ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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今回短い


束の間の日曜日

 

 

 

 特別試験が一時中断される日曜日。

 この日は全ての授業がなく、身体を休める日となっている。

 自主的な練習をすることは許可されていて、林間学校内の施設は浴場を含めて好きに使用できるようになっている。

 しかし、そんな休日でも女子生徒と関われるのはこの夕食の時間だけ。

 1年から3年まで生徒がごった返した食堂は既に見慣れたものに変わっていた。

 僕は諜報員の才能を使用しながら食堂入り口付近に待機する。

 するとすぐに、目的の女子生徒を発見できた。

 二つのお団子が特徴的なヘアースタイル、入学当初に見た時から変わっていない。

 僕はさらに気配を殺して彼女の後をつける。食堂の端の席で一人座ることを確認すれば、諜報員の才能を解除する。

 

「こんにちは、先輩」

 

「ふぁっえっ!?」

 

 気付かない内に見慣れない男性が相席していれば、当然の反応だ。

 彼女は落としかけた箸をお手玉のようにキャッチアンドリリース。

 何とか掴めれば、驚かせたことに対する礼をするように頬を膨らませて睨んでいた。

 どうやら、まだある程度の気力は残っているらしい。

 

「僕がここに来た理由、あなたならもう分っているでしょう?」

 

 長ったらしい前置きはいらない。用件は彼女も理解しているからだ。

 

「堀北学からあなたを助けるように言われました。現状を説明してください」

 

「……何も困っていません。堀北くんにはそう言ってください」

 

 彼女は後ろめたい表情を必死に隠して強気な口調で僕に告げる。

 僕が味方であることを疑わないのは、元々話が通っているから。

 友人の藤巻先輩よりも信頼していることがこれだけでも十分に分かる。

 

「僕には困っているように見えますが?」

 

「いいえ、それはあなたの勘違いです。このまま試験を続ければ、私のグループは順調に試験をクリアできます」

 

「そんなくだらない嘘が僕に通用すると思っているのですか?」

 

「……嘘ではありませんよ。あなたの知らない所で先輩も暗躍しているということです」

 

 強情な姿を懸命に前に出す橘さんだが、超分析力を通してみれば虚勢でしかない。

 

「言い方を変えましょう。そうやって、自分だけを犠牲にすればよいと本当に思っているのですか?」

 

「……!? 何でそれを……」

 

「あなたも、南雲雅も僕を舐めすぎです。推測する要素なんていくらでもあるでしょうに」

 

 上級生の中で、僕は非常に優秀な生徒という認識なのは間違いない。

 今まで関わってきた上級生は皆、僕の情報を少しは待っていた。それくらい僕の才能は有名だった。

 だが3年には堀北学が、2年には南雲雅が。

 学年を代表する生徒に一年の優秀な生徒では勝てないと勝手な判断をしていたのだろう。

 だから、甘すぎる。

 

「あのね橘茜、僕は堀北学にあなたを助けるように言われましたが、実の所あなたを助けたくはありません。何故だかわかりますか?」

 

「……知りませんよ、そんなの。私の事が嫌いだからじゃないんですか? 初対面からあなたは私の事騙してくれましたし」

 

「いいえ、あなたがツマラナイからです」

 

 僕は超高校級の希望としての圧を彼女に向ける。

 ビクリと不自然に揺れる橘さんだが、その対応を観察する気はない。

 

「クラスに、堀北学に迷惑を掛けたくない。だからあなたは南雲雅の策に嵌って、減るポイントを最低限で済ませようとしている。

 そんな誰でも出来る諦めの極致のような行動をする人間を僕がなぜ救わなければいけない。そんな結末は木偶の最後とその木偶を愛でる男のツマラナイ寸劇、何の未知も生まれない」

 

 僕が彼女の真意を見抜けば、彼女は諦めたように渇いた笑いが出る。

 追い詰められた彼女の最後の手段、それは全てのヘイトを自分に向けて退学すること。

 そうすれば、3年Aクラスに迷惑をかけることはない。

 晴れて、3年Aクラスは最後の特別試験にも万全を期して挑める。

 

「……いいえ、もう私たちは卒業が近い。救済のためにポイントを使えば、次の試験で貯蓄がなくなってしまう。

 だから、堀北くんは私を見捨ててくれます。それだけで済むなら、私の行動は……」

 

 意思を込めていた瞳は光が薄れ、視線も下に落ちていく。

 

「彼に相談もしない。自分は悲劇のヒロイン気取りで彼の気持ちすら考えられませんか」

 

「考えた上です。これが一番被害が少ないんです」

 

 南雲雅は橘茜を狙っていて、その刺客を既に放っている。

 このままいけば、彼女は確実に退学する。

 しかし、彼女は自分の身に起きることを理解していて、自分が何もしないことで被害が少ないことも理解している。

 三年生は卒業まで残り少し、ここでポイント減らしてクラスに迷惑をかけるくらいなら我が身を犠牲にする。

 その覚悟を彼女は既に決めていた。

 

「まったく、これでは堀北学も報われない。いや、あなた程度を生徒会に見出していた堀北学も所詮はその程度だったわけですか」

 

「……堀北くんを馬鹿にしないでください。何も知らないあなたが」

 

 圧に怯みながらも、橘さんは僕の発言に怒りを示す。

 窶れてきてはいるが、まだ気力が死んだわけではない。

 怒りを抱くくらいには現状を不満に思っている。

 

「なら、示してください。あなたの行動で、あの男があなたを選んだことに間違いはなかったと言えるように」

 

「……そ、それは」

 

 戻った気力が揺れるように表情が曇る。

 堀北学に迷惑を掛けられないからこそ、自分ひとりの力では何もできないからこそ、彼女は抵抗を止めていた。

 しかし、今ここでその意思を捨てれば、クラスに、堀北学に迷惑をかける。

 その葛藤が、決断を鈍らせる。

 

「こちらがあなたを救うプランはいくつか用意しています。しかし最もリスクが少なく、ポイントを使わないで勝つ方法はあなた自身が試験で学校側のボーダーを越えることです。

 つまり、必要なのはあなたの意思です。決断しなさい。悔いの残らないように」

 

 今回の試験、僕は様々な対策を用意している。

 南雲雅が狙っているのが橘茜である以上、特別試験最終日のテストで必ず細工を施す。

 そこで学校側のボーダーに届かず、責任者が退学する中で道連れで彼女を指名する。

 一見、最初のグループ決めの時点で詰んでいるように見えるが、やりようはある。

 その中で最も楽なものは橘茜が自分の意思で道連れ対象から外れるように行動して、結果を残すこと。

 責任者の指名は誰でも好きに指名できる訳では無い。ボーダーを割った一因にさえならなければ、南雲の策は無駄となる。

 このように困難に乗り越えられれば、最も楽でかつ、南雲雅にダメージを与えられる。

 

「期待してますよ、あなたの選択に」

 

 僕はそれだけ告げて、彼女の席から離れる。

 はっきり言って期待は2割程度、本当にどちらにも転ぶ。

 だから予備の策をいくつか用意している。

 そしてもし、彼女が救われるだけの木偶になるのなら。

 

 その時は、ツマラナイ未来が僕を待っている。

 

 

 

 ──────

 

 

 

 橘さんに忠告をした後、僕は食堂を離れる。

 慣れない生活が続いた混合試験だったが、4日目の休日は良いクッションになっていた。

 僕の指示に従って真面目に受けていた生徒たちはそれなりの疲労が溜まっていたので、今日は良く体を休められた良い一日だっただろう。

 本番まで残り4日、体力の回復も出来た。

 試験内容も大方把握でき、まさに順調だ。

 

「あ、あの、カムクラくん」

 

 どもった第一声はここ最近絡みが増えた真鍋さんのもの。

 現在地は女子トイレから離れて人気の少ない廊下の端。

 僕は彼女が1人でトイレに行く時を狙って接触を図った。

 南雲雅は僕への監視をそれなりに付けているが、僕の指示するCクラスの女子もマークしている。

 だが、流石にトイレに行く時には彼女たちの監視は外れる。

 なので、僕が諜報員の才能を使用して監視をやり過ごせば、密会は完成だ。

 

「その、今日は授業がなかったので目立った報告は……特にないです。

 で、でもカムクラくんの言う通り、あの人は少し元気がなさそうでした」

 

 会話に間がある話し方は彼女らしくないが、以前の怯えきった状態よりは幾分かマシになった。

 僕に対する恐怖の印象がだいぶ薄れてきている。

 周囲に話を聞かれても、肝心な部分が分からないように会話も出来ている。

 

「そうですか。わざわざありがとうございます」

 

 僕が感謝を述べれば、彼女はほっと一息つく。

 この試験中、彼女の試運転も兼ねて色々と試しているが、今の所、命令は忠実に聞いている。

 

「明日から彼女の行動に変化が起こるので、指示通りお願いします」

 

「は、はい」

 

 一度の返事に二度、三度と従順に頷く様子と彼女の性格から見て、必死に取り組んでいることが分かる。

 どうやら、本当に変わろうと努力しているらしい。

 僕が真鍋さんに下した指示は2つ。

 一つは同グループの上級生、特に3年生の監視と報告。

 もう一つは少しでも順位を上げるように全力で試験に取り組むこと。

 彼女のグループには一之瀬さんがいるので、協力すれば実力以上の結果をもたらせる可能性が十分にある。

 これによってもし、大グループの平均点を少しでもあげ、万が一にでも最下位を回避できれば橘茜を救うことが出来る。

 南雲雅の策、橘茜の道連れは大前提として大グループの平均点を最下位にするところから始まるからだ。

 最下位の大グループの中で、小グループの平均点が学校の用意するボーダーを越えられず、かつボーダーを越えられない一因と判断された生徒のみが道連れの対象。

 ならば、簡単な解決策が2つ浮かぶ。

 それが橘茜の所属するグループが最下位を回避すること、そして最下位になっても橘茜が道連れ対象から外れることだ。

 

「試験では満点を目指しなさい。一之瀬さんと協力すれば、それに近い点数を引き出せるはずです」

 

「い、一之瀬さんとは仲良く出来ていると思います。私もグループにいざこざを起こさないように努力しているつもりです。だからか、グループの練習はかなり質が高いかと」

 

 色々と未熟な点がある一之瀬さんだが、関わった人間の最大値を引き出すという点では他クラスのリーダーの誰よりも優れている。

 櫛田桔梗すら凌駕するコミュケーション能力と優れた観察力を持つ彼女は集団の力を底上げできるので、真鍋さんの評価にも間違いはないと見ていい。

 だが、それでも最下位脱出は難しいだろう。

 何せ、このグループの2年は全員南雲雅の息がかかった生徒達。

 本番では、学校の用意するボーダーギリギリの結果を出してくる。

 そして、3年も自分たちが道連れの対象にならない、かつ平均点ギリギリになるよう手を抜くはずだ。

 2学年が協力して手を抜けば、1年が高得点を出しても平均点上昇は望めない。

 

「そ、その明日からは変化があると言ってましたけど、具体的にはどんな変化だと予想しているのですか?」

 

「明日の午前中くらいは、強気に同級生へ立ち向かうと思います。必死で試験の練習に望み、クラスの足を引っ張っていない存在だとアピールするはずです。

 しかしそれがいつまで続くか。あなたはその仕打ちを観察しなさい」

 

「し、仕打ちですか」

 

「ええ、あなたが軽井沢恵にしたことよりもさらに酷いものが見えますよ」

 

 三年生は橘茜を道連れ対象にするため、一蓮托生となって彼女を悪者にする。

 この試験では携帯や監視カメラはなく、録音機器を持ち込めないので、教師の目だけが頼りになる。

 だからこそ、人間の酷い悪性が見えるだろう。

 教師の前では、真面目にやりつつ橘茜を悪者に。いない所では、龍園くんのような手段を選ばず虐めに近い行為をする。

 

「……私が、監視役の先生に報告することは1つの解決策にならないのですか? 

 多分、先生を巻き込めば見えない所での仕打ちはもっと酷くなると思いますが、それでも学校側に『あの人が悪者にされている』って可能性を示唆できると思います」

 

 真鍋さんは勇気を振り絞った声で僕に意見を述べる。

 悪くない着眼点だ。彼女もまた虐める側の視点に立ったことがあるからこそ、その危険がどこから来て、どこに行くのか分かっている。

 

「甘いですね。結局、上級生が口を揃えて橘茜を悪者にすれば多数の意見が優先されるでしょう」

 

「で、でも、カムクラくん。もし、何か確実な証拠を見つけられたら……」

 

「ええ、確実な証拠を見つけられたら、確かにこちらの勝ちでしょうね」

 

 真鍋さんは自分がやられた事を反省しながら意見を述べていた。

 彼女は軽井沢さんを虐める時に、証拠が残らないように動いたが、綾小路くんにその証拠を握られてしまった。

 あのような悪事に手を染めるならば、証拠は絶対に残してはいけない。

 暴力や不正は時に強力な一手に変わるが、その止め方はさほど難しくない。

 証拠があれば、法に捕まる。

 だがらこそ、確固たる証拠でもあれば、南雲雅を止めることはいとも簡単だ。

 

「だったら、私が!」

 

「残念ながら、あなたでは能力が足りませんよ」

 

 やる気を見せる真鍋さんには悪いが、色々と能力が足りていない。

 彼女が裏方で動いたとしても得られる情報は僅か、相手からの不慮の接触があった時に咄嗟の機転を回せる脳もない。

 むしろ、強すぎる我のせいで喧嘩して計画がご破綻する可能性の方が高いだろう。

 この役目ができるCクラスの人間は、矢島さんや木下さんのようなコミュニケーション能力の高い生徒だ。

 それでも、Dクラスの軽井沢さんや櫛田さんに比べれば見劣りする。

 

「す、すみません、私なんかが出しゃばっちゃって」

 

 自分の意見を間違いと捉えたのか、彼女は謝罪した。

 

「別に謝る必要はありませんよ。それは一つの手段ですから。それに、その役目は既に他の人に頼んでいます」

 

「……一之瀬さんですか?」

 

「ええ、正解です」

 

 一之瀬さんも暗躍にそこまで向かないが、証拠を見つけた時の発言力は圧倒的に強い。

 だがら、僕は彼女を利用した。当初は坂柳さんにやってもらおうと思っていたが、一之瀬さんでも問題はない。

 

「ほ、本当に凄いです。これなら、どれかの策に必ず引っかかりますよ!」

 

「さぁ、どうでしょうね」

 

「……え?」

 

 こちらを持ち上げようとした真鍋さんの表情が間抜けな面へと変わる。

 

「確かに、どれかしら1つが成功する可能性は高い。でも、あれとて馬鹿ではありません。

 もしあれがこの試験中に僕の事を正しく敵と認識出来れば、必ず対策を敷いてくる。そうすればこちらも少々強引な策、そして最終手段も用意しなくてはいけません」

 

 強引という言葉に彼女の顔が引き攣った。

 連鎖的に龍園くんが好む手段が浮かんだのだろう。

 

「な、なるほど。相手はせ……だから、まだ油断出来ないわけですね。

 け、けど、強引な策って……、いくらカムクラくんでも今回の試験で暴力とかは悪手なんじゃないでしょうか?」

 

「本当に、そう思っているんですか?」

 

「だ、だって今回の試験は男女に分けられているじゃないですか。

 そ、そういう強引な方法って統率力が必要って龍園くんがいつも言ってましたし、ボロが出やすいんじゃないでしょうか?」

 

 真鍋さんは自分の意見を述べる。僕の課題をきちんとこなそうとしている。

 やはり、彼女は能力だけ見れば平均だが、忠実なコマとしての適性は高い。

 自分より強い者の言われたことは守り、懸命にその通りにする。扱いやすく、それでいてそれなりの結果は必ず持ってくる。

 将棋で言えば歩兵。しかしこのまま僕が成長を促せば、金に化けれる可能性もある。

 

「そこまで考えられるなら合格ですね。しかし、その懸念も問題ありませんよ。ちゃんと、対策は考えていますから」

 

 男女で常に連絡を取り合えない。これこそ今回の試験におけるミソ。

 偶然だろうが、彼女もそこに気付いたようだ。

 

「わ、分かりました」

 

 真鍋さんはゆっくりと頷いた。

 これ以上の追求は時間的にも無理なので、僕たちは解散した。

 今回の試験で上手く結果を残せれば、彼女に個人的な報酬を上げても良さそうだ。

 

 

 




真鍋さん頑張ってます。
でも、人は簡単には成長できません。
このまま継続できれば変われる可能性はありますが、凡人はどこかで挫折してしまう。
凡庸な自分に打ち勝ち、そして幸運があれば必ず報われる。
なので、頑張って足掻け~。
運がなかったらドンマイ~。それで終わりじゃないぞ~。

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