~前回までのあらすじ~
南雲VS堀北学、カムクラの混合合宿が決着。南雲は盤外の一手を見抜かれて完敗した上に、悪事がバレちゃった。
今回の話は混合合宿の結果に対するそれぞれの反応です。
騒動の渦中
混合合宿の特別試験の全過程が終了し、1学年の生徒たちがクラス単位でバスへ移動した。
3学年4クラスの計12台のバスに乗り、高度育成高等学校へ戻る。そんな全体スケジュール、それで混合合宿は終わりを告げる。
しかし、2年生と3年生はバスに乗れず、未だ体育館に残っていた。
バス自体は既に到着している。帰れない理由はバスのトラブルではない。
その理由は、上級生のみ特別試験の結果が変わる可能性があったから。
論点は、南雲雅、及び橘茜のいじめに関わった人物への制裁について。
現在は事情徴収の最中。
加害者たちと被害者である橘茜、試験の過程を詳しく知る何人かの生徒たちを交えて事細かに事態を把握している。
「ねぇなずな、私たち一体どうなっちゃうのかな」
どうにもならない事態に発展し、不安が伝播した2年Aクラス。そのクラスメイトの1人が、朝比奈に声をかける。
8クラスの生徒たちが体育館で待たされているが、既に携帯も返却されて自由を許されている。
この事態に関わっていない生徒たちは待たされいることにイラつきはあれど、クラス順位変動の可能性を察しており、存外リラックスして時間が過ぎている。
しかし、2年Aクラスだけは違った。
絶対的な力を有していたクラス、そのリーダーの転覆。彼についていったことで盤石の地位を手にしていたクラスメイトはこの時間を耐えられない。
瓦解する音を感知してしまい、居ても立っても居られない。
「……分からない。今回ばっかりはどうなるかなんて私にも分からないよ」
朝比奈はゆっくりと告げる。
クラスでは発言力が高く、南雲と一緒にいたことで人望もある彼女がそう伝えれば、クラスメイトは黙るしかない。
神妙な面持ちを見せるクラスの中心人物。普段は明るい表情で振る舞うこともあって、事態が深刻であることを理解するしかなかった。
「そ、その、朝比奈さんは今回の件を事前に聞いていたの?」
「聞いてないよ。知ったのは試験が終わる直前で、その時にやめるようには説得したけど……」
今回の事件を朝比奈が知ったのは、最終日の直前。南雲からある程度の信頼を得ている自分ですら、今回のことは相談もなかった。
「時遅し、という訳か」
「試験前から何かを企んでいるとは思っていたが、それでもまさかこんな結末になるとはな」
会話に2人の男子が参加する。
駿河と溝脇、どちらも生徒会に所属する生徒で、彼らもまた南雲と親しい人物だった。
「朝比奈、お前は事態について詳しく知ってそうだな?」
「うん、知っていることは全て話すよ」
朝比奈は南雲の策とその裏で起こっていた堀北学、カムクライズルとの駆け引きを簡潔に説明する。
「……そうか。だが、最終的には手を引いたから最悪は避けれそうだが……」
「いや、そう甘くはねぇだろ。いじめが露呈してしまった以上、学校側だって然るべき対応を取るはずだぜ」
「……そうだな。現実を見る必要がありそうだ」
いじめの処罰。試験に勝利するため行われた策といえど、いじめは犯罪行為。
その罰は非常に重たい。
2人の生徒会メンバーはその事態を重く受け止め、自分たちのリーダーが最悪の事態になってしまうこと、ひいてはクラスポイントの変動まで予見する。
そしてその事実を受け止める覚悟、起こり得るクラスの反乱に備えるために事態を重く受け止めた。
(私がもっと強く雅を止めていれば、こんなことにならなかったのかな)
後悔が朝比奈の脳裏を過ぎる。
橘茜を追い詰め、堀北学に一矢報いる。
南雲が堀北学に固執していることなんてわかりきっていた事実。学年で行われる特別試験で南雲が堀北に絡んでいたのは一度だけじゃない。
それを、こんな凶行に至る前に止めれなかった自分を、朝比奈は責める。
「はっ、桐山の言う通りになっちまったな。堀北先輩に絡む南雲を止めるべきだった」
駿河もまた後悔していた。
生徒会副会長桐山、彼は2年Bクラスといえど、とある事情から南雲の悪癖を事前に指摘していた。
「南雲が生徒会長じゃなくなったとなれば、次の生徒会長はあいつだ。厄介な奴の所に権力がいってしまうな」
「やることが山積みだぜ。……ったく、まさかこんなことになるとは思いもしなかったっての」
「全くだ」
波乱に対して2人は対策を講じていく必要があることを理解する。
2人の心中に共通するは、この結末が誰も予期しえなかったものということ。
絶対的な実力を持つ男の敗北、それを予期できなかった。そして、その影響がここまで大きくなるとは思いもしなかった。
「……雅」
事態の重さを、朝比奈は彼らと話したことで再度理解した。
朝比奈といえど、調子に乗る南雲を一度は叱って欲しいとは思っていた。
今回のことで、南雲が反省してその実力を十全に発揮できるようになってくれるならこの負けも糧になるとは思っている。
しかし、この大敗に、自分たちのリーダーの心は耐えられるか。
朝比奈は、南雲の友人としてそこだけが心配だった。
──────
上級生が未だ体育館に残されている中、1年生は帰路のバスに乗っていく。
試験も終わり、このバス時間は行きと同じように好きにしていい時間だ。
溜まった疲労を睡眠で癒す、グループが違うことで話せなかった友人と話す、今回の試験の反省をする。
このように、各々が好きに行動を始めていた。
「はぁ~、疲れた」
1年Aクラスのバス中でも同様のことが起きている。バスに乗った神室は自席に向かうなり、深く座席へ沈み込む。
「お疲れ様でした、真澄さん」
「あんたもね。慣れない環境で大変だったでしょ?」
隣に座る坂柳が労う。神室もまた、彼女の身体を気遣う。
坂柳は先天性の疾患により運動能力が制限されている。
杖を必要とする日常生活からもそれは明らかであり、普段と違う生活というだけで彼女の肉体にかかる疲労は常人よりも大きい。
「そうですね。しかし、それ以上に楽しい合宿でしたので、体感では思ったよりも疲労を感じていませんよ」
「私は全然楽しくなかったわよ。今回の試験、Aクラスはギリギリプラスって結果だった。1週間もしんどい共同生活させられたにしては割に合ってないと思うんだけど?」
「そうですね。ポイント変動の数字だけ見たら割には合っていません。けれど、こちらは龍園くんとの契約に修正点を設けられた上でのポイントがプラス……十分な成果です」
カムクラが完全勝利するため、試験中に坂柳へ持ちかけた交渉が今回のAクラスの結果をもたらした。
女子側で坂柳がCクラスへ攻撃することを事前に察知したカムクラからの提案。
それを特別試験以上に価値があると判断した坂柳は交渉に応じ、今回の試験で大きな利益を獲得した。
その利益が、無人島試験で結ばれた契約の徴収ポイントの減少だ。加えて、特別試験の結果もクラスポイント上昇。十分すぎる成果だった。
「それに……最後の南雲生徒会長と言ったら、フフ……」
「あぁー、あれはカムクラが関係しているのよね?」
「はい、もちろん。本当に、イズルくんが今回の試験でこうも実力を発揮してくれたのは嬉しい誤算でした」
坂柳は小さく笑って肯定した。
「あれ、結局どういうことだったの? 急に校長先生が悪事を暴露したかと思えば、南雲先輩は親の仇でも見るかのようにカムクラを睨んでたけど?」
「南雲生徒会長が今回の落とし所を見誤っただけですよ」
「……全然わかんない。もっと詳しく説明して」
簡潔に言葉を伝える坂柳に、神室は眉を寄せる。
「結論から申し上げますと、イズルくんの目的は橘先輩の救済ではなかった。……いえ、より正確に言えば橘先輩の救済も目的の一つではあったのでしょうが、本来の目的は南雲生徒会長の権力を削ぐことだったんでしょう」
思った踊りの反応が見れて満足した坂柳は続きを説明していく。
今回、カムクラに協力したことで事の顛末を予め聞いていた彼女はその過程を楽しみながら追っていた。
女子の編成段階から、既に布石は打っていた。
真鍋という駒を猪狩先輩のグループに向かわせ、そこへ都合よく余りもののグループに入ったことで真鍋と一緒のグループになった一之瀬を利用。
幸運も相まって、2人の監視役を揃えた。
目として、耳として、最終的な暴力装置としての駒。纏め役として、善人として、盤上を動かしやすくする機能としての駒。
これらを操って、カムクラが南雲の失脚を狙っていたと坂柳は判断した。
「どうして南雲生徒会長の権力を削ごうとしたのか、その理由までは分かりませんが、イズルくんにとって彼は邪魔だったのでしょう。試験が始まってすぐに南雲生徒会長の策を見抜き、泳がせ、最終的に彼の悪意を完璧に止めた」
「堀北先輩と南雲先輩が試験の順位で競い合うっていう情報は耳にしてた。で、カムクラは堀北先輩と協力して南雲を止めた。それで大団円かと思ったら大暴露って感じ?」
「はい、その認識で間違いありません。堀北先輩の驚愕した様子から見ても、きっと南雲生徒会長が敗北した後のことは考えていなかったんでしょう」
2人はよく競い合っているというと坂柳は情報収集していたが、実際にこの目で2人の距離感を見てみれば、仲違いしている訳ではなさそうだった。
むしろ、南雲が堀北を見る視線には敬意すら宿っている。
人間関係ではあまり良い噂を聞かない南雲でも、堀北学という男には尊敬を抱きながら挑んでいる。そんな風に、彼女の目には映っていた。
「というかそもそも、南雲先輩はなんで橘先輩を狙ってたのよ。堀北先輩との真剣勝負じゃないの?」
「私もそう聞いていましたが、南雲生徒会長からすれば何が何でも勝ちたい勝負だったのでしょう。そこで、男女が完全に分かれるこの試験で堀北元生徒会長のクラスメイト、かつ彼に関わりが強い生徒を狙って彼の意思を揺らがせようとした」
「卑怯者ね。真正面からじゃ堀北先輩には勝てないって言っているようなもんじゃない?」
「学年が違う以上仕方ない面もあるでしょうが、南雲生徒会長が堀北元生徒会長と真正面から戦ったら不利なのは事実でしょうね」
坂柳は南雲を実力者と判断しているが、堀北のことも同様に判断している。
南雲が尊敬している点を加味すれば、堀北の実力は南雲以上の可能性も十分にあり得ると見ていた。
「何にしても、堀北元生徒会長とイズルくんが手を組んだ時点で、南雲生徒会長に勝ち目など鼻っからなかった。結果、彼の策略は全て止められ、大きな権力までも失う結果となった。実に無様な姿でした」
「趣味悪いっての。でも、橘先輩にしたことが本当なら妥当ね。まぁ、全校生徒の前で暴露するのは、学校側もやりすぎな気がするけど」
「公開処刑になってしまったのは同情しましょう。けれど、それほど生徒会長という役職はこの学校で大きな権力を有しているのでしょうね」
この学校の生徒会が大きな権力を持っているのは有名な話だ。
だからこそ、このような事件が起きれば対処も早く、その方法も多少強引になったと坂柳は予想した。
「フフ、一之瀬さんの進言というのも大きかったのでしょうね。同じ生徒会役員からの通報、そして試験に勝つための虐めではなく、自身の目的達成における個人的ないじめとなれば、この結果は避けられなかったのでしょう」
虐めはバレなければ、問題ない。龍園や坂柳のような狡猾の人間はそう考える。
だからこそ、試験に勝つためならばそのやり方も肯定する。
しかし、今回の試験における南雲の狙いは何処まで行っても堀北学の心を揺さぶることだった。
混合合宿の順位における勝利ではない。
表面上ではなく、裏から削るのが今回の南雲の目的。
橘茜が退学する結果となれば、堀北学は2000万プライベートポイントと300クラスポイントを使う。3年Bクラスと手を組んだのはこのマイナスを引き出すためだった。
悪質なものだ。それゆえに、バツも大きいはずだ。
「ねぇ、堀北先輩が橘先輩に告白したってのも、南雲の目的を打ち破るための策だったの?」
「どうでしょう。しかし、虐めのターゲットである橘先輩が立ち直ることが手っ取り早い解決だったでしょうから。フフ、もしかすると、イズルくんもこの展開は予想外だったかもしれません」
「そうなの? むしろ、カムクラがこの展開に誘導したんじゃなくて?」
「おそらく、真鍋さんを利用していたことから違うかと。きっと、これは堀北元生徒会長の選択の結果かと思います」
「真鍋を利用して、カムクラは何をするつもりだったのよ?」
「フフ、それ以上は知らない方がいいですよ」
坂柳がお淑やかに笑えば、神室は追及するのを止めた。
この腹黒い女が隠すということは、そういうことなのだろう。
わざわざ疲労した心をさらにすり減らす意味はない、そう判断して身を引いた。
──────
様々なクラスが疲労で静かになる中、Dクラスではお祭りのような騒がしさがバス内で広がっていた。
試験が終わり、クラスのリーダーである堀北が今回のポイント増減を皆から聞き出したことで、ポイントの推移が導き出された。
Aクラス1368cp⇒1386.5cp
Bクラス945cp⇒961cp
Cクラス630cp⇒1049.5cp
Dクラス85cp⇒298.5cp
合計で200cp以上の上昇。
より詳しく言えば、男子の結果は芳しくなかったが、女子の結果がそれを巻き返した。
その結果を持ってきたのは当然、クラスのリーダー堀北が所属するグループ。クラスのまとめ役である櫛田と協力して、膨大なポイントを手に入れた。
「流石、私たちのリーダーだね!!」
「来月から2万ポイントも貰える額が増えるなんて……、凄すぎるよ!!」
「堀北さん! 最強! 最高!」
バス内では、堀北を褒め称える言葉が木霊し続けている。
それゆえに、騒ぎは収まらない。
皆が堀北に感謝を、そして増えたポイントを今後どのように使うか。今後の躍進の可能性も相まって、希望溢れる声は収まらない。
そんな騒々しい空間を、担任の茶柱もまた注意せずに見守る。
絶望的なポイント差だった。
Aクラスとの差は脅威の1000ポイント以上。いくらまだ残りの年月があるとはいえ、希望を抱いて前へ歩むには足が重すぎた。
だが、今回その差がようやく縮まった。
高まる士気を台無しにしたくはない。半ばAクラスへの道を諦めかけていたとはいえ、それでも彼らの未来を塞ぐような真似はしたくなかった。
「おいおい、綾小路!! 今日くらいその辛気臭そうな顔をすんなって!!」
「悪いな、池。この顔は生まれつきなんだ。それに、試験で少し疲れているから少し声量を落としてくれ」
誰もかれもが騒いでいる訳ではなく、試験の疲労によって静かに過ごすものも当然いる。
綾小路清隆もまた、その1人だった。
と言っても、彼の場合は肉体的にも精神的にも疲労は大して溜まっていない。
ホワイトルームという過酷な環境で過ごしてきた彼にとって、この程度の合宿では音を上げない。
「分かったぜ。でも、多少は許してくれよな!!」
池は声量を落とすことなくそう言い、向かい側にいる友人へと声を掛けた。
バスの席順は男女別の名前順。綾小路、池とどちらもア行のために隣の席だ。
綾小路は池を視界から外し、流れていく山道を眺める。
今回の試験は終わった。一年はどのクラスもクラスポイントを増やす結果となり、上場の結果と言える。それ故にこのバカ騒ぎも致し方ない。
しかし、綾小路はそんな結果などどうでも良かった。
元より、今回の試験で自分は動いていない。退学にならない手筈は既に整えていたので、後は適当に流すだけで良かった。
南雲のグループに参加していたため総合順位も3位だったので、むしろラッキーな試験ですらあった。
(堀北兄は勝ち、橘を残せた。南雲は負け、生徒会長の座を失った)
綺麗な試験結果。
違和感など覚えない。堀北兄の裏にはカムクラがいて、2人の実力が南雲を上回ったことにもすんなりと納得がいく。
その裏で行われていた策略、その全貌も綾小路は何となく気付いている。
しかし、それら全てもどうでもいい。
重要なのは、
(カムクライズル。やはり、奴は危険すぎるな)
学校全体の力関係が変わる試験結果など些細なものだ。
綾小路にとって重要なのは、自分が勝利すること。そのために、己へ降り注ぐ火の粉は可能な限り減らす。
だからこそ、今回の試験結果……Cクラスのポイント上昇を見て、カムクラの危険度を最大限にまで引き上げた。
(坂柳はあいつがホワイトルームのことを知っていると言っていた。その情報がどこまで正確かは知らないが、奴がホワイトルームに関わっている可能性が少しでもあるならば、より対策を練らなければならない)
分かっているつもりではあった。
群を抜いて高みにいる個。学力、身体能力はこの学校の頂点に位置し、いるだけで一勝を捥ぎ取れるカード。
ただ、それだけならやりようはあったのだ。
しかし今回、カムクライズルには集団を率いていくリーダーの才すらも持っていると知らしめた。
龍園が率いた時よりも強固な集団、絶対的な予測能力を駆使した特別試験の運び。実に厄介極まりない。
何より、カムクラは自分を舞台に引きずり出そうとしている。
あれが本気になれば、いよいよ身を隠すことなど不可能、綾小路はそう悟っている。
だからこそ、自分の今後の立ち回りを決めなければならない。
(奴がホワイトルームからの刺客である可能性は限りなく0に近い。だが、坂柳の話もある以上、警戒は必要不可欠だ)
もっと情報がいる。今後の己の立ち回りのためにも、より多くの情報が必要だ。
綾小路は危機感から行動せざるを得ないことを確信していた。
(奴が敵か味方か分からない以上、接触は危険……いや、カムクラとは腹を割って話し、そこを確定させるのも一つの手なのかもしれないな)
綾小路は思案を巡らす。
皆が幸福に満たされている中、彼だけは背に突き刺さる危機感に駆られている。
しかし、どれだけ考えても事態の発展がすぐに訪れないことを悟り、山道から視線を外して背もたれに背中を深く預けた。
ただいま。
とりあえず、一年生編まで走り抜けます。
よろしくお願いします。
19.00にもう1話投稿します。
登場人物と原作との相違点をまとめた投稿が必要かどうか
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必要
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必要ない