ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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申し訳ない、予約投稿の日にちを間違えてました。
ポイントの計算間違ってたらすまぬ。


Chapter10
2000万ポイント


 

 

 

 学年末試験が終わって数日が経ち、今日からとうとう3月だ。

 誰もが気にしていた学年末試験の結果が伝えられる朝のホームルーム。

 万が一、赤点になれば退学が待っている。そんな過酷な状況も今日で5度目となるが、クラスメイトの表情から慣れきった様子は見られない。

 

「皆さん、学年末試験お疲れさまでした。早速、結果を発表していきます」

 

 坂上先生は定例の行動に出て、持ち込んだ大きな紙をホワイトボードに広げていく。

 張り出された全員の成績。

 40人全員の合計点と教科毎の点数が事細かに記載されている。

 成績下位者からすれば、自分の弱点が掲示されて恥ずかしい。上位者でも他人に点数の推移を見られて好ましくないものいる。

 しかし個人的に成績公開を拒否しても、きっと学校の方針として開示は続くだろう。

 学校の方針として行われている以上、ただのお願いでは変えられない。

 

(しかし、ポイントを支払えるなら話は別。実力があれば、プライバシーを守ることができる)

 

 この学校独特のシステム、Sポイント。

 ポイントで買えないものはそうなく、このような権利すら買える。

 値段にもよるが、欲しい人間がいてもおかしくない。

 

「今回の結果も、全員合格です。平均点も上昇傾向であり、全体的に成績が伸びてきています」

 

 坂上先生はホワイトボードの余った部分に各教科の平均点を記載する。

 どの教科も50点前半。

 この学校の筆記試験はトップクラスの難易度ではないが、全国的に見たらレベルは高い。

 赤点を取ったら即退学な点を含めれば、精神的な面ではトップクラス。

 だが、今年の一年は誰も退学していない。ギリギリな生徒もいるが、この結果は学校側としても喜ばしい結果だろう。

 

「クラス別の平均点は3位。今年は生徒のレベルが非常に高いですね。君たちのこれからに期待しています」

 

 最下位のDクラスとの差は3点差。

 ペーパーシャッフルは龍園くんの指示で僕がクラスメイトを指導していたため、Dクラスに勝利した。

 だが、実際の実力差なんて誤差に近い。

 僕の指導で何人かは開花し始めたが、特別試験は団体戦。数人だけでは上のクラスに迫れないどころか、Dクラスに越される可能性もある。

 全体的な学力の高い坂柳さん率いるAクラスと一之瀬さん率いるCクラスに勝つなど夢の話に近い。

 

「それと、カムクラくん」

 

 現状を分析していると、名指しされる。

 ホームルームで特定の人物を名指しすること自体珍しいが、その対象が僕というのは初めてのことだ。

 

「今回の試験を終えて、君は一学年全ての試験において満点という素晴らしい結果を残しました。君の日々の努力を称え、学校は君に特別賞与を与えます。明日プライベートポイントが振り込まれますので、不備がありましたら連絡をよろしくお願いします」

 

 坂上先生はこの件を伝え終えた後、ホームルームを終わらせた。

 思わぬ臨時報酬が入った。

 1学期初期の体育の授業、あの時も競泳タイム順にポイントを配っていたが、今回のような何らかの努力、業績にはポイントが配布されるらしい。

 生徒会や部活動での活躍がクラスポイントに反映されるように、個人に対してもポイントを得られる制度は他にもいくつかありそうです。

 

「奢って」

 

 ニヤニヤと小憎らしい笑みでたかってくる伊吹さんを僕は無視する。

 すれば、小さな舌打ちとともに不愛想な表情に戻る。

 

「なんでよ、どうせあんたのことだからそのお金使わないでしょ?」

 

 だからと言って、伊吹さんに奢る理由にはならない。

 もっとも、暇潰しに金を使うことはあるが、先月の機械弄りのような10万近く消費することはない。

 懐に200万近くあるとはいえ、浪費する気もない。

 

「なら、私が使ってあげるわよ」

「映画代にされるくらいなら、他の使い方を模索します」

 

 彼女の小遣いにされるくらいなら、このポイントを全て草餅に変換した方がマシだ。

 

「おい、ポイントを寄越せ」

 

 さらにストレートな言い方で、龍園くんが現れる。

 と言っても、彼の言うポイントは特別賞与のことではない。

 

「今回の徴収で2000万は溜まりましたね」

 

 今日は3月1日。ポイント徴収日だ。

 僕と伊吹さんは彼の指示に従い、6万ポイントを渡す。

 先月までのBクラスの貯蓄額は1955万6400pp。そこに6万×40人=240万ppを足すことで、合計2195万6400pp。

 加えてAクラスからの徴収額、2万7400pp×36人=98万6400ppを追加すれば、合計2294万2800pp。

 これで1人分のAクラス行きチケットを手に入れた。

 

「まだまだ足りないがな」

 

 彼はそう言ってすぐに他の生徒の元に向かっていった。

 

「2000万ポイント貯まったのですか?」

 

 彼と代わるように椎名さんが現れる。

 こちらの話は聞こえたようで早速話題になってしまうが、秘匿する気もなさそうなので構わない。

 

「2000万あれば好きなクラスに移動できる権利を買うことができると聞きました。同時に、今までこの権利を買えた人はいないとも」

「このポイントは彼個人のものではないため勝手には使えない。よって、彼もクラス移動の権利を買えたわけではありません」

 

 2000万ポイントの貯蓄は個人では苦労するが、集団ではさほど難しくない。

 事実、龍園くんは貯められたし、一之瀬さんのような信頼厚いリーダーならば宗教団体のようにポイントを徴収できる。

 だが、それを使うには反感が付き物。危険すぎる買い物になってしまう。

 

「今の龍園くんなら勝手に使うことはないと思いますが、確かに手軽には使えませんね」

 

 ゆっくりと間の抜けるようなペースで彼女は話す。ふわふわとした穏やかな雰囲気は相変わらずだ。

 

「あっ、カムクラくん。特別賞与おめでとうございます」

 

 彼女は思い出したかのように言う。

 

「私もカムクラくんに負けないよう試験は真剣に望んでいたのですが、結局1回も勝てませんでした」

「あなたは金田くんと並んでクラストップの成績、優秀ですよ」

「ふふ、ありがとうございます」

 

 邪気のない笑み、純粋な喜びが反映された表情。

 この学校では、一之瀬さんと椎名さんでよく見る光景だ。

 

「次回のテストはペーパーシャッフルのように教えてくれるのですか?」

「いいえ」

「……そうですか。カムクラくんは教え方も上手いのでちょっと残念です」

 

 椎名さんは分かりやすく気を落とす。

 

「あなたになら個人的に教えても構いませんよ」

「えっ、本当ですか?」

 

 僕は頷きで肯定する。

 この発言は彼女を励ますためではない。

 彼女は勉強方法が確立できていて、かつ高いレベルを維持できているから提案した。

 聞いてくる問題も応用で、教えた後も僕に依存して勉強するのではなく、自分のものにしてさらに成長できる。

 ならば、手助けしても僕に依存することはない。

 

「ふーん、椎名に教えるんだ。いつだったか、私は断ったくせに」

 

 伊吹さんは目を細めて告げる。

 元々勉強が嫌いなので、教わることに楽しみは見いだせないだろうが、自分だけ断られたという状況が気に入らないようだ。

 僕はまるで考えているかのように返答を遅らせる。

 

「……何で即決しないのよ」

「あなた、これを機に僕に頼りきるでしょう?」

「うっ……」

 

 伊吹さんはバツの悪い表情を浮かべる。

 僕に嘘が通じないことを知っているくせに無駄なことをする。

 しかし、不快感はない。その冗談を、僕はツマラナクても受容しているのだろう。

 

「まぁ、もう少しマシな点数を取ってもらいましょう」

「……私、このクラスだと上から数えた方が早い成績なんだけど?」

「40人中18番、物は言いようです」

「うっさい!」

 

 成績が伸び悩んでいるから助けて欲しい、と伊吹さんは素直に言えない。

 その頼みをただ理由なしに聞くのが友達らしいので、聞いてあげましょう。

 

 

 

 ──────

 

 

 

 二人と解散した後、僕は1人で生徒会室を訪れる。

 相手は元生徒会長の堀北学と現生徒会長の桐山生叶。どちらも生徒会に関係する人物で、用件もすでに察している。

 桐山生叶は初対面だが、堀北学曰く、反南雲側の人間らしい。

 

「来たか」

 

 扉を開けば、堀北学と桐山生叶、そして橘茜と一之瀬さんの姿もあった。

 警戒する橘茜と桐山生叶、歓迎する一之瀬さん、特に反応を見せない堀北学と反応はそれぞれだ。

 

「用件は分かっているな?」

「南雲雅についてですね」

 

 堀北学は頷く。

 予想通り、用件は1週間前に停学を解かれた南雲雅への対応について。

 今日この場で話し合うメンバーは信頼できると判断されて召集されたと見ていい。

 

「全員揃った。桐山、進行を頼む」

 

 堀北学は司会を桐山生叶へ渡すと、彼はすぐに南雲対策会議を始めた。

 繰り上がりとは言え、現生徒会長。リーダーとしての業務をしっかり果たせる器はあるようです。

 

「南雲の停学が明けて約一月経過しましたが、奴に目立った行動はありません。正直、不気味なぐらい静かです」

「それは俺も同意見だ。奴は一度負けたくらいで引き下がるような男ではない。それをしないということは……」

「出来ない、のでしょうね。2年Aクラス内では南雲をリーダーとして認める方針で一応固まっているようですが、まだクラスの意思統一に手一杯なのでしょう」

 

 今まで誰彼構わずに遊び感覚でちょっかいをかけられたのは余裕があったから。

 しかし、権力と信頼を失った彼には余裕がない。

 他学年の僕へ喧嘩を売る前に、2年最後の特別試験のためにやるべきことを優先せざるを得ない。

 

「Aクラス以外の状況はどうなんだ?」

「他3クラスの大半は反感を持っていて、その中には南雲との契約を反故にする者も現れています。ですが、一定数の女子生徒はまだ南雲に付いているようです」

 

 桐山生叶は簡潔に詳細を話していく。

 仮にも今まで副会長だった男、それなりの情報網はあるようだ。

 それより気になったことは“南雲との契約”。おそらくだが、ここにも南雲雅が多くのポイントを所有し、反乱分子を抑えられていた理由が存在しているのだろう。

 

「これらの事から推測するに、今後の南雲は2年生の再統治に向けて全労力を使うはずです。ペナルティによって自由に動かせるポイントも減ったので、3年生の試験に介入することも、1年生にちょっかいを出すこともないかと」

 

 同意見だ。

 南雲雅は傲慢な性格から実力者を探すような行動をするが、それは余裕があったから。

 大局を見ることができ、物事の優先順位を間違えるようなことはしない。

 

「ここまで纏めると、南雲は2年の統一に集中するため、今までのような学年を越えた行動は起こさないと見ていいな」

「はい。しかし、1つだけ懸念点があります。……おい、カムクライズル」

 

 素早く会議を進めていた桐山生叶が僕の名を呼ぶ。

 

「2月13日、お前は南雲と接触しているな?」

 

 鋭い目付きには敵意と警戒が籠っている。

 不安要素と南雲の対策として呼ばれたメンバーの中に裏切り者がいる可能性を考慮しているようだ。

 

「それはこちらでも確認してる。カムクラ、奴とは話をしたかったようだが、何を話した?」

 

 堀北学も同じ情報を得ているようで、桐山生叶を後押しする。

 

「発破をかけました。あのまま何も変わらず、僕に返り討ちになる未来はツマラナイので」

「……つまり、お前は奴に……敵に塩を送ったのか?」

「その認識で正しいです」

 

 弱っている状況からどのように羽化するか気になった。

 このまま僕に挑めば、返り討ちにしてスムーズに大量のポイントを得れる。

 しかし、それはツマラナイ。

 あれだけのポテンシャルを持った男がさらに進化すれば、それはより大きな未知になる。そう、信じたい。

 

「……堀北先輩、こいつは本当に信頼できるのですか?」

「態度ややり方はどうであれ、約束は守る男だ。生意気な態度に見合った実力もある。しかしだ。仮にその発破で南雲がさらなる成長をした時、お前は本当に止められるのか?」

 

 堀北学は部下を宥めながらも、しっかりと確認を取ってくる。

 

「止められなかったら、それは実にオモシロイ未来ですね」

「……本当に、勝てるのだな?」

「僕の実力を疑うとはらしくないですね。あなたも敗北を知ってみますか?」

「それは、面白そうだ」

 

 堀北学は随分と嬉しそうに笑った。どうやら、彼も格上との戦いに興味があるようだ。

 

「それで、話は以上ですか?」

 

 堀北学の思考に興味はあったが、まずは話し合いを終わらせる。

 

「ああ、今回は俺が卒業した後に信用できる人間を1人紹介したかったことと情報の共有だ」

「そうですか。しかし、これ以上僕があなたとの約束を守る必要はありませんよね?」

 

 僕が彼と約束した理由は50万ppがあったから。その分の働きはしたので、これ以上協力する必要はない。

 

「そうだな。だが、お前はお前の都合で南雲に攻撃をしたと言った。いずれ復讐される可能性があるなら、奴の動きは詳しく把握した方が動きやすいと俺は思うがな」

「対抗するための人脈を増やしておけと?」

 

 3年生は今月で卒業する。だから、次代の南雲対策として何人かの生徒を見繕っている。

 僕はその中の1人で最高戦力。手元に置いておきたい気持ちは良く分かる。

 

「まぁ良いでしょう。混合試験ではあなたの想いの告白が僕にとっての未知だった。その礼も兼ねて、少しは協力をしましょう」

「……おい、その理由は本当に関係があるのか」

 

 堀北学は露骨に表情を顰める。

 打って変わって、橘茜はもじもじとした様子で頬を染めていた。

 

「おめでとうございます。祝いの言葉が遅れて申し訳ありません」

「……いらん。それに、心が籠っているように感じないぞ」

 

 嫌そうな表情は兄妹だけあって堀北さんにそっくりだ。

 僕は喉に手を当て、声質を整える。

 

「おめでとうございます、堀北先輩! 橘先輩とこれから頑張ってください!」

 

 僕は声を低くして日向創の声色と雰囲気でもう一度称える。

 そうすれば4人とも大きく目を見開く。一之瀬さんに関しては、口まで開いていた。

 

「で、出ましたね! その演技をするってことは嘘をついている時です! やっぱり心が籠っていませんよ!」

「懐かしいな。初対面の時を思い出す」

 

 頬を染め、上がった声量に気付かないまま僕を指差す橘茜、昔を懐かしんで微笑む堀北学。

 まるで違う反応だが、仲睦まじい様子に感じた。

 僕は声と雰囲気を戻す。

 

「あなたたちが望むならこれで接しても構いませんよ?」

「ぜぇぇったいにやめてください!」

 

 橘茜は断固拒否な様子だ。初対面の時に騙されたことをまだ根に持っている。

 

「悪ふざけはこの辺にしておきましょう。もう話すこともないので、帰宅しても?」

「始めたの、あなたですからね……」

 

 堀北学の横でじっと僕を睨む橘茜は怯える小動物のようだ。

 彼はそんな彼女を宥めながら、一度頷いた。

 

「では、僕は失礼します」

 

 僕は彼らに一礼した後、生徒会から立ち去る。

 帰り際、一之瀬さんが気遣わしげな表情を浮かべていたが、こちらから話しかけはしない。

 何かに悩むことはすぐに理解できたが、自分から話す勇気がないからだ。

 僕は救われるのを待っているだけの人間を救わない。

 その結末は、腐る程見てきた。

 

 

 

 ──────

 

 

 

 時刻は17時過ぎ。

 生徒会の仕事を終えた一之瀬は1人ケヤキモールを訪れていた。

 目的は夕食の買い出し。しかし、一之瀬は30分経っても買い出しを終えていない。

 それどころか、気晴らしをするように目的もなく雑貨や衣服を眺め、今は休憩スペースのベンチに座っていた。

 

「……どうしよう」

 

 今にもため息がつきそうな沈んだ声と表情。

 陽気な一之瀬らしからぬ態度には、当然原因があった。

 それは、停学が明けた南雲雅から送られてきたメッセージだ。

 

(……南雲先輩に弓を引いたんだ。この結果は分かっていた)

 

 一之瀬はメッセージ履歴を見返す。

 メッセージの内容は、簡単に言えば脅しだった。

 

 “混合試験でお前が一枚噛んでいることは既に知っている。お前の秘密が噂になっても仕方ないな”

 

 これが停学が明けてからすぐの内容。

 バレているのは承知の上。学年1つを掌握していた情報網、あるいは膨大なポイントを利用してか、こうなることを一之瀬もこの展開は予想していた。

 秘密を握られている以上、一之瀬は強気な行動に移せない。

 現状、その後の返信はない。

 秘密が拡散されないことは安堵しつつも、一度どこかで南雲と相談しなくてはいけないので、その心情は不安定だった。

 この不安を、一之瀬はカムクラに相談したかった。

 あの南雲を真正面から叩きのめした相手なら、この悩みもすぐに解決できる。

 しかしその一歩は、押し寄せる不安によって踏み出せなかった。

 

(もしカムクラくんに頼れば、きっと南雲先輩を対処してくれる。けど秘密の露呈……、そこからクラスメイトに不穏が伝播してしまう可能性がある)

 

 一之瀬は自分のせいで誰かが傷つくことを恐れていた。

 確かに、カムクライズルなら最終的に全てを解決してくれる。

 だが、一之瀬は知っている。カムクライズルには冷酷な一面があることを。

 最終的な目標達成のために、その過程を楽しみ、未知を求めてしまう。

 一之瀬はカムクラの性格を理解しているからこそ、彼に頼ることに一歩踏み出せない。

 もしカムクラの未知にクラスメイトが含むようなことがあれば。

 そんな不安要素が彼女の決断を鈍らせていた。

 

「大丈夫か、一之瀬」

 

 下を向いて座っている一之瀬は来訪者の顔が分からなかったが、声だけですぐに特定した。

 すぐに顔を上げ、来訪者に笑顔で対応する。

 

「にゃはは、久しぶり綾小路くん! 大丈夫って、私そんなに大丈夫じゃなさそうな雰囲気出てた?」

 

 来訪者は1年Dクラス綾小路清隆。

 一之瀬と綾小路は特段仲が良い生徒ではないが、BクラスとDクラスが何かと縁があり、互いに良く顔を合わせていた。

 

「正直に言えば、出ていたな」

「……あはは、そっか。君が言うならけっこう表情に出てたんだね」

 

 一之瀬から見た綾小路は敵クラスの厄介な生徒。

 堀北や平田のようなリーダー性はないが、自クラスの神崎のように集団のサポートを得意とする生徒という印象が大きい。

 加えて、頭の回転が速いこと、高い身体能力、そして何より目敏い分析力があると一之瀬は判断している。

 だが、それを抜きにして考えれば、綾小路はクラスの違う友人。

 自クラスの友人とは違って、時には否定の言葉をくれる良い距離感の友人だった。

 

「何かあったのか?」

「まぁ、ちょっとね。でも、心配しないで。大したことじゃないから」

「……そうか。だが、無理はするなよ」

 

 綾小路は一之瀬の言葉が虚勢だと気づきながらも深入りしない。

 大体の予想は出来ているからだ。

 坂柳か、南雲か。どっちにしても精神を揺さぶられている状況。深く接触するにはまだ時期尚早と判断する。

 

「ありがとう。おかげで少し楽になった」

 

 一之瀬はベンチから立ち上がる。

 

「ところで、綾小路くんは何でケヤキモールに?」

「さっきまで友達と遊んでいたんだ。それで、今は夕食の買い出しをしに行こうと思ってな」

「おおっ、私も丁度買い出しに行こうと思ってたんだよね~。一緒に行かない?」

「ああ、構わないぞ」

 

 美少女である一之瀬の誘いに挙動不審になる生徒は多々いるが、綾小路は平然とその誘いを受ける。

 ごく普通の対応だが、一之瀬から見れば疚しい気持ちがないことに映る。

 心が弱っている今の一之瀬にとって、気楽に接せられる綾小路はありがたい存在だった。

 

 

 




体育の授業でも臨時ボーナスがあるんだし、1年全教科満点の生徒に特別報酬があっても大丈夫でしょと思って追加しました。許してください。

で、原作との相違点ですが、本来なら南雲と堀北兄、妹、綾小路が顔合わせします。
しかし、本作ではカムクラと生徒会役員たちが顔合わせしています。理由は言うまでもなく、混合合宿の影響で南雲が生徒会から消えたからです。
一之瀬の件に関しては、復讐したると思っていた南雲が停学開けてすぐに送ったものです。その後カムクラクリニックに掛かって矯正されているので、その先の脅しはありません。カムクラに相談すれば一発で解決しますが、一之瀬は9巻で心の成長がなかったのでこれからも中途半端な行動が多くなります。

椎名⇒原作では1人のことが多い彼女ですが、本作ではその素質を買われて積極的にクラスのために頑張っていますので、意外と周りから慕われています。
伊吹や矢島と友好関係を築けてますし、カムクラのことも友達と思っています。でも、恋愛的な感情は0です。だってカムクラ、普通に読書をツマラナイとか言うんだもん。
原作と何より違うのは、女子の中心人物として指揮を取ることがある点。これによって、彼女の学校側の評価は高くなっています。でも、運痴。
綾小路との絡みが変わってしまったことだけが痛恨のミス。反省してます。

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