ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

109 / 116
南雲の策

 

 

 特別試験二日目は順調に進んでいた。

 現在は夕食の時間。

 全ての授業が終わり、この時間を終えれば、後は入浴するだけ。

 今日一日を通して、この試験期間中のスケジュールは把握した。

 朝は清掃、座禅、朝食と三拍子を終えた後、午前の授業が開始する。

 三学年合同の授業であり、普段の授業とは違い、道徳問題を中心としている。

 これは最終日の試験、『道徳』に関わる授業です。

 今回の特別試験は最終日のテストにおける大グループの平均点によって勝敗が決まる。

 その試験内容が『道徳』『精神鍛錬』『規律』『主体性』の4つ。

 座禅は『精神鍛錬』、清掃は『規律』と大雑把な予測だけしておくが試験はまだ始まったばかり、断定するには情報不足と言える。

 その後、午後からの授業は体育の授業、基礎体力作りが始まる。

 説明によれば持久走がメインで、最終日には駅伝も行う予定だと聞かされた。

 体力作りが終われば、最後に朝と同じ場所で座禅を行えば全ての授業が終了して、夕食の時間です。

 

「フフ、イズルくん。昨日の話の続きをしましょう」

 

「あなた、暇なのですか?」

 

 僕が食堂に到着するや否や、待っていたかのように入り口付近で坂柳さんと神室さんに遭遇する。

 夕食の時間は一時間。

 この時間に異性の状況を把握して指示を出すことが主な目的となるはずだが、なぜか彼女は雑談する気満々だ。

 

「とりあえず、食事をもらいに行きましょう」

 

 彼女はそう提案する。

 入口付近に滞在すれば通行の邪魔になるため、僕たちはそのまま配膳に向かった。

 

「先程の答えですが、それなりに暇ですよ。なぜなら今回の試験、男子は1位になる必要がない。普通に試験をすれば2位にはなれるでしょうし、対策はもう立てなくても良いのですよ」

 

「ならば、女子により力を入れればいいじゃないですか」

 

「それは当然やっていますよ。しかし、どうにも今回は運が味方してくれなかったのですよ」

 

「というと?」

 

「女子の大グループ決めは男子同様ドラフト制で決めたのですが、私のグループはじゃんけんで最下位。結果、あまり良い上級生に恵まれませんでした」

 

 坂柳さんはチラリと神室さんを見る。

 バツの悪そうな表情を浮かべる神室さんを見るに、どうやら彼女がじゃんけんをして負けてしまったようだ。

 

「運も実力の内、真澄さんに命運を託してしまった私も勝利の女神から見放されてしまったようです」

 

「……えっ? さっき私の運がわ────」

 

「────いいえ、私たちAクラス全員の運が悪かったです。そうですよね?」

 

 笑顔で圧力を振舞う坂柳さん。

 神室さんは引いた顔を見せながら致し方なく頷いた。

 彼らの主従関係を再確認し終えれば、僕たちは入口付近が見える席へと移動する。

 そのまま食事にありつきながら雑談を進めていく。

 

「イズルくんはじゃんけんでも1位になったとお伺いしています。運も良いのですね」

 

「幸運の才能くらい持っていますから」

 

「フフ、では今日の話題は運についてにしませんか?」

 

「構いませんが、この時間僕にもやることがあります。あなたとずっと話している訳にはいきません」

 

 僕がそう言えば彼女は残念そうに顔を顰める。

 その表情を見て構ってあげたいとか、救ってあげたいという気持ちにはならないが、普通の生徒なら彼女の整った顔もあって手を差し伸べてしまうだろう。

 

「ちなみに、今日は誰と何のお話する予定ですか?」

 

「クラスメイトからの報告と情報収集、そして()とちょっとしたお話を予定しています」

 

「……彼とですか?」

 

 ワナワナと声が振るえ、大きく目を輝かせる坂柳さん。

 予想通りの反応ですが、本当に面倒くさい。

 嘘をついて誤魔化すのもありだが、なまじ超分析力を持っているため嘘を看破できる可能性がある。

 そしてその後は彼女の性格も相まってより面倒なので、正直に言うのが最善の選択だった。

 

「そのお話、私も参加してよろしいですか?」

 

「彼は目立つことを嫌がると思うので、やめた方がいいでしょう」

 

「イズルくんと話す時点で目立つと思うので、私がいても誤差の範囲では?」

 

「あなたは自分の影響力を考えるべきです。あなたがいたら余計な視線と噂が増えます」

 

「それはイズルくんも同様です。あなたの行動はあなたが思う以上に注目を集めている。もっと影響力を考えるべきです」

 

 来るなと言ったのに何とかして参加しようとする坂柳さん。

 あの手この手と言い訳をしてついてきそうなのが本当に面倒くさい。

 

「神室さん、彼女を止めてください」

 

「……嫌よ、面倒くさい」

 

 神室さんの肯定によって、坂柳さんは心の中でガッツポーズをしていることが分かる満面の笑みを浮かべる。

 

「あなたがダメと言っても私は勝手についていきますよ。彼とあなたがどんな話をしているのか、興味が尽きませんから」

 

「……話が終わった後に彼に聞いてください」

 

「それは二度手間では?」

 

「良いんですよ、二度手間で。あなたがいるというだけで妙な勘繰りをされて彼を警戒させる方が面倒です。分かりましたか?」

 

「フフ、分かりました。あなたの強引な一面も見れたので、今回は仕方なく納得しましょう」

 

 まったく話を聞かない白い少女の相手に疲れた僕は強引に納得させる。

 彼女は僕の態度を揶揄うように笑い、とても楽しそうだ。

 

「ああそれと、やっぱり彼女は包囲陣にかかっていましたよ」

 

 その言葉の意味はすぐに理解した。

 その後、僕は彼女の元を離れ、情報収集を始めた。

 

 

 

 ───────

 

 

 

 

 坂柳さんと別れた後、まずは椎名さんと矢島さんからの定期報告を行う。

 

「そちらは順調そうですね」

 

「はい、上級生の指名も2番目に選べたので、このまま上位を狙えそうです」

 

 自信を持って告げる椎名さん

 話を聞く限り、主だったミスはないので、Cクラス12人グループは4位以下になることはなさそうです。

 これまでの情報より、能力の平均が一番高い上級生を選んだのは堀北さん率いるDクラスのグループ、逆に能力の低い上級生を選んだのが坂柳さんのグループ。

 Bクラスも悪くない上級生を選べたそうだが、一之瀬さんがいなくなったため首位に浮上する可能性はない。

 よって、女子グループは上位を狙えそうだ。

 

「真鍋さんのグループの様子はどうですか?」

 

「特に変わりなさそうだよ。真鍋さんのグループには一之瀬さんもいるし、Dクラスとの関係も良好だって」

 

 真鍋さんのグループは余りものの生徒で組んだグループだが、坂柳さんの話術のおかげで一之瀬さんがいる。

 これによって上位を狙うことは厳しいが、最下位になることはないだろう。

 もっとも、彼女の大グループに問題があるが。

 

「報告ありがとうございます。それと、この後木下さんを僕の元に呼んでください」

 

 木下 美野里。1年Cクラスのカースト上位の生徒で陸上部に所属している。

 意外にも性格が良い矢島さんと仲が良いが、彼女は割と腹黒だ。

 龍園くんに怯えながらも、彼の非道な性格に積極的な協力体制を見せたり、ポイントのために自分を犠牲にすることを厭わないなどとそれなりに裏で動ける人間だ。

 

「美野里を? ええ~、カムクラくん、いろんな女の子を引っ掛けすぎじゃない?」

 

 矢島さんは意地の悪い笑顔でそう言う。

 

「あなたは存外優しい性格のため、心を鬼にさせてまで命令をこなさせるのは忍びないと思ったんですよ」

 

「えっ……あ、ありがとう?」

 

「チョロすぎませんか、あなた」

 

 照れる矢島さん。男慣れしているような言動だが、褒めに弱いらしい。

 

「木下さんにどんな命令をするのですか?」

 

「試験本番前日、ちょっとした暗躍に付き合ってもらうだけです」

 

 僕がそう言えば、椎名さんは目を細める。

 矢島さんも友人である木下さんに非道なことをするつもりかと勘繰っていた。

 

「安心してください。危険な事はさせませんよ」

 

「……本当に?」

 

「ええ、約束しましょう」

 

「そっか。なら、せっせと酷使してあげてください!」

 

 矢島さんは納得したようで笑顔を見せた。

 全ての確認を終えた僕は彼女たちに背を向け、トレイを持って移動する。

 目的の人物である綾小路くんは既に発見している。

 彼は人気の少ない端の席から、他の生徒がどんな行動をしているかを把握できる場所にいた。

 今回の特別試験も本気で参加する姿勢は見えないが、ある程度の準備だけはしているようだ。

 そして今、彼はトレイを返却しに席を立った。僕はここで彼に接触する。

 1日目同様、僕には多くの監視の目があるため不用意な接触は彼に迷惑をかけかねない。

 だから自然に、偶然出会ったことを装う必要があった。

 

「こんにちは、綾小路くん」

 

 返却口に行く途中で僕は彼の横に付き、歩幅を合わせる。

 特に驚いていない様子から見ても、こちらの接近には気付いていたようだ。

 やはり、周囲の観察は怠っていない。

 

「I have a favor to ask you*1

 

「What do you want?*2

 

 僕が周囲の誰も聞こえない囁くような小さな声で英会話を行えば、彼はこちらを見向きもせず、普通に雑談をするように英語で返答する。

 僕の事情に気付き、拒絶もしない。話が早くて助かります。

 たとえ一瞬の会話でも聞かれると面倒だ。なので素早く簡潔に英語で内容を話していく。

 

 

「────南雲雅についてです」

 

 

 早速本題を切り出し、そのまま内容に進んでいく。

 

「幸運にも、あなたは南雲雅と大グループを組むことになりました。

 だから、あなたには彼の行動について僕に報告してほしいんです」

 

 僕の頼みとは、南雲雅の監視です。

 同じ大グループである彼ならば接触する機会があるために、彼の不自然な行動を僕より早く察知できる。

 綾小路くんのグループにはCクラスの生徒もいるが、より正確な情報が欲しいこともあって僕は彼にお願いしたわけだ。

 

「その頼みを受けてもいいが、まず、お前が南雲を調べたい理由を教えてくれ」

 

 当然の疑問なので、僕は正直に答える。

 

「僕は前々から堀北学に南雲雅を止めるようにお願いされています。今回はそのお願いを果たすためにその手段をいくつか用意している状況です」

 

「なるほどな」

 

「嘘だと思わないのですか?」

 

「ああ、オレも堀北兄からはその話を度々持ちかけられていたからな」

 

 流石は堀北学と褒めるべきでしょうか。

 目立つことを嫌う綾小路くんの存在を見つけ、その実力に気付いていた。

 

「屋上の件に彼があなたに協力していたのは、このことが関係していますか?」

 

「ああ、だから今回の試験、俺も一応は準備をしていた」

 

 これで、綾小路くんが周囲の状況把握をしていた理由にも説明がつく。

 どうやら、今回は味方と判断して良さそうだ。

 

「ならば、僕の頼みは受けてくれますね?」

 

「ああ、お前を通じて堀北兄に情報を送る。この形ならば堀北学も納得するだろう。

 それと、協力の対価として今後はオレから距離を取ってくれないか?」

 

「それはそれ、これはこれですよ。そんな対価は認めません。

 けれども、ちゃんと対価は用意していますよ。後で坂柳有栖という美少女との会話ができる。それが僕からの対価です」

 

「おい待て、なんだその対価」

 

 ダメ元で僕から逃げようとする綾小路くんだったが、手痛いしっぺ返しに一瞬だけこちらを見た。

 

「この話をする前に坂柳さんに絡まれましてね。彼女は僕とあなたの話に参加させろと煩かったので、後であなたに話を聞くように手配しました」

 

「勘弁してくれ」

 

 やれやれと肩をすくめる綾小路くん。

 トレイ返却口に到着したので、僕たちはゆっくりとトレイを返却していく。

 その際、彼は今日の報告を口にした。

 

「今回の試験では生徒会が試験に関与しているかどうかで雲行きがだいぶ変わってくるとオレは思っている。

 それと、昨日の状況から南雲は三年Bクラスの石倉という生徒と繋がっている可能性がある」

 

「根拠は?」

 

 僕は彼から昨日の出来事を聞く。上級生を踏まえてトランプをしたこと。

 その際に起きたことを簡潔かつ丁寧にまとめられた言葉を記憶していく。

 報告が終われば、代わりに僕は生徒会関与の事を綾小路くんに告げた。

 

「良い情報ありがとうございます。それでは、僕はここで失礼します。

 何かあれば、すぐに教えてください」

 

 僕は礼の後、彼の元を早歩きで去っていく。

 夕食の時間は有限。

 僕はその後、さらなる情報収集へ向かった。

 

 

 

 ──────

 

 

 

 2日目の夜、僕は素早く風呂を上がり、3年生の寮へ向かっていた。

 今日の予定に龍園くんを誘ってみたが、彼はパス。

 彼曰く、卒業する3年と交流を図っても大した価値はないと。

 彼らしい答えでした。

 

「共同部屋の形は同じようですね」

 

 三年の寮に到着した僕は扉を軽くノックする。

 すぐに扉を開けば、堀北学が僕を出迎える。

 

「来たか。とりあえず入ってくれ」

 

 堀北学は周囲を警戒してそう言う。僕は彼の後ろを続き、すぐに部屋に入った。

 内装は一年と変わらないが、合計人数の関係上、一年生の使用しているものより部屋が狭い。

 視線が自分に集中する中、僕はそんな感想を思いつく。

 

「好きにくつろいでくれ」

 

 堀北学は小さな丸テーブルが用意された場所に腰を下ろす。

 対面になるように続けば、3年生の1人が僕に声を掛けてくる。

 

「1年Cクラスのカムクライズルだな? 俺は……」

 

「3年Aクラスの藤巻先輩でしたね」

 

 僕が名前を確認すれば、彼は少しだけ眉を動かす。

 

「大グループ決めの時に、南雲雅があなたを煽っていたことを覚えていたんですよ」

 

「……そうか。なら、自己紹介は必要ないな。早速、本題に移らせてもらおう」

 

 藤巻先輩は堀北学の横に腰を下ろし、会話に参加する。

 見た所、堀北学とは友人のようだ。

 孤高の人というイメージがある堀北学の横にいて全く違和感がないあたり、彼も相応の実力者なのでしょう。

 

「堀北から南雲に対抗出来る1年の内、最有力候補がお前と聞いている。

 今回の試験も協力的な姿勢らしいが、まずその辺りの確認からしたい。お前は、本当に南雲と対立するんだな?」

 

「ええ、そういう約束ですから」

 

 僕が味方であることは伝わったようだが、如何せん彼は警戒を続けている。

 

「実力的には問題ない生徒だ。約束も反故にはしない信用もある。事実、カムクラはこの試験で随分動いてくれている。それに、プライベートポイントも渡しているからな」

 

「お前がそこまで言うなら俺も信用できそうだな。でも、俺も実際に話して見て確認したいんだ」

 

 堀北学との信頼関係が深いことが分かるやりとり。それでいて彼の話を鵜呑みにしない。

 自分の目で見て信用におけるかを判断する点から見ても、彼の信奉者でもない。

 

「カムクラ、この試験で南雲がどう動くか。現状のお前の報告を聞きたい」

 

 本題に進んだ事で空気がより引き締まる。

 雑談やトランプで遊んでいた他の先輩たちもこちらの話に聞き耳を立てているくらいには、重要な話が始まろうとしていた。

 

「藤巻先輩、『責任者』が『退学』になった場合、グループ内の1人に連帯責任として『退学』を命じることが出来るというルール、これは当然覚えていますね?」

 

「ああ、覚えている」

 

「僕はこのルールのペナルティこそ、『南雲雅の介入』があったと考えています」

 

 藤巻先輩は大いに驚く。

 このルールはこの学校が特殊だから敷かれたルールにしても、簡単に成立するものではない。

 たとえ、学校側からのボーダーを下回った原因の一因だと学校側から認めた生徒しか対象に過ぎないとしても、『責任者』のあり方に疑問を抱かずにはいられなかった。

 

「このルールを利用して自分の手駒を集合させたグループを作れば、対象の人物を退学させることなんて容易です。

 もっとも、これは違和感から導いた考えなので信憑性なんてありませんが」

 

 南雲雅は正々堂々な勝負の約束をしたが、このルールを利用するつもりならば、彼は勝ち負けなんてどうでもいいのだろう。

 むしろ、この勝負がブラフになればいいと考える。

 この策を隠すために周囲にたくさんの偽情報を張り巡らせるに違いない。

 

「……しかし、その考えは部外者を巻き込んでいる。南雲はこれまで約束は守ってきた。

 今回も大多数の前で約束をしたことから、破れば信頼を大きく落とす。その信頼を一度きりで捨てるとは思えない」

 

「それだけの覚悟と悪意が彼の中にはあったのでしょう。 

 あなたに黒星を付けたいがために、全てを賭けてくる可能性もあります」

 

 堀北学は顎に手を当て考え直す。

 

「……仮にお前の言う通りならば、奴は誰を狙う?」

 

「わざわざルールに介入してまで作った大掛かりな罠ですから、効果的に使いたいと彼は考えるでしょう。

 となれば、対象はあなたに関わりがあり、かつ親しい生徒に限られます」

 

「……おい、それはまさか」

 

 暗い表情の堀北学を見て藤巻先輩は何かを悟る。

 関わりがあり、かつ親しい生徒。

 そんな候補を探していけば、いずれは絞られていく。

 

「……狙いは橘か」

 

「狙うならそうでしょうね。そして1つ情報を開示すると、橘さんの所属する大グループの2年生は南雲雅と親しい生徒たちで構成されているそうです」

 

 僕は暗躍して得た情報の1つを3年生に与える。

 堀北学はその情報にさらに表情を険しくした。

 

「ちなみに、橘さんの所属する3年生グループの構成は把握していますか?」

 

「……橘の所属するグループは3年BクラスとDクラスが中心に構成されたグループ、Aクラスからは唯一の参加者だったはずだ」

 

 既に状況を悟って口を開けない堀北学の代わりに、藤巻先輩がゆっくりと答える。

 怪しくなっていく雲行きに比例するように部屋の空気が重たくなる。

 

「それではさらに情報を開示しましょう。南雲雅と3年Bクラスの石倉という生徒が繋がっている可能性があるそうです」

 

「な、なんだと!? その情報源はどこだ!? どれくらいの信憑性がッ!?」

 

「落ち着け藤巻」

 

 立ち上がる藤巻先輩を堀北学が宥める。

 少し熱くなりやすい所が彼の欠点、だがこれは仲間を心配する情の厚さがあるとも言えた。

 

「信憑性はそれなりに高いかと。念の為に確認したいなら、彼の元に行って直接聞いてください」

 

 彼と暈して言うが、堀北学はすぐに綾小路くんのことだと気が付く。

 堀北学の事だ。藤巻先輩が所属するグループを記憶していて南雲雅と一緒だったことは既に把握していた。

 加えて、そこに彼がいることも把握していたと見ていい。

 

「そういうことか。今回の試験で南雲を近くから観察できる奴が言うなら確かに信憑性は高い」

 

「彼が嘘をついていると考えないのですか?」

 

「屋上の件で奴とある約束をしてな。その約束で奴はこちらに協力することを誓っている。

 奴が借りを返さない恩知らずでない限りは裏切ることもないだろう」

 

 屋上の件で彼を利用した対価として、生徒会関係の事を何か約束した。

 綾小路くんは自分の事しか考えない人間であるからこそ、余計な危険を避けるために約束は守るだろう。

 となれば、彼が逃げる可能性は限りなく0に近い。

 

「大丈夫なのか、堀北」

 

「ああ、信憑性はカムクラの言う通りかなり高い。情報源は俺が買っていた1年の1人だ」

 

「……分かった。信じるぞ」

 

 強い信頼関係が窺える。

 疑う事を放棄せず、疑った上で信じている。

 疑いを乗りきった信頼の強さ、それはこの上ない結託力がある事を僕は知っている。

 

「と、ここまで僕の手に入れた情報を並べましたが、これが全てブラフである可能性も否定できません」

 

「俺がこのことを気にかけて女子の方に介入すれば、万全な状態で勝負が出来なくなるということか。

 俺との直接対決を望む南雲らしくない戦法だが、これも考慮する必要があるな」

 

「ええ。もっとも、あなたは女子との不用意な接触も避けようと考えていたのでは? 

 この時期の3年Aクラスとなれば防衛に比重を置いた策になるでしょうから」

 

「そうだ。Aクラスで卒業するために、今回の試験は手堅い成績を残す。責任者にならなければ、誰1人退学にはならないからな」

 

「それでも絶対防衛にならないことを理解したあなたは正々堂々とした舞台を用意した。

 南雲雅が約束を守るという信頼を前提に、女子にリスクが向かないように不用意な接触を避ける。

 可能な限り、試験に則った戦いに運ぼうとしたあなたの策はまさに万策を尽くしていると評していい」

 

 今回の試験は1月、卒業間近の3年生からすれば残り数回の特別試験の内の一つ。

 Aクラスの地位を守るために、共に戦ってきたクラスメイトと卒業するために全力で迎え撃つ必要があった。

 だからこそ防衛の策を取り、リーダーである堀北学は南雲雅から仲間を守ろうとした。

 だが、南雲雅の悪意は止まらなかった。

 

「積み重なった信頼、それがあるから受け身の策でしか行動できない」

 

「詰めが甘いと思うか?」

 

「以前の僕ならそう断定していましたね。

 しかし、凡人の人間関係は複雑です。多くの時間をかけて構築した信頼は疑った上で信じ抜く決断をしてしまう。

 僕はあなたと南雲雅の今までを知らないので、それ相応の理由があって南雲雅を信頼に足ると判断した結果なら、文句を言うつもりはありません」

 

 堀北学は目を開いた後、薄く笑った。

 

「まさか……、お前からそんな言葉が出てくるとはな。入学当初とは、本当に変わったな」

 

「本質は変わっていませんよ。ただ、未知を見るために考え方を広げているに過ぎません」

 

 簡単に推測できる結末なので、ツマラナイことに変わりはない。

 しかしそれでも彼の判断を、その信頼を僕は尊重してみようと思う。

 かつて、日向創が僕の予想を超えた理由を肌で実感するために。

 

「それで、どうしますか。このまま南雲雅の好きにさせるつもりですか?」

 

「橘を狙う事がブラフである可能性もあれど、好きにさせるのは面白くないな。

 カムクラ、俺が動けば南雲は警戒するかもしれない。お前が橘に接触して現状を聞いてくれないか?」

 

 堀北学は冷静に僕へ依頼を出す。

 自分が動けない、かつ南雲に手の内を見せないように立ち回るなら、第三者の協力は欠かせない。

 事態を踏まえた上で、最良の選択です。

 

「分かりました。あなたは精一杯、平均点を上げられるように3年生、ひいては2年生の士気を上げてください」

 

「無茶を言う。南雲の息のかかった生徒もいるかもしれないのにか?」

 

「あなたなら出来る、僕はそう判断しています」

 

 超高校級の生徒会長に近しい才能があれば、グループの士気を纏めていくのも可能だろう。

 

「こちらも調査を進めます。進展があり次第すぐに報告しましょう」

 

「わかった。協力感謝する」

 

 穏やかな最後で、僕は3年生の共同部屋を去っていく。

 信頼関係というものを今日の話し合いで重要なものと再度確認できた。

 だからこそ、その信頼を裏切ってまで勝ちを拾おうとする南雲雅には

 

 ─────一度、全てを失ってもらいましょう。

 

 

 

*1
あなたに頼みたいことがあります

*2
何をして欲しい?




カムクラのことを堀北兄の次と思いながらも、それなりの監視をしている南雲くん。
でも、その監視は諜報員の才能で逃げられまくってる。
頑張れ!

登場人物と原作との相違点をまとめた投稿が必要かどうか

  • 必要
  • 必要ない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。