Bクラスへ
機械音が絶え間なく続いている。
それは体育館くらいの広さがあるこの空間、その上階でも見慣れない機械から聞こえてくる。
1階には、さらに見慣れない機械が1つ。大樹のように聳えるそれは根のようにそこかしこへ電線を伸ばし、人間が一人入れるポッドに繋がっている。
ポッドの数は千を越え、その中には何らかの実験の被験者と思われる人間が眠りについている。
そんな彼らを管理する人間も当然いて、彼らは白衣を着ていていかにも研究者のような風貌で、正常に機械が動くかどうかの確認を行っていた。
その中でも、一際目立つ存在が1人。
緑と赤のオッドアイが特徴的な青年だ。彼は作業をする人間たちの中心として時に指示を飛ばしつつ、作業に励んでいる。
白衣の中、1人だけ黒いスーツを着ているのもあってか、異質な存在感があった。
今は大樹のような機械に向き合って手を動かし、プログラムの最終確認のためにその才能を使用していた。
「やぁ、日向くん」
オッドアイの少年、日向に声をかける虚ろな美形青年が現れる。
黒スーツを身に纏い、義手の左手を危なげなく振っている彼は人の良さそうな笑みで近づく。
「……狛枝、何か用か?」
日向は狛枝と呼ばれた青年に目もくれず作業を続ける。
「プログラム被験者が全員ポッドに入った、その報告に来たんだよ」
「そうか。左右田の方は?」
「メンテナンスもばっちりだって。流石は元超高校級のメカニック、あんな高性能な機械を作り上げるなんて素晴らしい才能だよ」
「ああ、俺もそう思う。報告ありがとうな」
一息ついた日向は狛枝を見て感謝を告げる。
「流石の君でもお疲れのようだね。大丈夫かい?」
特徴的なオッドアイ、しかしその目元には隈が広がっている。
やつれた様子はないが、疲労は目に見えていた。
「大丈夫だ。才能も問題なく使えているさ」
「……なら、良かったよ。その才能は世界の希望そのもの、不調で寝込むなんてことは世界の不利益に他ならない」
「相変わらず大袈裟な奴だな。丁度最終確認も終わったし、
「僕は才能の心配をしているんだよ。超高校級の希望という凄まじい才能、それは後天的に生み出されたとは言え、依然として世界の叡智で────」
「わ、分かったって」
熱弁する狛枝を日向は焦って止める。
このまま放置した時の結果は経験上分かっている。
だから、一言で言葉を切らなければいけなかった。
「なら、さっさとポッドに行きなよ。後の事は左右田くんや十神くんが何とかしてくれるからさ」
狛枝は義手の手でポッドの方を指さす。
天邪鬼な彼だが、本当に心配してくれることを日向は理解している。
だから、彼の指示に従ってポッドに向かう。
「……来たか、カムクライズル」
「おい、十神。こいつは日向だって何度も言っているだろうがよ」
日向が入る予定のポッドの前には2人の人物が待っていた。
最終メンテナンスを担当した左右田和一、そしてこれらの資材を提供した十神白夜。
どちらも今回の目的達成には欠かせなかった人物だ。
「どっちでも同じさ」
いがみ合う2人を当該者である日向が否定すればすぐに収まる。
そのまま日向はポッドに入るため、専用の服に着替え始める。
「おい、こちらで監視していた綾小路一派も問題なくポッドに入ったぞ」
「そうか。我儘言って悪いな、十神」
「ふん、この程度は些事だ。しかし、本当に良いんだな?」
腕を組み直し、十神は問う。
支配者特有の覇気を帯びた視線は日向の真意を見抜こうとする。
「ああ。彼らだって絶望の影響を受けている。更生する可能性は他の被験者より低いと思うけど、それでも見捨てるつもりはない」
しかし、日向は恐れることなく真っすぐ十神の瞳を見返す。
強い意志が宿っている、十神はすぐにその意思を読みとった。そして、呆れた様子を見せる。
「……まったく
「心強いよ。やっぱり、どっちの十神も頼もしい」
「あいつと一緒にするな。俺が本当の十神白夜だ」
鋭い目付きで十神が指摘する。
そのツッコミに左右田が笑えば、再度2人は言い合いになった。
そこへいつの間にか現れた狛枝が仲裁に入れば、2人は同時に顔を顰める。
一致した表情は“面倒くさい奴が来た”と語っていて、彼らは素早く職務に戻る。
日向はそれを見守りながら、ポットに入った。
そして、ゆっくりと目を瞑った。
「……これは」
朝、ベッドで目を覚ました僕は困惑した。
頭に触れ、状態を確かめるが、外傷は見られない。
となれば、この異常は内側のもの。存在しない記憶なのか、夢なのか、はたまた自分の持つ……正確には日向創の記憶なのか。
「また、夢。しかし、以前まで見ていた絶望時代のことじゃない」
周囲に異変はなく、寝慣れてきたベッドの上にいる。部屋には赤が特徴的な制服がかけられている。
僕が見る夢はいつだって過去の記憶。
それらは実際に起こったことであり、夢という形で保管するように脳のメモリに刻まれる。
しかし今回、こんな記憶は覚えがない。
何より、
「目線が僕ではなく、日向創だった」
登場人物も落ち着いていて、絶望した姿はない。
他にもいくつかの事実から、この記憶が江ノ島盾子を打倒した先の話ということが推察できる。
つまり、日向創は予想のできない未来を創り出してくれた。
オモシロイ。無事に奇跡を掴み取った、その事実に満足感が浮かんでくる。
「この記憶が真実なら、この世界がプログラムというのは確定ですか」
気になる言葉もあったが所詮は夢。断定した情報ではなく、1つの可能性として覚えておく。
そう結論づけ、僕は少し早めに朝の準備を始めた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
全学年を交えた混合合宿が終わってから数日後、高度育成高等学校は通常授業が再開した。
今日は2月の初め。
試験結果が反映され、ポイントに変動が起きる日だ。
「おはようございます。皆さん席についているようですね」
坂上先生が教室に入って来た時には、Cクラスの生徒はみな席についていた。
軽い雑談はしていたが、すぐに静まり返り、朝のホームルーム開始を待つ。
何が彼らにそうさせると言えば、特別試験結果におけるポイントの変化だ。
僕は携帯を開き、所持ポイントを確認する。
既に今月のポイントは支給され、現在の手持ちポイントは約210万pp(プライベートポイント)。
生活費を抜いて考えれば10万pp以上増えていた。
「では、ホームルームを始めましょう。報告することは一つ。先日行われた特別試験の結果発表です」
坂上先生は勿体ぶらずに本題を切り出す。
スラスラとホワイトボードに各クラスのcp(クラスポイント)を書いていくと、だんだんとクラスのボルテージが上がっていく。
そして、
「おめでとう。今回の試験によって、君たちは“Bクラス”に昇格しました」
大歓声が上がった。
石崎くんや小宮くんのような騒々しい男子を筆頭に、女子まで声を上げる。
龍園くんも満足げな表情を浮かべていて、クラス中が歓喜に溢れていた。
Aクラス1368cp⇒1386.5cp
Bクラス945cp⇒961cp
Cクラス630cp⇒1049.5cp
Dクラス85cp⇒298.5cp
ホワイトボードに書かれた混合試験後のcp。
Bクラスが961cp、Cクラスが1049.5cp。これによって、BクラスとCクラスの立場が変わった。
晴れて、龍園くん率いる僕たちはBクラスに昇進。
これで、毎月のppは10万ppを越えたのでクラスからの徴収もより多くなるだろう。
「私も担任として鼻が高い。クラスの誰もが入学当初より成長したことが分かります。本当におめでとうございます」
坂上先生は珍しく生徒達を褒めた。
嘘偽りないこの言葉は確実にクラスメイトへ伝わっていく。それは喜びを分かちあわせ、充足へ繋がっていく。
「この調子でAクラスを目指してください」
一通りの事務連絡を済ませた後、坂上先生は教室から出ていく。
一時静まり返った教室だったが、彼が去れば声が漏れ始め、クラス中は未だ歓喜が止まらない。
「おい! 10万ppだぞ! 10万pp!」
例に漏れず、前に座る伊吹さんもこの反応だ。
携帯の画面をこれでもかと見せびらかす純粋な歓喜、まるで無邪気な子供だ。
「多少の無駄遣いは許されますね」
「だな。何に使おうかなぁ~」
伊吹さんは既に欲望によって脳を支配されていた。
楽しそうな彼女を傍目に、僕は先程から感じていた視線の方へ意識を向ける。
その先には、龍園くんとアルベルトがいた。目的はポイント徴収について、そんな簡単な予想をすれば、彼らは僕の元へ足を運んでくる。
「相変わらず辛気臭い顔しやがって。今日くらい笑って見せろよ」
「話はこれからのポイントについてですね。現在は3万ppですが、増やすのでしょう?」
「あぁ、その通りだ。お前もついてこい」
僕は席を立ち、教壇の方に向かって進んでいく彼の後ろにつく。
クラスメイトは僕たちが動き出したことですぐに静かになっていく。
彼らもまた、これからのポイント徴収について話が始まると理解していた。
「よぉ、お前ら。まずはBクラス昇進良くやった」
当たり障りない言葉がクラスへ。
しかし、反応は二分化した。
彼の言葉を喜ぶ者が半分、喜ぶのではなく淡々と話を聞く者が半分。
これが、現状のBクラスの派閥と見ていい。
「まぁ、お前らはこれからの“ポイント徴収額”が気になるんだろうが……、先に前回の試験でppを減らした奴へのポイント返還から始める。さっさと出て来い。無駄に時間を使わせるな」
威圧感を出して振舞うかと思えば、彼は穏やかな雰囲気で話を進める。
これにはクラスメイトも意外に感じたが、機嫌のよい内にppを返してもらおうと考え、スムーズに事を済ませる。
前回の混合試験、得たポイントは419.5cpと168.1万pp。
ppの内約は男子が109.8万ppを得て、9.5万pp減少した。合計100.3万ppを獲得。
女子が69.3万ppを得て、1.5万pp減少した。合計67.8万ppを獲得。
これまでの徴収ポイントは1630万pp(1366万に1月の徴収分とAクラスからの徴収分を入れた合計値)。
よって、クラスの貯蓄は9.5万+1.5万=11万ppを立て替えてことで、合計1619万ppとなった。
「本題に進む。俺は徴収額を5万、あるいは6万ppに引き上げるべきだと考えている」
混合試験の立て替えが終われば、龍園くんは威圧感を出して告げる。
6万ppならば、手元には4万4950pp残る。毎月10万pp以上貰えるとはいえ、半分以上の徴収。
これは賛否が分かれるところだ。
しかしその反論より早く、彼は補足する。
「だが、お前らの意見次第で徴収ポイントを変えて良いとも考えている。だから、投票を取る」
龍園くんはクラス全員が使えるチャットの投票機能を利用して投票を進める。
投票枠は5万pp、6万pp、それ以下の3択。
匿名ではなく、誰がどこに入れたか分かるために適当な投票はできないようにしている。
「良く考えて投票しろ。ただ多めにポイントが欲しいからでも構わないが、貯めれば今回のように使う例も出せた。加えて、今後の試験で退学に関係するようなことが起きれば2000万ポイントも必要になる。それらを踏まえた上で、お前ら自身で徴収ポイントを考えてみろ」
クラスメイトの顔色を伺ったわけではないことは明らか。これはクラスの現状を見直すための投票だ。
誰がどのような意見を持っているか、龍園くんは詳細に把握したいらしい。
「投票時間は明日の放課後まで。明日の放課後に意見を聞いた後、徴収を行う」
簡潔に告げた龍園くんは、教壇から席へ戻る。
授業開始5分前の予鈴が鳴れば、皆、授業の準備を開始した。
──────
「ねぇ、あんたはどの選択肢に入れるか決めた?」
放課後になれば、伊吹さんが投票について聞いてきた。
「はい。しかし、まだ投票はしていません」
「なんで?」
「僕が先に入れれば、僕と同じ所に入れる人が現れるからです」
「あぁ〜、あんたや龍園の入れた所にとりあえずで入れる奴多そうだもんな」
投票は1回入れたら変えられず、慎重に選ばなくてはならない。
となれば、皆が気にするのは誰がどこに入れたか。
カーストの高い人間が入れたからここに、頭がいい人が入れたらここに。
思考を止めたツマラナイ人間はそんな他人任せな意見で選択する。
「あなたはどこに入れる予定ですか?」
答えが推測できてしまっているにもかかわらず、無駄な質問をしてみる。
「私は5万pp。もっと自分で使える金が欲しい。……まぁ、これからもっと大きな特別試験に備えるなら多めに預けてもいいとは思ってるけどな」
明確な思考の痕跡があった。我の強い彼女らしくない発言は、彼女なりに様々な角度から考えた結果だろう。
「私は6万ppに入れる予定です」
雑談をしていると、椎名さんが現れる。
本の虫である彼女でも、今回の話題は他者の意見やその考えには興味があるようで、珍しく会話の輪に加わったのだろう。
「なんで?」
「今の龍園くんなら預けても大丈夫だと判断しました。それに、私はポイントがあると新しい本を買いたくなっちゃうので、自制の意味もあります」
趣味の出費、椎名さんの場合は本だ。
椎名さんの本好きも大概なので、図書館がなかったら、彼女の金遣いは相当荒かったかもしれない。
「俺は5万ポイントに入れたっすよ、カムクラさん〜」
教室内の雑談だったため会話は丸聞こえ、次はCクラスカースト上位の男子、園田くんが現れる。
彼はサッカー部に所属しているため放課後は忙しいイメージだが、今日は暇を持て余しているようだ。
「あんた、もう投票したんだ」
「ああ、今回は相談もなしに自分だけの意見で入れたいと思ったからな」
伊吹さんは既に投票していることへ僅かに驚く。
アプリを確認すると、5万の枠に園田くんの名前がある。
未だ投票している生徒は数名。その内、彼一人だけが5万に入れていた。
「あんたはなんで5万に入れたの?」
「単純に、もう少し自由に使えるポイントが欲しいって思ったからだな。折角頑張ってポイント上げれたのに、前と1万ちょっとしか差がねえとやる気に関わる。正直、俺はポイント徴収自体に不満はないから6万でも良いんだけど、今は5万で……2ヶ月後とかに6万にして欲しいかな」
彼も自分で考えて行動している。
ポイント徴収に不満はないが、ボーナスが欲しい。金銭はやる気に直結する要素なので馬鹿にならない理由だ。
「で、カムクラさんはどっち入れる予定なんすか?」
僕の方を向けば、純粋な笑みを浮かべて告げる。
彼が絡んできた理由は僕の答えが気になるから。
既に投票し終えた彼なら教えていい。
だが、今はまだ教室。他生徒の耳がある以上、答える訳にはいかない。
「まぁ、ここ教室っすもんね。あっ、だったらこの後、遊びません? その時にカムクラさんの答え教えて欲しいっす。それに、折角Bクラスに上がれたんだし、少しだけ豪遊しましょうよ」
園田くんはグイグイと話を進めていく。珍しい誘いを断る理由はなかったので了承する。
「おっしゃ! なら、今日は俺とデートってことで良いっすか?」
「そう思っているのはあなただけですよ」
冷たく返しても、園田くんは陽気に笑う。
テンションとともに声量も上がっていたので、彼の話し声はクラス中に聞こえていた。
「園田〜、面白そうなことするつもりじゃん」
話し声が聞こえれば、この手のイベントに活発的な生徒は乗ってくる。
Cクラスで言えば、矢島さんがその筆頭だ。彼女は木下さんとともにこちらへ歩み寄ってくる。
「何だよ、お前も参加したいのか?」
「私は二人のデートを邪魔するために参加する気満々〜、美乃里は来れる?」
「ごめん、今日は無理かな。予定入ってる」
「あっ、そういえばガチのデートだっけ今日」
「そうそう、だから行けない」
木下さんの表情はあまり変わっていないが、参加できないことに内心気落ちしている。
彼女もカースト上位の生徒、集団で遊ぶことは好んでいるようだ。
「伊吹さんと椎名さんも来る?」
「パス」
「私も、今日は新作ミステリーの発売日なので遠慮させてもらいます」
2人が誘いを断るが、園田くんは致し方なさうに笑う。
「それじゃ、カムクラさん。何するかはケヤキモールまでの道で決めましょう」
園田くんは陽気に指揮しながらさっさと教室の出口へと向かう。
僕は伊吹さんたちに別れを告げ、彼に続いた。
──────
「お時間を取っていただき、ありがとうございます」
2月1日の放課後、1年Aクラスの坂柳有栖は生徒会室を訪れていた。
愛用の帽子を机の上に置き、客用のソファーに腰かけた後、周囲を見渡す。誠実な雰囲気があった生徒会室は壁紙が一新され、誰かの私物と思われる小物などが大量に持ち込まれていた。
中には明らかに女子向けの小道具やぬいぐるみのようなものまで揃っている。
「これはあなたの趣味ですか?」
「馬鹿言うな坂柳、これらは全て南雲の私物だ」
対面に座る男、2年Bクラスの
「それで何の用だ。まさか、堀北先輩に生徒会入りを勧められたか?」
生徒会とは無縁そうな坂柳の生徒会訪問に、桐山はそう尋ねる。
「残念ながらあの方のお眼鏡には敵わなかったようで、お誘いはありませんでしたよ」
「お前はAクラスで優秀な生徒と聞く。きっと、お前が生徒会に興味があれば、誘われていただろうな」
「おやおや、煽てても何も出ませんよ」
「事実を言っている。別に煽ててはいない」
桐山は淡々と告げる。
細めた目は依然まっすぐ坂柳を見ている。
坂柳はその様子に葛城や堀北学のような厳格な人間の印象を抱いた。
「何の用でしたね、桐山
坂柳の発言通り、桐山は南雲が解任されたことで生徒会長に昇進した。
全学年を交えた男女混合試験。その試験結果は様々な所で影響を及ぼしている。
特に、南雲は生徒会長の座を剥奪されただけでなく、一定期間の停学処分をくらっている。
「一之瀬さんのことについて、桐山生徒会長はどこまでご存知で?」
「南雲が採用した唯一の1年。中学校で生徒会長の経験があるため、仕事を覚えるのも早く、器量がいい」
「なるほど、どうやら彼の本当の目的は知らないようですね」
「……そういう意味か。なら、だいたい察しはつく」
南雲と同学年で何度も彼と戦い、身近で見てきた彼はすぐに坂柳の言いたいことを理解する。
南雲は外見で女を判断し、私物にする。権力を見せつけるには有効的で、彼自身の趣味でもあった。
「元々、私と南雲生徒会長はある交渉を進めていたのですよ。私は同学年でAクラスを狙う一之瀬さんを潰すため、彼は私物化するため。双方の利があったので、生徒会長には一之瀬さん潰しに協力してもらいました。大筋は、弱ったところを南雲生徒会長が手に入れるということで話を進めていたんですよ」
「正直に言って、俺はもうお前が苦手だ」
桐山は眉をひそめる。
しかし、坂柳はその表情を見て薄く笑った。
「フフ、私はあなたのこと嫌いじゃないですよ。少なくとも、堀北先輩よりかは相性が良さそうです」
容姿だけ見れば、絶世の美少女と呼べる坂柳にそう言われれば、大抵の男は悪い気分がしないだろう。
しかし、桐山は鬼龍院という似たような我儘な美少女を知っているがため免疫がある。
ゆえに、靡きはしない。
「それで、お前はその計画のすり合わせをするためにここに現れたのか? 残念だが……」
「いえいえ、南雲先輩が停学処分になってしまったことは私も存じていますよ」
坂柳は南雲の現状に満面の笑みを見せる。
彼女にしては珍しいほどに本心の映し出された表情。歓喜と悪意が反映された笑みだ。
「あぁ、可哀想な南雲先輩。退学しなかったことが奇跡ですね」
混合試験によって虐めの責任を問われた南雲雅は停学処分だけでなく、多数の罰を受けた。
具体的には生徒会長の地位剥奪、停学、2年Aクラスのcpを300減少、混合試験における2年Aクラスが獲得したポイントの無効という計4つの罰を受けた。
また、橘への虐めに関わった生徒は混合試験における獲得したポイントの無効、所有pp半分没収という2つの罰を受けている。
本来ならばこの件に関わった人間全員が退学処分であったが、虐めを受けた張本人である橘茜の嘆願によって、上記のような罰則で幕を閉じた。
「今の2年生はまさに阿鼻叫喚なのでは? 1強だったリーダーは潰れ、Aクラスはピンチ。絶望的だった下位クラスにもチャンスが訪れたはずです」
坂柳の言う通り、南雲の生徒会長降板の影響は大きい。
学年を支配していた南雲の失態は抑えていた反乱分子を増長させ、絶対の地位として固まっていた2年Aクラスの磐石は崩れた。
2年AクラスとBクラスのcp差は僅差である上に、今回の事件で南雲派閥は事実上の解体。2年Aクラスは南雲をこれからも支持するかどうかで派閥が二分化して、纏まりに欠けていた。
挙句、2年Bクラスの桐山が繰り上がりで生徒会長に昇格。
南雲が得意としていた権力は0になっただけでなく、最大の敵に渡ってしまった。
「まぁ、桐山生徒会長としては嬉しい結果ですね。何もせずに、絶大な権力を手にした。Aクラスに王手をかけたのでは?」
「そうだ。正直、幸運も良い所だが、学年が1つ上がる頃には俺たちはAクラスに戻れるだろう」
1、2年は次の特別試験が今年度の最後だ。学年末、1年は3月8日に予定されていて、事前に告知されている。
「おっと、また話が逸れてしまいました。今日の目的、それは停学中の南雲元生徒会長に伝言をして欲しいことです。しばらくは、一之瀬さんを追い詰めることから手を引くと」
「……やっぱり、俺はお前が苦手だ」
坂柳は桐山の嫌悪を淑女らしい薄い笑みで受け流す。
今までの権力を纏っていた南雲は坂柳にとっても面倒な相手だった。
黙って一之瀬を潰すことは南雲に弓を引くことになり、愚策。だからこそ、協力関係は良い関係だった。
しかし、権力、手駒、信頼を筆頭に大半を失った南雲など坂柳には取るに足りない。
よって、協力関係は破棄。一之瀬から手を引く理由は、前回の混合試験によって学校側が虐めの類に敏感になっており、もし一之瀬を追い詰めても手痛いしっぺ返しが来ると判断したからだ。
「それでは、私からは以上です。桐山生徒会長、あなたととのお話とても楽しかったです。個人的に、連絡でも交換しませんか?」
「断る。お前と関わるとろくな事になりかねなさそうだ」
「それは残念です。私、男性に連絡先の交換を断られたのは初めてで少し悲しいですね」
「安心しろ。俺も女性の誘いを断ったのは初めてだ」
桐山は冗談を返すが、このような言葉のキャッチボールは坂柳にとって好物だ。
葛城のような生真面目な性格をしながらもある程度は砕けた物言いができる。
仮にも南雲率いるクラスに奪われるまでは、元2年Aクラス。
その実力は並大抵ではないと坂柳の分析に映った。
chapter9~10はダンロン側の話がわりとあります。原作の巻数と同じにするために分けましたが、実質同じ章だと思ってください。
また、投票ありがとうございます。結果が僅差なので、後書きで原作との相違点、キャラの相違点や紹介、書ききれなかった部分の補足などしていきます。
登場人物と原作との相違点をまとめた投稿が必要かどうか
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必要
-
必要ない