人気は才能だ。
文武ともに高い能力、頭一つ抜けた学習能力が与えられた俺はずっと人気者だった。
幼い時から常勝の道を歩み、不自由ない人生に懸命な努力の軌跡はない。
これらは生まれ持って備わっていた能力……才能であり、俺はなるべくしてなった人気者だ。
事実、俺は高校入学まで人気者として眩い人生を送ってきた。
それでも、違和感はあった。
大勢に認められ、人気者として生きている中でも生じる小さな違和感。
1番であり、人気者であるならば、気にしないことにしていたそれは高校入学から大きくなった。
その違和感を大きくした原因こそ、堀北学という男だった。
一つ年上のその男は俺よりもずっと聡明で、大勢から尊敬を集め、自分にはない信念も兼ね備えていた。
本当に、尊敬できる人物だ。
成し遂げた功績と学年を超えて募る圧倒的な人気。真似しようとしてできることではなかった。
とは言え、俺の功績と人気も負けていないと思った。
BクラスからAクラスへのし上がり、生徒会に所属し、学年を順調に纏め終えた。
やはり、自分が一番だったことを証明した。
やるべきことは終えたので、堀北先輩に挑戦した。
覇を競ってみたかった。
どちらが人気者で1番か。学年は違えど、競い合う事はできる。そして勝敗を決めれば、この違和感は拭えると。
自分の実力は本物なのか?
それとも、好敵手に恵まれなかった不運が故の裸の王様だったのか?
それらが違和感の正体。
互いに人気者の条件を、才能を備えた人間同士。ついに見つけた好敵手との戦いに、俺は全力で臨んだ。
けれど、堀北先輩は正々堂々な勝負以外、全て避け続けた。
もちろん、臆病者だからではない。あの人は学年中に広がる被害を恐れて、戦いを避けていたことは理解している。
だが、知ったことか。
たとえ学年が違って同じ条件じゃなくても、この違和感を拭えるならば、俺は何度でも勝負を挑んでやる。
だから、混合合宿の特別試験で仕掛けた。
もう時間はない。堀北先輩は卒業してしまう。そうしたら、俺の違和感を拭える者はいない。
誰が退学しようと関係ない。
必要ならば、積み上げてきた人気すら対価に出してやる。
そして勝利する……はずだったんだ。
「さて、お話を始めましょうか」
人気は、才能だ。
だが、こいつは俺や堀北先輩とも違う。
人の輪の中心にいる人物でも、誰からも尊敬される徳の高い人物でもない。
……あぁ、ちくしょう。俺は、裸の王様だったようだ。
──────
2人の実力者の会談は既に準備が整った。
場所は南雲雅の居室。小物が多いベッドに南雲が座り、勉強机とセットの椅子にカムクラが腰かける。
カムクラの気まぐれで始まった今回の話し合いだが、南雲目線、負かした相手を煽りに来たようにしか思えない構図だった。
「……で、何の用なんだよ。負けた俺を笑いにでも来たのか?」
南雲は話の切り出しがてら、正直に聞く。
対して、右足を椅子に乗せ、片膝へ右手を乗せるカムクラはじっと南雲の瞳を見つめてから言葉を返す。
「負けたあなたの心境を確認しに来ました」
「趣味が良いこったな。……それで、満足か? 御覧の通り、停学明けで傷心の身だ。生徒会長の座はなくなり、支配下に置いたはずの同級生は反乱。全てを失った俺はまさに丸裸だぜ?」
「ツマラナイ。開き直ることは構いませんが、それで前に進まなければ意味はない」
カムクラは依然として南雲の瞳を見つめている。
不気味だ。南雲は血のように赤い瞳を見返しているが、何もかも見透かされたような鋭い視線に寒気がした。
堀北学と対峙した時でも、こんなことはなかった。
「……気持ちの悪い奴だ。野郎の顔をまじまじと見やがって、そっちの気でもあるのかよ」
人からの視線になれている南雲でも、こうも見られ続ければ不愉快だ。
まして、その視線が好意ある視線ではなく、顕微鏡で細胞の1つ1つを観察している時のような無機質で冷たい視線と来れば猶更だ。
しかし、
「自信の喪失、ですか。あなたはこれまで大きな敗北をしたことがなかったのですね」
カムクラにとって南雲の怒りなどどうでも良く、南雲の地雷を躊躇いなく踏み抜いていく。
重要なのは目の前の存在が己に未知を見せるかどうか。超分析力で現状を把握し、未来予知じみた推測能力を駆使して、予測のできない未来への投資を行う。
分析は既に完了。南雲雅の心境が初めての敗北によって、弱っていることを読み取る。
「……だから何だ、何が言いたい?」
「言いたいことは変わりません。ツマラナイ、今のあなたは見るに堪えない」
「ははっ、一回勝っただけでよくもまぁ……そこまで上から目線でモノが言えるな。てめぇ、何様のつもりだ?」
土足で人の心に踏み入り、その心情を理解した上でカムクラは容赦なく荒らしていく。
当然、怒りが芽生える南雲。だが、透徹した目で見られれば、その怒りはだんだんと冷めていく。
なぜなら、南雲は理解しているからだ。
目の前の男の実力を。その容赦のなさと圧倒的な才能を。
(……ちくしょう。俺なんて眼中にすらねぇのかよ)
実験動物でも見るような冷めた視線。表情、態度ともに南雲の怒りを歯牙にもかけない。
南雲は堀北学との戦いに負けた。だが、その決定打を打ったのは堀北ではなく、カムクラだ。
結果発表の時に無様を晒し、格の差を見せつけられて敗北したからこそ、南雲は今の立場に追いやられた。
情報収集は怠らなかったからこそ、その開きすぎている差を理解してしまう。
加えて、今の南雲にかつての統率力と情報収集能力はない。
云わば、翼をもがれた状態。そんな目に見えて弱体化した状態では、目の前の男に勝てる可能性など万に一つもない。
「僕が怖いですか?」
カムクラは南雲の弱気な態度を読み取る。
怖い、その感情は間違っていなかった。
南雲はカムクライズルを恐れている。
自分の実力が本物かどうか、それを己が認めた人と競い合うことで確かめたかった。
しかし今、目の前にいるこの男は己を、己が認めた人を優に超える才能を有している。
埒外の才能を見て、自分の思い上がりを自覚してしまった。
南雲には人気者になる才能がある。あるからこそ、その差を、影すら全く見えない遠すぎる距離を悟ってしまった。
「……どうして俺がお前を恐れる必要がある。一度負けたのは事実だが、俺がその仕返しをしないとでも思ってんのかよ」
今や残るは高いプライドのみ。
反骨精神と言うには未熟すぎる意志。言ってしまえば、ただの意地だ。
「はい。あなたは馬鹿ではなく、他者の意見を取り入れられる視野の広さを持っています。ゆえに、僕へのリベンジを行おうとした時、仲間の制止でリベンジを止めてしまう」
「な訳あるかよ。お前へのリベンジはきっちり果たすぞ、何があってもな」
「今のあなたには不可能です。なぜなら、現状はこう思ってしまうからです。────良かった。あんな理不尽に立ち向かわない都合の良い理由ができて本当に良かった、と」
カムクラはまるで決定した未来のように告げる。
年下の無礼な態度からくる憤怒、年下にもかかわらず己を上回る実力からくる嫉妬。
それらは統合して憎悪へと変わり、整った表情を歪ませる。
「やはり、勿体ない。絶望することなく、僕に立ち向かえる気概。しかし、生真面目ですね。賢いがゆえにその1歩先へ進めない」
「……なんなんだ、お前は。上から目線でもの言ってばかりで肝心なことは何も伝えねえ。答えを探させて、俺の教師になったつもりか?」
「その才能は持っていますが、使っていませんよ」
要領を得ない会話が更なる苛立ちを誘発する。
お話がしたいと言うから、その話で自分に変化が起きるかもしれないから誘いに乗ったが、これでは時間の無駄。
煽られるだけ煽られ、怒りが積もっていくだけだ。
「南雲雅、僕はあなたに期待しています」
「はっ、今更おべっかか?」
「いいえ。期待しているからこそ、僕はあなたにこの敗北を活かし、予想のできない未来を作るためのきっかけにして欲しい」
南雲目線、総じて不愉快な話し合いだが、カムクラの言葉は一貫している。
現状の南雲を否定し、このままでは先に進めないこと。
それが期待から来ているという言葉には違和感を持つが、調べたカムクラの性格を加味すると、今日の会話に嘘はないと思えた。
「……てめぇの言う予想のできない未来ってのはなんだ?」
「さぁ。予想ができないからこそ、答えられません」
「そうかよ。……じゃあ例えば、てめぇが俺に負けるって未来は予想外か?」
「はい」
躊躇いなしの返答。いっそ清々しい上から目線に、南雲の怒りは風化していき呆れへ。
自分が負けるとは微塵も思っておらず、自分を負かす未来があったらいいと本当に思っている。
────その自信はどこから来るのだろうか。
こいつには、自分の実力が本物だと証明してくれる相手がいたのだろうか?
好敵手に恵まれずに、裸の王様では無いことを証明できたのだろうか?
「なぁ……、お前はどうして自分の実力は疑わないんだ?」
南雲は興味を抑えられず、つい聞いてしまう。怖くて憎かった男に、共感を求めてしまう。
「才能に恵まれていたからです」
「そりゃ、俺もそうだ。自分が人よりも能力の高い人間であることを理解している。だが……」
視線がさがり、膝の上に置いた両手が握り拳に変わる。
そして思わず、言葉を続けてしまう。
「……今まで負けなしの人生だったのに、お前に負けた。俺は、1番じゃなかった。俺は……ッ!!」
ハッとして、顔を上げれば変わらぬ無表情がこちらを見ていた。
自分は何を言っている。生意気な、大して仲も良くない後輩に悩みを吐露している。
そう自覚してから言葉を切るが、既に遅かった。
「────好敵手に恵まれなかった裸の王様だと?」
カムクラは続く言葉を容易く言い当てる。
驚愕はない。カムクライズルを、自分よりも堀北学よりも凄い存在だと認めてしまっているからだ。
あるのは緊張。そして、その後ろに控える怯え。
さらに続く言葉が、自分が認めた存在からの評価が、己の違和感の成否を決めることを悟ったからだ。
「本当にそうでしょうか?」
「……何だと?」
「僕はあなたを裸の王様だとは思いません。好敵手に恵まれず、有頂天になっていたことが事実であっても、その実力は紛れもなく本物。人の上に立つことができる人間です」
その評価に、南雲は目を見開く。
冗談には、聞こえなかった。その肯定は、南雲が最も欲していたものだ。
放心状態の心に、歓喜が流れていく。脳がその肯定を喜んでいる。
認めた存在からの答えの提示は違和感の払拭。
しかし、南雲は徐々に弧を描きだした口元を意地で戻し、プライドで演技をこなし、カムクラを睨み付ける。
「だからこそ、ツマラナイ。たった一度の敗北で自信を喪失したあなたが、僕は勿体なくて仕方ない」
「ここから立ち上がって、もう一度お前に挑めと?」
「足りない。僕が求めているのはあなたの進化です。敗北から学び、慢心をなくした真のリーダーになって初めて、あなたは僕の未知になる資格を得る」
上から目線もここまで来れば、もう笑うしかない。
実力差があるからこそのこの一貫した態度。先程の期待も嘘ではない、そう都合よく解釈してしまう。
「……そうかよ。どこまでも、ムカつく野郎だ」
南雲はそう言って坐っていたベッドに寝転ぶ。
不貞寝したかのように背を向けるが、カムクラの前では無駄な演技だ。
「話は終わりだ。これ以上、お前と話していると怒りでどうにかしてしまいそうだ」
「そうですか。では、お話はここまでにしておきましょう」
「あぁ、とっとと消えろ」
心の内側に渦潮ができたかのように、様々な感情が湧き、かき混ざっている。
答えを、得た気がした。だから一人になって、一度自分を見つめ直したかった。
子供のような我儘であることは承知の上。僅かに湧いていた感謝もある気がしたが、生来のプライドの高さから伝えることはなく、感情の濁流へと見過ごした。
「来年度を楽しみにしておきます」
椅子が移動する音が聞こえ、玄関のドアが開く。
南雲はすぐに起き上がり、座位へと戻る。
携帯が鳴っている。名前を確認すれば、友人である朝比奈の名が映っていた。
「……まずは、2年の再統一からだな」
南雲はそう呟いてから電話に応答する。
第一声は心配。自分が仲間に恵まれている事実を感じ、悪くない気分だった。
南雲の改心回終わり。
カムクラ視点の都合上書けていませんが、他は基本的に原作通り進んでます。掲示板で悪口とかもないから学年中でギスギスしてない。
綾小路⇒神室を通じてではいないが、坂柳と接触。原作通り、次の試験で勝負しようねと約束。でも、普通に名前だけ呼ばれた電話はかかってきているので、不穏な展開は想定している。
ちなみに、櫛田が成長したことでポイントを半分渡すこともしてない。あと、桐山とのパイプもできてる。
坂柳⇒原作と違って暇人。普段通りの日常を過ごしつつ、綾小路と約束できてニコニコ。
現状、この二次創作で一番エンジョイしている。私も坂ギャクしたいので、そろそろ絶望してもらう。
橋本⇒軽井沢に絡みに行ってない。理由は綾小路が怖いから。この二次創作では早い段階で綾小路と手を組んだけど、見捨てられちゃった。PTSD発生してたけど、彼のメンタルは中々丈夫だから面には出していない。混合合宿は得しかしてなくて、かなり楽しかった。
軽井沢⇒綾小路の手駒。駒のなり方は原作と一緒。チョコ普通に渡せて喜んでる。
実はカムクラポイントが龍園並みに高い。ちなみに、カムクラポイントは溜まっても嬉しくない。藍染ポイントと一緒。
神室⇒原作と違って綾小路と会っていないため秘密は漏れてない。坂柳のせいでカムクラと会うことはそれなりにあり、意外と話す。話せば普通だと知っているが、自分の性質も相まって直観的にカムクラを異常者だと理解している。坂柳の男の趣味は悪いと思ってる。
キャラデザ好き。かわいい。