ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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共同生活

 

 

 

 翌日の朝5時、僅かな物音と人の動く気配がして僕は起床した。

 バス内で配られた資料には、朝6時20分に指定教室に集合して点呼を取ると記載されていた。

 林間学校初めての朝であるので、僕はどんなハプニングにも対応出来るように1時間程早く起きる予定だった。

 だが、僕以外にも目を覚ましている人物がいるようだ。

 

「おや、起こしてしまったかね?」

 

 ベッドから出た僕に声をかけた人物は高円寺くん。

 気配は彼のものだった。

 

「いえ、僕もこの時間に起きる予定でした。問題ありません」

 

 やや寝惚けた声を直して、身体を伸ばす。

 眠気は少し残っているが、数分もすれば完全に無くなるだろう。

 

「私はこれから朝のトレーニングをするつもりだが、君もどうだい?」

 

「付き合いましょう」

 

 僕と高円寺くんは物音を立てずに部屋から出ていく。

 断らなかった理由は特にやることがなかったため。

 体を動かすことで体力が減るが、僕の体力はその程度では尽きない。

 宿泊施設の外に出れば、橙色に輝く朝日が雲の川を押し退けるように登り始めていた。

 

「Good、自然が私を出迎えてくれている」

 

 両手を広げ、身体全体で自然を感じる高円寺くん。

 野鳥の囀りが風に乗って耳に届く。

 今は冷たい山風だが、トレーニングをすればそれも心地好いものに変わるだろう。

 僕達は互いにストレッチを行い、準備を整える。

 

「時にカムクラボーイ、君はこの試験で私を快適に過ごさせると言っていたが、それは頼めば何でも聞いてくれるという認識で良いのかい?」

 

「はい。大抵の物事には対応するつもりです。

 今日の夜には疲労した身体にマッサージを想定しているので、特別試験中もトレーニングをして構いません」

 

「ほぉ、マッサージか。私は自分の身体のこととなると少し厳しいが、期待に応えられるのかい?」

 

「指圧師の才能くらい持っています。期待しても問題ありません」

 

 超高校級の指圧師の才能を使えば、疲労を完璧に逃がすことも可能。

 毎日快適な身体で生活することくらい造作もない。

 

「トレーナーの才能も持っているため、あなたのトレーニングスケジュールを管理、修正できますが、どうしますか?」

 

「問題ないさ。私は自分の身体に最適なトレーニングを既に心得ている」

 

「なるほど、余計なお世話でしたね」

 

「いやいや、むしろ良い心がけだ。我が家の執事を連想させる」

 

 ストレッチを終えた僕たちは早速トレーニングを始める。

 まずは校舎の外周を軽く走っていく。

 古い建物であるため、外周の地面は完璧な整備が出来ていなかったため、走りづらい。

 しかし、好都合。凸凹とした道を走ることは良い負荷になる。

 次に筋トレ、様々な筋肉へ負荷がかかるようにいくつかのパターンを行っていく。

 高円寺くんが考案したトレーニングはトレーナーの才能を持つ僕から見ても、良いメニューだった。

 宣言通り、彼は既に確固としたトレーニング方法を持っている。

 そして休憩を挟んだ後、この流れを3セットして、最後に疲労軽減と怪我防止のためにストレッチを行えば、朝のトレーニングは終了する。

 

「今日も私は素晴らしい。100点満点の調子だねぇ」

 

 心地よい風に当たりながら、体育館の外にある蛇口付近で水を補給する僕達。

 水で汗を飛ばし、タオルで体を拭く。

 寮に戻って制汗シートで匂いを防止すれば、問題なく特別試験に挑めます。

 

「やはり、君は私のトレーニングに余裕を持ってついてくるねぇ〜。

 どうだいカムクラボーイ、卒業したら私の専用執事として働いてみないかね?」

 

「主人より能力の高い執事があなたには欲しいと? あなたのプライドはそれを許せるのですか?」

 

 僕の問いに高円寺くんは不敵な笑みを浮かべた。

 

「許せないねぇ〜。しかしカムクラボーイ、執事とは主人を最も近くで支える存在。

 その能力は高ければ高いほどこの私を手助けでき、その手助けによって私はより確実に完璧な存在へと到れる。高い事に越したことはないのさ」

 

「その点は同意します。しかし、高すぎる能力には依存する。

 あなたでもいずれは僕の才能に頼り、最終的には立場が逆転しますよ?」

 

「ハハハ、問題ナッシングだねぇ〜。確かに、君の才能は私以上かもしれない。現在の能力も君の方が上だと認めようじゃないか。

 だがカムクラボーイ、私は今も尚成長し続けている。才能に胡座をかき、成長が途絶えてしまった君に私が追いつかないと本当に思っているのかい?」

 

「追いつけませんよ。それが超高校級の希望、カムクライズルです」

 

 高円寺くんの才能は目を見張るものがある。

 特に、運動能力の才能に関してはおそらく綾小路くんの比ではない。

 才能を極めていけば、いずれは超高校級の武道家クラスの戦闘能力を有することも夢ではない。

 だが、たとえそうであっても僕には届かない。

 それが、才能の差だ。

 

「超高校級の希望、大層な響きだねぇ〜。まるで……」

 

 その続きを言おうとしたが、高円寺くんは途端に顎に手を当てた。

 何かを思い出そうと思考を巡らしている。

 

「どうしましたか?」

 

「……いや、何でもない。ただ、そのフレーズをどこかで聞いたような、いや……、ハハハ、私としたことがど忘れしてしまった! これは失礼した!」

 

 豪快な高笑いが自然溢れるこの空間に木霊する。

 高円寺くんらしくない珍しいミス、凡人のようなそのミス。

 違和感。

 少しの違和感が、僕の脳に引っかかる。

 しかし、

 

「……そろそろ戻りましょう。集合時間まで残り15分程です」

 

 朝の点呼の時間が迫ってきている。

 初日から遅刻して減点を食らう訳には行かないので、すぐに戻る必要があります。

 

「おっと、そうだったねぇ。では早速行こうじゃないか」

 

 高円寺くんは僕の動きを見ずに独りで早歩きで寮の方へ戻っていく。

 自由人であることに変わりなく、先程感じた違和感が失せていった。

 

「気のせい、であってほしいですね」

 

 つい、人間らしいため息が出てしまう。

 今は特別試験の最中、集中しましょう。

 僕は頭に浮かんだ可能性を排除して、彼に置いていかれないように後を続いた。

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

 部屋に戻れば、室内に軽快なBGMが鳴り響いた。

 室内に備えられたスピーカーから流れてくるもので、起床を知らせる合図であることは考えるまでもなかった。

 

「……っせぇなぁ」

 

 そんな石崎くんのボヤキが朝の第一声。

 ぞろぞろと眠っていた生徒たちの上半身が起き上がり、そこら中から呻き声や欠伸が続く。

 

「皆さん、おはようございます。10分後に指定教室で点呼があるので、すぐに用意してください」

 

 二度手を叩き、寝ぼけている彼らを起こすために声を通す。

 僕がそう言えば、龍園くん以外はキビキビと行動を起こした。

 林間学校の朝、これといった不満が爆発することなく過ごせている。

 部屋内のストレスが溜まることは争いの原因、ひいては特別試験に支障が出る可能性がある。

 出来る限り、メンタル管理する必要がありますね。

 

「後はあなただけですよ、龍園くん」

 

 皆が手早く準備を終えて指定教室に向かう中、ただ一人残っている龍園くん。

 僕は責任者として部屋の鍵閉めがあるため、最後まで待っていた。

 欠伸を殺しながらこちらを睨むジャージ姿の龍園くんには怖さがなく、目やにを取ろうと目を擦る仕草はギャップ萌えという奴だろう。

 

「……何見てんだ、死ね」

 

 龍園くんは一人で指定教室に向かっていくので、僕もすぐに鍵をかけて彼に追いつく。

 反抗期の少年のような態度はいつも通りだが、見る人によれば可愛らしく映るのだろう。

 僕は全く思えませんが。

 

「今回の試験、あなたならどうしていましたか?」

 

「さぁな。だが、お前と同じように12人グループは作っていた。

 まぁ、お前と俺のやり方は毛色が違いすぎるがな」

 

 集団を率いていく形は先頭に立つものによって大きく変わる。

 そして当然、僕と龍園くんではタイプが違う。

 僕はどちらかと言えば正統派、他のクラスで言うのならば一之瀬さんや葛城くん、平田くん辺りのやり方だ。

 一方で、龍園くんや坂柳さん、おまけに綾小路くんは技巧派と呼びましょうか。

 集団能力を最大限に生かして戦うよりも、自らの策を信じて暗躍、想定外の方法で相手を打倒することを得意とするリーダーたちだ。

 

「あなたの場合、Aクラスを徹底的に潰す策でも実行していたのでは?」

 

「だろうな。坂柳が離れている今こそAクラスを潰すチャンスだ。

 葛城がリーダーやっているならまだしも、的場ごときじゃ相手にもならねぇ」

 

 首や肩の骨を鳴らして体の調子を整える龍園くん。

 屋上の大敗によってリーダーこそ引いたが、その本質は何も変わっていない。

 いつでも特別試験の想定はしっかりしている。

 

「契約は上手く済んだのか?」

 

「はい。問題なく」

 

 僕は坂柳さんとの契約内容を彼に告げた。

 

「俺なら3万残せたな」

 

「2万ポイント以上の徴収を残せた結果に喜んでください」

 

 秘密の話し合いが終われば、切りよく指定教室に到着する。

 教室にいる人数は約40人、13~15×3の小グループで大グループを構成しているのだからこんなものだろう。

 1クラス分の人数には、上級生も交じっていてお互いに朝の挨拶を済ませていく。

 

「カムクラ、少しいいか」

 

 部屋に到着した僕に、堀北学が声を掛けてくる。

 

「南雲雅の件ですね。僕にできることなら協力しますよ」

 

 用件を聞かずに僕は好意的に返した。

 彼がこの試験中に僕に話しかける理由なんてわかりきっているからだ。

 

「話が早くて助かる。まず、あの時の事を確認したい」

 

 あの時とは、バス乗車後の短い時間で接触したことだ。

 

「再度聞こう、あの質問の意図は何だ?」

 

 生徒会が特別試験のルールに介入できるか、堀北学はその質問をした理由を問い詰めてくる。

 

「当然、今回の試験に生徒会が関与しているように感じたので質問しました」

 

「道連れのルールの事だな」

 

 ゆっくりと告げる堀北学。

 どうやら違和感を持っていたらしい。

 

「ええ、あのルールだけ身勝手なルールのように感じましたから」

 

「そうか。俺も似たような違和感を覚えていた。お前と同じなら、一定の信憑性は持っても良いな」

 

 こちらを信用している堀北学。

 ならば、僕も親切な対応をしてあげましょう。

 

「現状、南雲雅との勝負は信用しているのですか?」

 

「ああ。南雲は約束を守るという点では信用している。勝負以外のことで南雲が俺に仕掛けてはこないな」

 

「なぜ、そう断言できるのですか?」

 

 堀北学らしくない根拠のない発言に僕は疑問が浮かぶ。

 

「確かに、南雲は手段を選ばずに戦う男だ。龍園と似た手口だってかつて行っている。

 だが、奴は一度口にしたことを破ったことは今まで一度もない」

 

「だから、今回の件も約束を反故にしないと?」

 

 堀北学は強く頷いた。

 僕が知らないだけで2年近くともに生徒会を運営してきたからこそ、見えている部分があるようだ。

 大きな信頼。失うには相当大きな代償と見える。

 

「クク、何をクソ甘いことを言ってやがる元生徒会長さんよぉ。

 信頼なんてものははなっから必要ねぇ、俺と似た手段を取るような奴ならばより一層警戒しろよ」

 

 自分の名前が出てからか、龍園くんは話し合いに口を突っ込んでくる。

 

「奴は生徒会長。積み上げた信頼は大きく、そしてそれを手放すにはあまりに愚策だ。

 仮に今回、どうしても俺に黒星を付けたいがために手段を選ばない方法を取れば、奴への信頼は崩れる。大局を見れば、マイナスでしかない」

 

 全学年の男子生徒の前で、あんなにも堂々と勝負の約束をした。

 それも、汚い手を使わないと保証までして。

 にもかかわらず、約束を反故にするような手段を取ってくれば、確かに損得は損の方が大きい。

 

「まぁ、まだ試験は始まったばかりだ。あいつがどんな手段を取るか、予想立てるのはもう少し分析を終えてからにしよう」

 

 教室に教師、1年Aクラス担当の真島先生が入ってきたために、堀北学は話を中断する。

 まだ試験は始まって間もない。

 それは普通ならば正しい判断だっただろう。

 

「堀北学、今日の夜にもう一度話をしましょう」

 

「ああ、夜に三年の部屋で良いか?」

 

「はい、その方が都合が良さそうです」

 

 僕の誘いに彼は二つ返事で答えた。

 教師による指示で学年ごとに分かれなくてはならないため、僕と龍園くんは堀北学から離れていく。 

 

「1年Aクラスの真島だ。これより点呼を済ませた後、外に出て指定された区画の清掃を行う。

 その後、校舎の清掃となっている。これは毎朝の日課だ。雨が降った場合には、外での掃除が免除されるがその分校舎の清掃が長くなるため清掃時間が短くなることはない。

 それから今日からの授業には学校の教師だけでなく、様々な課題を担当してくださる方も来ている。しっかりと丁寧な接し方を心がけるように」

 

 そんな短い説明を受け、僕たちのグループは清掃へと向かった。

 

 

 

 ────────

 

 

 

 指定した区画まで行けば、清掃道具は用意されていて、担当の教師の指示に従って早速清掃を開始する。

 

「これから毎朝掃除……、気が狂っちまいそうです」

 

「あなたの性格上、慈善活動と考えるのは難しそうですね。しかし、この特別試験期間くらいはサボらず真面目に取り組みなさい」

 

「……サボらないっすよ。折角カムクラさんが真剣に特別試験に取り組んでくれているんですから、俺も足を引っ張らないように努力します」

 

 嘆きながらも手を動かす石崎くん。

 やる気こそあれど、眠気で集中しては取り組めないだろう。

 他の生徒達も石崎くんと似た表情をしながら手を動かしている。

 指定部分を清掃するノルマがあるために、サボる気はなさそうだ。

 2人の例外を除いて。

 

「ていうか、良いんすかカムクラさん。高円寺の野郎、平然とサボっていますけど」

 

 1人目はもちろん、高円寺くん。

 説明初日であるためこの場にはいるが、箒片手に周囲を徘徊しているだけ。

 担当の教師に目を付けられながらも、平然とサボっている。

 

「構いません。そういう約束なので」

 

「約束って……、あの快適に過ごさせるとかいうやつですか?」

 

「ええ。彼が力を貸してくれれば勝利はより確実なものになります。

 そのためなら清掃程度のツマラナイ雑事、いくらでもやりましょう」

 

 僕は清掃員の才能も持っているので、100人分のノルマを出されても簡単に終えられる。

 たかが倍なら増えた内には入らない。

 僕は石崎くんと離れ、テキパキと掃除を済ませた。

 

「すみません、少しよろしいですか?」

 

 ノルマを終わらせれば、僕は担当の教師に話しかける。

 

「今、僕のグループにはサボっている人が2人いました。先生はその2人が分かりましたか?」

 

「1人は金髪の彼だな。だが、もう1人は分からない」

 

「なるほど。正解は、あそこにいる不良っぽい生徒です。彼はあなたの目を盗んで、掃除をしている振りをしていました」

 

 僕は龍園くんを指差す。

 堂々とサボる高円寺くんを隠れ蓑として彼は上手くサボっていたが、僕の目は誤魔化せない。

 

「……そうか。だが、何故それを報告する」

 

 僕は悩むふりをしてから、立てた人差し指を唇に当てる。

 そして幼さ残る笑みを前面に出す。

 

「先生、今僕は彼の悪事について報告しました。しかし、これといった証拠はありません。これで、今回の試験における評価は変わりますか?」

 

「サボったことを担当である私が目にしていない以上難しいな。そして証拠がないならば、評価が下がることも難しい。ただ、その報告がたとえ嘘でも彼に目を光らせることにはなるが」

 

「では、明確な証拠を得るために、僕と一緒に彼の証拠を隠れて観察することは出来ますか?」

 

「時と場合による。それが虐めのような悪事の証拠を押さえるためならば、学校側も証拠を集めなくてはならないから協力するだろう」

 

「なるほど、参考になりました。ありがとうございます」

 

 最後に、笑みを戻して担当の教師にお礼を言った。

 担当教師は表情の変化に困惑したが、すぐにこの場を離れていく。

 僕もクラスの元に戻り、移動を開始する。

 案内を終えると、今度は畳が敷き詰められた道場のような場所に到着した。

 いくつか掛け軸が飾ってあるだけで物は少なく、い草の香りが道場に広がることも相まって、どことなく落ち着く雰囲気があった。

 

「今日からここで朝と夕方に座禅を行ってもらう」

 

 課題を担当する強面の教師が座るように指示した後、そう告げる。

 服装こそ普通のジャージだが、仕草や足運びが武道の心得えがあることが分かる。

 学校の教師ではないとはいえ、しっかりとした専門の方が来ているようだ。

 

「まずは君たちにこの道場に於けるルールやマナーを覚えてもらう。

 そしてその後、座禅の組み方を学んでいく予定だ」

 

 そんな入りから、担当の教師が一通りの説明を行っていく。

 僕はその話を聞きながら、グループの様子を確認する。

 朝が早いために、石崎くんと小宮くんはまだ寝ぼけた様子。

 だが、それ以外は眠かろうと興味なかろうと話を聞いている。

 説明が終わる頃、アルベルトが思い悩んだ表情を浮かべていたが、おそらくあまりこの手の文化は慣れていないのだろう。

 後でもう一度説明してあげましょう。それ以外は特に問題なさそうだ。

 

「では、早速座禅を組もうか。まずは胡坐を組み、それぞれの足を太ももに置いてもらう。

 試験ではこの結跏趺坐も結果に影響するので出来るようになっておくこと」

 

 担当の教師は胡坐の組み方を見本として実演する。

 そこから指示を飛ばした後、生徒たち一人一人の状況を歩きながら確認していく。

 

「最初から出来ない場合には、片足だけで組む半跏趺坐もある。そこから練習していきなさい」

 

 見える範囲だと出来る者半分、もう半分は苦戦している。

 特に、身体の固い人たちが軒並み苦戦しているようですね。

 高円寺くんや龍園くんは出来ていますが、石崎くんやアルベルトは苦戦気味だ。

 

「心頭滅却、無我の境地。知識としては理解していますが、実践してみましょうか」

 

 周囲の確認も済んだので、僕は残り時間を集中して座禅に取り組む。

 自分だけの世界に入り、静寂を楽しむことは悪くない感じです。

 その後、5分間の座禅が指示され、初回の座禅が始まった。

 

 

 ──────

 

 

 

「真鍋さん、大丈夫?」

 

 座禅が終わり、足が痺れていたせいでフラフラと情けなく倒れてしまった私に一之瀬さんが手を差し伸べる。

 

「……ありがとう」

 

「どういたしまして!」

 

 手を取って立ち上がれば、明るい笑顔が向けられる。

 一之瀬帆波、その容姿と性格から学年の垣根を越えて人気な女子生徒。

 Cクラスで明るい人間ですら霞むほどの優しい雰囲気、一つ一つの行動に善性が感じ取れる。

 

「あんた、そうやって誰にでも手を差し出すの?」

 

「ん〜、誰にでもは差し出さないよ。私はそこまでお人好しじゃないからね」

 

「……そっ」

 

 笑顔で言う一之瀬さん。

 嘘を言っているように聞こえない。そう信じたくなってしまう。

 それがこの女のカリスマというやつなのだろう。

 

「改めて真鍋さん、責任者になってくれてありがとう! 私も全力でカバーするから頑張って1位目指そう」

 

「……別にお礼なんていらない。私だって指示でやっている。それに、やるからには1位を目指すわよ」

 

 責任者。

 全くやる気のなかった役割だったが、バスの時間、夕食の時間で指示を受けたことで私はこの役割を全うすることを決めていた。

 指示はカムクラくんからで、その内容は2つ。

 1つは3年Aクラスのとある女子生徒がいるグループに私たちのグループが入ること。

 もう1つは今回の試験で6位にならないように努力すること。上級生の動きを把握しながら報告、場合によっては意見を言ったりしても良いとされている。

 要は以前出された課題の延長らしく、自分の出来ることを精一杯やってみろとのお達しだ。

 何故この3年生のグループに入るかは全く教えてくれなかったが、あの人なら何か考えがあるのだろう。

 

「指示? 龍園くんから?」

 

「違う、カムクラくんよ」

 

「カムクラくんがかぁ。……じゃあ、今はカムクラくんがCクラスのリーダーってこと?」

 

「そう。今回の試験、一時的にリーダーとなるって言ってたし」

 

「……へぇ~」

 

 少し真面目な顔で相槌を打つ一之瀬さん。

 龍園くんがCクラスのリーダーでないことに違和感を覚えているようだ。

 終業式の日を境に冬休みに入ってしまったが、すぐに龍園くんがクラスのリーダーから身を引いたという噂を知れた。

 そして、それは学校中に広まっている噂になっていた。

 Bクラスのリーダーである一之瀬さんからは是非とも真偽を確かめたい情報でしょ。

 

「何で龍園くんがリーダーを辞めちゃったか、Cクラスの人たちは知っているの?」

 

「さぁね。私も噂でしか聞いてないから分からない」

 

「龍園くんが終業式の日に石崎くんと山田くん、そしてカムクラくんを呼び出したっていう噂だよね? 

 そこで罰を与えようとした龍園くんだったんだけど、カムクラくんに返り討ちにされた……合ってる?」

 

「うん、全く一緒」

 

 噂は一致する。

 少しの違和感はあれど、カムクラくんならば龍園くんを返り討ちに出来そうだし、あながち嘘ではないのかもしれない。

 しかし、真相は不明。

 カムクラくんや伊吹さん、石崎辺りは真実を知っているかもしれないが、触らぬ神に祟りなし。

 これ以上余計なことに頭を突っ込む度胸はない。

 

「返り討ちにあったから龍園くんはリーダーの座を降りて、その代理をカムクラくんが務めている。

 確かに筋は通っているけど……、本当なのかね~。龍園くんとカムクラくんは仲良さそうだし、この噂は嘘って可能性もありそうなんだよね」

 

「残念だけど、Cクラスの生徒たちでも真相は知らないわよ。

 それにカムクラくんは一時的にリーダーになっただけで、このまま続けるつもりはないそうよ」

 

 私は包み隠さずに教える。

 バス内で言っていたことなのでいずれ広がる情報であること、そして正直に情報を渡すことは一之瀬さんとの好感度UPに繋がる。

 カムクラくんの言っていた己の行動を見直すこと。

 別に、良い子ちゃんになる気はない。というか、なれるわけがない。

 今日のグループ決めはカムクラくんからの課題があったから我慢しただけ。

 ストレスは解消できず、またどこかで発散しなくてはならない。

 私は、そう考えてしまう。

 

「そっか。何だかありがたいような、もったいないような感覚だね」

 

 冗談めいて笑う一之瀬さん。

 カムクラくんがリーダーをしないことでBクラスの人間として脅威が下がるために嬉しく思っているが、彼女自身の性格として才能があるのに表舞台に出ないことをやるせなく思っている。

 

「まぁ、それは私たちも同意見だよ」

 

「あはは~、やっぱり、クラスでもそんな感じなんだねカムクラくん」

 

 クラスは違えど、一ノ瀬さんの認識も私たちCクラスの生徒と似通っているようだ。

 

「カムクラくんに全部任せてしまえば楽だけど、それすると多分……」

 

「『つまらない、あなたは言われなければ何も出来ないのですか?』、みたいな?」

 

 真顔と起伏の少ない声を精一杯出して真似をする一ノ瀬さん。

 意外にも似ているから、私は可笑しくて楽しい気分になる。

 

「あははっ、そう、そんな感じ」

 

 カムクラくんにそれを言われると背筋が凍るような怖さがあるが、こうやって真似する分にはなんだか面白い。

 加えて、カムクラくんと真逆のタイプの一ノ瀬さんが真似をして似ているからよりいっそう面白く感じる。

 

「全員揃ったようだな」

 

 楽しい雑談というのは時間経過が早く、いつの間にか次の目的地に到着していた。

 昨日の夕食に利用した大食堂ではなく外。

 どうやらここで朝食についての説明をするようだ。

 担当の女性の教師が人数を確認すれば、早速説明を行う。

 

「今日のところは学校側が提供するが、明日から晴れの場合、朝食は全てグループ内で作ってもらう。人数や分担方法は全体で話し合って決めるように」

 

 明日以降の調理方法や食器の位置、献立、献立の作り方が書かれた資料の配布と順調に進んでいく。

 何を作ればいいか分からない、そんな状況にはならないらしい。

 全ての説明が終われば、学校側から今日の朝食が提供される。

 

「……なんか、質素」

 

 用意された朝食は一汁三菜を基本としたシンプルな食事。

 量が足りないという訳ではないが、普段から好き勝手な食事をしている人からすれば物足りなく感じるでしょう。

 かくいう私も自分で食事を用意するわけではないので、朝食作りに不安は隠せない。

 

「一之瀬さん、特別試験中に朝食は6回あるから各学年ごとに一回ずつでいい?」

 

 大グループのリーダーである三年生の先輩が一之瀬さんに告げる。

 一之瀬さんは1年生の皆を見た後、誰にも反対意見がないと判断したため、すぐに肯定した。

 朝食を作るために、ただでさえ早い朝をさらに早く起きなきゃいけない。

 非常に辛いが、私は責任者。

 弱音は吐きたくない。

 

 朝食を終えた後、私たちは午前の授業に臨んだ。

 

 




実は今のドラゴンボーイとカムさんは似たような髪型してる。
でもカムさんの方が毛量多くて、フワフワした髪してるイメージ。

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