるかは人それぞれの感想。

 しかし、流石に社会としてみなされているクラス。

 生半可な覚悟では救済は出来そうにありませんね。

 

「先生、僕も質問があります」

 

 僕が手を上げれば、坂上先生、そしてクラスメイト達も急に引き締まった表情を見せる。

 坂上先生に関しては、どんな質問でも答えて見せると言いたげな笑みまで浮かべ始めた。

 別に大した質問をするつもりはないので、気合の入れ損だと思います。

 

「男女別々と仰っていましたが、それはこの1週間、男女が会う機会がないということですか?」

 

「機会はあります。林間学校は2棟建っていて、本棟を男子が、分棟を女子が使います。

 2つの建物は隣同士になっていますが、基本的に1週間バラバラで過ごしてもらいます。休み時間や放課後も許可なく外出することは出来ません。

 ただし、1日1時間だけ本棟の食堂で、男女同時に食事を取る。その時だけ会うことは出来ます」

 

「それは、日曜日も同じですか?」

 

 これは資料のスケジュールの部分に書いてあったこと。

 この林間学校は7泊8日、本日木曜日から特別試験は始まり、金曜、土曜と特別試験を行っていくようだが、4日目の日曜は休日になっている。

 その期間にも接触は出来ないかどうか気になったためにこの質問をした。

 

「はい、休日も外出することは出来ません」

 

 つまり、今回の試験で夕食の時間以外は男女が接触する機会はない。

 加えて、今回の試験では携帯が没収されるようなので、男女で別れてしまっては指示が出しづらいことが分かる。

 それを何とかするのが1日1時間、夕食の時間だけのようだ。

 

「他にはありますか?」

 

「……もう1つ、『責任者』が『退学』になった場合、グループ内の1人に連帯責任として『退学』を命じることが出来るというルールについてです。

 ────このルールは誰が採用したものですか?」

 

「……誰が採用したもの? それはお答えできません。何せ、それらの情報は保守義務があります。

 それを今私が答えてしまえば、あなたは特別試験を作った人間を知ってしまい、今後何らかの接触をするかもしれません。それでは公平ではありません」

 

「まぁ、そうですよね」

 

 ダメ元で聞いてみたが、やはり情報は引き出せない。

 この『責任者』の在り方、やはり気がかりな点があります。

 僕はあることが気になったので、元生徒会長、堀北学にメールを送る。

 流石にクラスでの対策もあるので、すぐには返信が返ってこないと判断して、僕は携帯の画面を暗くした。

 

「他にはありませんね? ……最後になりますが、携帯はバス降車時に回収するため、1週間使用禁止になります。

 日用品や遊び道具の持ち込みは認めますが、食料品などはこの特別試験に持ち込めないため、後ほど捨ててもらいます」

 

 携帯の回収に分かりやすい呻き声が聞こえる。

 試験の期間は1週間、その間一切携帯を使えないとなれば、若者にとっては苦痛だろう。

 

「それでは、以上です。残り時間はお好きに使ってください」

 

 坂上先生がそう言えば、生徒たちは静まり返った。

 試験の全容を聞き、残りの『猶予』は作戦を立てるために使う。

 これは共通認識でしょう。

 そして、策をまとめるのは誰か。

 それを今までのCクラスの生徒たちは知っている。

 だが、その人物はいつものように指示をくれない。

 Cクラスの王、龍園翔はいつまでも動かない。

 皆がチラチラと視線を向けても動く素振りすら見せない。

 ただじっと、資料を眺めているだけだった。

 

「……カムクラ氏、ここは僕が指揮を取ります」

 

 緊張感が走る車内で、金田くんが小さな声でそう言った。

 僕はその言葉を聞きたかった。

 龍園くんがいない今、誰が参謀となれるのか。

 金田くんにはその自覚がある。

 椎名さんも指揮をすることは出来るかもしれない。

 だが、彼女は争いを嫌い、集団を率いるには経験が足りない。

 だからこそ、自分しかいないと考えられる現状理解とそこからの行動力が見たかった。

 自覚しているなら、後は成長を煽ぐだけでいい。

 僕は立ち上がろうとする金田くんの肩に左手を置き、そのまま彼を座らせた。

 そして、

 

 

 

「───注目しなさい」

 

 

 

 僕は立ち上がって車内全体に聞こえるように告げた。

 全ての視線が僕に集まれば、僕は坂上先生からマイクを借りて話し始める。

 

「今回の特別試験、指揮は僕が取ります。異論はありますか?」

 

 威圧感を意図的に作りながら、クラスメイト1人1人の顔を確認していく。

 皆が見せる感情は困惑、なぜ龍園ではなく僕が指揮を執っているのか、単純な疑問が表情に出ている。

 

「……待て」

 

 声を上げたのは時任くん。

 反龍園を掲げる筆頭生徒が立ち上がって待ったをかける。

 

「お前が指揮を執ることに異論はない。

 だが、龍園はどうした? こういう場面で率先切って指揮を執りたがるのはあいつだろう?」

 

 全員が知りたかったことを恐れずに言い切る時任くん。

 その度胸だけは評価に値した。

 

「彼は一度リーダーの位置から降ろしました。まだまだリーダーとして足りないものがありますから。

 今は色々と学ばせるために僕が代理でリーダーを引き継いでいます」

 

 一瞬顔を顰めるが、時任くんはすぐに言葉を返す。

 

「代理だと? じゃあ、お前はまだ龍園がこのクラスのリーダーにふさわしいと思っているのか?」

 

「ええ。むしろ、彼以外に誰がふさわしいと?」

 

「……お前だ。お前なら、納得できる」

 

 悔しそうに時任くんは告げる。

 龍園くんを嫌う以上、この選択は必然ですが、プライドを曲げることは出来るようだ。

 

「ですが、僕はリーダーをする気はありません。強要はしないでください」

 

 やる気がないと言えば、能力で劣り、説得が出来ない彼は黙るしかない。

 時間は有限であるため、これ以上彼に構ってはいられない。

 

「今覚えておけばいいのは、今回の特別試験で最も高い地位にいるのは僕ということ。

 そして────僕について来れば見捨てないということです」

 

 少しずつ、プラスの感情が生まれていく車内。

 彼らは知っている、僕の才能を。

 体育祭、ペーパーシャッフルと導いてくれたことを記憶が肯定する。

 

「まず、この試験の方針ですが、男女別で分かれているため、それぞれリーダーを決めます。

 男子は僕がやりますが、女子は僕の方から指名します」

 

 選択肢は1人。

 このクラスで龍園くんと僕を除いて指揮を取れる人間は金田くんと彼女しかいない。

 

「椎名さん、あなたが女子のリーダーをやりなさい」

 

 いつものように集団の行動なんて気にせず本を読んでいる、わけではなかった。

 閉じた本を膝に置き、僕が視線を合わせる前から僕のことを見ていた。

 どうやら、彼女も自覚があるようですね。

 

「嫌なら断っても構いませんよ」

 

「いいえ、折角ご指名頂いたんです。期待と受け取ってその大役をこなしてみせます」

 

 先程も言及したが、彼女には性格的な問題と経験不足のため、金田くんと比べれば見劣りする。

 だからこそ、ここで経験をしてもらおう。

 

「椎名さん、あなたは自由にやって構いません。

 ポイントを取りに行くために能力の高いメンバーを固めても良いし、全ての人間にppを得る機会を与えるために公平なメンバー分けを行っても、最低人数で確実に勝ちに行っても構いません。それを相談しても、独断してもね。

 ただし、自信をもって行動しなさい。選択に悔いが残らないように全力で取り組みなさい」

 

 経験して、成長させるためには彼女自身が考える必要がある。

 だからこそ、今回は彼女に託す。

 今回の試験、責任者にならず、自分の仕事をやり切れば退学になる可能性は限りなく0に近い。

 であれば、今回ほど成長の機会はない。

 

「分かりました。至らない部分は多々あるでしょうが、精一杯務めさせていただきます」

 

 凛とした雰囲気が感じ取れる。

 やる気は十分。後は彼女が空回りしないようにフォローが必要なので、僕は伊吹さんにアイコンタクトをする。

 

「あなたが見守りなさい。たとえ、この手の事が苦手でもね」

 

「……分かったよ」

 

 頭を掻きながら彼女は肯定した。

 今度は矢島さんを呼ぶ。

 

「矢島さん、あなたを副リーダーに任命します。今の椎名さんでは集団を纏め切れる力がありません。至らない所をフォローしてあげてください」

 

 このクラスでカースト上位にいる矢島さんの協力があれば、集団行動はより円滑に進められる。

 彼女は自信ある表情を浮かべてから笑う。

 

「分かった! 私も精一杯努力するよ!」

 

 張りのある元気の声、こちらも問題ない。

 最後に、他の女子にも指示を出す。

 

「今名前が呼ばれなかったからと言って、他の女子生徒はサボっていいわけではありませんよ? あなたたちも2人を支えながら自分の出来ることを全力でしなさい。

 アドバイスを言うなら、他クラスの生徒を助けるつもりで動きなさい。それが退学から逃れる近道になります。

 それと、4位~6位になってポイントを減らしてしまうことを恐れる必要はありません。減ったポイントは全て、僕が立て替えますから」

 

 彼らの表情が明るいものに変わっていく。

 彼らの唯一の懸念点、それは4位~6位の結果になることで減ってしまうポイント。

 だが、Cクラスは月一で徴収している大量のppが溜まっている。

 このポイントは元々、彼らのもの。特別試験時に使うことを約束している以上、この場合でも有効だ。

 坂上先生がいるため直接的な表現こそできないが、こういえば彼らに恐れるものはなく、特別試験に全力で臨める。

 

「そして、当然cpも取りに行きます」

 

 僕は男子側を見てそう告げる。

 

「男子の方針を発表します。男子はCクラス12人と他クラスから1人ずつメンバーを徴収し15人グループを1つ作ります。

 残った8人は『責任者』になること以外はCクラスに害を与えない限り、何をやっても構いません。当然、この8人がマイナスの結果を取っても僕がポイントを立て替えます。

 そして何より、取りにいきますよ。────108万ppと336cpを」

 

 ゆっくりと歓声が沸いていく。

 これまでのCクラスではありえない光景だった。なぜなら、いくら成長した龍園くんでも、結局は恐怖という鎖で縛っていたからだ。

 だからこそ、集団は全力でやらざるを得なかった。

 だが今、僕はその鎖を破壊した。

 全力でやらせることに恐怖は必ずしも要因ではない。彼らのやる気を刺激し、全力の状態で送り出せる準備を整える。

 最前線に立つ指揮官として必要な能力。人を統べ、組織を統べる才能こそ、超高校級の王女ならぬ、王の才能。

 龍園くんに視線を向ければ、彼は笑って見せる。

 能力の差をこれほど見せても絶望しない。

 むしろ、ここから登ってくることが龍園翔の真骨頂でしょう。

 

「12人のメンバーはこちらで選びます。言っておきますが、選ばれなかったからと言ってショックを受けないように。

 選考基準はこの数ヶ月、僕の指導を受けて総合的な成長力が高かった人間です。人間の成長スピードなんて千差万別、今回選ばれなかったことで腐らないように努力しなさい。僕はその努力を見逃しません」

 

 超高校級のスカウトマン、そして超分析力がある以上、僕の目は努力も才能も見逃さない。

 これらが全て出来てるから、僕は超高校級の希望。

 だからこそ、今回の特別試験の結果は視えている。

 ツマラナイ、全て僕の思い通りの結末になるでしょう。

 しかし、ここでCクラスの生徒の成長を促し、未知が現れる可能性が少しでもあるならば。

 それが砂粒のような極小の可能性であっても、時間は腐るほど余っているので、試すことくらいはできる。

 だから、手は抜きません。

 

「椎名さん、そして────真鍋さん。あなたたちにはもう少し伝えるべきことがあるのでこちらに」

 

「わ、私?」

 

 ビクリと身体を揺らして反応する真鍋さん。

 借りてきた猫のような反応は相変わらずでツマラナイ。

 

「あなたにはやって欲しいことがあります。頼まれてくれますか?」

 

「は、はい! もちろんやります! や、やらせていただきます!」

 

 震えた声色で彼女は答える。色々と態度に問題はあるがこれは試運転、予測の出来ない未来への投資です。

 僕は呼び寄せた2人に助言と伝言を添えながら指示を飛ばした。

 

 

 




ゆっくり投稿していきます。
あと、アンケートつけてみた。答えてくれると嬉しい。

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