ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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返済

 

 

 

「あの……」

 

 翌日の朝、僕の前に意外な人物が現れた。

 ホームルーム開始前の来訪者は3人の女子生徒。声をかけたのは先頭に立つ生徒、真鍋志保だ。

 若菜のような明るい黄緑色のショートカットと前髪の中心辺りにある赤いヘアピンが特徴的な女子生徒。混合試験では僕の指示を忠実に従い、結果を残した生徒でもある。

 他2人は彼女の友人で薮 菜々美と山下 紗希。3人で僕に接触することは初めてだ。

 

「お、おはようございます」

「おはようございます。ポイント徴収のことで聞きたい事があるのですか?」

 

 真鍋さんたちは分かりやすく驚いてから頷く。

 

「えーっと、私たちはポイント徴収のこと頑張って考えて私が5万ポイント、2人が6万ポイントに投票したんですけど、そ、そのカムクラくんはどこに入れる予定なのかなって」

 

 彼女たちが投票したことは今朝確認していたので、僕は指の数で徴収額を表す。

 投票終了は今日の放課後。投票を終えた彼女たちになら問題ない。

 

「2人は6万ポイントに投票しましたが、その理由は何故ですか?」

 

 僕は薮さんと山下さんに質問する。

 2人はオドオドして互いに目を泳がせていたが、薮さんの方が息を飲んでから答えた。

 

「わ、私たちは6万ポイントでも4万ポイント残れば、結構自由に過ごせると思ったからです。変にポイント持ちすぎて無駄使いするくらいなら、2000万ポイント貯めるためにクラスの貯蓄にした方が良いかなって。そ、それに今の龍園くんなら万が一ポイント使い切っちゃっても返してくれそうだと思ったからです」

 

 龍園くんに信頼を持てている。椎名さんと似通った理由です。

 僕は真鍋さんにも同様の質問を行う。

 

「あなたの理由は?」

「正直、特別試験のご褒美が欲しいって理由です。6万ポイントの徴収ってキツイけど、今までよりかは全然苦痛じゃないから私も6万で良い。メリットも理解しているつもりです。けど、折角頑張ってんだから少し多めに欲しい。ここは、その……我儘です」

 

 課題どおり、考えて答えを出している。我の強さもそのまま。マシな成長をしている。

 

「この調子で盲目的にならないよう精進してください」

 

 期待を込めるように告げれば、三人は礼をしてから席に戻っていく。

 

「真鍋さん」

 

 一つ思い出したことがあったので、彼女を呼び止める。三人とも足を止めたが、僕は気にせず続ける。

 

「あなたはご褒美が欲しいと言っていましたね。携帯を出してください」

「携帯ですか?」

 

 彼女は言う通りに携帯を出す。ロック画面を解除してもらった後、僕も携帯を出して2つの携帯を操作する。

 彼女の持っているポイントは約14万pp。昨日ポイントが入ったとはいえ、少しは貯めているポイントもあるようだ。

 僕の所持ポイントは約214万。今日得られたポイントと混合試験の報酬を足している。

 そこから真鍋さんに混合試験の報酬として10万ppを送る。

 

「……はっ、えっ!?」

 

 携帯を返せば、彼女は目玉が飛びだしそうな程目を開き、瞬きを繰り返す。

 混合試験、彼女は忠実な駒として動き、情報収集を行いながらも自グループを3位にした。

 この功績は意外にも大きい。ポイントを増やしたことではなく、マイナスを抑えたという点でだ。

 

「報酬です。好きに使ってください」

 

 混合試験の功績は一之瀬さんの方が大きい。だが、これは未知への投資。

 僕の推測では、彼女はこのポイントを使わずに貯めるが、これによって“認められた”“期待されている”ということに彼女の心がどう動くか。

 その興味から実験を試みる。

 我は消えて僕の忠実な駒となるのか、我を残しながらもっとオモシロイ存在になるのか。

 その極小の未知に、投資する。

 

「おはようございます。皆席についてください」

 

 その後、坂上先生がやってきて朝のホームルームが始まる。

 定時連絡によると、次の特別試験は3月8日で、それが今年最後の特別試験らしい。

 それまでの一か月、退屈しないように生活してみましょう。

 

 

 

 ──────

 

 

 

 放課後の時間を迎える。

 坂上先生が教室から去ったことを確認してから、龍園くんはクラスメイトを集めた後、教壇に立つ。

 

「投票人数は38人。俺とカムクラを抜いて全員投票したようだな」

 

 携帯を確認すれば、確かに僕と龍園くん以外は投票していた。

 6万ppに22票、5万ppに16票、その他に0票。

 どうやら、僕と龍園くんが投票した所で意味はなさそうだ。

 

「投票の結果、今月からの徴収額は6万ppに決定する。異論はないな?」

 

 その問いに誰も反論しなかった。

 今まで龍園くんの決定に不満を持って突っかかっていた時任くんも、今回はクラスの総意であるために大人しくしている。

 

「一応言っておくが、俺とカムクラは6万ppに入れる予定だった。まぁ、その必要はなかったがな」

 

 ぶっきら棒に言うが、龍園くんは駒たちが考えて行動していることに内心満足しているようです。

 

「5万ppに入れた奴……おい園田。お前は何で5万ppに入れたんだ?」

 

 携帯を軽く眺めてから彼は園田くんを指名する。

 園田くんの喉が鳴る。未だ龍園くんへの恐怖は抜けてなく、僕と話す時のような気さくな態度は見えない。

 

「……正直、徴収額が6万でも不満はなかった。けど、多めの報酬が欲しかった」

「なるほど、納得のいく意見だ」

 

 不敵な笑みを浮かべ、会話を済ませる龍園くん。

 園田くんに限らず、彼の対応に変化が起きていることに大半が驚いていた。

 しかし、当の本人は気にした様子がなく、他の5万ppに入れた生徒にも質問を続けた。

 何人かの生徒が園田くんと同じように報酬について口にすれば、彼は笑みを浮かべた。

 

「念のため言っておいてやるが、このクラスのリーダーは俺だ。あの手の試験はカムクラの方が勝率が高いと判断したから指揮を取らせただけ。そこを勘違いするな。そして約束通り、クラスのポイントは今まで通り管理してやる。この決定に文句のあるやつはいるか?」

 

 クラスが気になっていたことを彼ははっきりと口にした。

 現状のリーダー、集められたポイントの管理。彼を慕う生徒からすれば、自らの王がまだ折れたわけではないことに歓喜した。

 慕わない、あるいは僕を支持する生徒からすれば、現状の彼の立ち位置と信頼度を確認できた。

 ある程度、自分たちの融通も利くことも分かったので、彼らもまた文句はないだろう。

 

「さて、さっさとポイントを集めて終わらせるぞ」

 

 龍園くんは教壇から降りる。バッグをアルベルトに持たせてから、全員の席を回り始める。

 反抗する生徒はいない。スムーズに事が進めば、彼の手持ちには大量のポイントが集まる。

 現在のクラスが貯めたポイントは1619万pp。そこに6万×40人=240万ppが追加されて。合計1859万pp。

 加えて、後に1年Aクラスから2万7400pp×36=98万6400ppを得られる。

 最終的な手持ちポイントは1957万6400pp。

 これで、仮に退学者が出ても取り消しに出来る資金がほぼ集まった。

 目標達成には程遠いが、1つの区切りに至ったことは間違いないだろう。

 

 

 

 ──────

 

 

 

 教室を離れた後、僕はカフェに足を運んだ。

 頼んだコーヒーを口に運びながら、美術に関係する才能を使用する。

 一枚の白紙に鉛筆だけでとある男の似顔絵を描き、時間を潰していた。

 

「お待たせ~」

 

 待ち人の2人が到着する。1人は愛嬌の良い笑顔を見せる金髪ショートの女子、櫛田桔梗。

 もう1人は腕を組みながら切れ長の目で僕を観察する黒髪ロングの女子、堀北鈴音。

 どちらもDクラスに所属する見た目は麗しい生徒だ。

 2人は僕の対面に隣り合って座った。並びは席の内側に堀北さん、外側に櫛田さんだ。

 用件は混合試験で約束した借金の件。

 Dクラスは宣言通り、女子のグループで1位を取って大量のポイントを獲得した。よって、櫛田さんがしていたCクラスへの借金は今日で返済完了となる。

 

「……似顔絵?」

 

 堀北さんが僕の描いた似顔絵を見る。

 色はないが特徴は完璧に捉えていて、似顔絵の当人を知る人が見ればすぐに判別できる。

 しかし、堀北さんはこの人物を知らない。ゆえに、首を傾げていた。

 

「あんたこれって……」

 

 打って変わって、櫛田さんは驚いた。

 

「ええ、これはあなたが見た用務員の容姿です」

 

 僕が描いた人物、それは日向創。

 顔立ちは僕と瓜二つ、というより同一人物なので同じ顔です。

 

「今後、彼から接触があった時は情報共有をお願いします」

 

 彼女はゆっくりと頷く。

 今日から約1ヶ月。特別試験はないので、少しだけこの世界について調べてみる。

 その初め、この世界で日向創に接触した唯一の人物である櫛田さんを利用する。僕の知らないだけで他にも接触した人間がいるかもしれない。その調査を始めていく。

 

「見れば見るほどそっくり。双子?」

 

 僕は頷きで肯定する。

 同一人物だが、この世界では存在が分かれているようなので、双子という設定にしておく。

 

「ふーん、どっちがお兄さん?」

「彼が兄です」

 

 僕と日向創を別人として捉えるなら、生きた年月が日向創の方が圧倒的に長いので、彼の方が兄に該当するだろう。

 

「あなたも兄弟がいたのね。少し意外だわ。櫛田さんに接触する可能性があるってことは、あなたのお兄さんはこの学校の関係者かしら?」

「用務員をしているそうです」

 

 世界の外側にいる人物という意味では、関係者ではなく外部の人間ですが。

 

「……その、中学卒業後にこの学校で働いているという意味かしら?」

「さぁ、詳しい事は知りません」

 

 堀北さんの疑問はもっともだが、断言できないので回答は控える。

 もっとも、彼はカムクラプロジェクトの関係で予備学科から退学処分にされたため、実質中卒で間違いない。

 

「あなたも彼に会えたら僕に教えてくれませんか?」

「それくらいなら別に構わないわよ。名前は?」

「日向創です」

 

 苗字が違うことで彼女は目を細めたが、追求はしなかった。

 複雑な家族関係という設定ならば、倫理観が欠如した人間でもない限り深くは聞いてこない。

 今後はこの設定を通しましょう。

 

「念の為言っておきますが、彼は僕と同じ才能を持っているので侮らないでください」

「兄弟揃って、そうなのね。肝に銘じておくわ」

 

 堀北さんの表情に僅かな嫉妬が映る。

 きっと、堀北学と自分を比べているのだろう。ポテンシャルでは彼と遜色ないはずだが、彼女は自分が兄より劣っていると思っている。

 だから、僕と同じ才能を持つという対等に見える兄弟関係に嫉妬した。

 

「……本題に入りましょう。カムクラくん、櫛田さん借金額は40万ppでいいのよね?」

 

 僕は龍園くんから受け取っている借金の詳細が載っている書類を提示する。

 この紙があることで、櫛田さんの借金は証明されていた。

 だが、今日でこれもいらなくなる。

 僕たちは互いに携帯を取り出す。40万ppの支払いが完了したことを確認すれば、サインの後、紙を櫛田さんに渡した。

 

「あぁ〜これでやっと解放される。借金なんてするもんじゃないわね」

 

 背もたれに軽く寄りかかってホッと息をする。

 

「これが現金じゃなくて良かったわね」

「……じゃあ、用件も済んだから私帰っても良い?」

 

 櫛田さんは分が悪い指摘を無視する。

 返済は終わり、これ以上ここでゆっくりする必要はない。お暇するなら好きにすればいい。

 

「この後さ、Bクラス……じゃなくてCクラスの人と遊ぶ予定あるんだよね。あっ、昇格おめでとう」

 

 櫛田さんはついでに謝辞を述べた。

 混合合宿の時のように僕の隣に座らなかった理由は、この後に予定があってこの場を離れる必要があったから。

 人気者の辛い所だ。

 

「てか、昇格で思い出した。あんた、あの時逃げたわよね?」

「何のことですか?」

「へぇ〜、惚けるんだ。あぁー、口が滑っちゃいそうだなぁー。今日の晩御飯作ってくれなきゃ、ある事ないこと言いふらしたいなぁー」

 

 流れるように混合合宿のことを思い出した櫛田さんはヘラヘラと笑いながら脅してくる。

 別に言いふらされても問題ないので放置しようと思ったが、その後がより面倒になる未来を推測できたので、今日対処することにする。

 

「好きな時間に来てください」

 

 僕が適当に言えば、彼女は清々しい笑みを見せた。

 

「それじゃ、私はこれで〜。じゃあね〜、2人とも!」

 

 櫛田さんは仮面を被り直してから、駆け足で去っていく。

 今にもスキップしそうな軽快な足運びは仮面で隠せていない。

 

「苦労しているのね、あなたも」

「あなただけです。クラスの違う僕からすれば、稀な出来事ですから」

「それもそうね。……ところで、あなたたちの関係は本当に健全な関係なのよね?」

 

 異性の部屋に夜に訪れ、2人きりの時間を過ごす。

 恋人関係ではない男女ならば、疑ってしまうのも無理はない。

 

「愚痴を聞き、夕食を提供するだけです」

「本当よね?」

 

 僕がゆっくりと頷けば、彼女は訝しむ。

 切れ長の目をさらに細め、僕の瞳を覗き込むが、すぐに埒が明かないと判断して仕方なさそうにため息をついた。

 思春期真っ最中の女子高生らしい一面は生真面目な堀北さんにもあるらしい。

 

「まぁいいわ。あなたたちが友達なのは分かったけど、その関係を特別試験にまで持ち込まければ好きにしなさい」

「友達ではありません。彼女はそう思っているかもしれませんが」

「……あなた、友達少ないでしょう?」

「はい」

 

 彼女は言い返してこなかった僕が期待外れだったようで黙り込む。

 居心地も悪くなったのか、彼女は伝票を持って立ち上がろうとする。

 

「会計は結構です。あなたたちの関係は、これからオモシロクなりそうですから」

「男性がそうやって恰好つけるのは、あなたも変わらないのね」

「堀北学からそう教わりましたので」

「……嘘ね」

「はい」

 

 揶揄う僕に何か言いたげだったが、彼女にも予定があるようで立ち去った。

 僕は違う飲み物を追加注文する。

 1時間ほど寛いだ後、僕は買い出しに向かった。

 

 

 




南雲きゅんがやらかしたことで学校側は警戒態勢に入っちゃいました。これにより、坂柳による一之瀬虐めがなくなって成長ポイントが消えちゃうことに。

しかし、クラス間のギスギスはなくなり、平和な一月になるでしょう。(山内は原作通り坂柳に鼻の下伸ばしてます)
また、原作だとこの巻はきよぽんにとっては重要な回なので、ここがスキップということはつまり、原作乖離が始まります。一之瀬と綾小路の関係値が進まず、他クラスの実力ある友達くらいのままです。

あと、櫛田さんの借金はchapter6で強引に契約破棄したことによるものです。今回、混合合宿でDクラス女子が勝利したので、返済できるようになりました。
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