ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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借金返済の目処

 

 

 

 日曜日という束の間の休日を終えた特別試験5日目の月曜日。

 毎朝6時過ぎに鳴るアラームまでは、大抵の生徒は睡眠に勤しんでいる。

 しかし、今回の試験では学生が朝食を作らなければならない課題があるため、調理室で朝食を作る学生たちもいた。

 3年Bクラス猪狩桃子が責任者を務めるグループはまさにその一つ。

 このグループは当番制であるため、5日目からは3年生が作ると決められていた。

 同グループに所属する橘茜もまた、早起きをして朝食作りに協力していた。

 

(私は、迷惑をかけません。私が1人で道連れ対象から外れるように努力すれば……)

 

 胸に思いを秘め、欠伸を噛み殺して作業をする。

 与えられた仕事をこなしながら、他の人のサポートをするように立ち回る。

 橘は元生徒会書記。堀北学の温情でその地位を獲得したのではなく、己の実力で得ている。

 実力は低くない。広い視点でものを見れて、Aクラスに相応しいだけの能力は持っている。

 しかし、どれだけ真摯に実力を示そうと、悪意は止まらない。

 実力があっても、1人では何も出来ない時があるのだ。

 

「ちょっと橘さん、これで何回目な訳?」

 

 刺々しい雰囲気で同グループのDクラスの女子が橘を呼んだ。

 彼女は切られた野菜が入っているボウルを持ち、橘に見せつける。

 

「この野菜の切り方、本当にしょうもない事するのね」

 

 不愉快さを隠さずに告げるその言葉には悪意がひしひしと感じられた。

 他のグループのメンバーも同様の雰囲気で橘を見る。

 

「……えっ? その野菜を切ったのは私ではないですよ」

 

 橘は当然否定した。

 中にあった野菜たちは自分の担当した野菜と同じだが、その切り方は爪でひっかいたように荒い。

 普段から自炊をしている橘だが、雑にやってもこうはならない。

 意図的にやらなければ出来ない切り方だ。

 

「あんたがここに置いたの見てたんですけど?」

 

「確かにそこに置きましたけど、私はそんな荒く切っていません。

 あなたが見ていない内に、他の人が切ったものと入れ替わったんだと思います」

 

「はぁ? 私ずっとここで監視してたんだけど?」

 

「か、監視ってどういう事ですか?」

 

 皆で協力して試験に臨むという方針にもかかわらず、彼女は堂々と監視を告げる。

 自分は信用されてない。そう捉えられる言葉に、真面目で優しい性格の橘には心にくるものがあった。

 

「監視は監視。この試験中、あんたが試験を乱すようなことをするから1人監視役にしようと昨日決まったの。

 で、あなたは案の定、こんな風に野菜を切ったわけ」

 

「試験を乱す!? 私はそんなことしようとしていません! それに野菜だって……」

 

 橘は必死に弁明する。

 たとえ、それがたった1人の無意味な言葉だとしても、ここで折れては相手の思う壷だからだ。

 

「なに、自覚ないの? 生徒会書記だったくせに?」

 

「やめなって。お飾りの生徒会役員だったんだからさ」

 

「Aクラスは堀北くんのワンマンだから、ああいうのいても仕方ないよ」

 

 クラスが違う生徒達が示し合わせたかのようにくすくすと笑い、悪口を添える。

 協力関係は見え透いていた。

 悪意は雰囲気に溶け込みさらに重くなる。

 この異常を察するべき教師は未だ来ていないからこそ、彼女たちは立て続けに仕掛ける。

 

「……橘さん、まだそれ続けるの。それが堀北くんの策略なの?」

 

 責任者である猪狩が呆れたように告げる。

 

「違います! 堀北くんは関係ありません!」

 

「じゃあ、あなたの意思ってわけね」

 

「それも違います! 私は乱そうとなんか……」

 

「あなたが否定した所で、状況証拠的には信じられないって」

 

 淡々と話す猪狩に橘は強く出れない。

 状況証拠と呼ぶには不十分な状況だが、1つの証言とクラス間を越えた協力関係によって橘1人の発言では押さえつけられてしまう。

 

「これ以上さ、私たちの平穏を乱すの止めてくれないかな。折角、良い感じでグループ纏まってんだからさ」

 

「だから私はッ……!!」

 

 理不尽な物言いに橘も引き下がれなかった。

 涙を必死に堪え、1人グループの悪意に立ち向かう。

 既に諦めていた闘志を何とか奮い立たせ、虚勢を張っていた。

 

「そうやって、私を陥れるつもりかもしれませんけど……私は屈しませんよ」

 

「被害妄想は止めなって。もっと周りみなよ」

 

 橘は小動物のような睨みで必死にグループ全員を見回したが、誰も相手にしていなかった。

 その事実に戦う意思は弱まっていく。

 折角貰った忠告も生かせない自分に、酷い自己嫌悪がダメ押しのようにやってくる。

 しかし、それでも橘は堪える。惨めな姿を晒すことは出来ない。Aクラスに、堀北学に迷惑をかけたくない。

 その一心で一瞬ボヤけた視界を拭った後、野菜の入ったボウルを奪い取る。

 

「ちょ、ちょっとあんた!」

 

「あなた、私を監視しているのでしょう? なら、ちゃんと見ていてください。私はこんな切り方していませんし、グループを乱す気もありません」

 

 橘は包丁を手に取り、全ての野菜を再度切り直す。

 いくら手際良く出来ても、1人ではタイムロス。

 それを承知の上で橘は自分の無実を証明するように決死の勢いで取り組んでいく。

 

「……おはようございます、順調ですか?」

 

 しかし、間の悪いことに、担当の教師が教室に入ってくる。

 猪狩は教師が一瞬見せた険しい視線に違和感を持ったが、この状況に教師を巻き込むことを優先する。

 

「殆ど順調なんですけど、今野菜を切る事に手間どっちゃってて……」

 

 猪狩は教師の視線を橘の方に誘導する。

 他の生徒が殆ど作業を終わらせている中、今まさに始めたばかりの橘だけが作業を行っていた。

 傍から見れば、橘は作業を遅らせている能力の低い生徒と映っている状況だった。

 

「……そうですか。まだ時間はありますが、余裕を持って行動してください」

 

 教師は一瞬だけ猪狩を見た後、橘を見てそう言う。

 橘は歯を食いしばる。

 惨めな自分に涙が出そうな所を堪え、震えた声で無愛想に返事を返す。

 

(……堀北くん)

 

 心の余裕は少しずつなくなっていく。

 自己嫌悪に嵌っていき、何も変えられない己の無力にだんだんと意思が蝕まれる。

 それでも、橘は迷惑をかけたくない一心で仕事をやりきる。

 嘲笑に囲まれ、涙も流せない。我慢にも限度があった。

 その後、時間だけは何事もないようにすぎ、朝食は提供される。

 一日は平然と進み、1人の少女に当てられる悪意なんてないようにグループは黙々と試験に臨んでいた。

 

 

 一部始終を見ていた善人はその小綺麗な表情を憤怒に変えていた。

 

 

 ──────

 

 

 

 午前の授業は坐禅と清掃の後、全て運動に当てられた。

 内容は試験当日に行われる駅伝のコース、18kmを実際に体験するというもの。

 本番はリレー形式であり、1人最低1.2kmを走るという条件があるため、そこまでの長距離を走る必要はない。

 しかし、今日の練習で直線コースや坂のアップダウンなど1つの指標になっただろう。

 僕たちのグループは15人なので、本番も1人あたり1.2kmを走れば問題ない。

 後は誰がどの地点を走るか決めるだけで、試験は順調と言える。

 

「こんにちは、カムクラくん」

 

 現在は夕食の時間。

 食堂で1人席を探していた僕は櫛田さんと堀北さんに遭遇した。

 裏表のない笑み、人からはニコニコと微笑んだと取れる櫛田さんの表情は相変わらず本性を隠せている。

 

「何の用ですか」

 

「別に〜、用がなきゃ話しかけちゃダメなの?」

 

 表の表情のまま対応しているが、言葉には刺がある。

 僕はその些細な態度で彼女の心理状況を察した。

 

「ストレス発散ですか。全く、難儀なものですね」

 

「あはは、大正解。話が早くて助かるよ」

 

 人気者である彼女はこの狭い空間内では本性を出せない。

 隣で溜息をつく堀北さんの前では素でいられても、その時間は限りなく少なかったのだろう。

 だからいつかの宣言通り、この僕をストレス発散の道具として使いに来た。

 

「そしてあなたは彼女の監視ですか、堀北さん」

 

「そうよ。まぁ、丁度それ以外の用も思い出したけれども」

 

 人の本質を見ようとするその鋭い目付きは堀北学と似ている。

 思い出した目的も察しはついているので、僕は場所を変えるように提案し、食堂の隅の席へ移動する。

 

「ちょっと、あんたはこっち」

 

 僕は櫛田さんの対面に座ろうとしたが、彼女は僕の裾を引っ張り自分の方に寄せる。

 結果、僕の隣に櫛田さん。対面に堀北さんが座る席順になる。

 

「この僕を影扱いですか」

 

「えへへ、この位置なら多少素で話してもバレないよね。そして隣にカムクラくんが居ればみんなそっちに注目がいく。

 万が一にもこの状況を見られても、多少の誤魔化しが出来るわけです!」

 

 未だ笑顔で続ける櫛田さん。

 僕が隣にいることで横から彼女の素顔は窺いづらい。

 背後からも背もたれがあるので見づらく、表情は分からない。

 

「……あなたたち、そんなに仲が良かったかしら?」

 

「うん、仲直りしたの〜」

 

 戸惑う堀北に櫛田は笑顔で即答。

 余計な詮索をするなと暗に告げていた。

 

「それで堀北さん、僕に何の用ですか?」

 

 食事を始めてからすぐに、僕は話を切り出す。

 堀北さんは箸を置き、ゆっくりと返答した。

 

「櫛田さんの借金のことよ」

 

 予想通りの話だった。この話は髪を切った日に彼女と連絡先を交換してから少しずつ纏まっている。

 今日この場で解決の場を持てたことは良い機会だった。

 

「ちょっと、その話はあんたに関係ないって何度も言ったんだけど?」

 

「関係あると何度も言ったわ。これはあなただけの話ではないもの。

 早く解決しないと、Cクラスに付け入られる隙になってしまう」

 

「だとしても、あんたが代引きするとか私が気に入らないから無理」

 

 睨む櫛田さんに真正面から見返す堀北さん。

 どちらも我が強く、己を曲げようとしない。

 

「櫛田さん、ここはプライドを曲げてでも彼女に支払ってもらう方が吉だと思いますが?」

 

「うるさい。これは私の問題、これ以上誰かに借りを作るのは嫌」

 

「しかし、このまま借金を残していれば龍園くんが付け入ることは事実です。

 今回の特別試験は僕がリーダーでありますが、次の試験ではそうとは限りません」

 

 龍園くんの存在を仄めかせれば、彼女は明らかにバツが悪い表情に変わった。

 その様子に堀北さんはやや呆れ気味だった。

 

「……借金はまだ40万だったわね。なら、この試験が終わり次第、すぐに払わせて欲しいわ」

 

「Dクラスの手持ちポイントを使う気ですか? 使えば、その用途の説明が求められます。

 結果的に櫛田さんの事を説明しなくてはいけないため、悪手のように見えます」

 

 僕はあえて批判する。

 現在のDクラスは85cpと、一月に8500ppしか得ていない。

 クラス中からポイントを集めれば払える額ではあるだろうが、その使用用途の詳細は明かさなければならない。

 そうなれば、櫛田さんの本性は晒される。

 

「そうね、あなたの言う通り船上試験で得たポイントは使えない。

 でも、今回の試験でポイントを得れば、払えるわ」

 

 堀北さんは堂々と告げた。

 自信に満ち溢れる表情に櫛田さんが迷惑気な表情をするが、それでも彼女は気に留めずに進める。

 

「今回の試験で私たちが1位になれば、90万ppと270cpを得られる。40万ppくらいすぐに返せると思わない?」

 

「2位になる可能性を考慮していないのですか? Dクラスの総合力はお世辞にも高くないでしょう?」

 

「だからBクラスの力も借りたわ」

 

 全く怯まずに彼女は答える。

 今回の堀北さんのグループはDクラス10人、Bクラス3人、Aクラス1人、Cクラス1人。

 Bクラスから人数が多いのは協力関係故なのだろう。

 下手なDクラスの生徒を入れるくらいなら基礎能力値の高いBクラスで平均点を上げる。

 しっかりと勝利を見ている策略だ。

 

「そして上級生も能力の高いグループを引き当てている、裏付けされた自信はあるようですね」

 

 僕が情報を知っていることに彼女は驚かない。

 僕の才能を理解しているからこそ、彼女は警戒を怠らない。

 この学校内で僕を正しく敵として認識している1人だけはある。

 

「良いでしょう。支払いの目途が立っていることはこちらとしても有難い。

 この試験終了後に支払えれば、今後付け入る隙として扱わないことを約束しましょう」

 

 僕が断言するように告げれば、堀北さんは小さく息を吐き、食事を再開した。

 その様子を不機嫌に見ていた櫛田さん。

 堀北さんを睨みながら黙って食事を口に運ぶその心境は悪態と僅かな感謝が激突しているのだろう。

 

「……ホント、ウザ」

 

 ゆえに、小さく悪口を言うことしかできない。

 

「ウザくても結構よ。これは今後のクラスのために必要なこと。

 先払いしただけだから、今後得られるポイントは私に返済して頂戴」

 

 櫛田さんは鼻を鳴らして彼女から視線を外した。

 本性全開の態度に堀北さんも一苦労そうにため息をつく。

 

「話は終わりですか? なら、これで僕は失礼……」

 

「おい、失礼するな。まだ私のストレス発散が終わってないんだけど?」

 

 食事を終え、立ち上がろうとする僕を櫛田さんは腕を掴むことで物理的に止める。

 力の入り具合的を考慮しても、やはり相当ストレスが溜まっているようだ。

 ここで突き放しても良かったが、僕は丁度良い解決案を思いつく。

 

「愚痴に付き合ってあげても構いませんが、それならあなたに一つお願いしたいことがあります」

 

「お願い?」

 

 お願い、その言葉に堀北さんも視線を向けた。

 僕は声量を抑えてそのお願いを口にする。

 

 

「近い将来、僕は南雲雅と敵対します。

 その時────あなたは何があっても僕の味方として協力してくれませんか?」

 

 

 2人は同時に目を見開いた。

 あまりに突拍子もないその情報に2人の思考はどちらも追いついていない。

 

「……一応聞くけどさ、何であたしなの? 

 新生徒会長と敵対するなら、生徒会役員である一之瀬さんにお願いすれば良かったんじゃないの?」

 

 櫛田さんは手を離し、頬づえをついて鋭い指摘を投げる。

 

「今の一之瀬さんでは南雲雅に対抗できなくて、今のあなたなら南雲雅に対抗できるからです」

 

「うん、なら良いよ」

 

 承認欲求は収まらず、子供のような無邪気な笑みとして表に出る。

 しかし、即決は予想通りだった。

 学年で最も優秀な一之瀬さんよりも自分を選んだという事実は決断を緩くするように仕向けた僕の誘導。

 リスクリターンを考慮せずに即断したとなれば、彼女は本能の赴くままに選択したことになり、成長の兆しは見られない。

 

「勘違いしないで。あんたの甘言に乗せられたわけじゃない。私は、私の選択で即決した」

 

「……へぇ」

 

 櫛田さんは僕の瞳を真正面から覗き、お前の考えていることは分かっていると言わんばかりに勝ち誇った表情を見せる。

 読み辛い。

 今の彼女は、超分析力を以ってしてもその心情が完璧に把握できない。

 僕の才能に充てられたことで彼女自身の才能が昇華しましたか。

 

「一応聞くけど、その協力関係は特別試験にまで持ち込むつもりはないのよね?」

 

 話の結末を見守っていた堀北さんが確認を取る。

 

「ええ。特別試験にまで持ち込んでしまえば、ツマラナイですから」

 

「そう。なら、許可するわ。好きに協力して」

 

 上司のように告げる堀北さん。

 当然、その言い方では金髪の少女は突っかかる。

 

「おい、なんであんたの許可がいるわけ?」

 

「あなたは船上試験で裏切ろうとした前科がある。だから、審査は必要よ」

 

「……ぐっ!?」

 

 しかし、即座に返り討ち。

 ぐうの音も出ない正論だった。

 

「それでは、僕は失礼します」

 

 トレイを持ち、僕は足早でこの場を退散する。

 2人の関係も確認出来て、この時間は良い時間でした。

 

 

「……あなた、愚痴は良いの?」

 

「あっ!!」

 

 

 僕は都合よく聞き逃した。

 

 

 

 ──────

 

 

 夕食、風呂と終え自由時間を迎える。

 共同部屋から外に向かった僕はある生徒との待ち合わせ地点で夜風にあたっていた。

 消灯時間まで1時間ほどあるため、大抵の生徒は起きているが、人気の少ないこの場所にまで足を運ぶ人間は少ないだろう。

 

「待たせたな」

 

 学校指定のジャージを着た3年生、堀北学は約束していた時間通りに現れた。

 人気のないこの場で話す内容は南雲雅、ひいては橘茜に関係することだ。

 

「橘の様子はどうだ?」

 

 堀北学は前置きなく、立ったまま話を始める。

 

「僕の忠告が功を奏したのか、今日の午前中は頑張っていたそうです。しかし、午後、夕食となればその元気もなくなったとのことです。

 他の3年生から悪者扱いされ、グループの輪を乱す存在に仕立て上げられているとか」

 

「……つまり、南雲は本当に周囲を巻き込むという訳か。あいつは勝負事には真っ直ぐ向き合う男だと思っていたんだがな」

 

 真鍋さんからの報告をそのまま伝えると、彼は残念そうな表情を浮かべ、そのまま思い耽るように目を閉じる。

 

「覚悟は決まりましたか?」

 

 開いた瞼からは強い眼光が。

 どうやら、これ以上の追及はいらないようだ。

 

「ああ、奴がその気ならばこちらも動こう。だが、俺が先に奴を裏切って周囲を巻き込むわけにはいかない」

 

「……こちらとしてもいくつかのプランを用意していますが、結局は橘茜が卒なく試験をこなし、道連れの一因から外れることが最も簡単な手段です」

 

「そうだな。しかし、お前の忠告を聞いても橘は本調子に戻らなかった。おそらく、誰にも迷惑をかけないように、南雲の悪意を一身に引き受けるつもりなのだろう」

 

 橘茜は決して馬鹿ではない。自分の置かれた状況、堀北学と南雲雅の勝負、そして道連れのルール。

 もう自分が標的だと察しはつき、自分一人だけで退学を引き受けるつもりだ。

 

「サブプランとして彼女の所属する大グループを最下位にしないよう手を打ってはいますが、こちらの成功率は高くない。

 もっとも、南雲雅同様にどんな手段を講じても良いのならば、成功率を100%にすることは出来ます」

 

「手段を選ばなかった時、橘は本当に救われるのか?」

 

「ええ、退学はしません」

 

 堀北学の眼光が強くなる。真鍋さんのような凡人は1から100まで説明しないと察せられないが、流石は生徒会長だった。

 直観的に僕のやることを察したようだ。

 

「却下だ。それ以外の方法で頼む」

 

「安心してください。僕がこの試験に退屈しない限りは実行しませんから」

 

 堀北学の眉が僅かに吊り上がるが、彼は自分の立場を理解しているので、ただ不満気の視線を向けるだけに済ませる。

 彼はどうしても専守防衛の立場にいて動けない。

 だから、その手足になる僕に文句は言えない。

 

「僕の用意した策の1つはとある2年生への干渉です」

 

「干渉? 橘の所属するグループの2年は全員南雲の味方だが、それを裏切らせることはいくらお前でも不可能な気がするが?」

 

「具体的には、試験本番前日、その夕食の時間に朝比奈なずなへ圧力を掛ける予定です」

 

 信用を得るために僕は情報を一つ提示する。

 

「朝比奈にだと? 彼女は南雲と非常に仲の良い女子だったはずだが、一体何を考えている」

 

「それは言えませんね。まぁ、脅しだと思ってくれれば構いません」

 

 そのまま、僕は彼に策の全てを説明する。

 すれば、堀北学は鋭い目付きをさらに細くした。

 しかし、彼は僕の事を咎めない。そんなことを言える権利がないことは既に理解している。

 

「……約束しろ。関係のない生徒を傷つけないことを」

 

「ええ、約束しますよ。結局、橘茜を救うなら、彼女をその気にさせることが手っ取り早いですしね。

 まぁ、ただ救われることを待っていては救えるものも救えませんが」

 

 僕はあえて冷めた口調で告げた。

 

「彼女を奮い立たせる方法があるのならば、僕に言ってください。あなたの命令は忠実にこなしましょう」

 

「……ああ。だが、こちらとしても出来る限りのことはやるつもりだ」

 

 消灯時間が近づいてきたため、見回りの先生が僕たちに声を掛ける。

 秘密の話はここでやめ、僕たちは解散した。

 

 

 




お気に入り7000感謝します。
完結目指します。
櫛田と堀北なら、櫛田派です。

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