ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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バレバレンタイン

 

 

 

 2月14日、普段よりも騒がしい教室が伊吹を出迎える。

 今日はバレンタイン。騒がしい理由を察することはたいして難しくなかった。

 

「……バッカらしい」

 

 ギラついた目で周囲を観察する男子、そわそわとした様子で席に着く男子、もらった数、あげた数のチョコを主に雑談するグループ、義理チョコと言ってクラスの大半にチョコを送る女子。

 目につく情報は伊吹にとって目障りでしかない。

 群れることを嫌う彼女の本能的な理由。伊吹は不機嫌を軽く押さえながら席に着いた。

 

 これでも、入学当初に比べればだいぶ緩和したでしょ。

 

 伊吹にはそんな自覚があった。

 昔ならば己の周囲で騒がしいものにガンを飛ばし、文句の1つを添えていただろう。

 この手のイベントを内心見下し、哀れな人間を見て嘲笑っていただろう。

 だが、今は人と繋がる意味を少しは知れた。友人を持ち、自分と違う人間に対して寛容な一面を手にしている。

 つまり、気質こそまったく変わりないが、彼女にはやや大人びた一面が現れていた。

 それでいて、

 

(本当にバッカらしい。けど……)

 

 伊吹は今朝コンビニで購入した品々をバッグの中から取り出す。

 乱雑に入っているそれらは伊吹のガサツな一面を良く表しており、探し物を見つけるのにすら一苦労だ。

 最終的に、バッグをひっくり返してようやく出てきたそれは、1つのチロルチョコ。

 伊吹はビー玉を摘まむように三本指で摘まみ、まじまじと眺める。

 

「面白いくらいに、恋愛感情とかはないのよねぇ」

 

 事の始まりは今日の弁当を作らなかったことだ。

 入学してから自炊をカムクラに勧められ、簡易的とはいえそれなりの昼食を作れるようになった。

 だが、生来の性格も相まって、何かしらの理由がなければ、毎日規則的に続けることは彼女には難しかった。

 ゆえに、今日のようにコンビニで昼食を済ます日はさほど珍しくない。

 そして今日はバレンタイン。それを思い出した彼女はチョコを購入していた。

 送り相手はカムクライズル。

 日頃の感謝など稀に作ってくれる美味すぎる飯しか頭に浮かばなかったが、気まぐれと1つの疑問を解消するために今日はわざわざ早めに登校していた。

 

(私の性格的にこういうイベントに参加するとは思わないでしょ。さて、どんな反応するかなぁ)

 

 驚くことを期待して伊吹はニヤニヤと悪い顔をする。

 もしツマラナイなどと言った時はケツを蹴り上げる、そんな横暴なことも考えながらカムクラの登校を待っていた。

 

「それにしても遅いわね。普段ならこれくらいの時間には登校していると思うんだけど……」

 

 悪戯をしたい子供のように待ちきれなくなった伊吹はつい独り言を零す。

 カムクラの登校は早い。ほぼほぼ一番に教室へ到着しているイメージすらある。

 にもかかわらず、今日はその姿がない。

 

「クク、あの才能バカならまだ来ないぞ」

 

 その理由を考えようとした矢先、龍園が登校してくる。

 片手にスクールバッグ、もう片手に手作りと思われる包装されたお菓子。

 もの好きな奴もいるのね、と伊吹は内心でそう思った。

 

「なんで?」

「たくさんの女に絡まれたからな」

「……えっ。あいつってそんなモテるの?」

 

 率直な感想が思わず漏れる。

 カムクラが、モテる。確かに、顔は整っている部類だと認識している。しかし、以前のおどろおどろしい髪型と自分本位な性格は知れ渡っているはずだ。

 

「……あっ、混合合宿の影響もあるのか」

 

 色々と理由を考えてみて、伊吹はようやく合点がいく。

 今でこそマシな髪形になったが、慇懃無礼な態度は人に好かれるものではない。無感情、かつ不愛想な表情もマイナスよりな評価だろう。

 しかし、それら全てを無視できるほどの才能がカムクラにはある。誰かしらに好意を抱かれてもおかしくはない上に、特別試験で圧勝という結果がついて来れば、十分納得できた。

 

「そういう訳だ。クク、うかうかしてると取られちまうぜ?」

「取られる? 別に付き合ってないんだけど」

「はっ、ガキだな。つまらねェ」

 

 龍園は退屈気に告げ、自分の席に戻ろうとする。

 その反応の真意に伊吹は気付けなかったが、兎に角馬鹿にされたことは分かったので、イラつきを隠さずに龍園に文句を告げようとした。

 だがちょうどその時、噂の人物が教室に足を踏み入れる。

 

「両手に紙袋。クク、どこの漫画の主人公だ」

(……龍園も漫画とか読むのね)

 

 両手に大きな紙袋をぶらさげたカムクラに同じ感想を抱いてしまい、伊吹はついそう思う。

 

「おはようカムクラくん。凄い荷物だね~」

 

 注目を浴びた彼へ最初に話しかけたのは矢島だ。

 

「これ、全部チョコ?」

「全てがチョコレートではありませんが、バレンタインの贈り物ではあります」

「おおっ、モテモテだぁ。すっご」

 

 初めこそ揶揄うつもりで声を掛けた矢島だったが、紙袋の中身を見て眉を軽く引き上げる。

 ぎっしりと詰まった紙袋、それらはチョコやクッキーなどの菓子が入っていたが、その量はとても両手の指じゃ数えられない。

 そしてそんな紙袋が2つ。いったいどんな人たちからもらったのか、そんな興味がクラス中から生じていた。

 

「先に言っておきますが、こちらのお菓子は不特定多数の異性からもらったものではありません」

 

 カムクラは右手に持つ紙袋を見せて告げる。

 

「……どういうこと?」

「これらは2年Bクラスに所属する生徒たちからの贈り物です。バレンタインは僕に礼を返すのに良い機会とでも思ったのでしょう」

 

 クラス単位のプレゼントが送られるという奇妙な事態だが、その理由は誰もが察していた。

 それこそが、2年Aクラスリーダー南雲雅の失脚。前回の混合試験で巡ってきたチャンス、紙袋はクラス単位の礼として送られていた。

 

「じゃあ、左の方は?」

「こちらが不特定多数からです。こちらも主に上級生から頂きました」

「あぁ~、全部義理チョコ的な感じ?」

「はい。僕へのコネを作りたい人間が大半でした」

 

 左に入ったプレゼントも南雲雅失脚による恩恵を受けた者たちからのプレゼントが主だ。

 あるいは、南雲から鞍替えを試みる者による接触。

 南雲は特に女子からの信頼が厚かったが、それは大きな権力と彼自身の実力が起因する。

 しかしながら、それだけ大きなものを持ちながら敗北すれば見限る者もいる。

 自分の優位な立場を望む蝙蝠たちの行動は早く、バレンタインは都合が良かった。

 

「つまらない、でしょ?」

「ええ、ツマラナイ。彼らには何の未知もありません」

「ふふ、そっか。あっ、ちょっと待ってて」

 

 淡々と告げるカムクラに、矢島は断りを入れてバッグに手を入れる。

 ふぅと一息ついた後、バッグの中から透明な袋でラッピングされているクッキーを取り出す。

 

「これ、友チョコで~す! カムクラくんには結構お世話になったので、ちょっと高いものを買ってみました!」

「ありがとうございます。早くいただきますね」

「……ありがとう!」

 

 矢島は紙袋の空いている場所へプレゼントをねじ込むように素早く入れる。

 用が済めば、笑顔のまま自グループの方へ戻っていく。

 素早く行動した矢島を、グループは声高に騒がしくなって受け入れる。

 

「うるさ、ただの友チョコに何でそんな騒がしくなれるんだか」

 

 盛り上がるカースト上位のグループに、伊吹は煩わしさに耐えきれずぼやく。

 そして、その発言を聞いた龍園は腫れ物でも見るかのように呆れて伊吹を見ていた。

 

「……何?」

「お前は、今のが本当に友チョコだと思ってんのか?」

「はっ? 矢島もそう言ってたでしょ?」

 

 伊吹はカースト上位のグループの会話に耳を傾ける。

 すれば、今の龍園と同じようにチョコが本命かどうか聞いていた。

 矢島は陽気に笑って、友チョコと告げていた。

 照れた様子はなく、余裕がある返しだった。だから嘘は言ってない、伊吹はそう結論付けていた。

 

「おはようございます」

 

 自席に到着したカムクラが義務的な挨拶を告げる。

 

「お前、気付いてるな?」

「手作りのクッキーを渡す、手の込んだ偽証です」

「自分の気持ちに自覚があるんだろ。まだダチでいたいか、自分じゃ釣り合わないと思ってんのか……何にしろ懸命に距離を詰めようと行動する辺り健気な女だ」

「あんたたち、何の話してるの?」

 

 伊吹の質問に2人は顔を見合わせる。

 龍園が肩をすくめれば、カムクラは頷いた。

 

「聞くが伊吹、もしお前に好きな男ができたとして、付き合う前に積極的なアピールをするか?」

「はっ、なんであんたと恋バナしなくちゃいけないわけ?」

「興味本位だ。早く答えろ。それとも、恥ずかしくて答えられねぇか?」

 

 煽れば、伊吹は全自動で反応する。

 良く言えば自分に正直、悪く言えば単細胞。

 龍園はその気質を手玉にとる。

 

「する。アピールしなきゃ他の女に取られるでしょ」

「彼女、そう言って行動に移せないタイプです」

「だろうな」

 

 2人の容赦ない分析に、伊吹の頬はひきつり、こめかみを震わす。

 

「で、それが何な訳? さっきの話とどう繋がるのよ」

「恥ずかしくて本心を知られたくない奴もいるって話だ。まぁ、俺とお前以外は気付けなかったんじゃねぇか?」

「いいえ、何人かは女の勘というもので気付いているようです。むしろ、あなたは良く気付きましたね」

「女の態度は逐一把握しとくものだからな」

 

 2人は伊吹なしで話を進めていく。

 伊吹はそれが面白くなくて、強引に話題を変えようと行動を起こす。

 

「……おい、カムクラ。これやるよ」

「チロルチョコ……あぁ、僕の反応を見たかったんですね」

「キッショ、何で分かるんだよ」

 

 1秒もせずに企みを看破された伊吹はどこかで聞いたフレーズで罵倒する。

 それを見て龍園が大笑い、そこから伊吹の機嫌がさらに悪くなったことは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一面真っ暗な空間で、男は大きく息を吐く。

 上下左右が認識できないこの場所で宙に浮き、微動だにしない。

 軽く手を振ってもバランスを崩すことなく、手の軌道を追うようにモニターが彼の周囲を覆うように展開される。

 

「……悪いな。本当はセーフティを外してやりたかったんだけどな」

 

 男は何もない暗い空間で誰かに向けた謝罪をする。

 同時並行でプログラムを動かしているため心がこもっていないように思えるが、その感情に嘘はない。

 制限があった。彼は今、自分の存在ごと消えてしまいかねない損傷を負っている。

 それによって、管理者権限を持ちながらも、世界に干渉する力の殆どが消えている。

 無理をすればすぐにでも会えるだろう。だが、万が一のためにもその力は残しておく必要がある。

 

「でも、この状況なら今すぐ行く必要はない」

 

 周囲に展開された画面の1つには、カムクライズルが映る。

 無表情は健在。退屈に満ちていることに変わりはない。

 しかし、男には……彼と同じ才能を持つ日向創にはその表情が少しだけ穏やかに見えていた。

 

「偶然から始まったとはいえ、これなら心配はいらないな」

 

 自分の代わりに致し方なく配置した同一人物。

 度重なる予想外が繋がり、本来は自分が所属する手筈で、かつ所属予定のクラスも違っていた。

 加えて、入学当初の彼の心は灰色のようにどっちつかずの色をしていて、希望と絶望のどちらについてもおかしくない精神性だった。

 希望こそが己の本当の未知に繋がるという答えを導き出せていても、その行動指針は実に幼かった。

 しかし、だんだんと彼は人を知り始めた。

 彼にとっては取るに足らない凡人たちの感情、思考、行動を知ることで、カムクライズルは少しずつ、本当に少しずつ、切り捨てたものを取り戻して自分のものにし始めてきた。

 

 だからこその信頼。

 

 日向は今のカムクラなら自分の予定と同じように行動してくれる。

 他者への関心。以前よりも穏やかな今の彼ならば。

 

「……さて、この世界のためにももうひと踏ん張りしなくちゃな」

 

 既に1つ、大きな障害は取り除いた。

 これ以上、彼女のウイルスがこの世界に散ることはない。

 だが、いくつかは残ってしまった。

 ウイルスとなって他人の精神に憑くあれは誰にとっても劇薬そのもの。潜伏場所は一刻も早く突き止めなければならない。

 

 

 




これでchapter9は終わりです。interludeは挟まずに、chapter10に進みます。
ロンパサイドの話が最後にしっかり絡みます。
なにせ、次の試験は投票試験。とうとうこの学校から退学者が出るからです。書いてて思った。この試験、本当に理不尽。

龍園⇒裏主人公であり、ライバルであり、ヒロインでもある人。みんな大好きドラゴンボーイ。
カムクラとかいう化物を間近で何度も見てきているのに全く心を折らない。原作よりも早い段階で成長して特別試験で活躍してきたが、ここになって停滞気味。今はカムクラから盗める所を頑張って盗んでいる。
原作よりもだいぶ絆されている。それでも、逆らう奴には容赦しない。実はこの二次創作では軽井沢を蹴っ飛ばしてる。

矢島⇒原作ではほぼ登場しない。オリキャラとして扱ってる。投稿していなかった間に、キャラデザが判明しててビックリした。
登場はchapter5、園田と一緒にクラスの人気者としている。原作ではそんなことない。龍園の独裁国家だし、ビビってる内の1人。
以前能力をどこかの後書きで書いたが、修正した。運動能力とコミュニケーション能力がまぁまぁ高いスポーツ女子と思ってください。

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