宣言通り、櫛田さんは僕の部屋を訪れていた。
Cクラスの生徒と遊んでから来たので制服のまま。僕も帰ってきてすぐに夕食を作り始めたのでまだ制服。互いに学生らしい格好です。
「ほれでさぁ~」
僕たちは小さな机に向かいあって座り、食事をしている。
野菜多めに作ったシチューをリスのように口へ蓄え、頬を撫でる櫛田さん。
念のためパンと白米を用意したが、主食はカロリー制限で食べないらしい。
「昨日Dクラスで祝勝会したんだけどさ、頑張ってもいない男子がキモいのよ。私が愛想笑いすれば会話を楽しんでいると勘違いして、不細工な面をもっと不細工にしてつまんない会話の勢いが増す。どうにかならないのこれ?」
「その男子を無視すれば解決します」
愚痴は聞くが、共感を与える気はない。
取り合えずの解決策を出しておき、適当に話を進めさせる。
「それはダメ。誰にでも優しい“櫛田桔梗”は話しかけてくれたら真摯に対応する、そういう存在だからね~」
「ならば、彼氏を作るべきです」
「ダメダメ。それじゃあ、私の男子人気が下がっちゃうもん。私は常に一番の人気者じゃなきゃ」
面倒な性格、そんな率直な感想が浮かぶ一方で、適当な男と交際するように仕向けて反応を分析するという実験が浮かぶ。
この破綻した性格と趣向を持つ少女が1人の異性と恋に落ちた時、どう変化するのか。
共依存のような性格になるか、それともホストに貢ぐ女のようになるか、はたまた。
何にしてもこの破綻した性格に変化が起きれば、それは芳醇な未知かもしれない。
「まるでアイドルですね。有しているのは詐欺師の才能なのに」
「詐欺師もアイドルも似たようなもんでしょ」
「似ているだけで本質は全然違いますよ」
人を騙すという点で似通っている部分もある。
しかし、誰からも求められる新しい存在と目的のために成り代わる既存の存在は違う。
「あっそ、才能お化けのあんたが言うなら確かにそうなんでしょうね」
彼女は興味なさげにそう言って、シチューのお代わりを取る。
これで3杯目。ダイエットは忘れてしまったらしい。
「てか、あんた、秘密エージェント育成機関みたいな所で育ったって言ったよね。その時にアイドルとか詐欺師の才能も確認したの?」
座り直した彼女は意地の悪い笑みを浮かべていた。
「はい、ありとあらゆる才能を使えるか確認。そして確認した限り、僕にできないことはありませんでした」
「……アイドルの才能も?」
「問題なく使用できました」
「……お、踊って歌えるの?」
「歌手とダンサー、どちらの才能も揃っています」
「……ぷふっ、あはははっ、無理! もう我慢できない! あんたがアイドルだってぇ」
持っていた食器を机に置き、腹を抱えて大笑い。
想像しづらいことは分かるが、そこまで笑いのツボに嵌まることではない。
「あぁ~、お腹痛い。デビューするなら言ってよ、推してあげるからさ」
「ありもしない未来ですよ」
上機嫌な櫛田さん。
くだらない雑談を彼女がどうして面白いと思ったのかを考察する必要はない。
僕は食べ終わった食器を洗うために立ち上がる。
「あっ、良いよ。食器は洗っとく」
僕が立ち上がる途中、彼女が手で制止を促す。
そのまま食べ終わった皿を全て持って流し場へ向かう。すぐに水を出す音が聞こえたので、放置していない。
良心か、教養か。こんな性格だからこそ借りを作りたくないか、親の教育が良かったのか気になる所だ。
彼女が洗い物をしてくれている間、僕は日向創の似顔絵と色鉛筆を取り出す。
明日からやることがないので、この世界の事を調べる。
まずは、古典的な聞き出しから。彼の容姿を事細かに記して、それを何人かの生徒に見せる。
学校主導の掲示板に張らないのは、直接聞きだして嘘を見抜くためだ。
「出た、あんたのお兄ちゃん」
洗い物を終えた櫛田さんが戻ってくる。
彼女は僕の真横に座り、塗り絵を覗き込む。邪魔でもするかと思ったが、彼女はじっと僕の作業を見ていた。
結局、塗り絵が完成するまで、彼女は大人しかった。
「はっや~、雑に手動かしているようにしか見えなかった」
純粋な感想。嫉妬はなく、普通の女子高生らしく目を輝かせて感嘆している。
「頼まれても描きませんよ」
僕は色鉛筆をしまいながらそう言う。
すれば、彼女はムッとした顔をする。
発言を読まれた事、頼みを聞いてくれない事という2つのイラつく要素に反応を見せていた。
「あ〜、ムカついてきちゃったなぁ。また口が滑りそう」
「そうですか。ならば、今後あなたには食事を提供できなくなりそうです」
「冗談だよ〜。うそうそ、本気で受け取らないで〜」
表の顔で媚びを売る彼女を無視して、僕はベッドに横たわる。
まだシャワーを浴びていないことを思い出すが、それは櫛田さんが帰ってからで良いだろう。
「……あんたも横になって寛いだりするのね」
「はい」
「なんか、違う。座りながら寝ててよ」
絶望時代は座って寝ることの方が多かったが、この学校に来てからは毎日ベッドで寝ている。
もっとも、睡眠は取れればいいのでどう寝ようが関係ない。
「食事は終わりましたよ」
「つっめたい反応。一応私って人気者の美少女なんだけどなぁ~」
「他者の容姿で僕の感情が機微を起こすことはありません」
追い返すための言葉を投げるが、彼女はベッドのサイドフレームに背を預けてくる。
「もう随分と話しました」
「いや、まだあんたの話聞いてない」
僕の話、つまり僕の秘密についてだ。
愚痴を聞くことは了承したが、秘密は話さないと言った。
諦めの悪いことは別に良いが、僕の秘密となると劇薬が過ぎる。だから、むやみに話すことはできない。
「僕の過去はこれ以上話しませんよ」
「ええ~。なら……、今日もいくつか質問に答えてよ」
「さっさと言ってください」
「やったね。じゃあ、今好きな人いる?」
切り替えが早い。唐突に現在の話、恋バナに発展するのは少し予想外でオモシロイ。
「いません」
「どんな人がタイプ?」
「未知を見せてくれる人」
「もっと具体的に。容姿とか、性格とか」
「ありません。才能のない人間なんて、ダニのようなものです」
「……うっわぁ、それ本音でしょ」
彼女はわざわざこちらを向いた。
ドン引きとまではいかないが、幻滅した表情が僕を見る。
「髪型変わったから女子人気上がってるっていうのに、あんたがこれだとアタックしてくる女子は全滅するんじゃない? 可哀想〜」
「その割には全然哀れんでいませんね」
「まぁね。むしろ玉砕して慰めてあげれば、私のことを大切な人ってポジションに置いてくれるだろうし」
軽快に笑いながら、彼女は携帯へと顔を戻した。
相変わらずの性格の悪さ。この様子だと僕への告白を進め、振らせ、慰めて、承認欲求を満たすつもりだろう。
タチの悪いマッチポンプです。
「さて、それじゃあ今日は帰ろっかな。皆の人気者が夜遅くに男の部屋から出てくるところを見られたら面倒だもんね~」
彼女は背を伸ばしながら立ち上がる。ようやく煩いのが消えてくれる。
「じゃあね、また来るから~」
「来なくても構いません」
「嫌だね~」
彼女は足早に部屋を去っていく。
僕はベッドから起き上がり、部屋の鍵を閉めた。
──────
翌日の朝、僕は登校してきた龍園くんの元へ向かう。
バッグを乱暴に机へ置き、ふてぶてしい様子で椅子に座る彼はまだ眠気が残っている。
「おはようございます」
彼は目を細めてこちらを見る。話しかけるなと訴ってくるが、そんなことどうでもいい。
「昨日、彼女からポイントを回収しました」
僕は携帯を取り出して、彼に見せる。
すれば、僕の要件に気付いた彼もポケットから携帯を取り出す。
「そうか。こっちも坂柳との契約を処理しておいた」
僕は彼に40万ポイントを渡す。
これでクラスの貯蓄ポイントは1955万6400pp。
2月分のAクラスから徴収した分を合わせて1957万6400pp。
そこから混合試験の協力対価でAクラスに払った42万pp。櫛田さんから返してもらった40万pp。
差額はマイナス2万pp、合計1955万6400ppだ。
「彼女、僕に対して伝言か何かを残すつもりだったでしょう?」
「ああ、もちろん断っておいたぜ。気になる男には自分の足で向かえってな」
足の悪い坂柳さんに対して、酷い対応だ。
しかし、彼女への嫌がらせと僕の時間を奪うという2つの目的を完遂している。
「クク、好意に応えてやれよ」
「思い通りに動く存在なんてツマラナイ」
彼は僕が悪態をつくような様子がオモシロイのか上機嫌に笑う。
このまま彼の戯言に付き合っても良かったが、僕は本題を提示する。
「龍園くん、これは僕の兄なんですけどどう思いますか?」
僕は持ってきた日向創の似顔絵を彼に見せる。
「お前の兄だ? クク、お前と違って好青年そうだな」
嫌味はデフォルトとして無視。肝心な彼が日向創を知っているかどうか。
結果、その答えは否だ。
彼の反応は興味深そうに絵を見ただけ。変に驚いたり、不審な行動はなかった。
「そうですか。感想ありがとうございます」
「それだけか? 相変わらず変な野郎だ」
僕はその言葉を最後に自席へ戻る。
全員にこの似顔絵を見せる気はないが、僕との関わりが深い人物には見せる。
このクラスならば石崎くんや椎名さん、伊吹さん、アルベルトが該当する。
「おはよ」
「おはようございます」
候補である伊吹さんが登校してきた。早速、似顔絵を見せる。
「伊吹さん、これは僕の兄なんですけどどう思いますか?」
まったく同じ質問を彼女へ投げる。表情、返答、仕草の1つ1つを超分析力で見ていく。
そしてすぐに、異常がこの目に映った。
「……はっ? こ、この人があんたの兄なわけ?」
明らかな動揺。彼女は瞬きを何度も繰り返しながら似顔絵を見る。
元々分かりやすい性格である伊吹さんだが、今日は一段と分かりやすい。
つまり、日向創を始めて見る人間の反応ではない。
「彼をどこかで見た事があるのですか?」
「あ、あぁ。でも、なんて言うかなぁ……」
肯定。態度からどこかで見たことは明白だったが、櫛田さん以外に彼と接触していたという事実は、推測の質を高める良い情報だ。
しかし、彼女は答えるかどうか迷っていた。
出会い方が説明できないのか、それとも非現実的な出会いでもして話しづらいか。
あるいは、
「彼に何か口止めでもされているのですか?」
「口止め?」
発言の意図が読み取れないようで、彼女は困惑した表情を浮かべる。
「なぜ、言えないのですか。何かやましいことでも?」
詰めてみるが、彼女は反発してこない。
腕を組み、必死に脳を働かせている。その様子はどう説明すれば良いか困っているように見えた。
だが、決心がついたのか、彼女はとうとう口を動かし始める。
「……あのさ、もし私がお前の兄に夢の中であったっていたら信じる?」
「あぁ、そういうことですか」
彼女が言い淀んでいた理由を理解した。
彼女が日向創に出会ったのは夢の中。そんな空想の世界で出会った人物の似顔絵を見れば、驚愕は致し方ない。
挙句、学友の兄弟となれば邪な意識が生まれる。話を切り出すには抵抗があることも頷けた。
「その夢の記憶はあるのですか?」
「……ある。笑わないで欲しいんだけど、こいつが出てきた夢って意識や感覚がはっきりと残ってた。夢の中なのに、これが夢ってこともわかってたんだよね」
自分で夢であると自覚しながら見ている夢、すなわち明晰夢。
だが、意識や感覚があったこと。そして何より日向創の存在から、おそらく彼が権限を使用して強引に接触したのだろう。
この世界がプログラムと知らない彼女からすれば、夢の中での出来事と勘違いしても仕方ない。
「その夢、詳しく教えてくれませんか?」
「は、恥ずいから嫌なんだけど」
「お願いします。そこに未知がありそうなので」
僕を友人と認識している伊吹さんでも、人の夢に知りたい情報があると言っては不審がる。
だから、彼女の中の僕が普段言いそうなことを告げて頼み込む。
「……分かったよ。じゃあ、今日の放課後な」
会話が終われば、予鈴が鳴り響く。
順調に事が進むのはツマラナイが、僕の行動を把握した日向創がいつかのように接触してくることに期待しましょうか。
一之瀬の件がないこと以外は基本的に原作通り。
櫛田⇒原作よりも早い段階で素を出し始めた人。カムクラに虐められて精神面が原作よりも屈強になってる。
堀北とは原作2年生編後半のような距離感で接してる。相変わらずストレスは凄いので、堀北以外のサンドバッグも探してたりする。
伊吹⇒原作と違ってちょっとだけガサツじゃなくなった人。カムクラというお友達ができてプリプリしていないので、少しだけ大人びた対応ができるようになった。が、本質は全然変わってない。
原作とは違って、堀北との絡みはほぼなし。堀北の実力は体育祭やリーダーの噂を聞いて認めているが、「勝負!!」みたいな感じではない。いずれ絡む。
登場人物と原作との相違点をまとめた投稿が必要かどうか
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必要
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必要ない