特別試験が行われない一月も、いつの間にか半分が経過しようとしていた。
今日は2月13日。バレンタイン前日である今日は日曜日であり、一部の女子生徒たちは余裕をもって準備できる幸運に感謝しているだろう。
しかし、一定数の男子には大層な予定はない。
普段通りの休日を各々過ごすのみ。僕も例外ではなく、日向創やこの世界についての調査を行うために外をぶらつき、他者とのコミュニケーションを図っている。
散歩感覚でケヤキモールを歩いているが、やはり、この世界に異変は見受けられない。
この世界が新世界プログラムだとして、このショッピングモールにいる人間はみな違和感なく人として動いている。
僕の知る限り、数百人単位の被験者を繋いで世界を構築することは現状不可能だったはず。
しかし、それは僕の現状の話。近い未来の話をすれば、日向創と左右田和一を中心に才能をフル活用すれば、数百人単位の接続は可能と推測できている。
もっとも、たとえその技術を利用していたとして、全員が人間ではないはずだ。
ケヤキモールで働く職員や学校の事務員、清掃員といった中には、データの集合体が混ざっていても不思議ではない。
(現状、被験者は生徒の可能性が高いので、学校関係者の中には少ないでしょう)
新世界プログラムである以上、被験者がいる。
こんな膨大な世界の中で学校が中心となっている以上、学校関係者が被験者と見るのが妥当。アルターエゴやデータの集合体は少ないはずだ。
事実、日向創は伊吹さんや櫛田さんに接触しているので、特に生徒が関係者の可能性は非常に高い。
「またですか」
思考に耽っていた中、僕はつい独り言を零す。
現在、僕はケヤキモールを1人で歩いているが、数日前から僕を監視する人物が幾人か見受けられる。
監視をしている人物を確認すれば、全員学生。私服姿の彼らに見覚えはないが、混合合宿で2学年の生徒であることは把握している。
数日間にやって来た監視者が全員が女子生徒と来れば、自ずと彼らの目的とバックにいる人物に見当がつく。
南雲雅。
停学を終えてもなお、未だ残っていた駒を僕への監視に向けているのだろう。
混合試験から約三週間。学年最後の特別試験に集中するかと思っていたが、僕に関わる余裕はあるらしい。
尾行している女子生徒の方を向けば、視線が合う。
挙動不審の行動と共に視線を外し、携帯に嚙り付くので、僕はその一瞬で諜報員の才能を使用し、移動する。
現状、監視は一つ。撒くのは造作もない。
「南雲雅にも聞きに行きましょうか」
調査も大分進んできたが、発展は今の所なし。
となれば、新たな発展を期待する、かつ混合合宿を終えてからの南雲雅の状態を見るがてらこちらから彼へ絡みに行ってもいい。
敗北に絶望して弱っているか。絶望が憎しみに変わっているか。はたまた……。
混合合宿ではあれだけ大見えを切っての敗北。
退学していないのは橘茜の懇願が大きいと聞くが、今の南雲雅はどんな心境なのか。
貶める予定だった人物に救われて憤怒に支配されている、なんてツマラナイ未来もあるかもしれない。
「どうやって彼と接触するか、ですね」
予定が埋まったので、スムーズに予定をこなすために前準備が必要だ。
僕は南雲雅の連絡先を持っていない。
連絡手段がない以上、どこかで待ち伏せるか、僕の監視を務める女子生徒経由で呼び出すか。
効率的なのは間違いなく後者。しかし、僕はあえて前者を選択する。
その理由は、前者の方が予想外なことが起こりそうだからだ。
「今は丁度11時、昼食を済ませてから向かいますか」
10時ころから始めたケヤキモール散策。オモシロイことは見つからなそうなので、今日は早めに切り上げるとする。
僕はケヤキモール内にあるフードコートへ向かった。
──────
フードコート、それは複数の飲食店が集まった場所。
客はそれぞれの好みに合わせて食べるものを選択し、100以上用意されているテーブルのどこかに座る。
食事など栄養が取れればいいという極論を持てる僕とは相性最悪な場所だが、簡易に安価、そして何より自分で作らなくていい点を加味し、ケヤキモール散策時は毎度利用している。
今日は席がそれなりに埋まっている。
やはりバレンタイン前日、加えて、この時間帯は買い物後の昼食利用時間とあってか、女子生徒が多い。
と言っても、男性利用者がいない訳じゃない。事実、今現在並んでいる丼屋の列は、大半が男性利用者だ。
「あれ、カムクラくん?」
最後尾にいる僕に、話しかけてくる男子生徒の声は聞き覚えがある。
後ろを振り向けば、Dクラスの平田陽介が僕の後ろに並んだ。
「こんな所で会うなんて偶然だね。もしかしてここを結構利用するのかい?」
陽気で人当たりの良い笑顔は高いコミュニケーション能力を物語っている。
敵対関係にあるクラスメイトと言えど、特別試験じゃない限り、彼はこのように接するのだろう。
「最近は利用しています」
「最近? ハマっているってことかな?」
「いいえ。最近、土日は暇つぶしにケヤキモールを散歩しています。その際、昼食時はここを利用しています」
不十分な情報だったので、僕は正確に言い直す。
「なるほどね。正直、君は丼物のような食べ物を食べているイメージがなくてさ、ここにいるのは意外だと思ったんだ」
間違っていないイメージです。
特に髪を切る前の僕が、このような人込みにいるとは思えないでしょう。
「そうだ、Bクラス昇進おめでとう」
平田くんは会話が切れないように新しい話題を提示する。
前回の混合合宿により、クラスの順位が変動した。
ちなみに、変動したクラス同士のcpは龍園くん率いるクラスは1049.5cp。一之瀬さん率いるクラスは961cpだ。
「あなたたたちDクラスも躍進しました」
「君たちほどじゃないけどね。でも、確かにこれは大きな一歩だよ」
堀北さん率いるDクラスは他3クラスと比べて、cpが非常に低かったが、今回の結果で200cp以上の成果を得ている。
上がり幅だけ見れば、Dクラスは僕たちに続けて2番手だが、今回は僕がクラスを率いた結果400cp以上手に入れたのであって、普通に考えればこの成果は上出来と言っていい。
「この勢いをしっかり活かし、次の試験もクラス一丸となって挑むつもりさ」
「クラス一丸、ですか。僕の予想が正しければ、女子生徒数名は随分と助長しているのでは?」
「……相変わらず、凄い予想能力だね」
平田くんは観念した様子でうっすらと笑い、隠すことなく白状する。
今回の試験、Dクラス男子は結果を残せず、女子の方が大きな結果を残せたはずだ。しかし、この結果をこのように捉える人もいるでしょう。
今まで下がり切っていたクラスポイントは“女子の活躍”によって手に入れられた。
この事実が、集団を率いる者以外のツマラナイ人間に発言力を与え、集団の成長を阻害する。
目先の利益のみで立場が変わる可能性、それは絶対的なリーダーがいない集団ならば起こり得る。
「君の予想通り、何人かの女子生徒は男子生徒に対して当たりが強くなった。明らかに見下すような発言も多く、クラスカースト……は全体的に女子の方が大きくなったよ」
自クラスの情報を、平田くんはペラペラと話す。
情報の重要性を理解していない訳じゃない。彼は理想主義が行き過ぎている点はあれど、優秀な人間だ。
加えて、精神的に余裕がある穏やかな表情。
かつて、争いのないクラスを作りたいと言っていた彼からすれば、今の状況は芳しくない。
にもかかわらず、ここまで敵クラスに事情を話す。つまり、解決策が既にある。
そして解決に導いている存在が、
「堀北鈴音によるクラスへの注意喚起が既に動いている」
「正解。でも、惜しいね。この件で一番動いているのは櫛田さんなんだ」
……予想が外れた。
間違ってはいない。正確にはズレていたというのが正しいのだろうが、僕の思い描く状況と少しだけ違う。
オモシロイ。櫛田桔梗がとうとうDクラスに本格的な協力を見せ始めた。
この素早い行動、今までのように承認欲求を満たすだけでなく、堀北鈴音からの指示を聞く前から自ら考えて行動している。
「……嬉しそうだね」
「嬉しそう?」
僕は右手で自身の頬に触れる。
表情の変化は起きていない。ならば、平田くんは何を見てそう判断したのだろうか。
「雰囲気がだよ。いつもより柔らかい気がしたんだ。……君は以前、既知の出来事をつまらないと言っていたね。櫛田さんの行動は、もしかして君の未知だったのかい?」
「はい。僕の予想よりも成長している彼女、その影響によって変わった未来をオモシロイと感じました」
「そっか。君がそう言うってことは、櫛田さんの成長は確かなんだね。クラスメイトとして、鼻が高いや」
こちらの反応を素直に受け止め、クラスメイトを褒めていく。
良好な精神状況。纏まりつつあるクラスの現状、何より、自分以外にクラスを纏めてくれるリーダーの存在のおかげだ。
しかし、
「あなたは、ツマラナくなりましたね。以前のように、クラスを纏めようとしないのですか?」
以前、僕に見えを切った時は自分自身がクラスを纏めようとする気概があった。
今は、他のリーダーの台頭によって全ての責任を任せただけの状態だ。
「そうだね。堀北さんがリーダーをしてくれている以上、僕はもうリーダーである必要はなくなった。今の僕の役割は、クラスの仲を取り繕うことだけになったね」
「隠居したと? あなたもDクラスがより良くなるためには必要な部品です。しかし、今のままではその性能を活かしきれない」
自身が、クラスの一部品として機能することは良しとしている。
しかし、責任から逃げ、今の自分から変わらないことに、僕は退屈を覚える。
平田洋介の能力は今のままでも役に立つ。しかし、これからさらに進化する堀北さんや櫛田さんと並ぶことはできなくなる。
まだ、殻に籠っている。
彼は歩兵ではなく、王を守る金や銀になることが予想外に繋がると判断している。
「あなたにもう一度聞きましょうか。もしクラスメイトを1人切り捨てなければいけない状況があり、その1人を切り捨てればクラスメイト39人が救われるとしましょう。
────あなたは1人を救いますか? それともクラスを救いますか?」
平田くんの目が見開かれる。
どうやら、思い出したらしい。この質問は体育祭で彼を試した時の質問だ。
あの時は僕にリーダーとしてのアドバイスを求めていたが、今は状況が変わった。
それにより、彼はこの質問を答えなくても良くなった身分になったと勘違いしている。
「……僕は、リーダーの選択に従うよ」
「ツマラナイ。そして、あなたの性分はそれを許さない。後悔しますよ?」
その選択をするのは堀北さんであって、自分はクラスの仲を守るだけで良いと。
浅い考えが身を滅ぼすことに、気付いてないようだ。
己の曲げられない信条を、同調圧力が消してくれる。
仕方なかった、そう納得しようとすることを。そして、認められないことを。
「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」
長蛇の列は既に消え、注文は僕の番にまで回っていた。
返答はない。平田くんは恨めしそうに僕を睨んでいる。
「悔いの残らない選択を期待します」
僕はオモシロイ事実を気付かせてくれた平田くんにエールを送る。
Dクラスの成長は非常に興味深い。候補は堀北さんや櫛田さん、平田くんだけじゃない。
佐倉愛理、松下千秋、軽井沢恵、高円寺六輔、そして綾小路清隆。
可能性のある生徒がまだいれば、未知は大きくなる。その1つが潰えないことを、僕は願った。
──────
時刻は13時頃。
ケヤキモールで食事を終えた僕は、2年生の寮まで移動していた。
寮は学年ごとに違うが、外観を見た様子、機能面に変わりはなさそうだ。
自動ドアを通過し、1階にある共同スペースへ向かい、ソファーに腰かける。
僕は目立つ。
以前までは容姿が最も大きな理由だが、この学校では龍園翔と同格の存在であり、混合合宿で南雲雅を撃破したという事実も大きい。
加えて、ここは2学年の寮。
学年に波乱を招いた存在に対して、視線はどうしても向いてしまう。
もちろん、好意以外の視線もだ。
「てめぇ、良い度胸してるじゃねぇか」
憎悪と憤怒が混じった眼差しが僕を見る。
力強く歩みを進めてくる男子生徒は、僕の右横にまで距離を詰めた。
今の僕以上に長く、昔の僕よりは長くない髪、それを変わった纏め方をしている。
一言で言えば、奇抜な髪型。もっとも、僕が言えたことではない。
「あなたは南雲雅のクラスメイトですか?」
「そうだ。俺は2年Aクラスの多々良。お前は名乗らなくていいぜ、カムクライズル」
鋭い目付きと険しい表情は怒りの証明。
今にも飛びかかってきそうな形相から見ても、僕に恨みがある南雲雅のクラスメイトなのは確定だ。
「丁度いい。南雲雅の部屋へ案内してください」
「それで“はいどうぞ”と案内する馬鹿はいねぇよ。何が目的だ?」
「聞きたいことがあるんですよ」
「聞きたいことだと?」
一触即発の空気に、周囲を歩いて人達が野次馬に変わっていく。
ここは2年生の寮なので、突然野次馬は全員2年生。
完全アウェーな状況は当然、敵陣に単騎で突っ込んでいるのだ。もし彼が龍園くんのような生徒ならば、このまま監視カメラのない場所に案内されていただろう。
しかし、頭のいなくなった烏合の衆にそれはできない。
なまじAクラス。賢いが故に独断先行はせず、判断を見送り、現状を維持する。
「あなたに言う必要はありません」
「ふざけるなよ。お前のせいで、俺たちは……ッ!」
憎悪がより燃え上がる。
ツマラナイ。この学校は実力至上主義。負けた南雲雅が悪く、その南雲雅の慢心を捨てさせなかった彼らにも責がある。
「……消えろ。お前の要件が何であろうと、1年がこれ以上2年につっかるんじゃねぇ」
多々良と名乗った2年生は怒りを押し殺し、これ以上の対話を拒絶する。
流石に2年Aクラスの生徒、アンガーマネジメントくらいはできるようだ。
しかし、僕の用事は南雲雅に会うこと。彼の言うことを聞く必要はない。
「誰でもいいので、南雲雅の部屋番号を教えてくれませんか?」
僕は野次馬に声を掛け、南雲雅の居場所を聞く。
このまま答えないなら、寮の管理人に聞かなければならないのだが、それはツマラナイ。
折角2年生の寮にまで足を運んだのだ。未知とは言わなくても、マシな展開を見せて欲しい。
「……人の話を聞いてなかったのか? 俺は消えろと言ったんだぞ?」
「だから、他の人から南雲雅の居場所を聞き、この場を立ち去るつもりです」
「はっ、ならこれが答えだ。誰もお前には南雲の居場所を教えない。余所者は消えろってな」
「そうですか。なら、致し方ありません」
同調圧力がこの場の敵意を増やしていく。
ツマラナイ。こうなってしまっては彼らと関わるのは時間の無駄。
さっさと管理人に聞いて……、
「俺に何の用だ?」
僕が立ち上がろうとした矢先、エレベーターの扉が開き、目的の人物が顔を見せる。
服装は私服。生徒会を辞めた彼は休日にも学校へ赴く理由がないことから、今日は学生らしく友人と遊ぶつもりだったのだろう。
突然の訪問にもかかわらず、整っている身嗜みがその証明だ。
「な、南雲!! 悪いな、こいつはお前の手を煩わせ……」
「いい、多々良。こいつは俺に要件があるらしいからな」
元生徒会長、南雲雅。彼はクラスメイトを手で制し、変わるようにこちらに向かってくる。
カリスマは顕在。落ちぶれた様子はない。
彼は堂々とした歩みで僕の元へ。ソファーに腰かける僕をポケットに手を入れて見下ろしていた。
「わざわざ2年の寮までやって来るとは、それほどの急用か?」
「いいえ。暇潰しがてら話をしてみようと思いました」
「はっ、そうかよ。俺はてっきり、監視を辞めるように言ってくると思ったんだかな」
情報収集も正確。こちらの手の内を分かっているかのように話し、動揺を誘う手法も変わらない。
だが、依然と違う点が一つ。
────目付きだ。
ギラギラと輝いていた野心を宿す瞳は見る影がない。
冷たく虚ろ気な瞳。南雲雅らしくない冷徹とも取れる瞳に、憎しみが映らないとなれば、宿す感情は落胆や諦観、絶望のような負の感情。
精神状況は本調子には程遠いらしい。
「あなたとお話したくなりました」
「お話ねぇ。……断ったら?」
「2学年最後の学年末試験、僕は2年Bクラスに力を貸し、あなたを退学させます」
周囲の空気が動揺で歪む。
絶対的なリーダーに歯向かう生意気な後輩とは、もう誰も思っていない。
突如現れた強敵による宣誓布告。南雲雅の発言次第で、自分たちの立場が変わる可能性があれば、野次馬の神妙な表情にも納得だ。
「……はっ、いいぜ。お話、受けてやるよ」
南雲雅は表情を変えずに誘いにのった。
この判断に、驚愕が伝播する。
ありえない。以前の南雲雅ならば、このような挑戦は受けていた。
だが、答えは否。すなわち、カムクライズルの協力を得てしまった2年Bクラスとの戦いは、分が悪いと判断している。
正しい分析に、僕は南雲雅の大局を見る目を称賛する。
「ついてきな」
場所の指定はどこでもいいので、僕は南雲雅の後を追う。
その際、彼は誰にもついてこないように野次馬へ告げる。
不満げな様子がぼちぼちと見えたが、流石に元絶対的なリーダー。ついてくる者は誰もいなかった。
僕たちはエレベータに乗り、移動した。
全校生徒の前で悪事バレして退学してないのは無理あると思う。
それはそれとして、似非ふにゃオス回でした。どっちも精神的に弱っているからそう見える。
平田⇒覚醒堀北さんがリーダーしてくれているおかげで体調が良い人。もちろん、chapter10入ったらすぐに体調が悪くなる。
こいつも重たい過去あり。この二次創作では男性陣なら3番目に闇が深い人と思われる。2位はTレックスの人、1位はロボトミーの人。
南雲⇒原作最強キャラランキング作ったら絶対に上位にいる人。超有能。こいつが尊敬する堀北学はどんだけすげぇんだよ。
橘を退学させようとしたことがバレて停学してた。他にもいっぱい罰を受けた。今は消沈中。かませにしない、おでこいつ好き。
登場人物と原作との相違点をまとめた投稿が必要かどうか
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必要
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必要ない