林間学校地に到着して男女別に分かれると、女子もまた別棟の体育館に集まっていた。
男子同様、担当の先生から小グループを作るように指示されれば、学年毎に距離を取って話し合いが始まる。
「よろしいでしょうか」
幼さの残る高い声が1年生女子全員の注目を集めた。
1年女子はクラス毎に纏まっていてそれが大きな円を作っている。
その声の主は円の中心に杖を突きながら歩いていく。
「Aクラスの坂柳有栖です。小グループを決めるにあたって、Aクラスから提案があります」
自己紹介を終えたその少女は自分と同じ各クラスの代表生徒を1人1人見ていく。
Bクラスの一之瀬帆波、Dクラスの堀北鈴音、Cクラスは集団の先頭にいる椎名ひよりを暫定的にリーダーとみなし、値踏みするように見て返答を待つ。
「何かな、坂柳さん?」
皆を代表するように一之瀬が答える。
それを確認した後、坂柳は後方で控えていた神室に目線で指示を飛ばし、自クラスの女子生徒を自分の周りに集めた。
「私たちAクラスは、このメンバーに他クラスの生徒を加えて3クラス構成の11人グループを作りたいと考えています。
見ての通り、現在のグループの人数は9人、残り2名の参加してくださる方を募集します」
統率の取れた集団行動は圧を生み、この場にAクラスの行動力を見せつける。
自分たちこそ、この話し合いの中心だとアピールするには十分なパフォーマンスだ。
しかし、3人のリーダーは怯まない。
真っ先に行動を起こしたAクラスの意見を吟味する。
3人は警戒している。
確かに、11人と人数を絞り、Aクラスの多いグループを作れば平均点は上がりやすく、勝つ確率は高くなる。
しかし、坂柳は学年でも攻撃的な性格と噂される人物だ。
この試験、ポイントを取りに行くのならば15人グループを作ることが望ましい。
かつ、4クラス構成のグループならばさらにポイントを狙える。
坂柳ならばこの策を取ってくる予想していた者たちからすれば、3クラス構成という言葉は酷く奇妙に映った。
「どうして3クラスなのかな、坂柳さん?」
3クラス構成のグループを作るということは、逆を言えば1つのクラスを排斥してグループを作ること。
一之瀬が確認するように訊けば、一瞬申し訳なさそうな表情を浮かべた坂柳は一歩引き、後方に控えていた神室が代わるように前へ出る。
神室は不愛想な表情を浮かべたまま、一之瀬の顔を見て告げた。
「私たちが提案したの。Bクラスからは受け入れないでって」
ピリッと体育館内の空気がひりつき始めた。
神室はそんな空気を無視して続ける。
「私たちはこの試験で1位を狙いに行く。けど一之瀬さん、あなたのような人がリーダーであるクラスの人たちとは一緒のグループになりたくない」
「……どういうことかな? その理由を聞きたいんだけど」
理由もわからず非難された一之瀬は当然困惑していた。
「あなたは信用できない。だって、あなたは不正にポイントを集めているって噂がある人だもの。
そんな人とは組みたくないし、そんな人をリーダーと称えているBクラスの人たちと1週間も同じ寮で暮らすとか無理」
ざわつきがゆっくりと伝播していき、Bクラスから怒声が上がった。
「どういうことよ! 一之瀬さんはそんなことしていない!」
「いきなり悪口言って、皆に迷惑かけないでくれない!?」
「こっちこそ、Aクラスなんかと組むの願い下げよ!」
Bクラスは一之瀬の人望、カリスマによって纏まったクラス。
絶対的なカースト首位の座を保持している一之瀬を誰もが信頼しているがために、批判を受ければすぐに喧嘩腰で応答する。
そしてAクラスの生徒も軟ではない。
言われたら言い返す。
1年女子のグループ決めは初めから野次を飛ばし合い、話し合いの場はすでに崩れようとしていた。
「……えっと、まず、私は不正にポイントなんて集めていないよ。私が何か気に障ることをしたなら謝るし、信用が足りないならどうすれば信用を取り戻せるか教えて欲しい」
罵声が飛び交う中、一之瀬は場を収めようとAクラスに寄り添いかける。
「そういう良い子ちゃんムーブ、やめてくれない? 演技だって私たちには分っているから」
「演技じゃないよ。私は本当に……」
「あぁ、ウッザ。あんたみたいな偽善者と話すだけで気分悪いわ」
Aクラスの1人が冷たく返せば、いくらコミュニケーション能力の高い一之瀬でも絶句してしまう。
明確な拒絶は善人である一之瀬には堪えるものがあった。
一之瀬が黙れば、再び幼稚な罵りあいが始まる。
しかし、その前にDクラスの堀北がうんざりとした様子で待ったをかけた。
「話し合いを進めたいからDクラスの意見も聞いてもらえないかしら。
これ以上の時間浪費は無駄だって、優秀なクラスの人たちならわかるはずよね?」
火に油を注ぐように言う堀北。
幾度の特別試験を通じて成長したとはいえ、この強気な性格は鳴りを潜めない。
場は静かになったが、堀北は全てのヘイトを一身に受ける堀北。
しかし、Dクラスの櫛田がそんな堀北の肩を叩いて振り返らせる。
そして耳元に顔を近づけて囁いた。
「堀北さん、少しだけ代わってくれない?」
「なぜかしら? 静かになったからこのまま私が提案するわ」
「……ここは私の方が適任だからね、何とかするから」
穏やかな声でありながら櫛田は強引に前に出る。
仏頂面から人を魅了する笑顔に変われば、場の雰囲気も変わっていく。
2人は系統の違う美人だが、愛嬌という一点によって櫛田の方が圧倒的に差があった。
「ごめんね。時間も無限じゃないからさ、少しだけDクラス、そしてCクラスの意見も聞いて欲しい」
櫛田が皆の様子を確認してから話を再開すれば、少しだけ刺々しい雰囲気も収まりを見せる。
Cクラスの話題を出すことで、クラス関係なく櫛田がこの場を収めようとしているとみな感じていた。
「まず、確認なんだけど……坂柳さん、Aクラスは全員がBクラスと組みたくないのかな?」
「いいえ。私のグループであるこの9名がBクラスと組むことを拒否しているメンバーです。
残りの11人はどのグループに組みこまれても不満はありません」
「なるほど。ちなみに、坂柳さんのグループは誰が『責任者』をやるのかな?
そこを明確にしてくれないと、Dクラスから坂柳さんのグループに入ることは難しいよ」
11人グループを希望する坂柳率いるAクラス。
CクラスとDクラスから1人ずつを希望しているが、この二人のどちらかに責任者を押し付けて退学を目論んでいることがあれば、簡単には入れない。
「ご安心を。責任者は神室さんが務めます。決して、退学を目論むことなどありません」
「そっか。それを聞いて安心したよ!」
微笑みを返し合う櫛田と坂柳。
腹の探り合いという点においてこの2人は学年でもトップ2、水面下で戦いは始まっている。
「坂柳さん、Dクラスはその案を受けても良いと思っているんだ。でも、その代わりDクラスが中心とした15人グループを作っても良いかな?」
「ええ、構いません。しかし、そのグループを作るということはDクラスは1位を狙っているということですね?」
「お恥ずかしながら、Dクラスにはcpが少ないからね。ある程度のリスクは背負うつもりだよ。
逆に、坂柳さん
「その都度適切な策を取ることが最も重要ですから。Aクラスはcpがふんだんにあるので、無理して攻撃に出る必要はありません」
攻撃的な性格な坂柳にしては珍しいが、今回の試験は合理的な選択をしているだけ。
得られる最大ポイントと比べてしまえば低いだけで、Aクラス9人の3クラス構成、11人グループの得られるポイントは1位を取った時に39.65ppと118.8cp。
この計算結果はAクラスが責任者になっている前提で、1位で得られる1万ppと3cpに1.1(報酬倍率)×2(クラス構成)×2(責任者)×9(人数)とかけて導き出される。
最大報酬の3分の1程度しか得られない、されど100cp以上得られるとなれば、これは成果と言える。
見方を変えれば、十分に攻めていた。
「流石、坂柳さんだね。手強いな~」
「ええ、あなたも手強そうですね。……本当に」
「あはは、ありがとう。坂柳さんにそう言われるとちょっと照れちゃうな」
サファイアのような青い瞳は櫛田に焦点を合わせる。
超高校級と呼べる彼女の分析力。
その分析結果によって、非常に珍しい坂柳の本音が添えられた。
穏便な雰囲気の中にも煽りがあり、相手の出方を窺う。
簡単には腸も見せないやり取りを演じてくれた櫛田に、一定の評価を下していた。
「Cクラスも提案させてもらいます」
一度話が区切れたところで、椎名さんがゆっくりとマイペースに告げる。
「CクラスもDクラス同様、15人グループを作らせてもらいます。私たちは予め12人組んでいて、他クラスから1名ずつ希望します」
「じゃ、Bクラスも続けて提案するね! Bクラスも15人グループを作ります!
私たちも12人Bクラスで固めて、他クラスから1人ずつ生徒を希望します!」
聞きやすい高い声とハキハキと良く通る声が体育館に響く。
どちらも最大ポイントを得るための戦略。
互いに生徒の基本レベルは高いので、学校の用意する平均点は越えられる可能性が高く、退学の危機はない。
特にBクラスは持ち前のチームワークを生かせれば、高い順位を狙える。
もっとも、それはBクラスを指揮できる人間がいればの話だが。
「皆さんの要望が出揃いましたので、グループを作っていきましょう」
坂柳が仕切るように行動を促せば、4クラスは行動に移す。
まずはクラス内で行きたいグループを相談から始まった。
といっても、どのクラスも主要メンバーは既に固まっている。
相談はすぐにAクラス11人、Bクラス8人、Cクラス、Dクラス10人がどのグループに入り、余った人で2グループ作るという趣旨に変わっていた。
しかし、この余った人間でグループを作ることで問題が起きる。
「はぁ? 私たち、あなたと同じグループになるとか無理なんだけど……」
ゆっくりとグループが決められていく中で、そんな敵意丸出しの声が一年の輪の内で響く。
声を上げた生徒はDクラスの生徒、その標的はCクラスの生徒。
腕を組んでお互いに睨みあえばピリついた雰囲気がまた広がっていく。
「あんた、誰?」
「……誰? ふーん、さすが王様気取りの真鍋さんね。自分が他人にやったことなんて覚えてないんだ」
Dクラスの生徒は名乗らず、喧嘩腰で話を進める。
「冬休みに入る前くらいの時さ、私のことぶつかって倒したでしょ?」
恨みの籠った眼差しは今にも掴みかかりそうな剣幕を表し、その顔を思い出せと無言の圧を作り出す。
「……あぁ、あの時の」
糾弾されたCクラスの生徒、真鍋志保は遠い夢を思い出すかのようにゆっくりと唇と表情が動く。
どうでもいいと言わんばかりのその態度にDクラスの生徒はさらに眉間に皺が寄る。
「あの時もそうだった! 自分からぶつかってきたのに、周りを見ていなかった私が悪いって言って謝りもしなかった!」
怒鳴られた真鍋は唇を強く結び、頬を引きつかせながらも相手の意見を飲み込む。
そして、驚くべき言葉を吐いた。
「……その、ごめんなさい」
頭を下げながらも拳を握る真鍋の姿は悔しそうで、今にも言い返したい様子だ。
Cクラスの生徒に限らず、殆どの生徒が驚いていた。
しかし、正直に罪を認める返答は結果的に怒りを焚きつける。
「……ッ!? 今更謝ったって許してもらえると思っているの!?」
声を荒げたDクラスの生徒が一歩を踏み出せば、流石に見過ごせない。
一触即発となる前に、一之瀬が間に入る。
「ストップ! 二人の間で何かあったみたいだけど、それ以上はダメだよ!」
「どいてよ一之瀬さん! 私はこの女に突き飛ばされたのに、このまま泣き寝入りしろって言うの!?」
「それが事実なら後で話し合いの場を私が作って、そこで話し合おう。そうすれば、問題は一区切りするよね?」
「謝っただけでおしまいにしろって? 私だけ損する結果になってるのに? ……ははっ、一之瀬さんは大人だね」
一之瀬の言っていることが正論だった。
学校における地位が最上位の一之瀬がそう言えば、大抵の生徒は引き下がるしかない。
Dクラスの生徒もこれ以上ここで逆らえば自分の地位が下がると判断する。
もどかしい表情、強烈な敵意を内に噛み殺しながら、クラスの輪に戻った。
「真鍋さん、さっきの話は本当でいいんだね?」
「……ええ。あんたの言うとおりにするからさ、さっさとグループ決め……進めてくれない?」
ひきつりながらも笑顔を見せる真鍋。
口の悪さを差し引いても謝る態度ではないが、一之瀬はその様子に微笑んだ。
「うん、分かった。とりあえず、先にグループを決めよう」
現状、4つのグループが決まっている。
Aクラス9人、Cクラス、Dクラス1人ずつの計11人グループ。
Bクラス12人、その他クラス1人ずつの計15人グループ。
Cクラス12人、その他クラス1人ずつの計15人グループ。
Dクラス10人、Bクラス3人、Aクラス、Dクラス1人ずつの計15人グループ。
残り人数は80−56=24人。詳細はAクラス8人、Bクラス4人、Cクラス5人、Dクラス7人。
この24人から2グループ作る必要があった。
しかし、軋轢は既に生まれていた。
「一応言っておくけど、真鍋さんみたいな凶暴な人と組むとか絶対無理だから」
「……うん、考慮するね」
一之瀬は場を収めるためにその意見を飲み込んだ。
悪い雰囲気を変えるように、次の話に進む。
「余ったグループは何クラス構成にする? Dクラス側の意見を飲むならば、CクラスとDクラスは完全に分け切った方が良いとは思うけど……」
「帆波ちゃん。ごめん、少し意見言っていい?」
一之瀬が再度纏めようとした時だった。
Bクラスの生徒の1人が申し訳ない気持ちを前面に出して声を掛ける。
「私たち4人もさ、Cクラスの人たちと組むの止めたいんだよね」
ここにきてBクラス側からもCクラスと組むことを拒否する声が上がった。
自分のクラスからの提案もあってか、一之瀬は口が開き、長い睫毛が何度も往復する。
「……一応、その理由を聞いていい?」
「帆波ちゃんも覚えてるでしょ、6月くらいに起こった暴力事件」
暴力事件とは、Dクラスの須藤健がCクラスの生徒複数人に暴力を振るったということを争った事件だ。
そこから発展して生徒会を巻き込むほどの問題になっていた。
最終的にCクラスが訴えを取り下げたことで穏便な結果に収まったが、一歩間違えれば停学者、あるいは退学者が出ていた。
「それが起こる前くらいにさ、私たちBクラスの皆はCクラスの生徒に後をつけられたりとか、文句言われたりとかあったじゃん。
その時も、真鍋さんに文句言われたし、他の生徒にもストーカー紛いの事された。私、そんな人たちと一緒のグループやだよ」
「そ、それは……」
自業自得、一之瀬は喉まで出たその言葉を何とか飲み込む。
龍園の指示でやらざるを得なかったとは言え、やったのはCクラスの生徒だ。
だから、こうやってクラス間で除外されることは致し方ない。
しかし、その事実を自業自得だから仕方ないと言ってしまえば、ある問題が起こる。
一之瀬はそれに気づいていたから、黙り込んだ。
「そう言えば、Aクラスも似たようなことをされましたね」
「ま、待って坂柳さん!」
その問題を止めたい一之瀬は慌てて坂柳を制止する。
しかし、坂柳はその問題を助長させたいために制止を振り切った。
「フフ、分かっていますよ一之瀬さん。でも、これは自業自得です。
龍園くんがやってきた行いを、そのつけを今ここで払ってもらわなくてはいけません」
一之瀬はまた黙り込んでしまう。
その意見に一之瀬も同意してしまうからだ。
龍園の行動は他人を巻き込みすぎる。
暴力事件、無人島試験、体育祭。どの試験もどこかのクラスに危害を出そうとしていた。
だから、罰は受けるべき。
一之瀬帆波は善人だからこそ信賞必罰の考えがあり、強い否定をすぐに出せなかった。
「Aクラスも余ったグループでCクラスと組みたくありません。その理由は、もう言う必要はないでしょう?」
静まり返る一年女子。
この話し合いの時間内に余った24人で2グループを作らなければいけない。
しかし、これで3クラス。
もし、グループを作れなければ────作れなかった生徒全員が退学になってしまう。
各クラスはバスの中でそう説明を受けていた。
「で、でも、Cクラスを含めなかったら余った人は17人。これじゃ、2グループに最低人数が集まらないよ!
自クラスの生徒まで退学になっちゃたら元も子もないでしょ!」
「何を言っているのですか、一之瀬さん? 最低人数は10人です。あと3人、私たち3クラスが協力して1人ずつ出し合えばどうとでもなります」
「……っ!? でも、これじゃいくら何でも……」
「おやおや、一之瀬さんはお友達を傷付けられたのに、傷付けた生徒の方を助けるんですか?」
Bクラスの生徒を助けるか、Cクラスの生徒を助けるか。
そんな事答えるまでもない。
しかし、それで退学という結果が待っているのならば、善人である一之瀬帆波に決断なんてできなかった。
「……少し、宜しいでしょうか」
一之瀬が俯き、坂柳がほくそ笑み、堀北が傍観していた中、とうとう椎名が集団の中から一歩前に出てきた。
事態が動くことを察知したリーダーは、次の言葉を聞くために3者とも椎名を見る。
「どうやら、Cクラスの過去の行いが知らずして皆さんに害を与えてしまったようですね。
まずは、その事に対して謝罪させてください」
椎名は深々と頭を下げた。
自分がその害を与えるようなことを一つもしていないにもかかわらず、リーダーとして責任を果たそうとした。
龍園の意思を汲み、責任の所在を明らかにしないようにすることも織り込み済みなのは、頭の回転の速さゆえだ。
「謝罪だけで済むと思っているのですか? 私たち3クラスは実害を受けています。
本当に誠意があるのならば、何かしらの謝礼を形として頂きたいですね。例えば、プライベートポイントとか」
「申し訳ありませんが、私にポイントに関係することを話す権利はありません」
椎名は真っすぐ堂々と坂柳に返答する。
その様子に坂柳は眉を動かした。
優位に立てば坂柳が手を緩めるはずはなく、相手の嫌がることを正論と同調圧力で逃がさず、相手を焦らせようとする。
そして今、椎名は崖っぷちの立ち位置にいる。
一歩間違えれば、Cクラスの何名かが退学してもおかしくない。
だから、正常な判断能力を失い、こちらの要求を呑むしかない。
坂柳はそう考えていた。
「坂柳さん、私から言えることは1つ……伝言だけです」
「伝言?」
「『あの契約について修正点を設けます。だから、僕のクラスメイトを虐めないように』、そう言っていました」
椎名が言い終えれば、1年の輪は一瞬で静まり返った。
伝言の意味を1年女子生徒は一斉に考え始める。
だが、契約について分かる者なんて極僅か。そして、この伝言によって坂柳有栖の行動が制限されたことに気付けたのは、当の本人だけだった。
ただ、共通認識であったことはその伝言がCクラス女子生徒の危機を守ったこと、その伝言を預けた人物の正体。
そして、この伝言でCクラスの士気が上がったことだった。
「────アハハッ、そう言うことですか」
それは小さな声だった。
Cクラスの歓喜を消すように少女は笑みを浮かべていた。
杖を持たない手で両目を隠し、口元だけが弧を描き、薄っすらと紅潮する頬が小さな手から零れている。
上品さも儚さもないその笑みは、妖艶でどこか狂気にも似た何かを含んでいた。
「……坂柳さん?」
椎名が警戒を表しながら坂柳を呼ぶ。
すれば、ゆっくりと口元は戻り、手を退ければ普段の彼女が現れる。
「……あぁ、失礼しました。それで、Cクラスへの対応でしたか?」
「は、はい」
「いいですよ。先ほどの発言は撤回させてください。AクラスはCクラスと組んでも構いません。
……ただ、そうですね。AクラスとCクラスが組むととある理由で諍いが起こるかもしれません」
「それは私も思います。だからこそ、余り者のグループには仲介となれる人物が好ましいです。出来ることなら、坂柳さんにその役を任せたいのですが……」
「いいえ、私は自クラスの生徒を抑えなくてはいけません。だから、彼の提案でも飲めません。
でも、ストッパーとして機能できる人間がもう一人います。争いを回避できるようなBクラスの生徒が1人、ね」
坂柳さんは意味深にそう言う。
そしてその人物とは、
「……私かぁ」
当然、Bクラスのリーダーである一之瀬帆波。
彼女自身、自覚していた。
「はい、どうでしょうか一之瀬さん。あなたがいればグループは纏れます。お願いしたいのですが」
「……まぁ、適任がいないなら仕方ないか。いいよ、坂柳さん。私やるよ」
「フフ、ありがとうございます」
一之瀬は元々12人グループ、仲の良いメンバーを集めただけの12人グループのリーダーだった。
責任者ではなかったが、その中心人物の移動はBクラスにどよめきを起こさせる。
だが、一之瀬でなければ纏められないことは百も承知。
誰かのために行動する一之瀬を止められない。むしろ、Bクラスは自分に出来ないことを率先してやる一之瀬に尊敬の眼差しを向けていた。
「任せて帆波ちゃん! 私たちちゃんと頑張れるよ!」
そう危機感のないセリフを吐けば、一之瀬もまた微笑んでエールを返す。
「……さて、ではグループ決めを確定させましょうか」
退学者を出すことを嫌う一之瀬の心理を利用して断らせなかった。
その事実を坂柳だけが1人退屈そうに見つめていた。
その後、話し合いによって全てのグループも決まっていく。
余ったグループの1つはAクラス6人、Bクラス1人、Cクラス5人、Dクラス2人の4クラス15人グループ。
もう1つはAクラス2人、Bクラス4人、Cクラス0人、Dクラス5人の3クラス11人グループ。
これにて、女子たちは時間ギリギリで6つの小グループを確定できた。
登場人物と原作との相違点をまとめた投稿が必要かどうか
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必要
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必要ない