ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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派閥の予兆

 

 

 

 

 特別試験6日目、午前中。

 今日は最終試験日に行われる駅伝のコース往復18㎞を実際に歩いて走って、午後の授業までに帰ってくることが午前の授業だった。

 一之瀬は自分のグループメンバーの状況を確認しながら走るペースを調整する。

 運動を好むが、得意と誇れるものではない。しかし今はまだ余裕があるので、彼女は自分より運動が苦手な人たちを手助けする。

 

「はぁ、はぁ、ったく、どうなってんのよこの、坂道」

 

 真鍋は大きく息を吐きながら毒も吐く。

 マイナスな言動はグループの士気を下げがちなものだが、真鍋が懸命に走っている様子が皆に伝わっているため殆ど影響はない。

 むしろ、アップダウンの激しい山岳地帯を走って歩いてを続けて弱音の1つも言わない方がおかしいため、真鍋の言葉は偶然にも皆の代弁になっていた。

 

「ま、真鍋さん、ペース大丈夫? 前の授業よりだいぶ早いと思うけど?」

 

「そうよ。倒れちゃったら元も子もないよ」

 

 同じグループであり、真鍋とよく一緒にいる生徒である藪 菜々美と山下 紗希が心配して声を掛ける。

 

「……別に大丈夫、私は責任者だから少しでも平均点を上げたいだけ。無理もしてない」

 

 真鍋は汗を拭いながら冷たい口調で返す。

 体力の限界が近いため、コミュニケーションを取ることに余裕が無い。

 しかし、真鍋はまた初速から飛ばして走り出す。

 

「ちょっ、真鍋さん待ってよ!」

 

 懸命に取り組むその姿勢に取り巻きの2人もまた離されないように後を追っていった。

 一之瀬はその様子に違和感を覚える。強気で性格の悪い人という噂通りの人だと思っていた。

 だが、今の彼女は口の悪さこそ治ってないが、ただ全力で試験に臨む生徒に見えた。

 まるで、自分の悪い部分を矯正するために努力している。そんな光景を、一之瀬は非常に眩しく感じた。

 

「どうしたの一之瀬さん?」

 

 後方からDクラスの生徒2人が合流する。

 本来なら、このグループにはAクラスとCクラスの余り物で構成されるグループだったが、残ったDクラスの生徒のうち、真鍋さんのことを気にしない2人を迎えたのだ。

 彼女たちの名前は長谷部波瑠加、佐倉愛理。

 まだまだ余裕ありげで一之瀬に声をかけた方が長谷部で、ヘトヘトな様子な方が佐倉だ。

 

「いや、何か真鍋さんの雰囲気が前と少し変わったなぁって」

 

「ああ~、確かに。前までは超性格悪いヤンキーって感じだったのに、今は更生中のギャルみたいだよね」

 

「ちょ、ちょっとストレート過ぎない?」

 

 言葉を包むつもりがない長谷部に一之瀬はついついたじろぐ。

 冷たい言い方と視線、同じグループに入ったとはいえ、長谷部があまり真鍋のことを好んでいないことが窺えた。

 

「別に良いじゃん。実際、そんなもんでしょ。愛理もそう思うでしょ?」

 

 しかし、返答はぜぇはぁと激しい息継ぎ。

 これでは肯定か否定かもわかったものではない。

 

「わ、私もそういう風には見えますが、別に悪いことではないと思います。だって、真鍋さんは昔の悪い自分を変えようと必死なんですよね? 

 それって本当に大変なことで、そうやって努力するだけでもす、凄いことだと思うんです」

 

 呼吸を整えさせてから、彼女はゆっくりと話す。

 佐倉の意見に一之瀬はまた心が揺らいだ。

 大きく変わることは難しい。

 悪い自分、怠惰な自分、犯した罪がある自分といったマイナスな自分を変えることの難しさを一之瀬は良く理解している。

 その過程で逃げ出したくなる気持ちもよく理解している。

 楽な方へ逃げて己に向き合わないように生きることは簡単だから。

 逆を言えば、その過程に向き合うことは難しくて、『大変』。

 だからこそ、逃げずに自分を変えようとしている真鍋は凄い。

 そう評価を下し、冷めた視線で足元を見る。

 

「私はそうは思わないけどね」

 

 長谷部は佐倉の意見を真っ向から否定する。

 

「確かに、自分を変えることが難しいのは理解しているし、それに挑戦すること自体は凄いと思うよ。

 でもさ、真鍋さんとか明らかに人を傷付けてきた人間じゃん。そんな人間が懸命に改心しようと努力しても、結局は普通に戻るだけじゃん。

 誰も傷付けず、普通に生きてきた人たちがする努力とは違うでしょ。真鍋さんが傷付けた人間から見れば舐めんなって話だと思うけどね」

 

「そ、それは……」

 

 一之瀬はその言葉に徒歩のペースが落ちる。

 長谷部が真鍋を好ましく思っていないのはこの考えからだとすぐに理解した。

 誰かを傷付けた人間が懸命に努力した所で、その傷付けた人から信用を取り戻すことは難しい。

 いや、出来ない。そう、心の暗い部分が強く訂正する。

 一度行った罪は全てを壊す。二度と元には戻らない。

 テープで補強した小道具のように、一時的には利用できても、すぐにボロが出るものだ。

 

「だ、大丈夫ですか、一之瀬さん?」

 

 一之瀬の顔を覗き込むように佐倉は顔を寄せる。

 綺麗で愛嬌のある顔。

 彼女がグラビアアイドルであるという秘密を偶然知っていた一之瀬だったが、こういう人が人を笑顔にするんだなと改めてその才能に脱帽してしまう。

 しかし、誰かに心配させるのも忍びないので、表情を整える。

 

「にゃはは、大丈夫だよ。少し疲れがたまってたみたいだけど、一瞬ボケーっとしたら大分戻ってきた!」

 

「そ、そうですか。でも、無理しないでくださいね」

 

 佐倉の心配を受け取り、一之瀬はピースサインを返してジョギングにペースを変更する。

 先に行った真鍋やAクラスの生徒の様子を確認するため。そう、自分の判断に理由付けた。

 

「……大丈夫。私はもう繰り返さない」

 

 内に潜む闇を振り払い、一之瀬は少しペースを上げる。

 進むごとに現れては消えていく日影は、酷く不気味だった。

 

 

 

 ────────

 

 

 

 6日目の夕食の時間になれば、もはや定番のように情報収集をしていた。

 今の所南雲雅からの接触はない。

 僕が自クラスの女子から情報を集めていることは分かっているだろうが、別にそれはおかしなことではない。

 分かった上で、南雲雅は放置しているのだろう。

 

「おや」

 

 周囲の状況を確認すると、綾小路くんを見つけた。

 彼は2年生の女子集団の方を向いていて、こちらが見ていることにまだ気付いていない。

 そのまま女子集団の1人が離脱すると、綾小路くんは狙い済ましたかのように接触を図った。

 その女子生徒は僕も見知った生徒、朝比奈なずな。

 どうやら、しっかり仕事をこなしているようだ。

 

「……おい、カムクラ」

 

 敵意ある視線を感じたので振り返ると、自クラスの時任くん、そして金田くんが立っていた。

 

「珍しい組み合わせですね。何の用ですか?」

 

「これからのCクラスについていくつか確認してぇ事がある。付き合え」

 

 特に絡みのない2人の接触と会話内容は退屈しのぎにはなりそうなので、僕は黙ってついていく。

 人気の少ない席に移動すれば、2人は僕と対面するように座った。

 

「貴重な時間を貰ってすみません、カムクラ氏。情報収集も終わったと思って声をかけさせて頂きました」

 

 こちらの様子を伺っていたようだ。

 必要な情報収集は既に終えたので、これ以降は彼らに使って問題ない。

 

「早速本題に入るぞ。カムクラ、これからもCクラスのリーダーを続けてくれないか?」

 

 余計な前置きなしに時任くんは告げてきた。

 

「お前も知っての通り、俺は龍園が嫌いだ。奴のやり方が気に食わない。

 これまでは結果を残してきたから従ってきたが、今回なぜ結果が残せたか身に染みるくらいにはっきりわかった」

 

「それはなぜ?」

 

 僕は分かりきった上で彼に質問する。

 

「お前の存在だ。体育祭やペーパーシャッフルで分かっていたが、お前の教育能力や統率力は龍園の比じゃねぇ。

 お前が力を貸していたから奴はここまで結果を残せたんだ」

 

「本当にそう思っているなら、今すぐこの場から去ることをオススメしますが?」

 

 食事の手を止めずに僕は返答する。

 すると、トゲのある言葉から僕の機嫌を損ねたと判断したのか、彼は悔しそうな表情を浮かべてもう一度告げる。

 

「……分かっている。あの野郎が優れていることくらいな。全部が全部お前の成果ではなく、あの野郎の知略でCクラスが勝ってきた事実もだ。

 だがな、それでも俺はお前がリーダーにつくことがCクラスに最も大きな利益を齎すと思っている。それを、今回の試験で実感できた」

 

 正直に、自分の心境を吐露する時任くん。

 しっかりと自分の意見を言える我の強さと時にその我を捨てられる判断力、どちらもただの駒にしておくには勿体ない素質だ。

 それでいてクラスのことを考えられる貴重な存在。

 僕や龍園くんに特別試験のことを任せきるのではなく、思考して意見を述べている彼のような者はクラスに必要な人材です。

 

「僕も同意します、カムクラ氏。これまで龍園氏は誰も予想の出来ない手段を使ってCクラスを勝利に導いてきた。

 しかし、体育祭やペーパーシャッフルのような純粋なクラスの総合力を競う時、やはりあなたの存在は大きい。

 加えて今回の試験で、あなたは龍園氏のように何かの暗躍をしている。つまり、龍園氏のように予想の出来ない手段も講ずることが出来るという訳です」

 

 時任くん同様に金田くんもクラスのことを考えれる人材だ。

 しかし彼らは視野広くものを捉えられるからこそ、最もツマラナイ結論に辿り着いていた。

 

「金田くん、あなたは龍園くんの参謀として不満があったのですか?」

 

「……いいえ。僕は、龍園氏がリーダーでも良いと今でも思っています。彼の手法は強引でこそあれど、クラスに大きな功績を残しているからです。

 しかし、カムクラ氏がリーダーである方がより確実にAクラスに行ける。そう、判断しました」

 

「クラスのため、ですか。正しく周りを見れていること、そこだけは評価しましょう。

 しかし、僕はリーダーをするつもりはありません」

 

 残念そうに、それでいて仕方なさそうに金田くんは苦笑いを浮かべた。

 僕の返答に彼は落胆を見せない。

 今まで龍園くんの近くで僕を見ていたから、分かり切った答えだと理解していた。

 

「……何故だ、お前ならば龍園よりもっとクラスを良いものに出来るはずだ。お前について行けば、俺たちはAクラスだって夢じゃないはずだ。

 お前にはその素質が……才能があるんだろ?」

 

 対照的に諦めきれない時任くん。

 Aクラスになる。この学校の生徒ならば誰しも持つ夢に近づくために、彼は僕の説得を試みる。

 

「ええ、腐るくらいにありますよ」

 

「なら、なぜリーダーにならない。やる気がないからか? それとも、未知とやらが見れないからか?」

 

 自分の頭では処理できない理屈を感じながらも、彼は苦しげにそう言った。

 

「ええ。僕が集団を引っ張っても、その先の未来に何の面白みがありませんから」

 

「面白みだと?」

 

「僕がリーダーになれば、Aクラスも夢じゃないとあなたは言いましたが、それは違います。

 僕が集団の先頭に立てば、Aクラスなんて通過点です。僕についてくる人間には文字通り英才教育を施しましょう。社会に出ても足を引っ張らず、周囲から頼られるような必要不可欠な人材に変えてあげましょう。

 でもね、そこに未知なんてありません」

 

 彼は理解の出来ない存在を見るかのように僕を見る。

 この展開は、分かりきっていたことだ。

 

「100回やって100回満点で解けるテストを受けないように、僕にとって完璧な支配とはこれ以上ないほどツマラナイものなんですよ」

 

 所詮、僕が前に立てばどんな人間も霞んでしまう。

 堀北鈴音、龍園翔、一之瀬帆波、坂柳有栖、南雲雅、堀北学、そして綾小路清隆。

 彼らにどれだけ素質があっても、僕と比べてはいけない。

 

「……1つ聞きたい。お前には、欲ってものがないのか?」

 

 唐突に、彼はそう聞く。

 

「僕は未知を見たいという欲を持っていますが?」

 

「そうじゃない。支配欲や承認欲求、ポイントをもっと欲しいとか、誰にも負けたくないとか、もっと単純な欲だ」

 

「ありませんね。僕はそれらを余計なものと排除して生まれた人間ですから」

 

 時任くんの顔が引きつったものに変わる。

 実力ある者が集団の先頭に立たないことが、彼は理解できなかった。

 ゆえに、原因を考えた。

 だが、謎はさらに深まってしまったようだ。

 

「……よく分かったよ。お前が、人間の振りをしている化物ってことがな」

 

 彼はゆっくりと告げた。

 その言葉は久しく言われていなかったが、もう言われ慣れている。

 

「正しい。けど、安心してください。今回の試験は約束通り必ず勝たせます。だから、あなたたちも自分の事に集中してください」

 

「……分かっている。別に、俺はクラスが負けて欲しいわけじゃない。試験は全力で取り組むさ」

 

 時間も時間なので、僕たちは解散した。

 

 

 

 ────────

 

 

 

 カムクラが自クラスの生徒と話している中、綾小路は朝比奈なずなに接触を図っていた。

 目的はカムクラからの依頼通り、南雲の真意とその周辺情報を集めるため、そして当然、自分の今後のためだ。

 食事中に1人で席を立った朝比奈を確認すれば、綾小路はその後を追う。

 手洗いを済ませたことを確認すれば、すれ違いざまを装って仕掛けた。

 

「あれ?」

 

 朝比奈に声を掛けたように、独り言のようにも聞こえる呟きをする。

 すると、朝比奈は思わず足を止め軽く振り返った。

 

「あ、すみません。以前見たことのあるお守りだと思ってしまったので。気にしないでください」

 

 綾小路はそう言って立ち去ろうとした。

 お守りは赤く、朝比奈の左手首にお洒落のように身に付けられたもの。

 

「このお守り、もう学校に入荷してないんだけどな」

 

「そうなんですか。もしかして、以前そのお守りをどこかで落とされませんでしたか?」

 

「もしかして……私のお守りを拾ってくれたのって君?」

 

「多分、そうだと思います。以前似たようなものを届けたので。すみません、確認させてもらってもいいですか?」

 

 朝比奈はもう一度お守りを綾小路に見せる。

 

「間違いありません。これ、冬休み前に拾ったお守りです」

 

「冬休み前。あはは、じゃああの時あたしが転んだの見てた男の子って、君だったんだ」

 

「……そうですね。なんか、すみません」

 

 2人は自分たちが偶然出会っていたことを確認し合う。

 きっかけは本当に偶然。朝比奈が転んで落としたお守りを、雨模様の天候状態を鑑みて綾小路が寮に届けた。

 そして彼女の手に戻ってきた。

 もっとも、これを偶然だと捉えているのは朝比奈だけなのは言うまでもない。

 一度見た人間の顔を綾小路は忘れない。

 

「拾ってくれてありがとう。あれ以来、落とすのが嫌になっちゃってこうやって身に付けてることが多いんだよね」

 

「とても大切な物のようですね」

 

「いや、そこまで強い思い入れとかあるわけじゃないんだけどね~。なんていうか、精神的支柱的な? 

 こういうのが手元にあるとすごく安心できるんだよね」

 

「そうなんですか。何にしても、届けて正解でした」

 

 綾小路は極めて無害そうに告げた。

 

「うん、本当にありがとう。それに、拾ってくれたのがまさか君だったとは思ってもみなかったかな」

 

「オレの事を知っているんですか」

 

「うん、堀北先輩とのリレーで注目を浴びていたから知ってるよ。この間も雅、じゃわかんないか。南雲生徒会長に声を掛けられてたでしょう?」

 

「もしかして、その場に?」

 

「まぁね」

 

 綾小路はこの出会いが偶然であることを装うために、惚けたふりをする。

 南雲に声を掛けられた時とは、冬休み期間の事で軽井沢、平田、佐藤と遊んでいる時のことだ。

 

「オレは足の速さには自信があったのですが、正直に言うとそれ以外の部分が全くで。何か勘違いされて、南雲生徒会長に目を付けられてしまったんですよね」

 

 困ったように綾小路が言えば、朝比奈は分かる分かると繰り返し頷いて見せる。

 

「あいつ、堀北先輩を尊敬してるって言うか、目標にしてる所があるからさ。あのリレーの時、自分じゃなくて君を選んだことで妬いちゃったんだよ」

 

「どうすれば、南雲先輩から目を付けられなくなりますかね」

 

「あぁ~、まぁ、ほっとけば大丈夫じゃない? 雅の奴、他の一年生に標的定めたみたいだしさ」

 

 朝比奈が冗談めいた口調でそう告げる。

 他の一年生、南雲が標的にするほどの一年生と言えば、綾小路は1人しか思いつかない。

 

「他の一年生ですか。それってもしかしてカムクラの事ですか?」

 

 朝比奈は一瞬瞼を広げるが、すぐに何事もないように笑って返答する。

 

「良く分かったね。雅はね、体育祭で負けて大恥かいたのに批難されることなく、『相手が悪かった』って慰められてたことが相当悔しかったみたいなんだよ。

 だから、堀北先輩が卒業したら彼にリベンジする気満々なんだよね」

 

 綾小路は思い返す。

 あの時、自分は負傷しながら堀北学と勝負し、不慮な事故があって敗北した。

 しかし、最終的な順位は4位。

 カムクラと南雲、堀北が前にいるだけで、その他の前にいた生徒は抜き去った。

 そして、カムクラはぶっちぎりの一位で走り終えていた。

 

「オレは走りに集中していて周りが分からなかったですが、あのカムクラ相手なら仕方ないかなと思ってしまいます」

 

「あはは、ほんと凄い差があったからね。まぁ、それで折れないのが雅らしいんだけどさ」

 

「南雲先輩は負けず嫌いなんですね」

 

「子供っぽい性格だもん、あいつ。……とにかく、君が目を付けられるとしたら、そのリベンジを果たした後じゃないかな」

 

 話が脱線したことに気付いた朝比奈が元に戻す。

 ここで話が一区切り、そうなると判断した綾小路はここで仕掛けた。

 

 

「────なら、これからは安心して生活できそうです」

 

 

 綾小路が淡々と答えると、朝比奈は一瞬呆然とした顔を見せる。

 そして明るい雰囲気から一転、ひどく神妙な顔つきに変わった。

 

「それ、どういう意味?」

 

「そのままの意味ですよ。目を付けられる日は一生来ない」

 

「雅がカムクラくんに勝てないってこと?」

 

「ええ。……そんなに意外ですか、南雲先輩が負けることが」

 

 綾小路は冷めた口調で続ける。

 

「それとも、倒され続けるのは流石に困りますか?」

 

「冗談ってわけじゃなさそうだね。良いの? 私が雅に近い生徒ってわかってるのにそんな口調しちゃって」

 

「その時はその時でしょう? 生意気な後輩が1人増えたと思って南雲先輩は喜ぶんじゃないでしょうか」

 

「確かに、雅は喜ぶだろうけど……君じゃどうこう出来る相手ではないと思うよ」

 

「どうでしょうね。何にしろ、オレが出る幕でもないことはもう分かりました」

 

 そう言えば、朝比奈は観念したようにため息を吐いた。

 

「ほんと、今年の1年はすっごい生意気だね。自分が出る幕じゃないってことはこの試験がどんな結末になるか分かってるってことでしょ」

 

「……結末ですか。それは、正直分かりかねますね」

 

「えっ? 何急に弱気になんてるのよ~」

 

 先程まで強気だった綾小路が腕を組んで考える素振りを見せる。

 朝比奈はその変化が可笑しくてやや気が抜けた。

 

「やっぱり君も雅と堀北先輩、どっちが勝つかは断定できない口なんだね」

 

「いいえ、今回の試験は堀北先輩が勝つでしょう。俺が分かりかねるのは、カムクラの目的です」

 

「カムクラくんの目的? そんなの堀北先輩を助けて勝たせることでしょ? そのために彼はクラスの女子を使って暗躍しているんだよ」

 

 朝比奈の言うことは綾小路も納得できる。

 暗躍する理由も、堀北学を助ける理由にも矛盾はない。

 だが、本当にそれだけなのか。

 

(今回の試験、奴は真鍋を筆頭にした何名の生徒を使っているが、どうして朝比奈や3年生をもっと利用しない。確実に南雲を止めるには必要だろう?)

 

 微妙な違和感とただの直感だが、なぜだかカムクラの目的がただ橘を救うだけに思えなかった。

 

「そうですね。変なことを言いました。時間も時間なので、俺はこれで」

 

 綾小路はその言葉を最後に、朝比奈の前から立ち去る。

 南雲の真意を聞くために朝比奈に接触した綾小路だったが、無駄骨だったことを理解した。

 縁が出来ただけで十分。

 後は、カムクラに報告するのみ。

 それで今回の試験における自分の役割が終わる。

 

「いや、止めるのではなく……まさかな」

 

 持ちうる情報からカムクラの目的を推測する。

 しかし、その全貌は分からない。

 綾小路は推測を続けながら、共同部屋に戻っていった。

 

 

 




龍園とカムクラ。
強引な手段や謀略を平然と取り入れるが、ある程度の人情がある大胆不敵なリーダーか。
ありとあらゆることが完璧に出来るけど、未知以外に興味がない冷酷無情なリーダーか。
皆は、どっちがリーダーになってほしい?
僕はどっちも怖い!!

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