ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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グループ決め①

 

 

 

 林間学校地に到着した僕たちは下車した後、全学年の点呼、移動準備を行っていた。

 車内にいた景色から分かっていたが、ここは山岳地帯。

 冷えた空気が体温を奪っていき、生徒の悲鳴を生んでいる。

 僕は点呼を終えた後、3年生の集団の方へ向かっていき、堀北学の元へ辿り着く。

 

「堀北学、少し良いですね?」

 

 僕は有無を言わせないように言う。

 未だ点呼を取っていない様子で、彼はクラスメイトと軽く話していたが、彼はすぐに僕の意図を読み取り、クラスメイトを離れさせた。

 

「用件は先程のメールの事だな?」

 

 僕が頷けば、彼もすぐにその回答を告げる。

 

「────生徒会が特別試験のルールに介入できるか、その答えは介入できるだ。

 学校は生徒目線の意見を取り入れる形を採用しているため、生徒会に対して特別試験のルールへの口出しやペナルティの一部変更などの発言を許可している」

 

「ペナルティの一部変更……」

 

 聞きたいことは聞けた。

 どうにも疑問が大きかった“責任者”と“ルール”だったが、その背景が見えれば納得は行く。

 どうやら今回の試験、学年間で様々な戦略が絡んできそうだ。

 

「話はそれだけか?」

 

「ええ、助かりました。それでは、僕はこれで……」

 

「待て、今の質問の意図は何だ? 今回の試験に生徒会が関与しているとでも言うのか?」

 

 堀北学はまだ違和感の解消が出来ていないようだ。

 僕は彼の質問に答えようとするが、その矢先、Cクラスの移動が始まりそうだった。

 

「南雲雅にお気をつけて」

 

 僕は最大限のアドバイスを告げて、三年の集合場所を去った。

 移動もギリギリで間に合い、ペナルティを喰らわなかった。

 

 

 

 ──────

 

 

 

 移動を開始すると、グラウンドらしき広い場所、そしてその奥に古めかしい2つの校舎が見えてくる。

 全学年を収容するだけあって大きさは中々のものです。

 男女に分かれて進んでいき、男子は本校と呼ばれる大きい校舎に入っていく。

 建物内に足を踏み入れると、どこか懐かしいような木材の香りが鼻腔をくすぐった。

 そのまま校舎を軽く見た後、生徒たちは体育館のような場所で待機を命じられる。

 その後2年生3年生も到着すれば、他学年の教師と思われる男性が用意された檀上に立つ。

 どうやら、ここが指定された場所のようですね。

 

「ではこれより、小グループを作るための場、時間を設けさせてもらう。各学年、話し合いのもと6つの小グループを作るように。

 また、大グループを作成する場は本日の午後8時から設けている。以上だ」

 

 男子全員に指示が通達される。

 それぞれ学年ごとに距離を取るように移動すれば、体育館内でのグループ決めが始まった。

 僕は動かない。とあるクラスが動き出すのを待つためだ。

 そして思ったより早く、そのクラスに動きがあった。

 膠着状態だった1年生の中でそのクラスは14人からなるグループを形成、そしてこの場にいる者に対してこう言い放つ。

 

「僕たちAクラスは、見ての通りこのメンバーで1つのグループを構成するつもりです。

 見ての通り現在のグループの人数は14人、後1名参加してくれれば人数が揃います。参加してくださる方を募集します」

 

 Aクラスの生徒、的場くんが良く通る声で告げた。

 彼があのグループを仕切っているが、グループ内には葛城くんも見える。

 どうやら、トップの立場は替わってしまったようだ。

 しかし、彼女が女子である以上、この試験で直接的な支配は出来ない。

 だから駒を無駄遣いしないような防御を優先、かつ葛城くんの地位を再浮上させないような立ち回りをするだろう。

 そして、それでいて高い点数も狙う。

 葛城くんを『責任者』にすることで自分の派閥である駒は減らさず、彼を押さえる。

 この立ち回りは合理的と言えた。

 

「あなたたちの案、Cクラスは賛成しますよ」

 

 注目が一気に僕に集まる。

 やはり、都合の良いことこの上ない。

 彼らが14人でグループを作ってくれるなら残り3クラスの要望も通りやすい。

 大量ポイントを狙えば、Aクラスとの差を埋めるチャンスになる。

 

「ただ、Aクラスが14人でグループを組むならば、残りのクラスが12人でグループを作ることを許してくれますよね?」

 

「……ああ、当然だ。残ったAクラスの6人は好きに使ってくれて構わない」

 

「ご厚意、感謝します」

 

 的場くんは僕を警戒しながらも言い切る。

 そしてそのまま自分たちの主張を続けた。

 

「では、これから5分間参加してくれる方を募ります。

 この5分間に参加してくださった方は特別枠を設けさせていただきます」

 

 Aクラスは先制攻撃の手を緩めない。

 まだ意見の固まっていない状況を利用して、自分たちの主張を推し進めていく。

 

「僕らのグループに入ってくれるなら、その生徒には一切のリスクを負わせません。

 純粋に試験の成績が悪くても、僕たちは全て許容します。このグループの責任者は葛城くんが務めるため、退学の心配もありません。もちろん、道連れの心配もね。

 そして、Aクラスの14人で1位を取りに行くため、その1人はppの恩恵を得られる可能性は高い。どうでしょうか?」

 

 その提案に一年生の空間はざわつく。

 彼らの言う特別枠とは、言ってしまえばこの試験を100%安全にクリアできるチケット。

 それでいて、Aクラスであるため1位にもなりやすいというポイントの恩恵付き。

 責任者も葛城くんが行うためリスクもない。

 学力や自分に自信がない人間からすれば、魅力的な提案と聞こえるに違いない。

 

「しかし、5分以内に決めない場合、この特別枠は無くなります」

 

 的場くんは主張を終えた。

 口調や話の運び方から、それなりに出来る生徒であることは窺えます。

 Aクラスに選ばれただけのことはあるようだ。

 

「面白い提案だとは思うが、5分を過ぎてしまったら入る価値は激減してしまう。

 口約束だけで道連れに最もされやすいポジションに自ら入りたがる生徒は少ないだろう」

 

 Bクラスの神崎くんは否定的な意見を見せる。

 これもまた当然の意見でしょう。

 

「しかし、彼らが約束を守り続ける限りは誰か一人を確実に助けられる選択肢となります。

 自分の能力に自信がない人ほど、一考に値しますよ」

 

 僕はAクラスに同調するように神崎くんに告げた。

 彼は睨みながら僕に問いを投げる。

 

「なぜAクラスの肩を持つ、カムクライズル」

 

「打算です。この試験でAクラスとの距離を詰めたいので、Cクラスの利が最も大きい方法を取れるように、彼らの融通を利かせています」

 

「筋は通るな。だが、それは大前提に14人集まったAクラスの集団より平均点が高くなる必要がある。何を企んでいる?」

 

 確かに、いくら自分たちの利を大きくするためとはいえ、相手の戦略に譲歩することはリスクもある。

 それはAクラスでも最も優秀である14人を相手しなくてはいけないこと。

 だが、

 

「たかがその程度のことを僕が出来ないとでも?」

 

 僕は強気に言い返す。

 神崎くんの懸念通り、いくら僕の指導を受けたCクラスの生徒でも、Aクラス相手に単純な学力で勝てるかと言われたら100%の保証は出来ない。

 しかし、今回の試験は学力を競い合う試験ではない。

 大グループの平均点を競う以上、いくらAクラスが優秀と言えど勝機はある。

 

「まぁ、後はそちらで適当に決めてください。Aクラスの意見に賛成するようでしたら、僕はまた戻ってきます」

 

 僕は一度話を中断して、この場から離れる。

 

「任せますよ金田くん、12人はバスで決めた通りです。予め集合させておきなさい」

 

「了解です」

 

 この間、金田くんにリーダーを引き継がせます。

 この試験、確実に勝つためにはCクラスの12人だけではパーツが足りなかった。

 平均点で競い合う以上、残り3人はより慎重に選ばなくてはならない。

 他クラスの優秀な人材の力も平均点を上げるためには必要不可欠です。

 だから、他のグループに取られるより早くスカウトする必要がある。

 僕は目的の人物を探していく。

 するとすぐに、1人目の人物を見つけた。

 

「────橋本くん、僕が責任者を務める12人グループに入るつもりはありませんか?」

 

「……へっ?」

 

 間抜けな声を上げた人物こそ僕の探し人、Aクラスの橋本正義。

 聞けば彼は、コミュニケーション能力が高く、他の能力にも欠点らしい欠点が見つからないというスペックの高いAクラスの生徒。

 加えて、早い段階から綾小路くんに接触していた事実、そして伊吹さん探しをするときに彼の怒鳴り声によって大幅に時間を短縮できたことへの恩。

 たとえ、Aクラスの14人に入っていても何とかして引き抜いていた。

 

「ありがたい提案だが、俺はAクラスの人間だ。

 あんたのグループに入ってたとえ1位になったとしても、Aクラス14人グループが1位の方が旨味がある」

 

「ええ、分かっていますよ。ですが、この試験で勝たせてくれた際にはあの契約(・・・・)について少々手直ししても構いません」

 

 僕は馴れ馴れしく橋本くんと肩を組み、彼の耳元で囁く。

 あの契約とは、無人島試験で結んだ契約で、Aクラスを苦しめる悪魔の契約だ。

 この契約を持ち出すことは、龍園くんから既に許可を取っている。

 

「……何だって?」

 

 彼はすぐに興味を示した。

 食いついた獲物は逃がさない。

 

「今回、Aクラス14人グループが1位になって得られるポイントは、42万ppと126cp。

 126cp=12600pp、この分だけ毎月の徴収分から減らしてあげましょう。加えて、この契約を坂柳さんに持ち帰れば、あなたの存在は坂柳さんにとって大きくなる。

 あなたはかつての信頼を取り戻すことが出来るかもしれませんよ」

 

 2クラス構成の15人グループ、かつAクラスの生徒が責任者であるため、報酬倍率は1倍×1.5倍×2倍=3倍。

 合計報酬は1万pp×3×14人=42万pp、3cp×3×14人=126cp。

 無人島試験によって、Aクラスは毎月144万pp(=4万pp×36人)という膨大なppを渡す契約をしてしまっている。

 僕からの提案は今回の試験の勝ちを譲ってくれる場合、この徴収分を減らすというもの。

 具体的には、4万pp−12600pp=27400ppとなり、これが36人分なので、毎月の徴収が98万6400ppに減少する。

 今より、50万pp近く減少できている。

 メリットは言うまでもない。

 

「加えて、今回の試験Aクラスが2位だった場合、ポイントはさらに増える。それも非常に高い可能性でね」

 

「……わかった。とりあえずあんたのグループに入ることは了承だ。

 だが、後で姫さん……坂柳と連絡を取らせてくれ。それでOKが出たら、俺はあんたに全力で力を貸す」

 

「必要ありません。確実にOKが出ますよ。だから今日の夕食の時間、僕は食堂で待っていると言っておいてください」

 

 橋本くんは首を傾げた。

 その理由は答え合わせ(・・・・・)をしたい坂柳さんに聞けばいい。

 

「……なぁ、あんたはやる気がないから俺は勝ち馬候補から外していたんだ。何で急にやる気を出したんだ?」

 

 疑念が晴れない中、彼は迷いない語勢で問いかけてくる。

 

「簡単な話ですよ。一時的にやる理由ができた、それだけです」

 

「……あんたが言うと妙にリアルで怖いよ、本当に」

 

 交渉成立。

 これでAクラスからは人材を確保した。

 後は2人、BクラスとDクラスから1人ずつ。

 正直、Bクラスの生徒に宛はない。引き抜ける強い理由も見つかりません。

 橋本くんを説得したような策なんてない以上、余りものから最も能力の高い人物を引き抜くしかありません。

 だが、Dクラスは違う。

 少ないppにcp、確実な利益を与えられるとなれば引き抜くチャンスがある。

 しかし、彼らも僕たちと同じように12人グループを作ってそこに優秀な人を集めてしまうだろう。

 結局、残りの8人から選ばなくてはならないことに変わりない。

 そう、普通ならば。

 

「でも、Dクラスにはあなたという例外がいます。

 ねぇ、────高円寺くん」

 

 僕は、学年一の破天荒者、高円寺六助に声を掛ける。

 白い歯を輝かせながら彼は僕の方に身体を向けた。

 

「おやおや、随分と悪い顔をしているじゃないか、カムクラボーイ」

 

「そうかもしれませんね」

 

 最近になって、僕の表情筋は少しだけ動くようになったらしい。

 動いている認識はないが、無意識なだけで僕は今、悪い顔をしているかもしれない。

 

「高円寺くん、僕に力を貸してくれませんか?」

 

「ほぉ~、この私の力を借りたい、それも君の口からその言葉が聞けるとはね~。何が目的かな?」

 

「今回の試験、僕は多くのポイントを得て勝つ必要があります。そのために、最も能力の高い人材を選んでいます」

 

「そして君のお目に適ったのが私かい? ハハハ、流石だね。良い目を持っている」

 

 高笑いが周囲の注目を集める。

 だが、もはや関係ない。さっさとほしかった人材は橋本くんであって、高円寺くんは変人だからどうせ最終的に残る。

 ならば、注目されていようといなかろうと大した差はない。

 

「それでカムクラボーイ、君のグループに入ったとして私に何かメリットがあるかね?」

 

「まず、僕が1位になればあなたは4.5万ppと13.5cpが手に入るでしょう。しかし、あなたがポイントで動くような人間でないことは知っています」

 

 15人グループで4クラス構成ならば、1位の時に得られるポイントはそれぞれ1万pp×1.5×3=4.5万pp、3cp×1.5×3=13.5cpとなる。

 

「ああ、その程度のメリットじゃあ、首は縦に振れないねぇ~」

 

 高円寺六助はDクラス。しかし、ポイント支給が少ないにもかかわらず、上級生と遊んでいたりと何かしらのポイントを得る手段がある。

 だからポイントでは靡かない。

 

「では次に、今回の特別試験においてあなたの『自由』の手助けをしましょう。

 あなたが何をやっても、試験で高得点を取ってくれれば全てを許します。道連れもしないことを約束しましょう」

 

「ふむ、良い提案だ。だが、生憎私は常に自由だ。その提案では了承できない」

 

「ならば、『快適さ』を与えましょう。今回の試験、おそらく普段と比べて環境が悪い。

 そこでこの混合合宿中、僕がありとあらゆる才能を使って快適な暮らしを提供しましょう。

 あなたが望むことは大抵の事を叶えてあげますよ」

 

「具体的には?」

 

「人の死に関わること以外なら全て」

 

「ハハハ、流石、私のことをよく理解しているね。確かにそれは私にとって非常に喜ばしいサポートだ」

 

 手を叩き、彼は僕を称賛する。

 しかし、まだですね。

 

「本当はその提案乗ってもいいんだが……、少々意地悪がしたい気分になった。どうかね、もう一声くれないか?」

 

 試すように言う高円寺くん。

 やはり、契約だけで彼を縛り付けることは僕でも難しい。

 なら、

 

「────ここは感情に従ってお願いをしてみましょう。

 高円寺くん、友人として(・・・・・)僕を助けてください」

 

 意地悪な質問には、感情で対応。

 さぁ、どうでしょう高円寺六助。

 今の僕は、かつてよりも自らを楽しませようとしてますよ。

 

「……ハハ、フハハハハハッ! この私を友と呼ぶか! 

 実に面白い問答だったよ、カムクラボーイ。船上試験の時とは大違いだ。

 良いだろう、今回の特別試験、この私が君の友として力を貸そうじゃないか!」

 

 決まりですね。

 ここは本当に賭けでした。

 相手も幸運を持っている以上、油断の出来ない取引。少しだけ楽しめました。

 ですが、これで勝利は確実なもの。

 さて後は、

 

「カムクラ氏、こちらの意見も纏まりました。

 Bクラス、DクラスともにAクラスの14人グループを認めた上で、12人グループを3つ作り、残った者たちで4クラス構成の10人グループを2つ作ります」

 

「流石ですね、あなたに任せて正解でした」

 

「ありがたいお言葉です」

 

 僕が二人の生徒をスカウトしている間に金田くんが話を纏めてくれていた。

 褒めれば彼は当然の仕事をしたと言わんばかりに、一歩下がった位置に戻る。

 ちなみに、Aクラスの14人グループには、Dクラスの山内くんが入ったようですね。

 

「だいぶ決まって来たね。とりあえず先に全ての12人グループを完成させよう」

 

 平田くんが持ち前の協調性を生かして話を進める。

 

「Cクラスの12人グループには、Bクラスの生徒があと一人必要です。他のグループで必要なクラスはどこですか?」

 

「Dクラスの12人グループには、Aクラスの生徒が必要かな」

 

「BクラスからはCクラスがあと一人足りていない」

 

 時間は有限であるため、僕は彼に乗って話を広げる。

 平田くんと神崎くんが代表を務め、手早くグループの現状を纏めていく。

 そして全ての12人グループが完成した。

 Cクラスの12人グループに誰を入れるかで少し揉めたが、最終的にはじゃんけんで負けた生徒を入れられた。

 

 

 

 ──────

 

 

 

 12人グループ以外に選ばれなかった生徒達も10人グループを二つ作り終え、全てのグループ決めが終えた。

 担当の生徒に報告を終えてこの場は解散するかと思いきや、2人の人物が一年生の元へやってくる。

 

「もう少し時間がかかると思ったが、意外に早かったな。どうだ、一年生。まだ時間もあるしこの場で大グループを作らないか?」

 

 そう告げるは現生徒会長、南雲雅。

 2年生の中でも圧倒的な雰囲気を持つ生徒からの提案に一年生はたじろいでしまう。

 元々、今日の20時から作る予定だった大グループを今作ってしまうのは効率的な時間の使い方だが、学校側の配慮を無視する形となる。

 

「安心しろ、先生方には既に許可を取っている」

 

 補足するように、元生徒会長である堀北学が告げる。

 教師たちは慌てる様子なく、見守っていた。

 学校側から許可、そして権力ある2人からの提案があれば、断れるはずもない。

 

「決まりだ。じゃあ、早速進めていくぜ。

 どうでしょう、堀北先輩。ドラフト制みたいなので決めるのも面白くありませんか。1年生の小グループの代表者6人でじゃんけんして指名順を決める。

 勝った順に2年と3年の小グループを指名していけば、大グループの完成です。公平かつ短時間で決まりますよ」

 

「1年の持つ情報量は少ない。公平性には欠けているな」

 

「完璧な公平なんて不可能ですよ。結局持っている情報に差はあるんですから。

 1年はどうだ? このやり方に不満がある者は言ってくれ」

 

 言い返せないと分かっていながら南雲雅はそう聞いてくる。

 

「不満はありません」

 

 的場くんが一年を代表するように答えた。

 

「そうか。ならすぐに決めていこう」

 

 南雲雅と堀北学が手早く指示を飛ばせば、上級生は12の小グループごとにそれぞれ分かれていく。

 それぞれのグループの責任者が先頭に立って、分かりやすく整列した。

 

「後そこのグループだけだ」

 

 6グループ中、5人の責任者が円となって集まっている。

 残り1グループ、10人グループの1つから責任者が来ていなかった。

 そのグループには、綾小路清隆の姿が見えた。どうやら、今回の試験も真面目に取り組む気はないらしい。

 なら、今回は無視でいい。

 彼が敵にいるなら油断できないが、目立つ気がない彼は相手する価値すらない。

 叩き潰す機会はまた次回です。

 

「待たせた、すまない」

 

 最後の1人、Dクラスの幸村くんが駆け足で合流すれば、僕たちはじゃんけんを始める。

 ドラフト制なので、先に勝つほど選択肢は多く有利です。

 そして当然、超高校級の幸運が1番を運んでくる。

 

「金田くん、希望はありますか?」

 

 じゃんけんが終わるまでの間、金田くんに相談する。

 

「そうですね。第一候補は堀北先輩のグループですね。A、Bクラスで作られている優秀なクラスです。

 他には郷田先輩のグループも良いと思います。2年のAクラスが中心になっています」

 

 金田くんは美術部に入っているため、先輩とのコネクションを生かせる。

 

「南雲雅のグループは?」

 

「生徒会長のグループも魅力的ですが、組んでいる生徒たちがCクラスやDクラスが基本的です。

 今回の試験は平均点を競うので、候補からは外すのが妥当かと」

 

 その情報を加味した上で、僕は上級生たちを1人1人見ていく。

 細かい能力までは分からないが、ある程度の指標は分かるのが超分析力です。

 金田くんの情報は超分析力で見た評価に差異はあまりないので、信憑性もあった。

 

「決まったぞカムクラ、さっさと選べ」

 

 的場くんが指名一番の僕を呼ぶ。

 白熱したじゃんけんが終わったようですね。

 

「堀北学、あなたのグループを指名します」

 

 敬称がなかったため、一部の生徒から睨まれるが知ったことではない。

 選ぶは当然、堀北学のグループ。

 今回の試験で勝つためには上級生の平均点が大きく関わってくる。

 金田くんの情報を加味しても、無難な選択肢でしょう。

 そのまま指名二番の的場くん率いるAグループが郷田という2年生のグループを選び、続けて平田くん率いるDクラスも選んでいく。

 南雲雅は4番目の幸村くんが選び、最後まで選んで1巡目が終わる。

 2巡目はウェーバー制度なので、僕たちは最後に余った2年生のクラスを選ぶことになる。

 結果、選ばれたのは4クラス構成の2年生グループ。

 身体能力は全体的に平均的、身体面で足を引っ張ることはなさそうだ。

 

「堀北先輩。偶然にも別々の大グループになったことですし、ここは一つ勝負をしませんか」

 

 全ての大グループが決め終わると、南雲雅がそう提案する。

 やや呆れたため息のようなものが三年生の方から漏れる。

 どうやらこのような提案は今に始まったことではないらしい。

 

「南雲。これで何度目だ、いい加減にしろ」

 

「何度目とはどういうことでしょうか? 藤巻先輩」

 

 藤巻と呼ばれた三年生が苦言を呈する形で南雲雅の前に立つ。

 

「これまで、お前が堀北に勝負を挑む事に口出しをする気は無かったが、今回は1年生も含めた大規模な特別試験だ。個人の都合が優先されすぎている。控えるべきだ」

 

「どうしてですかね。実力主義を謳うこの学校で、誰が誰に対して宣戦布告することは別におかしな話じゃないでしょ。ルールにも禁じられていない」

 

「基本的なモラルの話をしている。書かれていなくてもやって良い事と悪い事がある」

 

「俺はそうは思いませんけどね。むしろ、同じ学年の争いだけを望んでいる先輩たちこそ、在校生の伸びしろを阻害する邪魔者じゃありませんか?」

 

 体躯の大きな藤巻という三年生にも南雲雅は怯まず、挙句には挑発を行う。

 

「生徒会長になったからと言って、何でも思い通りになるわけじゃない。お前こそ、越権行為を自覚しろ」

 

「なら自覚させてくださいよ。なんなら、藤巻先輩も相手しましょうか? 一応、Aクラスの№2みたいですし」

 

 ポケットに手を入れ、露骨な挑発を止めない南雲雅。

 三年生の何人かはこの行動が屈辱に映ったようで、前に出ようとする。

 しかし、堀北学がその動きを片手で制止する。

 

「南雲、俺はこれまでお前の要望を断ってきた。何故かわかるか?」 

 

「そうっすねぇ~。俺に負けるのが怖いから……ってわけじゃないことくらい分かっていますよ。

 堀北先輩は俺が見てきた人間の中でも最も優れた人だ。負けることを恐れたりしないし、そもそも負けるなんて思っちゃいない」

 

 藤巻という男に見せた態度と違い、堀北学を認め、純粋に尊敬するような様子を見せる。

 以前話した時もそうだったが、南雲雅は堀北学を敵やライバルとしてみていても見下してはいない。

 思考や性格、用いる手段も違う人間でも、毛嫌いせず認めている。

 それ程、堀北学という人間が偉大なのでしょう。

 

「答えは、無益な争いを望まないからっすよね」

 

「お前の好む争いは他人を巻き込みすぎる」

 

「それがこの学校のやり方であり、醍醐味でもあると思うんですけどね~」

 

「俺はそう思わない」

 

「そうでしょうね。先輩はそういう人だ。だけど俺は、あくまでもあなたと個人的な戦いを希望してるだけです。

 あなたはもうすぐ卒業していなくなってしまう。その前にあなたを超えることが出来たかどうか、それを試したいんですよ」

 

「何をもって勝負とするつもりだ」

 

 南雲雅の渇望はとどまることを知らないが、流石に飽きてきましたね。

 さっさとこの場を離れたくなってきました。

 

「どちらがより多く生徒を退学させられるか、というのはどうでしょうか?」

 

 その一言に、体育館はどよめきに包まれる。

 

「冗談はよせ」

 

「面白いと思うんですけど、今回はやめておきましょう。

 真面目に提案させてもらうなら、どちらのグループがより高い平均点を取れるか。シンプルですが、これなら分かりやすいですよね?」

 

「なるほど。それならば受けても構わない」

 

 勝負の内容が決まった。南雲雅の敗北で。

 堀北学のグループに僕がいる以上、南雲雅に勝ち目なんてありません。

 お疲れ様です。まったく、ツマラナイ議論でした。

 

「ただし、あくまでも俺とおまえの個人的な戦いだ。他を巻き込むな」

 

「巻き込むな? 特別試験の方法からしても、相手グループの足を引っ張るように仕向けることは1つの作戦では?」

 

「それは試験の本質とは程遠い。今回の試験はグループでの結束力が問われるもの。

 間違っても相手グループの隙を突き、撹乱していくものではない。この条件が飲めないのなら、勝負はなしだ」

 

 つまり、相手を陥れる行為の禁止。

 個人間の戦い以外は受けるつもりはないようですね。

 

「勝つために堀北先輩の駒を攻撃する方法はなし、ということですね。それでいいですよ」

 

「こちらのグループに限らずだ。他の生徒を攻撃するやり方は認めない。おまえが妨害工作に関与したと判明した時点でこの勝負は無効とする」

 

「……さすが先輩。見逃してくれませんか」

 

 すんなりと受け入れた南雲雅に違和感を持った堀北学は最後まで言及する。

 不敵に笑う南雲を鋭い視線が見逃さない。

 

「分かりました。あくまでも正々堂々、どちらがよりグループの結束力とやらで高い点数を取るか。

 その勝負をしましょう。先に言っておきますが、勝った負けたにペナルティを設ける必要はありませんよね? あくまでもプライドを賭けた戦いということで」

 

 堀北学は肯定も否定もしない。

 プライドすらかけるつもりはないらしい。

 

「……無駄に時間を取って済まなかった。全ての大グループが決まったため、小グループごとに次の指示に従ってくれ」

 

 体育館中に聞こえるように堀北学が解散を指示する。

 先生方もそれに従い、素早く準備をしていく。

 そんな中、南雲雅が僕の元へと向かってきた。

 

「よぉ、随分と可愛らしい髪型になったじゃないか」

 

「用件は何ですか?」

 

 雑談をする気分でもないので、手っ取り早く本題を進める。

 

「相変わらずだぜ、そういう態度。

 まぁいい。聞いての通り、俺は堀北先輩と勝負をすることになった。勝利条件は大グループの平均点だから、実質的にお前との勝負にもなると思って挨拶しに来たんだよ」

 

「そうですか。頑張ってください」

 

 僕がそっけなく返せば、南雲雅は嬉しそうに笑う。

 

「堀北先輩が俺に負けないと思っているのか?」

 

「はい」

 

「ははっ、良いね。俺相手に全く怯まない態度と言い、その自信もな。

 出来ることならお前とも直接的な勝負をしたかったが、それはまたの機会だ。精々、ポイントを多くとれるように努力するんだな」

 

 言いたいことを言い終えると、南雲雅は自分の小グループの方へ戻っていった。

 本当に挨拶をしに来ただけでした。

 まぁ、堀北先輩との勝負に手を出すな、と言わなかっただけ上々ですか。

 

「『まとめて潰してやる』、そういう度胸があれば、少しは楽しめそうでしたね」

 

 彼の眼中には、堀北学しか入っていない。

 僕をついでで考えているのだろう。

 

 ────だから、あなたは敗北する。

 本当に、ツマラナイ。

 

 

 僕たちは指示に従って、次の場所へ移動した。

 

 

 




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