ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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未だ本質は変わらない

 

 

 

 特別試験3日目の夕食の時間。一之瀬はクラスメイトと過ごすことを止め、同じグループの真鍋を見張っていた。

 

(グループ決めの時に坂柳さんが言ってたとある方、多分カムクラくんのことだ。なら、猪狩先輩と同じグループになったCクラスの生徒に何らかの指示があるはず……)

 

 女子の大グループを決めた時から一之瀬は考えていた。

 とある方、坂柳があえてそう呼び、試験開始初日でそんな大きな情報を掴めるとしたら候補は限られる。

 加えて、以前真鍋がカムクラの指示で動いていたことを思い出し、カムクラが何か暗躍している可能性を考慮していた。だからこそ、夕食の時間は彼女に何かの指示を出す可能性に賭けて見張っていた。

 そして一之瀬の予想通り、ミディアムロングにまで整えられた髪型の生徒が真鍋に接触した。

 ビクリとした態度で真鍋が頭を下げる。その豹変に少し驚いたが、試験中のコミュニケーションから、真鍋がカムクラの事を怖いと感じていることは知っている。

 だが、それにしても大袈裟な反応に感じていた。

 

(……あれれ~、今、カムクラくんこっち見た? 見たよね?)

 

 観察を始めてすぐに、カムクラと隠れて見ていた一之瀬の目が合う。

 一之瀬はその事実に現実味がなさ過ぎてついつい理解が追い付かない。

 その間に、カムクラが真鍋に何かを軽く話してから、2人は離れていった。

 周囲からは最小限の接触で指示をしたよう見えるだろう。

 しかしそれでは不十分。

 完答は“真鍋に素早く指示した後、一之瀬と接触を図る”だ。

 

(……アイコンタクト。視線の方向には男子トイレがある)

 

 一之瀬は言葉のないコミュニケーションもすぐに理解する。

 前もってその場所へ移動していく。

 カムクラは諜報員の才能を使用して南雲の監視を振り切った後、一之瀬と男子トイレ付近で合流した。

 

「よく気付いてくれました、一之瀬さん」

 

「むしろ、私に気付いた方が驚いたけどね。もしかして、君は私が接触することがわかっていたの?」

 

「ええ。視線もそうですが、あなたなら坂柳さんの言葉から僕に到達できると判断していました」

 

 平然と未来を予測するカムクラに一之瀬は息を呑む。

 いずれ、彼がBクラスを狙って伸し上がってくる。

 その時に自分たちは対抗できるだろうか、そんな疑問が浮かんでいた。

 しかし、状況を切り替えて、今は彼の話に集中する。

 

「一之瀬さん、僕の頼みを聞いてくれませんか?」

 

「その頼みによるかな?」

 

 呼び出す目的が気になっていたが、早速切り出される。

 周囲に誰もいないが、それはずっと続く訳ではない。

 いくら諜報員の才能を用いても、監視の数が増えればある程度の制限を受ける。

 それでもカムクラ1人なら問題なく隠れられるが、今は一之瀬と一緒。密会は怪しまれること確定だ。

 

「坂柳さんから聞いての通り、この試験で3年Aクラスの橘さんが狙われるという推測が立ちましてね。

 僕の推測が正しければ、3年Aクラスを引きずり下ろすために、3年Bクラスと南雲雅が手を組み、彼らの謀略で彼女は退学に追い込まれます」

 

「……推測ね。確かに君の推測となれば、すっごい精度が高そうだけど、私はもっと具体的に聞かなきゃ協力は出来ないかな」

 

 一之瀬はカムクラの目を見て告げる。

 一切怯んでいないと目で訴えるが、カムクラは特に感心した素振りもなく、一枚の紙を彼女の前に手渡した。

 そこには、書道の天才が書いたような達筆で推測の基になった情報が記されていた。

 一之瀬は目を見開きながら、一つずつ頭に入れていく。記されたことは行間毎に驚きが繰り返される。

 とても信じられる内容ではなかった。

 

(南雲生徒会長がこんな事を? 堀北先輩と特別試験で競い合うことは噂になってたけど、それって正々堂々と戦うんじゃないの? こんなのって……)

 

 一之瀬の知る南雲雅は女性関係に話題が尽きない生徒だったが、生徒会では優しく頼りになって尊敬できる先輩だった。

 そんな先輩が約束を破ってまで、非道な手段を用いてまで堀北先輩に勝とうとする。書かれた情報からそう読み取った一之瀬は絶句していた。

 

「坂柳さんからは協力すると返事をしたそうですね」

 

「私の大グループの上級生の調査なら、確かに引き受けたよ」

 

「僕の頼みとは、それと同時にやってほしいことがあるのです」

 

 カムクラはもう一枚別の紙を一之瀬に手渡さすと、一之瀬の表情には今日何度目か分からない驚きが現れる。

 書かれた内容。それは福音書のように未来の出来事が記されていた。

 確定した未来のような出来事の連続。カムクライズルが直接を手を下すこともなく現れる酷い未来だ。

 一之瀬はリスクリターンを考える。

 これに協力すれば、一之瀬は南雲に弓を引くことになる。

 生徒会長として強力な力を持つ人に狙われる確率が上がるが、橘を追い詰めるとなれば一之瀬にも思うところがある。

 

「……これが事実なら確かに協力してもいい。でも、ごめんねカムクラくん。私、南雲先輩にちょっと秘密を握られちゃってるんだよね」

 

「ふーん、それは少しだけ予想外ですね」

 

 予想外、そう言うがカムクラの表情や声色に変化はない。

 

「なら、ちょうど良い機会です。その秘密とやらをさっさと教えて下さい。僕が解決してあげましょう」

 

「すっごい強引!?」

 

 カムクラはどうでも良さそうにそう言う。

 しかし、一之瀬にとっては重要問題。

 そんな気軽に相談できることではない。

 

「なんであれ、あなたが協力してくれるなら何でもいいです。悩みを打ち明けたくないなら結構。僕にとっては些細なことですし、どうせ今回の試験で彼は何もできません」

 

「……もし、南雲先輩が私を今回の試験で標的にしたら?」

 

「あなたには借りがある。助けを求めたら、助けてあげますよ」

 

 伸ばした手ならカムクラは握る。

 それが未知に繋がる可能性があるからだ。

 だが、助けを待って蹲っている者を助ける気はない。

 カムクラは知っている。仮にそれを助けても、それが寄生するダニに変わっていく事実を。

 

「本当に、橘先輩が狙われるの?」

 

「ええ、十中八九」

 

「……そっか。なら、協力するよ」

 

 一之瀬はカムクラとの協力を確約した。

 そこから対価の話になるが、意外にもカムクラから良心的な姿勢を見せる。

 

「ありがとうございます。報酬は……何にしましょうか。あなたには借りもありましたし、欲しいものがあるなら多少色をつけてあげますよ」

 

「うーん、これと言って欲しいものはないかなぁ。貸し2じゃ駄目?」

 

「別に構いませんよ。では、何か欲しいものが出来た時は言ってください。大抵は叶えてあげましょう」

 

 カムクラは話を終わらせ、引き上げる。

 しかし、一之瀬は疑問が浮かんでいたため、彼の手首を掴んで引き止める。

 

「……ねぇ、この段階でこんな推測が立てられたならさ、カムクラくんはもっと前段階で南雲先輩を止められたんじゃないの?」

 

 何もかも予測出来るなら、事件を未然に防ぐことだって出来たのでは。

 一之瀬はそう思えてならなかった。

 

「確かに、前段階で止めることも出来ました」

 

「なら、なんで……」

 

「一之瀬さん、前段階で止めたら南雲雅の悪意は止まると思いますか?」

 

「そ、それは……」

 

 一之瀬はカムクラの言いたいことを素早く理解した。

 そして理解したからこそ、その質問に答えられなかった。

 もし事前に止めても悪意が引っ込むとは限らない。むしろ増長して他方に向くかもしれない。

 いくらカムクラでも見境ない悪意となれば、止めるのは面倒になる。そうならないために、悪意の標的を絞って確実に止める必要があった。

 

「まぁ、僕としてはそっちの方がオモシロそうではあるのですがね」

 

 一之瀬は今、カムクラの習性のようなものを何となく理解し、恐れ戦く。

 全てを誘導して、予定調和の未来を作っているカムクラの能力は異常だ。

 必死に試験に臨む生徒達を俯瞰するように上から見下ろし、スワリングするように掌で転がす。

 一之瀬には、まさに神のような視点で物を見ているようにしか感じられなかった。

 そんな風に何でも思い通りになるから、カムクラはつまらないという口癖をしている。

 だから、たとえ誰が傷つこうと予想の出来ないという1点さえ満たしていれば、カムクラはその未来を考慮する。

 そして面白いと感想を告げる。

 

(君は、見方を変えれば誰よりも不自由な人なのかもしれないね)

 

 全能に近しいが故の不自由。

 一之瀬はカムクラにそんな同情を持つ。

 しかし、彼もまた人との関わりを得て変わろうとしていることも理解していた。

 だから、一之瀬はカムクラの事を、非道なことをする人物でも嫌いにはなれなかった。

 

 

 

 ──────

 

 

 

 特別試験3日目の夕食の時間が終わり、学生達はそれぞれの自室に戻っていた。

 残り時間は風呂に入るのみ。風呂の時間は学年ごとの指定時間に入らなくてはならないが、その間なら個人で好きな時間に利用できる。

 そんな一年の風呂の利用時間中、龍園翔はカムクライズルに声を掛ける。

 

「おいおいカムクラ、今日も1人で風呂に行くつもりか?」

 

 1人で寮を出ようとするカムクラは龍園の言葉で制止する。

 

「はい、特に時間をかける出来事ではありませんから」

 

「クク、そうか。数多の才能を欲しいままにするお前でも、流石に風呂の楽しみ方までは知らないようだな」

 

「……風呂の楽しみ方?」

 

 挑発する龍園の表情は笑顔。

 持ち前の分析力からカムクラは何か裏があることを読み取る。

 しかし、その分析が完全に終わる前に龍園は続ける。

 

「ゆっくりと湯に浸かって無心で身体の疲れを取る。クク、効率重視のお前が分からないのも無理はない」

 

「そんなことをしなくても休息を取れば疲れは取れますが?」

 

「重要なのは結果じゃねえ。その過程だろう?」

 

 お前なら分かってるだろう、龍園はそう言いたげな視線を向ける。

 

「何が目的ですか?」

 

「おいおい、その未知が楽しいんだろう、お前は。そんな簡単に答えを聞いていいのか?」

 

 風呂で取れる効果をカムクラは全て理解している。

 だからこそ、龍園の目的が風呂の楽しみ方を教えるだけでないことを既に理解していた。

 しかし、承知の上で龍園の誘いに乗ることを決める。

 

「大方、この試験での僕の動きを確認したいのでしょうが、まぁ良いでしょう。あなたの挑発に乗ってあげますよ」

 

「挑発だ? 俺は風呂の極意を教えてやろうとしてるだけなんだがなぁ」

 

 2人は浴場に必要なものを持って寮を出る。

 互いに似た髪型、かつ並んで足早に向かっていくその様子は端から見れば仲睦まじい姿に見える。

 そのまま到着すれば、2人は一番風呂を噛み締めるための準備をする。

 

「何ですかあなた、ジロジロと」

 

「……てめぇは、男優の才能まで持っているらしいな」

 

「ええ、余計な才能の1つですがね」

 

 脱衣し終えたカムクラを見て、龍園はそう述べる。

 全ての行動が人間離れしているカムクラだが、身体も普通ではない。

 究極的にデザインされた肉体美は1つの極致。

 人工的に設計された理想の美がまさに体現されていた。

 

「今回の試験、随分と暗躍しているようだが一体何をするつもりだ?」

 

 面食らっていた龍園は気を取り直すように今回の試験のことを話題に出す。

 

「全てに備えているんですよ」

 

「……イキり金髪と堀北の戦いか。普通にやれば、堀北が勝つな」

 

「ええ、その通りです。だからこそ、この試験で僕たちの勝利はグループ決めの時点で決まっています」

 

 カムクラは淡々と勝利宣言をする。

 

「そんなことは分かってるんだよ。勝てるからこそ、お前は何のために暗躍している?」

 

 しかし、龍園もそれは理解していた。今回の試験はグループの平均値を競う試験。

 1週間という短い期間で、グループの平均値を上げることよりもあらかじめ優秀な生徒でグループを組んだ方が勝率が高いのは言うまでもない。

 カムクラ率いる1年、堀北学率いる3年がいれば平均点は高くなり、勝利は順当。

 であるにもかかわらず、カムクラは暗躍を続けていた。

 

「今回の試験、お前は駒の面倒を見ながら、暗躍も行っている。

 俺に完璧なリーダー像を見せるために全力を出しているようだが、少々過剰に見えるな。今回の試験、グループ決めの時点でほぼ全てのことが決まる。

 今更お前が暗躍した所で、何かが変わるとは思えない」

 

「ちゃんと僕の動きを観察できているようですね」

 

 龍園は鼻を鳴らす。

 話が一度途切れたため、2人は腰にタオルを巻き、浴場に踏み入れる。

 そのままシャワーのある場所まで向かっていけば、話を再開した。

 

「今回の試験、あなたが他クラスの生徒を追い詰めるならばどのようにしますか?」

 

「クク、俺ならば責任者の連帯責任のルールを使うな。あのルールは、他者を引きずり下ろすにはあまりにも有利すぎるルールだ。

 学校側が用意したボーダーを越えさせないように、予め俺の手のかかった駒共のグループに標的をぶち込む。これでチェックメイトだぜ。

 まぁもっとも、この作戦を実現するためにはクラス間の協力が必要だがな」

 

「ええ、あなたの言う通りです。今の策を確実に実行するなら、クラス協定が必要でしょう。

 結局、実現が困難な戦略です。なので、今回あなたがリーダーだったとしても、他者を潰す策は慎重に運ぶことになったでしょう」

 

 2人は体を洗いながら雑談を続ける。

 多少時間が過ぎたために、風呂の入り口は少しずつ騒がしくなっていく。

 

「でもね、この策を実行できる人間が1人だけいます」

 

「あの金髪だな。1学年を支配していれば簡単に実行できる」

 

 龍園の言う金髪は南雲雅。

 2年を実質的に統治している南雲なら、この策を実行できる力があった。

 

「ええ、そして彼はこの策を3年生を標的にやりますよ。そのために女子のグループ決めでとあるグループに細工を施していました」

 

 カムクラは集めた情報を基に断定していた。

 責任者による連帯責任を押し付けられるルール、特別試験に生徒会が関与できる事実、そして集めさせた情報から導いた推測。

 既に、南雲雅の策を見破っていた。

 

「クク、堀北との約束はブラフか。良い性格してやがる。そして、お前の暗躍はそれを止めるために行っている。

 ひよりや矢島、後は坂柳を使って対策の準備をしているって所か」

 

 自信有り気に龍園は告げた後、声のトーンを落とす。

 

「なぜ、もっと上級生を使わない? いくら2年が奴の支配下とはいえ、今回は男女で別れ、明確な指揮官との繋がりが薄くなる。

 上級生に圧力をかけて裏切らせることの成功確率はそれなりにある。もっと言えばあの金髪をもっと早段階で脅して、引かせることも出来ただろう?」

 

「はい。だから、あなた好みの策も用意しています」

 

「……何?」

 

 龍園は怪訝そうな声を出す。

 シャンプーを洗い流すために出していたお湯を止め、続きを待った。

 

「言ったでしょう? 今回の試験はあなたにリーダーとしての手本を見せると。だから、参考資料は用意しているつもりです」

 

 ぴちゃりぴちゃりとシャワーヘッドから水滴の音が響く。

 その静寂の中、龍園は思考を続けるが結論を導き出せない。

 

「お前、何をするつもりだ」

 

「全てに備えているだけですよ」

 

 睨む龍園に真っ向からそれが答えと主張するカムクラ。

 ぶつかり合う両者の視線は衰える気配がなかったが、意外にも龍園の方が逸らした。

 

「……その策は今回の試験で見せてくれるのか?」

 

 頭を洗いながら龍園は言う。

 床に広がった熱湯は湯気に変わり、広がっていく。

 被った水も相まった悪い視界の中、龍園はもう一度カムクラを見た。

 そして、僅かに目を見開いた。

 

「最終手段ですよ。順調にメインプランを進めていけば、出番はないでしょう」

 

「メインは標的になった奴が自分の力で連帯責任の対象を逃れることか?」

 

「はい。それが無難で、南雲雅に最も効率よくダメージを与えられるでしょう。

 でも、今回はそうならない可能性がある。だから、準備をしておくんですよ」

 

 濡れた前髪を手で後ろに持っていき、オールバックを作るカムクラ。

 熱湯を被った表情から現れた視線は冷たく、その表情はこの学園で過ごしたカムクライズルの顔ではなく、素のカムクライズルの顔だった。

 

「忘れていたぜ。お前は、恐ろしいやつだってな」

 

 龍園はその表情を見て戦慄した。

 自分が何を相手にしようとして、何を越えようとしているのか。その大きさを理解させられる。

 

「どういう生活をしたらお前みたいなのが生まれるのか、不思議で仕方ないな」

 

「知りたいですか、僕の昔話」

 

「野郎の昔話なんて基本どうでもいいが、お前のなら聞く価値はありそうだな」

 

 身体を洗い終えた二人は一番風呂に浸かりに行く。

 その際、適当な所に入ろうとしたカムクラを龍園がジェットバスの方に連行する。

 カムクラは黙ってそれに従い、生まれて初めてジェットバスに身を任せた。

 

「これが、あなたの言っていた風呂の楽しみ方ですか。ただのジェットバスでしょう?」

 

「そのまま脱力して身体を温めろ。本当ならサウナも教えてやってもいいが、どうやらここにはないらしい」

 

「サウナを使用する人間は使用後に快楽を得ていますが、あれは健康の観点から見れば────」

 

「────黙れ」

 

 喫煙者にタバコを止めるような説教臭い説明を強引に黙らせた龍園は力を抜き、ジェットバスを堪能し始める。

 カムクラは取り敢えず、龍園に倣って同じ行動を取った。

 顔以外の部分全てを沈め、肩や腰に正しく刺激を与えていく。

 

「まあまあですね」

 

「クク、本番はこれからだぜ。時間経過で、風呂はより楽しめる」

 

 意外にも英気を養えると判断したカムクラは龍園の指示に従って身体を動かさない。

 そのまま2人は適当な会話を軽くしながら、風呂に浸かり続けていた。

 そうすること約10分後、浴場には一年の男子生徒が集まってくる。

 学年ごとに時間指定がある以上、入浴時間が被ることは仕方ないことだ。

 

「おや珍しいね、カムクラボーイ。君がゆっくりと湯に浸かっているとはねぇ~」

 

 ジェットバス三人目の利用者は高円寺だった。

 目を瞑って脱力したカムクラを見ると、白い歯を見せる。

 

「随分と人間らしく(・・・・・)なっているじゃあないか」

 

「ですね。この僕が人前で寛ぐ日が来るとは思っていませんでした」

 

「グッドな傾向じゃないか。今の君とはより楽しく競い合えそうだ」

 

 高円寺は上機嫌にジェットバスに浸かる。

 タオルを外し、勢いよく水に身体を沈めたので、付近にいた龍園やカムクラに向けて水飛沫が舞う。

 

「……おい、変人戦車。風呂くらい静かに入れ」

 

「どこでどのようにしようが私の自由さ、ドラゴンボーイ」

 

 顔面に水飛沫が当たった龍園は当然文句を言うが、相手が悪いと判断してその後は言い返さない。

 流石の龍園も、くつろいでいる時に余計な体力を使う気はなかった。

 

 

「────ドローだ!!」

 

 

 浴場の一部からそんな声が響き渡った。

 そこにいる男子に規則性はなく、全てのクラスの生徒がミーティングするように集まっていて、浴場中に聞こえるほどの大きな声で会話している。

 それによって人だかりは現在進行形で膨らんでいっていた。

 集団の中心人物にいるのはAクラスの葛城とDクラスの須藤だ。

 

「随分とくだらないことをしていますね」

 

 ジェットバスを堪能していたカムクラは片目だけ開けて周囲の状況を把握する。

 象徴を見せ合い、競い合う男子たち。

 浴場における裸の戦いが始まっていた。

 

「クク、そう言うな。奴らはプライドをかけて戦っているんだからな」

 

「そうさカムクラボーイ、たとえチルドレンのような行動でもプライドは大事さ」

 

 2人が愉快気に笑う中、カムクラはどうでもよいと言わんばかりに目を閉じ、再度ジェットバスを堪能する。

 

「これが……、アルベルト。ラスボスの力なのか」

 

 一方、男たちは恵まれた体格を持つアルベルトの登場に嘆いていた。

 先程まで葛城と須藤が互角の勝負を繰り広げている中、石崎がCクラスからの刺客を送り出した。

 その剣は、歴戦の猛者に一振りで膝をつかせた。

 

「絵面が酷いので、僕は先に出させてもらいますね」

 

 ジェットバスに満足を覚えたので、カムクラは湯船から出る。

 浸かっていた間、超高校級の希望もまたタオルを腰に巻いていない。

 よって、超高校級の象徴は隠されることなく、龍園と高円寺だけに目視された。

 

「流石、我が友。私に匹敵する美しい肉体だねぇ〜」

 

「肉体美に関係する才能ならいくらでも持っていますから」

 

 カムクラはタオルを巻き、そのまま出口の方へ歩いていく。

 もちろん、超高校級の諜報員と暗殺者の才能を併用して動いているので、周囲はカムクラに気付かない。

 全員が、股間の話に夢中だった。

 

「君たちは本当にチルドレンたちのようなことをしているねぇ~」

 

 重い空気を振り払うように高円寺が告げれば、全員の視線は高円寺に集中する。

 そこからまた象徴の見せ合いに発展することは、もう言うまでもない。

 カムクラは出口に到着し、いち早く退散した。

 

 

 




脳味噌弄った結果、希望の剣が完成したのか。
それとも、希望の剣は日向君の自前なのか。

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