ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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纏まっていくクラス

 

 

 

 

 二日目の夕食を終え、共同部屋に戻ろうとした時だった。

 廊下でちょっとしたトラブルがあったのか、数人の男女が集まり、オレは何となしにその状況を観察する。

 

「悪い悪い。大丈夫か」

 

「ええ……、心配ありません」

 

 うちのクラスの山内が転んだ女子生徒、坂柳へ申し訳なさそうに手を差し伸べる。

 野次馬の原因は山内と坂柳の衝突だった。

 坂柳は山内の手を取らず、杖を使ってゆっくりと立ち上がる。

 杖を使わなければ自力で立てず、壁に背を預ける過程は坂柳の疾患が非常に重たいものであることが分かる。

 

「じゃあ、ええと、行くけど?」

 

 居心地悪そうに手を引っ込めた山内は一言残す。

 

「ええ。どうぞお気になさらずに」

 

 坂柳は少しの笑みを浮かべ、山内から視線を外した。

 周囲の人間も、騒動にならなかったことに安堵し散り散りになっていく。

 

「いやさ、坂柳ちゃんって可愛いけどさ、どんくさいよな」

 

 さほど距離も離れない内に、山内は友人と雑談を再開した。

 自分の不注意で衝突した、という可能性を微塵も考えていない。

 

「大丈夫か?」

 

 目が合ってしまったため、オレは坂柳に近付いて声を掛ける。

 

「わざわざご心配ありがとうございます、でも大したことはありませんよ」

 

「後で山内には少し言っておく」

 

「彼も意図的ではなかったようですし、たかが一度転ばされただけです」

 

 そう言って薄く笑う坂柳だが、目は全く笑っていなかった。

 坂柳はお辞儀をした後、この場を立ち去ろうとするが、何かを思い出したかのようにもう一度オレを見る。

 

「ひとつ、あなたに伝えなければいけないことがありました」

 

 笑みは控え、どこか真剣な表情でオレを見る坂柳。

 試験に関係することなのか、それとも。

 

「あなたは以前、イズルくんのことを……あの場所で見たことがないと言っていましたね?」

 

「ああ、一度もないな」

 

 坂柳はあの場所と暈して言うが、会話内容から察するにホワイトルームの事だ。

 会話が聞こえる距離に人はいないが、配慮してくれている。

 どうやら、今現在ではオレの過去を暴露する予定はないらしい。

 

「……では、この情報はあなたの役に立つでしょう。

 覚えておいてください。イズルくんは、あの場所の名前を知っています。

 そしてそれは────あなたのお父様から聞いたようです」

 

「何だと? どういうことだ」

 

 思いがけない情報にオレは即座に言及する。

 カムクライズルがホワイトルームを認知している、それもオレの父親から聞いただと。

 事の次第では、最悪のケースまで考えなくてはならない。

 

「事の発端は、屋上の件を詳しく聞くために彼と雑談していた時でした。

 その時に彼はあなたの能力の事を不可解に思い、私にあの場所の名を聞いてきたことが始まりです」

 

「カムクラはあの場所の名こそ知っていても、具体的に何をしている場所かは知らなかったと?」

 

「はい。正確には、この学校で出会った訪問者があの場所の名を告げていたと言っていました」

 

 坂柳の言い分はカムクラがこの学校を訪れたオレの父親と偶然出会い、ホワイトルームの名を聞いたことになる。

 そんな偶然、信じる方が難しいが、坂柳の真剣な表情は嘘をついているように見えない。

 

「娘の立場を利用してお父様に訪問者の事を聞いたのですが、何も教えてくれませんでした。

 けれど、私には彼が嘘をついているように見えませんでした。綾小路くん、あなたのお父様は以前この学校を訪れているのですか?」

 

「……訪れている」

 

 答えるか迷ったが、オレは正直に答える。

 オレでは知り得なかったこの情報を渡す坂柳は現状こちらの味方と判断したからだ。

 

「なるほど、ではイズルくんの言ったことに嘘はなさそうですね」

 

 坂柳はほっと胸を撫で下ろす。

 辻褄が合ったことでカムクラの情報に信憑性が出る、その事でホワイトルームの関係者から奴を外せたからだろう。

 

「しかし、お気を付けください。現状、私は彼を味方と判断していますが、知っての通り彼は天才です。

 この学校に来てからずっと演技を続け、あなたを狙う刺客である可能性も完全否定はできません」

 

「そうだな、奴との繋がりがある以上、カムクラには警戒しなくてはならない」

 

 カムクラの実力を考慮する以上、刺客と言った方が妥当に思える。

 しかし、それにしては腑に落ちない所が多すぎる。

 本当に刺客であれば、奴はとっくにオレを退学させているはずだ。

 奴ならいくらでも付け入る隙があっただろう。

 

「一度、彼とお話してみては?」

 

「それも一つの手だな」

 

 もっとも、ホワイトルームのことを腹を割って話すとなると、かなりリスクを伴う。

 その相手がカムクラであるなら尚のこと。話すタイミングはしっかり考えなくてはな。

 

「情報は以上です。それでは私は失礼します」

 

 淑女のような一礼の後、坂柳は女子棟の方へ去っていく。

 有益な情報を与えた坂柳は限りなく白。

 オレはそう判断して、部屋へと戻った。

 

 

 

 ──────

 

 

 林間学校2度目の朝、すなわち特別試験3日目。

 学校生活では休みである土曜日も、この林間学校に滞在している間は授業がある。

 ただし授業と言っても、平日とは異なる時間割だ。

 授業は午前で終わり、その後は自由時間。

 女子と関われる時間は夕食だけだが、それ以外は何をしても良いとされている。

 

「ク、クソ眠ぃい」

 

 早朝5時過ぎ、ガラガラとした声で石崎くんがぼやく。

 

「それは皆同じです。眠気でミスをしないようにしてくださいね」

 

「う、うっす」

 

 教師に渡された朝食用のメニューを彼に渡し、僕は調味料を彼に持ってこさせる。

 

「……クソッ、昨日のババ抜きで負けてなければあと1時間は寝れたのに」

 

 Cクラスの時任くんは閉じようとする瞼を懸命に開けながら野菜を切る。

 7泊8日の特別試験の内、今日と明日に1年生は朝食を作らなくてはならない。

 そしてその朝食当番をかけた戦いが昨日の夜のゲームで行われ、時任くんは敗北したそうだ。

 当番を賭けたと言っても、この場には全員いる。

 正確には、調理担当の義務から外れるなどではなく、配膳担当を賭けた試合だったそうだ。

 ちなみに、10人が調理担当で5人が配膳担当と事前に僕が決めた。

 

「手はしっかり添えた方が良いですよ」

 

「……切れればいいだろ」

 

 時任くんは周囲を見てから文句を言う。

 何人かの生徒も危ない使い方をしていて自分だけ言われるのが少々気に食わないらしい。

 

「それはそうでしょうが、やるなら正しいやり方を覚えた方が今後に役立ちます」

 

「……ちっ、そういうお前は出来るんだよな?」

 

 手本を見せて欲しいようなので、僕は彼から包丁を受け取り、素早く野菜を切る。

 

「……カムクラ氏、普通、野菜を切る時に残像は起きません」

 

「ははっ、もはや驚き越えて笑うしかねぇよ。てか、すっげぇフワフワしてますね」

 

 唖然とする時任くんの代わりに金田くん園田くんが突っ込みを入れた。

 2人もまた野菜を担当しているので、近くで会話を聞いていたようだ。

 

「……金田、園田。お前らも手馴れているな」

 

「まぁ、食事は基本自炊だからな」

 

「同じく」

 

 2人は手際よく進めていく。

 サイズ感も良く、普段から料理をしていることが窺える。

 

「アルベルトもかよ。その図体に似合わず器用なやつだ」

 

 カセットコンロの上でフライパンを振るアルベルト。

 普段から料理をしていて味も悪くないことを僕は知っていたので、彼には片っ端から卵焼きを作ってもらっています。

 用意する人数が3学年分、だいたい40食です。

 なので、どんどん作ってもらう必要があります。

 

「アルベルト、これ次の分な」

 

 切った野菜や掻き混ぜた卵を運ぶアシスタントの役割を小宮くんと石崎くんがこなす。

 2人は自炊経験がほとんどないことと手先があまり器用ではないことから、雑用係に任命した。

 普段から龍園くんの下で動くこともあって、中々どうして使い勝手が良いです。

 そして、僕は監督兼味噌汁作りを行っている。

 

「カムクラさんも卵焼き作ってくださいよ〜。俺、カムクラさんのご飯毎日食べたいっす」

 

「全てを僕がやってはツマラナイでしょう? 役割分担をすることは重要です。

 それと、口より手を動かしなさい。小宮くんが大変そうです」

 

 石崎くんのお強請りを一刀両断して僕は味噌汁作りに力を入れる。

 完璧な分量と完璧な煮込み時間、そこから完璧な味を。

 わざわざ手間をかけるのだから完璧に仕上げなくては時間の無駄です。

 

「Izuru, I don't agree with his suggestion, but I also think you should make some omelet*1

 

 味噌汁の下準備を終え、後は時を待つだけとなった時にアルベルトが僕に意見を出す。

 基本的にどんな指示にも文句を言わない彼の提案ということもあって非常に珍しい。

 

「Why?」

 

「Because you have made a promise to Koenji*2

 

 彼はいつも通りの無表情で答えた。

 今回の試験で僕が高円寺くんに快適さを提供するということを覚えていたために、自分で考えてこのような提案を出した。

 まさに痒い所に手が届くようなアドバイス。

 石崎くんや小宮くんよりは周囲の把握が出来ていて、気が使えるようだ。

 

「That's fine. I'll make the others. And I'll prepare one for you in return for your good offer*3

 

 僕が了承すれば、彼は嬉しそうに会釈で礼をする。

 その後、石崎くんに向けて鼻で笑うような素振りを見せ、怒る彼とじゃれ合っていた。

 なるほど、口数の少ない彼もクラスとは馴染めてきているようだ。

 

 

 僕は料理人の才能を使用して、残りの朝食を準備した。

 

 

 

 ──────

 

 

 

 何事もなく時間は過ぎていき、午前最終授業に至る。

 この授業は道徳の授業を行っていて、今日は試験に重要な話をするそうだ。

 

「これから、お前たちにはスピーチの練習をしてもらう。これは単なる自己紹介ではなく最終日の試験に直結している。

 学年ごとにスピーチテーマの詳細は異なるが、判断基準は4つ、『声量』『姿勢』『内容』『伝え方』。これらに気を使いながらスピーチ練習をするように」

 

 スピーチという単語はバスの中で読んだ資料にも掲載されていた。

 他の説明と比べて丁寧なことからも最終日の試験科目の1つであることは明白。

 コミュニケーションを不得意とする人間からすれば、厳しい試験内容とも言える。

 

「1年生の試験テーマは『この1年間を通じて学校で何を学び、これから何を学んでいきたいか』だ」

 

 担当の教師は続けて上級生のテーマも発表していく。

 どちらも、進路や就職などの将来に関するテーマ。

 Aクラスでしか望んだ進路に行けないこの学校が出すテーマにしては皮肉が効いてるとも言えるかもしれせん。

 

「だ、だるい試験っすね」

 

「そうでしょうか。あなた達からすれば、自分の1年間を見直せる良い機会な気がします」

 

 Cクラスは僕の才能によって、根本的な能力が入学してから上がっている。

 そこから努力する者、胡座をかく者。

 それらも顕著に現れ始め、成長度合いも判明する頃合いです。

 今回のスピーチでもう一度自分を見つめ直し、驕りに気付いて欲しいですね。

 まぁ、大抵の人間は気付けないから僕が言うしかないのでしょうが。

 

「ハハハ、スピィーチ! この私の素晴らしい演説を間近で見れるなんて、君たちはとても幸運だ。そう思わないかい、マイフレンド?」

 

「まぁ、あなたレベルの御曹司の生演説となれば、確かに幸運と言えますね」

 

 説明が終わり休憩時間になると、高円寺くんが話題を振ってきたので僕は正直に答える。

 

「……幸運? こいつのスピーチが?」

 

 石崎くんは不満そうに言う。

 

「あなただって彼の会社の事は知っているでしょう? 日本屈指の御曹司、その肩書きは伊達ではありませんよ」

 

 以前、ネットで彼の会社を検索にかければ、すぐにその詳細は調べられた。

 それ程に有名な財閥、だからこそ、その御曹司の若かりし頃のエピソードとしては多少の価値はあるだろう。

 

「なんか、胡散臭いっす」

 

「おやおや舎弟ボーイ、それは聞き捨てならないねぇ~。私は本物の高円寺六助だよ」

 

「うるせぇよ。お前みたいな非常識な奴、2人もいてたまるか」

 

 石崎くんの言葉は厳しい。

 今回の試験、真面目に望んでいる彼は不真面目な態度の高円寺くんが気に食わないようだ。

 

「まぁ落ち着けって石崎。別にふざけてスピーチする訳じゃないし、そんなカリカリする必要はないと思うぜ」

 

 そこに橋本くんが介入する。

 やはり、彼のコミュニケーション能力は1学年男子の中では一つ抜けているように感じる。

 

「……うるせぇ。それも分かってんだよ」

 

 唇を細め、不貞腐れたような小さな声で彼は返答した。

 ここで反抗しない辺り、彼も少しは成長したようだ。

 

「つか、舎弟ボーイってなんだ! このクソ御曹司!」

 

「いや、突っ込むの遅すぎな」

 

 不穏な空気が流れたが、それも束の間。

 2人は漫才のようなやり取りを始め、僕らのグループは学生らしいワイワイとした雑談を休憩時間に当てていた。

 

(……もっとも、名立たる御曹司の中に十神や塔和の名前がネットにない時点で何処まで信憑性があるかは知りませんが)

 

「お前のグループは随分とまともだな」

 

 この世界の疑問点を思い出そうとする最中、堀北学が僕に声を掛けてきた。

 同時に、龍園くん、石崎くん、高円寺くんと問題を起こしそうな生徒を一人一人見ていく。

 

「今回の試験はポイントが欲しいんですよ。だから彼らには従ってもらってます」

 

 石崎くんは僕の足を引っ張りたくないために真剣に行動している、

 龍園くんは僕の才能を観察するために、黙々と試験に挑んでいる。

 高円寺くんは授業こそ聞かないが、僕との約束もあって目立ったことは全くしていない。

 結果的に、生活面で減点を受けるような考慮は生まれていない。

 

「龍園はともかく、高円寺をどうやって説得した?」

 

「別に従っていませんよ。ただお願いして、彼がお願いを承諾してくれただけです」

 

 彼を従わせることは僕でも一苦労するだろう。だが、協力を得るために必ずしも従属を強要する必要はない。

 方法はいくらでもある。ただ、それだけの話だ。

 

「なるほどな。俺たちとしても嬉しい誤算だ。例年、学年を交えた試験では経験の差でどうしても1年生が足を引っ張ってしまうことが多い。だが、これなら十分に1位になれそうだ」

 

「当然です。僕が力を貸すのだから勝ってもらわないと困ります。試験も、南雲雅にもね」

 

「やはり、お前は大した奴だな。お前がこの学園で何を為すか、それが見れないのは少し残念だ」

 

 堀北学は今年卒業してしまうため、彼と話せる機会はもう多くない。

 悲哀どころか、揺れ動く感情は全くない。

 先輩の卒業という凡人なら当たり前の経験を得られるだけ。

 少しの満足感も得られない。

 

「聞けはしますよ、卒業したあなたの妹から」

 

「ふっ、期待して待つとしよう」

 

 休憩時間が終わるチャイムが鳴り、僕たちは道徳の授業を再開した。

 残り時間はスピーチ文を考え、明日から本格的にスピーチ練習を始めるカリキュラムになっている。

 僕は最終日の試験に向けてクラスメイトのスピーチの添削を行った。

 

 

 

 ───────

 

 

 

 林間学校の校庭にて、椎名ひよりが責任者を務めるCクラスを中心としたグループが基礎体力作りの授業に励んでいた。

 最終日の試験科目の1つ、『駅伝』をこなすための授業であり、運動神経が低い生徒には酷な内容だ。

 試験本番は指定距離を小グループ内で走りきるというもので、生徒1人につき最低1.2km以上走ることが義務付けられている。

 だからこそ、運動が不得意な人間はこの練習の場で身体を作る必要があった。

 

「……はぁ、はぁ」

 

 大きく息を吸って吐いてを繰り返すは責任者である椎名ひより。

 彼女はCクラスでも運動ができない生徒筆頭でありながらも、試験のために死に物狂いで授業に参加していた。

 膝に手を置かないために、腰に手を当てる椎名の表情は苦悶の一言。

 整った顔であるため歪む表情も一定の需要がありそうだが、一般的には心配した生徒が駆け寄ってくる。

 

「椎名さん、大丈夫?」

 

 声をかけたのは矢島真理子、このグループでは副リーダーの位置にいる。

 陸上部に所属している矢島はこの授業では余裕のない生徒のケアに回っていた。

 

「だ、大丈夫……ですっ」

 

 精一杯の声は呻き声のようだった。

 しかし、その声に反して息は整っていき、腰から手を下ろす。

 日常から運動をしていない椎名だが、体育祭を通じて入学当初よりかは肉体が成長している。

 疲労は隠せないが、この授業にも食らいついていた。

 

「私は、リーダーとして頑張らなきゃいけません。一番前に立つ人間がへこたれては集団の士気に関わってしまいます」

 

 今まで自分のために試験を全力でこなしてきたが、今は集団のために動いている。

 あり得なかったことだ。高校入学まで満足な友人がいなかった少女からは考えられない行動。

 そんな彼女を動かすのが期待、余りに大きなものが少女を駆り立てている。

 

「一人で背負いすぎないでね。私や他の人もみんなで支えるから」

 

「……ありがとうございます」

 

 暗い表情は晴れていく。

 重責に襲われて背負いすぎないのは、彼女の周りに手を差し伸べてくれる人間がいるから。

 集団の利点は最大限に活かされていた。

 

「1年生の皆さん、今日の授業はこれで終わりです。明日まで休みとなり、明後日から特別試験は再開します。

 それまでの間は自由行動となっていますが、節度を持って行動するように」

 

 授業終了のチャイムが鳴ると、担当の女性教師が解散指示をする。

 本日は土曜日であり、授業は午前で全て終了。明日の日曜日は自由行動となっている。

 月曜日から試験が再開し、水曜日に最終試験が行われて全ての結果が決まる。

 

「椎名さん、シャワー浴びに行かない?」

 

 解散の流れから矢島が提案する。

 身体を動かしたことによって汗は流れ、洗い流したい状況だ。

 

「開いているのですか? 指定時間外は閉まっていた気がします」

 

「自由時間の時は好きに使っていいんだってよ~」

 

 根拠が気になる椎名だったが、矢島の言葉を聞いたクラスメイトが同意するので、本当だと判断する。

 そして今の話がグループ中に聞こえたため、グループメンバーがその情報の真偽を確かめに集まってくる。

 

「おっ、じゃあ皆で汗を流しに行く?」

 

「良いね、皆で行こうよ~」

 

 矢島の一声に、クラスメイトの木下が賛成する。

 汚れた身体を洗い流すことに誰も否定することなく、他のクラスメイトも続いていく。

 意見はすぐに纏まり、Cクラスグループは一度寮へと足を運びだした。

 

「伊吹さんも来てくれるのですね」

 

「……別に、私も汗流したいだけ。たまたま行動が一緒なだけよ」

 

 集団の中には、ツンとした態度でありながら伊吹の姿も見える。

 一匹狼の気質が強く、このようなイベントごとにも殆ど参加しないため、その参加は椎名にとって少し意外だった。

 

「もぉ、伊吹さんって本当ツンデレなんだから」

 

「はっ? 別にツンデレじゃないんだけど」

 

 矢島が笑いながら言えば、伊吹はぶっきら棒に返す。

 伊吹が孤立気味なのは強気な性格と口調が起因している。

 彼女の中では軽く否定したつもりのこの言葉でも、刺々しい方も相まって良い印象を持たれない。

 だからこそ、Cクラスでも浮きがちだった。

 しかし、

 

「デレ要素はどこでしょうか」

 

「そりゃ、椎名さんによ。私や他の人にはさっきみたいな感じで話すけど、椎名さんには伊吹さん大分優しそうな表情してたよ。後は……」

 

 矢島は言葉を続けずに伊吹を見て怪しく笑う。

 

「何、その表情。言いたいことあるなら言えば?」

 

 どうしてそんな顔をするか分からないために、伊吹はまた不機嫌そうに告げる。

 しかし、その了承によって矢島の笑顔はさらに愉快気になる。

 

「では、遠慮なく。伊吹さん、カムクラくんといるとデレ要素多くなるよね?」

 

「……はぁ?」

 

 尻上がりの調子で伊吹はそう告げる。

 出た名前はCクラスの変人筆頭であり、混合試験限定のリーダー、カムクライズル。

 伊吹にとって友人であり、この学校に来て初めての縁だった。

 

「そりゃ、友達といれば少しは態度変わるでしょ。でも、デレたりはしてない。あんたの勘違いよ」

 

「確かにデレ要素というより、自然体でいることが多いという気がします」

 

「なるほどね~」

 

 椎名の訂正に矢島は肯定した。

 納得を見せたことでこの話題が終わると思った伊吹だったが、思春期の女子にとって男の話題は大いに盛り上がる。

 軽い入りだったが、話は大きく広がることを一匹狼の伊吹は知らない。

 

「でも、それって気を許してるってことでしょ? デレてない?」

 

 後ろを歩く木下が面白そうに参加する。

 

「デレてないわよ。あんただって、友達には自然体で接するでしょ?」

 

「どうだろう。私は本当に仲良くならなきゃ気は許せない。親友か彼氏じゃないと自然体にはなれないよ」

 

「……あんた、彼氏いるの?」

 

「もちろん。そう言う伊吹さんはカムクラくんが彼氏?」

 

「友達って言ったはずだけど?」

 

 余裕ある木下の言い方が気に入らない伊吹。

 しかし、険悪な雰囲気はない。猫がじゃれ合っているようなものだった。

 雑談している内に、集団は寮に到着する。

 

「永遠の議論よね~、男女の友情は一生成立するかは」

 

 必要なものを手早く用意していけば、再度部屋の外に。

 皆、シャワーを浴びたいという気持ちは一致していた。

 

「麻里子はどっち派? 私は成立しないに一票」

 

「う~ん、私もしない派かな。でも、成立してほしいという願いもあるかな~。肉体関係とかの線引きは難しそうだけどねぇ」

 

 矢島と木下は雑談の続きをしていく。その話題に、彼女たちと仲の良い女子は騒ぐように意見を述べていく。

 ここが女子棟であり、異性の目がないことと試験の休みによって、みな無遠慮だった。

 

「……こ、これがリア充の恋愛観なのでしょうか」

 

「盛りすぎなだけよ。気にしちゃダメ」

 

 この手の話に疎い椎名は頬を染め、伊吹はため息をついた。

 

「ねぇ、伊吹さん、お風呂でカムクラくんの話を聞かせてよ。イメチェンしてからさ狙ってる女子増えたんだよね~。私も情報収集しておきたいしさ」

 

「嫌、そんなの自分で聞け」

 

「そういわないでさ~」

 

 矢島のお願いを拒否する伊吹、それでもやはり険悪な雰囲気はない。

 今までのCクラスならば、女子間でより際どいスクールカースト差が存在したが、それは既になくなっていた。

 理由は、今までの特別試験を協力して乗り越えたから。

 それまでの過程で、厳しい教えをうけたから。

 だからこそ、集団としてのレベルが高くなり、クラス間の仲も縮まりつつあった。

 

 

 Cクラス女子の親密度が上がった。

 

 

 

*1
イズル、彼の我儘に賛成するわけではないが、私もあなたがいくつかの卵焼きを作るべきだと思う

*2
あなたが高円寺と約束をしていたからだ

*3
良いでしょう。残りの卵焼きは僕が作りましょう。ついでに良い提案の対価として、あなたの分も用意してあげますよ




矢島真理子。
原作では、ビジュアルなしで名前だけたまに出てくるCクラスの生徒。
この二次創作では運動部所属の陽キャとして取り扱ってます。
性格は良心あって意外とビビりだけど、やらなければならない時は悪いこともする。
けど、犯罪や本当に悪い事の線引きはしている。そんな感じの設定で書いてます。
能力は学力C+、知性C−、判断力C、身体能力A、協調性Aって感じです。

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